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こわい話にはウラがある?
大注目の【第10回角川つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作】をどこよりも早くヨメルバで大公開!
アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪
表紙・もくじページ
【1-5 さあ考えよう。どうして幽霊は泣いているのか】
「アグリさん。そのウワサはボクも知ってる。うむ。目撃者(もくげきしゃ)に会うのは、はじめてだ」
先輩はうでを組んで、興味(きょうみ)深そうにうなった。
「わたしが視(み)たアグリさんは、なにかの見まちがいだったのですか? でも、わたしには、とてもそうは思えないんです」
「見まちがいとは思えない……か。柊(しゅう)は、それでいいのかい?」
「え?」
「柊は言っていたね。オカルトが好きじゃないって。柊にとっては、見まちがいであったほうが、オカルトではなかったほうが、都合(つごう)がいいのでは?」
たしかに、オカルトは好きじゃない。幽霊なんて見たくない。
でも。
「柊には、ほかに言いたいことがあるんじゃないか?」
先輩の言葉で、わたしは自分の気持ちに気づく。
「……えっと、アグリさんは、たしかにいたんです。泣きながら、うらめしそうに、わたしを見ていたんです。それを、無かったことには、できません。無かったことにしてはいけない、気がするんです」
先輩はだまって先をうながす。
「幽霊は視たくないです。でも、アグリさんは、だれにでも視えるものではなくて。だから、その、わたしだけは、視えるわたしだけは否定(ひてい)したくない、というか。……そうじゃないと悲しい、というか……」
なにを言っているのか、自分でもわからない。だけど、これがわたしの本音だった。
あきれてるんじゃないか。そう思って、先輩の表情をうかがう。
先輩は、あきれてはいなかった。その代わりに、おどろいていた。
意表(いひょう)を突(つ)かれたとか、意外なことを言われたとか、そんな感じの表情。
「……なるほど、なるほどなるほど、なーるほど。柊、きみってやさしいんだね」
「っ!? わたし、やらしいですか!?」
「やらしいじゃない、やさしいだ」
「あぁ、やさしいですか……自分がほめられるイメージがなくて……」
「やらしいと言われるイメージはあるのか」
まあ、やさしい、よりは。というか、なんでわたしがやさしいの?
「柊、考えてみようか」
「え?」
「どうしてアグリさんは泣いているのか。いや、そもそも、どうしてこの学校に〝出る〟のか」
「でも、先輩は、怪異(かいい)は存在しないって」
「存在しないよ。ボクの中では。でも、ちがうんだろう? 柊、きみの中では、怪異は存在するんだろう?」
わたしはだまってうなずいた。
「じゃあそれは、きみの中では真実だ。きみは幽霊を視た、幽霊を視た――と思った。そう思って、心が納得(なっとく)したのなら、それが、きみの中では真実だ」
そうだ、わたしは納得している。心の底から、幽霊はいると、納得している。
「ボクはそれを否定しない。それをどうこう言ったりしない。ボクにはボクの納得が、柊には柊の納得が、ボクときみには、それぞれの世界がある」
幽霊が存在する、わたしの世界。幽霊が存在しない、先輩の世界。
「だから、考えてみよう。柊が納得できるように、柊の世界で」
「……どうして、ですか?」
「うん?」
「どうして、そこまでしてくれるんです? 先輩は、ちがう世界の住人なのに」
「納得したから、かな」
先輩はほほ笑んだ。まぶしすぎて、目をそらす。
「柊の言葉に、納得したんだ。たしかに、存在しているものをナシにするのは悲しい。それに」
なぜか先輩は、意味ありげに、わたしを見ながらうなずいた。
「さあ、アグリさんはどうして泣いているのか考えよう。柊、くわしく話してくれるかい?」
「あ、はい、もちろん」
もちろん、なんて積極的(せっきょくてき)な言葉、使うのはいつぶりだろう。いや、はじめてかもしれない。
そうか、わたしって、だれかと幽霊の話がしたかったんだ。
「うむ。一から十まで、細大(さいだい)もらさず、委曲(いきょく)を尽くして、余(あま)すところなくお願いするよ」
胸に手を当て、深呼吸。さきほどの体験を、わたしは先輩に語った。
***
「……なるほど、なるほどなるほど、なーるほど」
わたしが語り終えると、先輩は神妙(しんみょう)な面(おも)もちでうなずいた。
先輩なら、わたしの話をしっかり受けとめてくれるとは思っていたけれど、思ったよりも真剣(しんけん)な目つきだ。
「……先輩?」
「少し、時間をくれないか」
「は、はい」
先輩は目を閉じて、眉間をつまむように押さえた。
たったそれだけの動作が、おそろしいほど絵になる。
でも、わたしの話を聞いただけで、ほんとうにアグリさんの正体がわかるの――と、思っていたら、先輩はすぐに目を開けた。
「うむ、わかったかもしれない。幽霊の正体が」
「ほんとうですか!?」
「ただ……」
先輩は言葉をにごし、わたしの顔をじっと見る。目力が、強い。
だけど、その目の奥が、一瞬、ゆれたようにも見えた。
「えっと、ただ……なんです? 話しにくいのです?」
「そうだね、話しにくいな」
先輩の視線は、わたしをとらえつづけていた。
「ねえ柊、ほんとうに、霊の正体を聞きたいかい?」
わたしは気づいてしまった。
先輩はたぶん、わたしを心配している。アグリさんの正体は、わたしがショックを受けるものなんだ。
「……聞きたい、です。先輩、聞かせてください」
でも、わたしはそう答えていた。いまさら引き下がれなかった。
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<第7回は2022年11月22日更新予定です!>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。
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