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ものがたり

【新シリーズ!】『マス×コン!』先行ためし読み連載 第5回 視力検査は全部カンで当たる?


席替えで好きな人の隣をゲットできるのは『?』%!?

算数が超ニガテな詩音は、校長先生が出す《算数ミッション》にクリアしないと、夏休みがぜんぶナシの大ピンチ!! 初ミッションは「席替えで好きな人の隣をゲットせよ」ーーってどこが算数と関係あるの!?
明日学校で言いたくなる、おもしろ算数でミッションコンプリート!
超人気のおもしろショート動画が本になった新感覚シリーズだよ☆

(毎週火曜日更新予定☆全5回)

◆◇◆◇◆登場人物◆◇◆◇◆
 



川原詩音(かわはら・うたね)
算数が超ニガテな小学5年生。算数のことを考えるとうたた寝しちゃうのがなやみ。
 



樫木圭介(かしのき・けいすけ)
詩音のクラスにやってきた転校生。陸上部のエースで超カッコいい。
 



先崎 颯(さきざき・そう)
詩音と家がとなり同士の幼なじみ。いつも詩音にちょっかいを出してくるけど、ほんとうは…?
 



竹長朝陽(たけなが・あさひ)
頼れるクラス委員。でも、目つきがするどいような…?
 



アキト先生
校長先生の代理を名乗る先生。口ぐせは「とんとん」。

【 これまでのお話 】
アキト先生の初・算数ミッション―席替えで好きな人の隣の席をゲットせよ!―
にクリアした詩音。圭介との距離も近づいてドキドキ…!?
…だけど、はやくも次のミッション「健康診断を見事にクリアしよう!」が出題されて…?

「見事ってなに!?」「健康診断と算数って何が関係あるの!?」
またまたナゾなミッションスタート!

 

 そう、今日は、健康診断の日。
 クラスごとに、決められた時間に体育館に行って、いろいろな測定をする。
 身長とか、体重とか、視力とか。
 5年生は、5時間目――つまり、昼休みのすぐあとってこと。
 だからわたしは、お昼のお弁当を食べずに、5時間目を待ってる。
 なぜなら――、
 ――健康診断を見事にクリアするには、どうしたらいいの? 教えて! うたちゃーん!
 というミッションを、アキト先生からもらったから、なのだった。
 そのことは、颯にも教えてある。
「でもよ、健康診断をクリアするって、どゆこと? 健康診断なんて、ふつうにやれば、ふつうに終わるだろ。それってつまり、クリアしたってことにならないの?」
 そうなんだよね。
「だから、『見事に』クリアしないといけないんだと思う」
「なんだよそれ。健康診断に、見事もなにも、あるかよ」
 うん。それで、わたしは、お昼を抜くことにしたんだ。
「体重測定の値を、すこーし軽くできたら、それが『見事』なんだと思う!」
「そうかなあ。ちがうんじゃね?」
「じゃ、なんだと思うの? 他にないよ。ね、アーちゃん」
「うん……」
 アーちゃんは、窓のほうを向いたまま、外の景色を、じーっと、にらんでる。
「どうしたの。なんで外、にらんでるの? なにかいるの?」
「にらんでない。見てるだけ」
「どうして、こっち見ないの? わたし、なんか、悪いことした?」
「してないよ。悪いのは、私の目」
「――目!?」
「今日の視力検査で、もし0.2より悪かったら、メガネをかけなさいって母さんが言うの」
 だから、検査のときによく見えるように、目を休めようと思って、外の緑を見ているんだって。
「そんなに、目、悪いの? 授業中、黒板、見えてる?」
「……根性で見てるの」
 と、こっちを向いたアーちゃんの顔は、とってもこわかった!
「に、にらむなよ!」
 颯がおびえてる。
 そっか。アーちゃんは目が悪いのに、無理して見てるから、ときどき、こっちをにらんでるように見えるんだ!
「メガネ作ったほうがいいんじゃない?」
「やだ」
 アーちゃんは、泣きそうな声を出す。
「うちの両親、どっちも、ずーっとメガネなんだよ。だから私も多分、メガネをかけたらもう、大人になるまで、ずーっとメガネなの。メガネのない時って、一生で、今だけなの」
 わかるような、わからないような。
「終わらせたくない……この、メガネなしの、子ども時代のひとときを!」
 アーちゃんは、小学生なのに、もう、子ども時代をふり返るような、遠い目をしてた。
 そのとき目の前に、お茶わんみたいなお弁当箱が、ひょいっと出てきた。
「えっ!? なにこれ、きれい!」
 中には、紫色のビーズみたいなのが、たくさん詰まってる。
「ブルーベリー、食べる? 目にいいからって、親が毎日、弁当に入れるんだ」
 それを差し出していたのは、圭介だった。
 アーちゃんとわたしは、手のひらにのるくらいずつ、分けてもらった。
「オレも、オレも」
 と、颯も手を出してきて、ごそっと取った。
「この青紫色の成分が目にいいって言われてるんだ。科学的には、未確認のことも多いけどね」
 ブルーベリーって、お菓子に入ってたり、ジャムになってるのは、見たことある。
 でも、生のを食べるのは、初めてだった。
 甘くて、やさしい味がする。
「……ありがとう……おいしい」
「また、あげるよ。いつも多すぎるんだ」
「樫木くんも、目が悪いの?」
 アーちゃんがきいた。
「いや、そうじゃないけど。親が気にしすぎなだけ」
「あ! おまえ、ブルーベリー食ったから、体重増えたな」
 颯が、わたしを指さしてわらった。
「あーっ!! しまったあぁああああ!」
 わたしは、マジで後悔。せっかくここまで、おなか鳴っても、がまんしたのにぃいいい!
「これくらい増えても、メーターの数字には出ないだろ」
 と、圭介がわらって、リンゴーン、とチャイムが鳴った。
(うん……そうだよ。これくらい増えても問題ないっ)
 わたしは、圭介のやさしい言葉を、心にきざみつける。
 お昼のお弁当は食べなかったし、ポケットの中身は空にしたし。くつしたはこっそりぬいだ。
 ここまで努力したんだから、さあ――気をひきしめて、健康診断だ!

 その結果。
 体重、増えてた。
 ガァアアアアアアアアン…………。
「あのね川原さん。成長期なんだから、増えていいのよ。健康的な、ちょうどいい体重よ」
 と、数字を身体測定表に記入しながら、餅本先生が、なぐさめてくれた。
「だからあとで、お弁当、ちゃんと食べなさいよ――あらっ、竹長さん? どこ行くの!?」
 顔を上げたら、アーちゃんの背中が見えた。
 身体測定表を持ったまま、あらぬ方向へ、ふらふら歩いて行く。
「アーちゃん!?」
 わたしは、あわてて追いかけて、かたをつかんだ。アーちゃん、目をつむってる。
「目を開けて! あぶないよ!」
「できるだけ、目を休めたくて」
 仕方がないから、わたしが手を引いて、2人で視力検査のコーナーへ向かう。
 視力検査をやっているのは、体育館の一角の、行列の前にある、ついたての向こう側。
 ちょうどそこから、颯が戻ってきた。
「颯! 颯! どうだった?」
「どうってことねえよ」
 颯は視力検査、いつも、とってもいい結果なんだ。
「なにが出た?」
「なにって、いつものやつだよ。こういう輪っかの、どこが開いてるか言うやつ」
 と、颯は、人差し指と親指で輪をつくって、その間をすこし空けて見せた。
「ってことは、上か下か、右か左か、の、どれかってこと? どういう順番だった?」
「んなの、覚えてるわけねえだろ」
 それから、もどってくる子には、ひとりひとり、きいてみた。
 でも、みんな、言うことは同じ。
 輪っかだった。順番は覚えてない。

 そのうち、わたしたちの順番が、やってきた。
 まだ目を閉じているアーちゃんを、わたしが先導して、ついたての向こうに行く。
 2人で入ったりしたら、検査の先生に怒られるかな、と思っていたら、
「あっ、うたちゃん」
「アキト先生! なんでここに?」
 検査の先生として机についていたのは、白衣を着たアキト先生だった。
「そんなことより、ミッションの進行具合はどうですかー?」
「健康診断を見事にクリアするって、どうしたらいいのか、わかんないよ」
「じゃ、ここで見事に、クリアしてみよっか。視力検査ミッション、すたとんとん」
「すたとんとん――? スタートってこと?」
「そうだよ。さ、どっちが先にやる? 竹長さんかな?」
「――あっ、竹長さんは、視力が悪いって出たら困るんです。どうしたらいいの?」
「うーん、よく見えないんだったら、カンでやってみる?」
「カンでいいの!?」
「いいけど、それでホントにお得かどうかは、考えてみないとわからんな」
 アキト先生は、バッ、と、大きな紙を開いて見せた。
 視力検査表だあ!
 颯たちが言っていたとおり、ちょっとすき間の空いている輪が、3列でたてに並んでる。
 上の輪がいちばん大きくて、下に行くにつれて、輪はどんどん小さくなっていく。
「この輪っか、ランドルト環っていうんだけど、すき間が上、下、右、左の4通り空いてる」
 アキト先生は、視力検査表を、裏返す。
 その白い面のいちばん左に、「上」「下」「右」「左」と、たてにならべて書いた。
「じゃ、この『上』の次に来るものって、なん通りあり得る?」
「4通り!」
「そう。『上』『下』『右』『左』のそれぞれの次に、また『上』『下』『右』『左』の4通り!」
 アキト先生は、「上」「下」「右」「左」の右からそれぞれ4本の線を出し、その先に「上」「下」「右」「左」と書いていく。
 キュキュキュキュキュキュ……すっごく速い!
「はいっ! 1段めのランドルト環の空き方向が4通りで、2段めのランドルト環もそれぞれ4通り、と。では、その2つのランドルト環の空き方向を、連続で当てるとして、回答のパターンは、いくつあるかな?」
 いちばん左の「上下右左」と、その右の「上下右左 上下右左 上下右左 上下右左」の組み合わせを、指でたどってみる。
「えーと、上→上、上→下、上→右、上→左、と、
 下→上、下→下、下→右、下→左、それから、
 右→上、右→下、右→右、右→左、それに、
 左→上、左→下、左→右、左→左」
「つまり、16通りね……」
 アーちゃんが、目を閉じたまま、数えていてくれた。



「そのとおーり! じゃ、さらに3段めも当てるとなると――」
 キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ……。
 16通りの線の先の「上下右左 上下右左 上下右左 上下右左」から右へ、さらに4本の線をのばしていく。
 キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ……。
「多すぎる! もう無理、数えられない! 眠くなってきた~」
 と、わたしが言うと、アキト先生は、ニヤリと顔を上げた。
「だね。ランドルト環3つを連続で当てる、それだけでも、回答パターンは64もある。
 それが、この視力検査表だと、上から下まで13段もあるね。これぜんぶ正解するとなると、かなりの数の回答パターンになる」
「そこから1つを、カンで当てるなんて、むずかしすぎるんだ……」
 わたし、がっかり。
「こういう図を、樹形図っていうんだ。見るだけで、未来がわかるみたいじゃない?」
 アキト先生は、ちょっと得意げ。
「そうね……でも、私の場合は――」
 と、アーちゃんが、ついに目を開けた。
「――全部答えられなくてもいいの。結果は0.2でいいんだから。つまり、上から大きいのを2つだけ、当てればよくて……」
 と、さっき書いた樹形図を指でたどる。
「だから、16パターンの中に1つだけ、正解があるのね。それを当てればいいんだわ」
 アーちゃんは、きんちょうしたようすで、前に進み出る。
「私、やってみる。むずかしいかもしれないけど、がんばる」
(…………うーん。ほんと、むずかしそう。できるのかなあ)
 って思ったそのとき、わたしは、ひらめいた。
「待って!」
 と、アーちゃんを追いこして前に出た。
「わたしがその前にやるよ。それで、その2段分だけ、覚えといて、教えてあげる」
「うたちゃん……!」
 うん、と、わたしは、アーちゃんにうなずき返す。
「きっとできる。九九は81個もあったのに、覚えたんだから」
 すごい苦労したけどね。そして、今もときどき、わすれるけどね。
「そうか。わかった」
 アキト先生も、重々しくうなずいた。
「はい、では川原詩音さん、こちらへどうぞ」
 と、手招きした場所には、机があって、白い箱形の機械が置いてある。
「――へ?」
「この小さな窓から、中を見て、見えたランドルト環の、開いているほうを教えてください」
「じゃ、これ――」
「はい、それぞれの人にちがった順番で、ランドルト環が出題される、新しい検査器具でーす」
「じゃ、覚えても、ぜんぜん意味ないじゃ―――――ん!」
 わたしは、がっかり。
「アーちゃん、ごめん……なんにもしてあげられないや」
 だけど、アーちゃんは、アキト先生をじっと見ていた。
「そういえば、アキト先生も、メガネですね」
「うん! ぼくのお気に入りのメガネ屋さん、割引券あるよ。いる?」

 その週末、わたしは、アーちゃんといっしょに、そのメガネ屋さんに行った。
「こんなにいろんなメガネがあるんだ!」
 いろいろな色、形。たくさん試して、鏡で見て……。
 アーちゃんは、ママからもらってきたお金を使って、初めてのメガネを注文した。
 そのフレームは、アキト先生のメガネにそっくりの、細くて丸っこいやつ! だけど、色は赤いんだ。
「これで私、子ども時代にさよならして、大人への第一歩をふみ出すんだね……」
 また、アーちゃんは、すごく大人っぽいことを言った。
「アキト先生のメガネの顔を見てたら、こんな大人になれたらな、って思えたんだ」
「きっとなれるよ、アーちゃん!」
 こうして、次の週、メガネをかけたアーちゃんといっしょに、校長室に行った。
「アキト先生、また割引券もらってきたよ!」
 と、2人でアキト先生に、新しい割引券をたくさんあげた。
「よおーし、うたちゃん、見事にミッションクリア―――――!」
「えー……つまり、お金なの?」
「そういう意味じゃないよ。算数の考え方を使って、なやんでいる友だちのお手伝いができたでしょ。だからミッションクリア。お見事! おみごとーんとん」
 アキト先生は、にこにこわらって、新しいバッジをくれた。
「さて、次のミッションは――」
「あの、アキト先生、質問があります!」
 わたしは、ずっと気になっていたことを、ついにきいてみることにした。
「はいっ、なにかな?」
「ミッションを2つもクリアできたし――あの――わたしの夏休み、ありますか?」
「もちろん。あっ、次のミッションは、夏休みの後にしとく? 夏休み、遊びたいもんね」
(なっ……なんてやさしいの、アキト先生!! やっぱり、あのきびしい校長先生の代理だなんて、信じられないよ……!)
 わたしは、思わず、なみだぐんじゃった。
「ぐすんっ。先生、わたし、やります。だってミッション、なんだかおもしろいもん!」
「それはよかった」
 アキト先生は、とってもうれしそうに、にっこりした。
「じゃ、次のミッションは、これ。
 会いたくても会えない人に、なんとか会お―――――う!」


ニガテな算数を使って、ミッションを2個もクリアした詩音!

無事ゲットした夏休み! 今年はいつもより楽しめそう! 
…だけど、次のミッションは「会いたくても会えない人になんとか会おう!」――って、なにそれ?!
今度の舞台は夏休み! 詩音のミッション、どうなっちゃうの…!?

まだまだヘン!?だけど、タメになる!ミッションは続く…! 気になるお話の続きは、
『マス×コン! 席替えで好きな人の隣になる確率って!?』(好評発売中)を読んでね!

 



【書籍情報】

わたし詩音(うたね)! 算数が大のニガテな小学5年生。

…だけど、校長先生が出す《算数ミッション》をクリアしないと、
夏休みがぜーーんぶナシの大ピンチ!
初ミッションは「好きな人の隣の席をゲットせよ!」
――って、これのどこが算数と関係あるの…!?涙
そんな中、超イケメンで陸上部のスターな転校生・圭介くん
と同じクラスになってドキドキ! クリアすれば
圭介くんの隣の席になれちゃうってこと…!?


企画: あきとんとん 文: こぐれ 京 絵: ももこっこ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322951

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