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酒場のみんなは、顔を見合わせて、いっせいに大きく息をついた。
「ああ、よかったッス~! マッチョリーノさんがやさしいひとで!」
ナックルジョーが言うと、コックカワサキが首をかしげた。
「ぼくは、前に一度だけマッチョリーノを見たことがあるんだけど、印象がすっかり変わったなぁ。昔は、ものすごく横暴で、いばりくさった、ならず者だったんだけど」
キャピィが、笑って言った。
「昔のことは、昔のこと。今は、心を入れ替えて、いいひとになったんだね」
けれど、コックカワサキは、納得がいかない様子。
「うーん、最近も、いいウワサは聞かないんだけどなあ……どうなってるんだろう?」
ナックルジョーが言った。
「ウワサなんて、当てにならないッス! とにかく、皿洗いですんで、良かったッス!」
コックカワサキは、気を取り直して、うなずいた。
「そうだね。さあ、ワドルドゥ。約束通り、働いてもらうよ。十日間、みっちり、たのむよ!」
「はい! がんばるであります!」
ワドルドゥが、大張り切りでカウンターの中にもぐりこんだとき。
酒場のドアが開き、見知らぬ人物が入ってきた。
仮面をつけ、マントをはおった、なぞめいたガンマンだ。
彼はカウンター席に座り、コックカワサキに向かって、低い声でたずねた。
「オヤジ。ひとつ、聞きたいことがあるんだが」
「なんですか?」
「この近くで、馬車がおそわれる事件があっただろう。マッチョリーノ家の家宝の剣が盗まれたという」
コックカワサキは、ビクッとして、とっさにワドルドゥを背後にかばった。
デデデ保安官が進み出て、言った。
「その事件なら、もう、オレ様が解決してやったわい」
「……なに? 解決?」
「うむ。剣を見つけ、マッチョリーノ氏に返したのだ。今夜は、盛大なドーナツ・パーティに招待されておるのだぞ」
「パーティだと? あの、ドケチで名高いマッチョリーノが? ……バカな」
仮面のガンマンは、低くつぶやいた。
デデデ保安官は、ムッとした。
「バカだと? なんだ、きさまは。失礼な……」
しかし、そのとき、またもやドアが開いた。飛びこんできたのは、ブロントバート。
ブロントバートは、息をはずませて言った。
「待たせたな、みんな! 大急ぎで、マッチョリーノさんを連れてきたぜ!」
ブロントバートのあとから入ってきたのは、先ほど出ていったばかりのマッチョリーノだった。
仮面のガンマンは、一瞬、するどい目をマッチョリーノに向けたが、すぐに何事もなかったように目をそらした。
マッチョリーノが、がなりたてた。
「この町のガンマンどもが、名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を取り返したそうだな。さっさと、よこさんか!」
さっきとは、まるで別人のように、いばりくさった態度だ。
デデデ保安官が、おどろいて言った。
「え? 剣なら、さっき返しただろう」
「なんだと?」
マッチョリーノは、濃いまゆ毛の下から、恐ろしい目でデデデ保安官をにらみつけた。
「ふざけるんじゃねえ! さっさと出せ! おらおら!」
「だ、だから、もう返したと言っとるだろう……」
「ああああ!? てめぇ、まさか、名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を横取りする気か!?」
マッチョリーノは、カンカンに怒って、太い腕でデデデ保安官につかみかかった。
まわりのみんなが、びっくりして止めた。
「わあ、やめてください!」
「たしかに、剣は返したッスよ! マッチョリーノさん、よろこんで、パーティに招待してくれるって言ったじゃないッスか……!」
「パーティだと!? 寝ぼけるんじゃねえ! だれも、そんなことは言ってねえ……!」
と、そのとき。
仮面のガンマンが、静かに口をはさんだ。
「剣を持ち去ったのは、にせものだ」
「……え?」
「賊がマッチョリーノ氏に変装し、まんまと剣を盗んだのだ」
みんな、ぼうぜんとして、声も出ない。
ようやく口を開いたのは、コックカワサキ。
「そんな……だって、たしかに、マッチョリーノさんだったよ。ヒゲも、まゆげも、服装も! 体格や声まで、マッチョリーノさんそのものだった!」
仮面のガンマンが言った。
「当然だ。賊の名は、ドロッチェ。変装の名人なのだ」
「え……ドロッチェって……」
「まさか、あのドロッチェ!?」
ガンマンたちは、ざわめいた。
ワドルディ団は、興奮して、いっせいに飛び上がった。
「うわあああ、ほんと!? あの、超大物のドロッチェだったの!?」
「ぼく、間近で見ちゃった!」
「あれが変装だったなんて! 信じられない!」
しかし、デデデ保安官にジロリとにらみつけられて、ワドルディ団はあわてて口をつぐんだ。
マッチョリーノは、顔を引きつらせて、つぶやいた。
「ドロッチェだと……? ヤツめ、何度オレを怒らせれば気がすむんだ……!」
仮面のガンマンは、そのつぶやきを聞き逃さず、たずねた。
「ドロッチェと、何か、いざこざがおありか?」
「な、なんにもねえよ! あってたまるか、あんなコソ泥なんかと!」
マッチョリーノは吐き捨てるように言うと、カービィたちに向き直った。
「てめぇらは、ドロッチェごときにまんまとだまされて、剣を盗まれたわけだ。こんな、まぬけな話があるか! てめぇらのせいだぞ、てめぇらの!」
「なんだと……!」
デデデ保安官が何か言い返そうとしたが、マッチョリーノの怒りは、おさまらない。
「だまれ! きさまらが盗んだも同然だ! 全員、有罪! まとめて、牢屋にぶちこんでやるからな!」
と、そのとき。
カービィが叫んだ。
「ぼくらが、ドロッチェをつかまえるよ!」
マッチョリーノは、こぶしを振り上げて、カービィをにらみつけた。
「きさまらが? フン、まんまと、だまされたくせに!」
「もう、だまされないよ! ぜったい、あいつをつかまえて、ドーナツ百万個を取り返すよ!」
マッチョリーノは、振り上げたこぶしを止めて、ふしぎそうにたずねた。
「……ドーナツ? なんの話だ?」
「ぼくの大好きなドーナツだよ! チョコクランチと、シナモンと、バニラクリームと、ピーナッツバターと、ハニーシュガーと、あと、あと……!」
よだれをたらしそうなカービィを、カウボーイ・ワドルディがあわててさえぎった。
「マッチョリーノさん、ぼくらがかならず、どろぼうをつかまえます。どうか、少しだけ、待っていてください!」
しかし、マッチョリーノは、がんこに首を振った。
「きさまらなんぞ、信用できるか! 名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を取り戻すためには、もっと、すご腕のガンマンが必要だ……!」
と、そのとき。
カウンター席に座っていた仮面のガンマンが言った。
「私が、引き受けよう」
「……え?」
「私は、ヤツの弱点を知っている。ヤツの変装を見破ることができるのは、私しかいない」
酒場の全員が、仮面のガンマンを見た。
マッチョリーノが、たずねた。
「……なんだと? きさまも、この町の者か?」
「いや。私は、流浪のガンマンだ」
「ほう……名は、なんという?」
仮面のガンマンは、低い声で答えた。
「……メタナイト」
「え!? メタナイト!? あの、伝説の!?」
ワドルディ団は、またしても、大興奮。
「す、すごい! ドロッチェとメタナイトを、間近で見られるなんて!」
「メタナイトは、ドロッチェを追ってるんだもんね! うわあ、ドキドキする!」
マッチョリーノは、うすら笑いを浮かべて言った。
「フン。てめぇ、ここのまぬけな連中より、少しは腕が立ちそうだな」
デデデ保安官が、ムッとして言い返そうとしたが、マッチョリーノはドラ声で言い放った。
「よかろう、メタナイトとやら。きさまを、やとってやる」
メタナイトは、無言でうなずいた。
「コソ泥野郎をとらえ、名門マッチョリーノ家に代々伝わる家宝の剣を取り返して来い。ほうびは、はずんでやる。あまり、オレを待たせるんじゃねえぞ」
メタナイトは言った。
「かならず、ドロッチェをとらえ、剣を取り返してみせよう」
「良い報告を待ってるぜ。しくじったら、ただじゃおかねえからな!」
マッチョリーノは、荒々しく床を踏み鳴らして、酒場を出て行った。
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静かになった酒場で、カービィたちは、顔を見合わせた。
コックカワサキが言った。
「びっくりだよ! まさか、最初のマッチョリーノの正体が、あの大どろぼうドロッチェだったなんて!」
キャピィが小声で言った。
「でもさ……正直なところ、ドロッチェのほうが、感じが良かったね」
ナックルジョーが、プンプンしながら言った。
「ほんもののマッチョリーノが、感じ悪すぎるッス! めちゃくちゃ、むかついたッス! あいつのもじゃもじゃヒゲを、引っこ抜いてやりたかったッスよ!」
カービィが、メタナイトのとなりのイスに座って、言った。
「よろしくね、メタナイト。ぼく、カービィっていうんだ」
「……そうか」
「いっしょに力を合わせて、ドロッチェをつかまえようね」
しかし、メタナイトは顔をそむけて言った。
「ことわる。君らと協力する気はない」
「え?」
「ヤツは、私がとらえる。君らは、手を引いてくれたまえ」
デデデ保安官が、メタナイトに詰め寄った。
「なんだと? どろぼうをつかまえるのは、保安官の仕事だわい! 手を引くのは、きさまのほうだ!」
「ヤツは、すご腕のどろぼう。君らでは、かなわない」
「なんだと……!」
「私は、ドロッチェとは、いささかの因縁がある。かならず、この手で、ヤツをとらえる」
デデデ保安官が、どなった。
「それは、こっちも同じだわい! 一杯食わされて、剣をうばわれたんだぞ! 取り返さなければ、保安官の面子が丸つぶれだわい!」
「勝手にしたまえ。私は、ひとりでヤツを追う」
メタナイトは立ち上がった。
「メタナイト……」
カービィが呼びかけたが、メタナイトは振り向きもしない。
パタパタするドアを開けて、メタナイトは出て行った。
大どろぼう・ドロッチェの変装に、すっかりだまされてしまったカービィたち。次こそ、ドロッチェをつかまえて、名剣を取り返さなきゃ! ……でも、いったいなにから始めたらいいの?
次回「大どろぼうを追え」は、3月7日(金)に公開するよ。おたのしみに!
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