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ものがたり

【スペシャルれんさい】『星のカービィ 早撃ち勝負で大決闘!』第3回 賞金首、あらわる


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 酒場のみんなは、顔を見合わせて、いっせいに大きく息をついた。

「ああ、よかったッス~! マッチョリーノさんがやさしいひとで!」

 ナックルジョーが言うと、コックカワサキが首をかしげた。

「ぼくは、前に一度だけマッチョリーノを見たことがあるんだけど、印象がすっかり変わったなぁ。昔は、ものすごく横暴で、いばりくさった、ならず者だったんだけど」

 キャピィが、笑って言った。

「昔のことは、昔のこと。今は、心を入れ替えて、いいひとになったんだね」

 けれど、コックカワサキは、納得がいかない様子。

「うーん、最近も、いいウワサは聞かないんだけどなあ……どうなってるんだろう?」

 ナックルジョーが言った。

「ウワサなんて、当てにならないッス! とにかく、皿洗いですんで、良かったッス!」

 コックカワサキは、気を取り直して、うなずいた。

「そうだね。さあ、ワドルドゥ。約束通り、働いてもらうよ。十日間、みっちり、たのむよ!」

「はい! がんばるであります!」

 ワドルドゥが、大張り切りでカウンターの中にもぐりこんだとき。

 酒場のドアが開き、見知らぬ人物が入ってきた。

 仮面をつけ、マントをはおった、なぞめいたガンマンだ。

 彼はカウンター席に座り、コックカワサキに向かって、低い声でたずねた。

「オヤジ。ひとつ、聞きたいことがあるんだが」

「なんですか?」

「この近くで、馬車がおそわれる事件があっただろう。マッチョリーノ家の家宝の剣が盗まれたという」

 コックカワサキは、ビクッとして、とっさにワドルドゥを背後にかばった。

 デデデ保安官が進み出て、言った。

「その事件なら、もう、オレ様が解決してやったわい」

「……なに? 解決?」

「うむ。剣を見つけ、マッチョリーノ氏に返したのだ。今夜は、盛大なドーナツ・パーティに招待されておるのだぞ」

「パーティだと? あの、ドケチで名高いマッチョリーノが? ……バカな」

 仮面のガンマンは、低くつぶやいた。

 デデデ保安官は、ムッとした。

「バカだと? なんだ、きさまは。失礼な……」

 しかし、そのとき、またもやドアが開いた。飛びこんできたのは、ブロントバート。

 ブロントバートは、息をはずませて言った。

「待たせたな、みんな! 大急ぎで、マッチョリーノさんを連れてきたぜ!」

 ブロントバートのあとから入ってきたのは、先ほど出ていったばかりのマッチョリーノだった。

 仮面のガンマンは、一瞬、するどい目をマッチョリーノに向けたが、すぐに何事もなかったように目をそらした。

 マッチョリーノが、がなりたてた。

「この町のガンマンどもが、名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を取り返したそうだな。さっさと、よこさんか!」

 さっきとは、まるで別人のように、いばりくさった態度だ。

 デデデ保安官が、おどろいて言った。

「え? 剣なら、さっき返しただろう」

「なんだと?」

 マッチョリーノは、濃いまゆ毛の下から、恐ろしい目でデデデ保安官をにらみつけた。

「ふざけるんじゃねえ! さっさと出せ! おらおら!」

「だ、だから、もう返したと言っとるだろう……」

「ああああ!? てめぇ、まさか、名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を横取りする気か!?」

 マッチョリーノは、カンカンに怒って、太い腕でデデデ保安官につかみかかった。

 まわりのみんなが、びっくりして止めた。

「わあ、やめてください!」

「たしかに、剣は返したッスよ! マッチョリーノさん、よろこんで、パーティに招待してくれるって言ったじゃないッスか……!」

「パーティだと!? 寝ぼけるんじゃねえ! だれも、そんなことは言ってねえ……!」

 と、そのとき。

 仮面のガンマンが、静かに口をはさんだ。

「剣を持ち去ったのは、にせものだ」

「……え?」

「賊がマッチョリーノ氏に変装し、まんまと剣を盗んだのだ」

 みんな、ぼうぜんとして、声も出ない。

 ようやく口を開いたのは、コックカワサキ。

「そんな……だって、たしかに、マッチョリーノさんだったよ。ヒゲも、まゆげも、服装も! 体格や声まで、マッチョリーノさんそのものだった!」

 仮面のガンマンが言った。

「当然だ。賊の名は、ドロッチェ。変装の名人なのだ」

「え……ドロッチェって……」

「まさか、あのドロッチェ!?」

 ガンマンたちは、ざわめいた。

 ワドルディ団は、興奮して、いっせいに飛び上がった。

「うわあああ、ほんと!? あの、超大物のドロッチェだったの!?」

「ぼく、間近で見ちゃった!」

「あれが変装だったなんて! 信じられない!」

 しかし、デデデ保安官にジロリとにらみつけられて、ワドルディ団はあわてて口をつぐんだ。

 マッチョリーノは、顔を引きつらせて、つぶやいた。

「ドロッチェだと……? ヤツめ、何度オレを怒らせれば気がすむんだ……!」

 仮面のガンマンは、そのつぶやきを聞き逃さず、たずねた。

「ドロッチェと、何か、いざこざがおありか?」

「な、なんにもねえよ! あってたまるか、あんなコソ泥なんかと!」

 マッチョリーノは吐き捨てるように言うと、カービィたちに向き直った。

「てめぇらは、ドロッチェごときにまんまとだまされて、剣を盗まれたわけだ。こんな、まぬけな話があるか! てめぇらのせいだぞ、てめぇらの!」

「なんだと……!」

 デデデ保安官が何か言い返そうとしたが、マッチョリーノの怒りは、おさまらない。

「だまれ! きさまらが盗んだも同然だ! 全員、有罪! まとめて、牢屋にぶちこんでやるからな!」

 と、そのとき。

 カービィが叫んだ。

「ぼくらが、ドロッチェをつかまえるよ!」

 マッチョリーノは、こぶしを振り上げて、カービィをにらみつけた。

「きさまらが? フン、まんまと、だまされたくせに!」

「もう、だまされないよ! ぜったい、あいつをつかまえて、ドーナツ百万個を取り返すよ!」

 マッチョリーノは、振り上げたこぶしを止めて、ふしぎそうにたずねた。

「……ドーナツ? なんの話だ?」

「ぼくの大好きなドーナツだよ! チョコクランチと、シナモンと、バニラクリームと、ピーナッツバターと、ハニーシュガーと、あと、あと……!」

 よだれをたらしそうなカービィを、カウボーイ・ワドルディがあわててさえぎった。

「マッチョリーノさん、ぼくらがかならず、どろぼうをつかまえます。どうか、少しだけ、待っていてください!」

 しかし、マッチョリーノは、がんこに首を振った。

「きさまらなんぞ、信用できるか! 名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を取り戻すためには、もっと、すご腕のガンマンが必要だ……!」

 と、そのとき。

 カウンター席に座っていた仮面のガンマンが言った。

「私が、引き受けよう」

「……え?」

「私は、ヤツの弱点を知っている。ヤツの変装を見破ることができるのは、私しかいない」

 酒場の全員が、仮面のガンマンを見た。

 マッチョリーノが、たずねた。

「……なんだと? きさまも、この町の者か?」

「いや。私は、流浪のガンマンだ」

「ほう……名は、なんという?」

 仮面のガンマンは、低い声で答えた。

「……メタナイト」

「え!? メタナイト!? あの、伝説の!?」

 ワドルディ団は、またしても、大興奮。

「す、すごい! ドロッチェとメタナイトを、間近で見られるなんて!」

「メタナイトは、ドロッチェを追ってるんだもんね! うわあ、ドキドキする!」

 マッチョリーノは、うすら笑いを浮かべて言った。

「フン。てめぇ、ここのまぬけな連中より、少しは腕が立ちそうだな」

 デデデ保安官が、ムッとして言い返そうとしたが、マッチョリーノはドラ声で言い放った。

「よかろう、メタナイトとやら。きさまを、やとってやる」

 メタナイトは、無言でうなずいた。

「コソ泥野郎をとらえ、名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を取り返して来い。ほうびは、はずんでやる。あまり、オレを待たせるんじゃねえぞ」

 メタナイトは言った。

「かならず、ドロッチェをとらえ、剣を取り返してみせよう」

「良い報告を待ってるぜ。しくじったら、ただじゃおかねえからな!」

 マッチョリーノは、荒々しく床を踏み鳴らして、酒場を出て行った。

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 静かになった酒場で、カービィたちは、顔を見合わせた。

 コックカワサキが言った。

「びっくりだよ! まさか、最初のマッチョリーノの正体が、あの大どろぼうドロッチェだったなんて!」

 キャピィが小声で言った。

「でもさ……正直なところ、ドロッチェのほうが、感じが良かったね」

 ナックルジョーが、プンプンしながら言った。

「ほんもののマッチョリーノが、感じ悪すぎるッス! めちゃくちゃ、むかついたッス! あいつのもじゃもじゃヒゲを、引っこ抜いてやりたかったッスよ!」

 カービィが、メタナイトのとなりのイスに座って、言った。

「よろしくね、メタナイト。ぼく、カービィっていうんだ」

「……そうか」

「いっしょに力を合わせて、ドロッチェをつかまえようね」

 しかし、メタナイトは顔をそむけて言った。

「ことわる。君らと協力する気はない」

「え?」

「ヤツは、私がとらえる。君らは、手を引いてくれたまえ」

 デデデ保安官が、メタナイトに詰め寄った。

「なんだと? どろぼうをつかまえるのは、保安官の仕事だわい! 手を引くのは、きさまのほうだ!」

「ヤツは、すご腕のどろぼう。君らでは、かなわない」

「なんだと……!」

「私は、ドロッチェとは、いささかの因縁がある。かならず、この手で、ヤツをとらえる」

 デデデ保安官が、どなった。

「それは、こっちも同じだわい! 一杯食わされて、剣をうばわれたんだぞ! 取り返さなければ、保安官の面子が丸つぶれだわい!」

「勝手にしたまえ。私は、ひとりでヤツを追う」

 メタナイトは立ち上がった。

「メタナイト……」

 カービィが呼びかけたが、メタナイトは振り向きもしない。

 パタパタするドアを開けて、メタナイトは出て行った。


大どろぼう・ドロッチェの変装に、すっかりだまされてしまったカービィたち。次こそ、ドロッチェをつかまえて、名剣を取り返さなきゃ! ……でも、いったいなにから始めたらいいの?
次回「大どろぼうを追え」は、3月7日(金)に公開するよ。おたのしみに!



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