
プププ荒野で、すご腕ガンマンのカービィが大かつやく! 2025年3月12日発売予定のつばさ文庫『星のカービィ 早撃ち勝負で大決闘!』は、大人気サブゲーム『早撃ちカービィ』の小説版!! 発売に先がけて、気になる新作の先行ためし読みを楽しんじゃおう☆
◆第2回
カンカンに怒らせてしまったデデデ保安官のために、コックカワサキのお店に行くことにした、カウボーイ・ワドルディたち。コックカワサキのおいしいおやつを食べれば、きっとデデデ保安官はゆるしてくれるはず!
だけど、大切な目的があってコックカワサキのお店へ向かったのは、カウボーイ・ワドルディたちだけではないようで……? 事件の始まりです!!
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
うばわれた名剣
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
コックカワサキの酒場は、ガンマンたちのたまり場だ。いつも、おおぜいのガンマンでにぎわっている。
「こんにちは!」
カウボーイ・ワドルディは、パタパタするドアを押し開けて、あいさつをした。
カウンターの中にいたコックカワサキが、愛想よく答えた。
「いらっしゃい、ワドルディたち。あれ? 君たちだけ? 保安官は?」
「それが……」
カウボーイ・ワドルディが、事情を話そうとしたときだった。
「た、たいへんだー! 助けてくれー!」
そう叫びながら、何者かが飛びこんできた。
コックカワサキが、おどろいて言った。
「え!? 君はたしか、となり町の住民の……ブロントバートだっけ?」
「そうさ! 聞いてくれ、たいへんな事件が起きたんだよ……!」
ブロントバートの顔色は、まっさおだ。コックカワサキは、急いでコップに水をくんで、ブロントバートに差し出した。
「お水を飲んで、おちついて。何があったの?」
ブロントバートは、水をごくごく飲んで、叫んだ。
「強盗が出たんだよー!」
「え!? 強盗!?」
ワドルディ団も、酒場に集まっていたガンマンたちも、おどろいてのけぞった。
コックカワサキが言った。
「街道を騒がせてた強盗のザンキブルは、逮捕されたんだろ!? なのに、なぜ……!?」
「ザンキブルどころじゃない、ものすごく恐ろしい強盗が出たんだ! そいつは……」
ブロントバートは話を続けようとしたが、カウボーイ・ワドルディが、さえぎった。
「待って。ぼく、デデデ保安官様を呼んでくる!」
すると、酒場にたむろしていたガンマンのひとり、ナックルジョーが笑って言った。
「保安官なんて、呼ばなくていいッスよ。どうせ、ぜんぜん、たよりにならないッス」
スペシャルランチを食べ終えたカービィも、張り切って叫んだ。
「ぼくが、強盗を逮捕しちゃうからね! デデデ保安官の出番は、ないよ!」
けれど、カウボーイ・ワドルディは、きっぱりと頭を振った。
「事件を解決するのは、保安官様のたいせつなお仕事なんだ。保安官様なら、ぜったいに強盗をつかまえてくださるよ」
「むりッスよ、ワドルディ……」
「すぐに、保安官様を呼んでくるからね。待ってて!」
カウボーイ・ワドルディは、パタパタするドアを押し開けて、駆け出して行った。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
ややあって、デデデ保安官が、ドタドタと足音を立てて、酒場に駆けつけてきた。
ひとみが、キラキラとかがやいている。デデデ保安官は、うれしそうに叫んだ。
「強盗だと!? 大事件ではないか! いよいよ、オレ様の出番だな! うひょぉぉぉ、この時を、待っていたぞ!」
コックカワサキが、あきれて、たしなめた。
「待ってちゃダメだろ。こわい事件なんだから」
「わかっとるわい! とにかく、話を聞かせろ! 何が起きたんだ!?」
デデデ保安官は、ブロントバートに、つかみかからんばかりのいきおい。
ブロントバートは、目を白黒させてしまい、話ができそうにない。
カウボーイ・ワドルディが、なんとかデデデ保安官をおちつかせて、言った。
「とにかく、最初から聞かせて。いったい、何があったの?」
そこで、ようやくブロントバートは呼吸をととのえ、話し始めた。
「オレは、ブロントバート。となり町の大金持ち、マッチョリーノさんに仕えてるんだ」
コックカワサキが、おどろいたように声を上げた。
「マッチョリーノだって!? あの、大悪党の!?」
ブロントバートは、気まずそうに目をそらした。
「それは……昔のことだろ。昔のマッチョリーノさんは、ちょっとばかり乱暴者だったらしいけど……」
コックカワサキは、カウンターをたたいて叫んだ。
「ちょっとどころじゃないよ! マッチョリーノは、凶悪な山賊たちの親玉で、おおぜいのひとを苦しめたんだ。彼のために破滅に追いやられたひとは、星の数ほど……!」
コックカワサキは、情報通だ。酒場に立ち寄る旅人たちから話を聞くので、いろいろなウワサを知っている。
けれど、ブロントバートは、大声でさえぎった。
「昔のことなんて、どうでもいいだろ! とにかく、今のマッチョリーノさんは大金持ちの、大物なんだ。オレは、マッチョリーノさんのもとで、馬車の御者として働いてる」
「御者……?」
「うん。それで、今日は大切な仕事があって、出かけたんだ」
ブロントバートは、またごくごくと水をのんで、続けた。
「マッチョリーノさんは、数々のお宝を持ってるけど、その中でもいちばん大事にしてる名剣があるんだ。いわば、家宝の剣だな。とても値打ちのある剣だから、年に一度は、メンテナンスに出すことにしてる。南の谷の向こうにある武器屋にあずけて、手入れをしてもらってるんだ」
「ふーん……それで?」
「今日は、手入れの終わった剣を、受け取りに行く日だった。オレは馬車の御者席に座って、武器屋に向かった。馬車には、護衛のガンマンが二人乗ってた。とにかく大事な名剣だからな、それくらいの警備が必要だったんだ」
「なるほど」
「オレたちは予定通りに剣を受け取り、帰り道についた。ところが、南の谷を過ぎたところで……出たんだ!」
ブロントバートは、ぶるぶるっと、羽をふるわせた。
「とてつもない、バケモノが!」
「え……!? バケモノ!?」
客たちが、ざわめいた。
デデデ保安官が、身を乗り出してたずねた。
「どんなバケモノだったんだ!? くわしく話せ!」
「あ、ああ。あのおそろしさは、忘れられねえぜ。バケモノは、とてつもなく巨大な目玉をギラギラと光らせ、オレたちの前におどり出てきたんだ。血走った目玉でにらみつけられたとたん、オレは、全身のちからが入らなくなっちまった。バケモノの魔力によって、ちからを吸い取られちまったのさ!」
ワドルディたちは、ゾッとして、ざわめいた。
「大きな目玉のバケモノ……!?」
「ちからを、吸い取っちゃうんだって! こわい!」
デデデ保安官は、続けてたずねた。
「それで、どうした!?」
「馬車に乗ってた護衛のガンマン二人が、銃を手にして飛び出した。そして、大目玉のバケモノに立ち向かったんだけど、そのとき! バケモノの目から、すさまじい電撃のビームが放たれたのさ!」
「電撃のビームだと!?」
「うん、強烈な一撃だったぜ! 二人の屈強なガンマンが、声もなくたおれて、立ち上がれなくなった。オレも、情けないことに、気を失っちまったんだぜ。最後に覚えてるのは、この世のものとは思えない、すさまじい吠え声だ。バケモノは、馬車に積んであった名剣を盗み、吠え声を上げながら、立ち去ったんだぜ……!」
デデデ保安官は、こぶしをにぎりしめて、うめいた。
「なんという……おそろしい事件だ!」
「ああ。なんとか意識を取り戻したオレは、一目散にマッチョリーノさんのもとに帰って、報告したぜ。マッチョリーノさんは、もちろんカンカンさ。犯人をつかまえて、剣を取り戻した者には、たんまりと賞金を出すって言ってるぜ。それで、オレは、この町のガンマンたちに助けを求めようと……」
さて、そのとき。
酒場のかたすみで、小さな声がした。
「……で、あり……ます……」
「ん?」
コックカワサキが気づいて、声をかけた。
「今の声は、ワドルドゥ? どうしたの? 何か、注文したいの?」
「ち、ちがうで……あり……ます……」
酒場の暗がりから、よろよろとあらわれたのは、ガンマン仲間のひとり、ワドルドゥだった。
ワドルドゥは、陽気でやさしい性格で、みんなから好かれている。
コックカワサキは、ニコニコして言った。
「君も、今の話、聞いてた? こわいよねえ! 南の谷には近づかないように、気をつけないとね」
「わ、わ、わ……ワタシなのであります!」
ワドルドゥは、せいいっぱい伸び上がって、叫んだ。
全員が、きょとんとした。
「え? ワタシ……って?」
「馬車をおそい、剣を盗んだのは、ワタシなのであります!」
みんな、一瞬、言葉を失った。
そして、次の瞬間、全員が叫んだ。
「えええええええええ――!?」
デデデ保安官が、血相を変えて、ワドルドゥにつかみかかった。
「どういうことだ!? きさま、ウソをつくと、承知せんぞ――!」
「ウ、ウソじゃないのであります。ワタシが盗んだ剣は、はい、ここに……」
ワドルドゥは、ていねいに布でつつまれた、長い棒のようなものを差し出した。
ブロントバートが叫んだ。
「あーっ! それ、それ! マッチョリーノさんの家宝の剣だ!」
「……え……?」
酒場の客たちは、うたがわしそうに、ブロントバートを見た。
「それじゃ、巨大な目玉のバケモノって……まさか、ワドルドゥのことだったの?」
ガンマンのキャピィが、怒って言った。
「なに言ってるんだ! ワドルドゥの目は、たしかに大きいけど、バケモノなんかじゃないよ!」
ブロントバートは、あたふたして叫んだ。
「い、いや、ちがう、こいつじゃねえ! あのバケモノは、もっともっとおそろしかった! 目をギンギンに血走らせて、おそろしい吠え声を上げて、目から電撃ビームを撃ってきて、ひとにらみでオレたちのちからを吸い取って……!」
「そんなことは、してないであります……」
ワドルドゥは、大きな目をウルウルさせて、言った。
コックカワサキが言った。
「いったい、どういうこと? ワドルドゥ、わけを話してよ」
「はい……実は……」
ワドルドゥは、あふれるなみだを、ぬぐおうともせずに、話し始めた。