特殊能力を持った三きょうだいが、人知れず、困っている人を救う!
角川つばさ文庫の人気シリーズ『神スキル!!!』最新7巻が、もうすぐ発売☆
発売前にドドンとイラストつきで、試し読みしちゃおう!
(公開期限:2026年2月27日(金)23:59まで)
めちゃくちゃすごい能力〈神スキル〉を持った神木三きょうだいが通う学園で、文化祭が開幕! お化け屋敷、占い、カフェに演劇……出し物の準備でトラブル続出!? なにより、まひるが実行委員の先輩に恋しちゃった! そんななか、売上金がねらわれて……犯人を追いかけるまひるが大ピンチ。いったいどうなっちゃうの!?
『神スキル!!! ようこそ! 恋とあらしの文化祭』
(大空なつき・作 アルセチカ・絵)
1月7日発売予定!
3 フォローの作戦会議?
カチャ カチャカチャ
家のダイニングに、夜ごはんの準備をする音が響く。
おれと星夜(せいや)は、お皿やコップ、おはしの準備。
まひるは、料理中のハル兄(にい)を手伝って、サラダを作ってる。
でも、顔はさっきからニヤけっぱなしだ。
「ふふっ♪ ふふふっ、ふふふふ~~~~♫」
「まひる、ご機嫌だね」
ハル兄がフライパンのパスタをまぜながら、まひるに笑いかけた。
ハル兄――いとこの若月春斗(わかつき はると)は、父さんと母さんが仕事で海外に行っている間の、おれたちの保護者だ。
大学で働いていて、やさしくてかっこよくて……何より料理が神うまい!
「なんだか、いつも以上に笑顔が輝いてるね。いいことでもあったの?」
「さすがハル兄! ふふふっ、わかっちゃう? 恋は人を輝かせるって言うもんね。それに、いつもより髪の結び目を両方〇・一ミリ上げてる効果が出てるのかも!」
それは、絶対ち・が・う! さすがに〇・一ミリの違いなんて、だれにもわからないって。
はあ。でも、ハル兄はやさしいからなあ。
「恋? まひる、もしかして、好きな人ができたの?」
「えっ、そっ、そんなわけないよ! 恋っていうのは、わたしの、と、友だちの話! じつはね、友だちが、今年の文化祭の実行委員になってね。そこで、三年生のステキな先輩に出会って――天野優希(あまの ゆうき)さんって言うんだけど」
キャ―――――、言っちゃった~~~~!
と、まひるが顔を真っ赤にしながら、包丁でミニトマトを切った。
……まひる、それ、本当に友だちの話?
「初めて会ったのは、実行委員の最初の顔合わせなの。先輩は、緊張してたわたし、じゃなかった、友だちに、気さくに話しかけてくれてね。『自分も初めて実行委員になったときは、とにかく不安で、緊張したよ。でも、だいじょうぶ。困ったことがあったら、何でも言ってね』って」
「へえ、いい人じゃん」
おれは、今日の説明会で見た、茶色い髪のさわやかな先輩を思いだす。
たしかに、初対面のおれたちにも、やさしくしてくれたかも。
「えへへ、でしょ~~~~ しかも、それだけじゃないの。三年一組、出席番号一番の天野先輩は、六月三日生まれ。ちなみに、七月七日生まれとの相性占いは、そこそこ!」
「もう誕生日まで? って、七月七日はまひるの誕生日じゃない」
友だちの話じゃないって、バレバレだって!
「と、友だちの誕生日も七月七日なの! あ、ちなみに先輩の好きな食べ物はシュークリーム。苦手なものはクモね。先輩は水泳部でね。七歳から水泳を始めて、今はバタフライとリレーの選手なの。それでいて、成績は常に学年トップクラス! まさに、文武両道で、すごくない!?」
「へ……へえー」
「今は駅前にあるオオゾラ・ゼミナールって塾に通ってるんだって。席は前から二列目、右から二番目! 七歳はなれた弟と仲がいいって、近所のおじいちゃんおばあちゃんにも評判で!」
「まひる、ストップストップ!」
絶対、いらない情報入ってる!
星夜が、あきれたようにため息をついて言った。
「はあ。せっかく心を読まないでおいたのに……まひるは、気になる人ができると、いつもこうだよな。すぐに夢中になって、一人で大騒ぎするというか」
「そういえば、前にもこんなことがあったっけ。えーっと、三年前くらい? 適当に聞きながしてたから、あんまり覚えてないけど」
「三年と二か月前、校外模試でとなりに座っていた男子。それに五年五か月前、二月に転校してきて一か月だけ同じクラスだった男子。それと八年前、まひるが幼稚園の年中のとき、オレと同じ組だったピアノが得意な男子だな。すぐ終わった例も入れるなら、四年前にも……」
「星夜、もしかして、ぜんぶ覚えてる?」
聞き上手で毎回まひるのノロケのえじきになってるにしても、しっかり覚えすぎ!
ちょっと、過保護なんじゃない?
「でも、今回は……がんばってかくそうともしてるから、それなりに本気なのかもしれないな」
……ふうん。いつもとはちょっと違うのか。
じゃあ、まひるにとっては……真剣な初恋ってこと?
「まあまあ、人を好きになるのは、すばらしいことじゃない?」
パスタをお皿につぎながら、ハル兄が言った。
「出会うタイミングや、そのときの気持ちをはじめ、いろんなものがかみあわないと、人を好きにはならないからね。すごく貴重なことだと、ぼくは思うよ」
「はあ~。さすがハル兄、わかってる~。やっぱり、恋ってそういうものだよね!」
まひるが、きゅうりをぶんぶん振りまわした。
「わたし……じゃなくて友だちは、好きになったらいろいろ知りたくなっちゃうタイプみたいでね。だから、わたしが気をつかって、すぐクラスで聞きとりしてあげたの! 先輩は人気者だから、知ってる人も多くてね。部活の様子は、家からスキルでこっそりチェックして~」
あ、まひる。そのスキルの使い方は!
「……まひる、今、なんて言ったの?」
ハル兄が、パスタをつぐ手を止めて、じっとまひるを見つめる。正面から向けられた視線に、まひるが、ヤバいと気づいてビクッと動きを止めた。
じつは、おれたちはハル兄と、神スキルについて二つ約束をしている。
一、犯罪や悪いことには使わないこと
二、危険な使い方をしないこと
神スキルは使い方によって、危険なことにもなりかねない。これは、おれたちとまわりの人を守るための大切な約束だ。
そして、それ以上に大事なのが、きょうだい三人で決めた三つ目の約束。
三、神スキルをヒミツにすること
これは、主に星夜のための約束だ。
星夜は、小学生のころ、困っていた友だちを助けるためにスキルを使った結果、心が読めるんじゃないかと疑われて、つらい思いをしたことがあるから――。
って、それより今は、ハル兄との約束!
スキルでこっそり部活を視たのは、さすがにマズかったんじゃ
「まひる、今のは友だちの話だよね? たしか、そう聞いたはずだけど」
「えー、えーっと……そう、と、友だちの話で……え~っと……」
「そうだよね。まひるのスキルは便利だけど、そういうことに使っちゃダメだもんね」
ハル兄は、腰を落とすと、まひると正面から視線を合わせた。
「どんなに短い時間でも、こっそり見られてたって知ったら、先輩もショックなんじゃないかな。だれかを好きになったら、好きな気持ちと同じくらい、相手を大切にしなきゃダメだよ」
……ハル兄。
「……って、お友だちに伝えておいてね」
ハル兄は、また笑顔に戻ると、さっと立ちあがってエプロンを外した。
「ズルをせずに一生懸命がんばるなら、ぼくも、まひるの友だちの恋を全力で応援するよ。手伝えることがあったら、なんでも言ってね」
「ううっ……わ~ん。ありがとう、ハル兄。遭難中の方位磁石くらい頼りにする! まずは、ひのはら祭の日まで、よろしくね」
えっ。なんで、ひのはら祭まで?
「まひる、文化祭が終わったら、あきらめるってこと? やけにあきらめがいいじゃん」
「ちがーう! もう、朝陽(あさひ)は知らないの? ひのはら祭にまつわる伝説!」
まひるは、サラダを作りおえると、おれをビシッと指さした。
「ずばり、〈ひのはら祭当日に告白して両想いになると、しあわせなカップルになれる〉! どう? わたしに、ううん、わたしの友だちにぴったりの伝説じゃない? ね、星夜」
「まひる、それは〈ゲレンデマジック〉に引っかけた、ただの言い伝えなんじゃないか?」
「星夜、なにそれ。メレンゲマジック? もしかして、おいしいお菓子の名前」
「いや……メレンゲじゃなくて、ゲレンデ――スキー場のことだ」
星夜が言った。
「ゲレンデでスキーウエア姿の人を実際より魅力的に感じるみたいに、日常とは異なる状況・服装の人を普段より好きになりやすい現象が、ゲレンデマジックだ。それでいくと、たしかに文化祭での告白は成功しやすいけど、その後、日常に戻ったときに別れるリスクが高い、もごっ」
(星夜、そんな現実をまひるにつきつけたら、ダメだって!)
絶対、「夢を壊した」とかいうよくわかんない理由で怒られる!
おれは、星夜の口を手でふさぎながら、心の中で呼びかける。
星夜は、触れている人の心を強制的に読んでしまうから、これなら確実におれの心の声も届く。
それに、きょうだいの間なら、スキルで心をつないで会話することもできるから――。
「ふふふっ。わたし! ……の友だちのためにも、みんなが大成功って言えるような楽しい文化祭にしなきゃね。実行委員がんばるぞ~!」
自分の世界にひたっていたのか、まひるはニコニコと笑いながら、サラダをテーブルに並べた。
(……朝陽、ありがとう。命びろいした)
星夜が、心の声でおれに返事すると、深刻な顔でうなずく。
ハル兄は、笑顔でダイニングのイスを引いた。
「まひる、がんばってね。そういえば、朝陽のクラスはカフェ、星夜のクラスは劇だったかな? もうくわしい中身は決まってるの?」
「おれのクラスは、まだ。でも、とびきりおいしいスイーツとドリンクを出そうって話してるんだ。星夜のクラスは?」
「うちは、『ロミオとジュリエット』をやることになった。文化祭の定番だから」
うっ。おれ、聞いたことない!
「星夜、定番ってことは有名な劇? どんな話なの?」
「敵対している名門の家の男女の、悲劇のラブストーリーなんだ。イギリスの劇作家シェークスピアの劇で、バルコニーで愛を語りあうシーンが有名だな。もう配役と係分担も決めてある」
へえ、さすが星夜。本好きなだけあって、くわしいな。
それに、準備も順調? 意外とリーダー向きなのかも。
「おれも、がんばろうっと。ハル兄、あとでレシピの相談をさせて。みんながびっくりするアイディアを持っていきたいからさ。できれば、めっちゃカンタンで、とびきりおいしいやつ!」
「もちろん、まかせて。当日も、絶対に見に行くよ。去年みたいに、みんなで学校の中を回るのが今から楽しみだな」
ハル兄が、にっこり笑った。
「それじゃあ、少し遅くなったけど、夜ごはんにしようか」
全員でテーブルにつくと、おれは、さっとフォークを手に取る。
今日の夜ごはんは、ブロッコリーとベーコンのクリームパスタ。
パスタからあがるほかほかの湯気と香りだけで、もうおいしそう!
「「「いただきまー」」」
「ちょっと待って!」
ん?
空中で止まった三つのフォークを見ながら、まひるが、メラメラとひとみを燃えあがらせた。
「みんな……ごはんを食べる前に、わたしの、じゃなくて、わたしの友だちの魅力を最大限に引きだすための会議につきあって! 朝陽、まず朝、好きな人に声をかけるとき、なんて言葉から始めればいい? おはようございます? それとも、天野先輩って先に名前を呼ぶ」
「そこ、そんなに重要 どっちでも印象は変わらないって」
「ええーっ、そう じゃあ、星夜。朝のあいさつをするなら、どこだと印象がいい? カメラ映えする正門前? それとも、人の少ない実行委員室」
「ど、どっちでもいいんじゃないか? わざわざ選ばなくても、偶然、出会った場所で……」
「ダメ~! もっと、効果的に魅力を伝える方法を考えなきゃ。あっ、もしかして、見た目の改革も必要」
まひるが、イスから勢いよく立ちあがった。
「二の腕引きしめストレッチを五倍に増やしたほうがいい? そうだ。今すぐ、全身すっきりカンペキ筋トレコースを、みんなで作ろう! ハル兄の研究も活かして!」
「えっ。ぼくの、応用物理学を」
それより、おれたちは今すぐパスタを食べたい!
もしかして、ひのはら祭当日まで、ずっとこう?
いや……ここからもっとキケンな方向に暴走するに決まってる!
フォークをにぎりしめたまま、星夜が視線でおれに語りかけた。
(朝陽……まひるがこれ以上暴走しないように、オレたちでサポートしよう。ひのはら祭の日を、無事にむかえるために!)
(了解)
きょうだいのおれたち以外に、このプランは実行できない。
文化祭の平和は、おれと星夜にかかってる!
第4回へつづく
書籍情報
- 【定価】
- 858円(本体780円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323774
年末年始はつばさ文庫を読もう!