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こわい話にはウラがある?
大注目の【第10回角川つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作】をどこよりも早くヨメルバで大公開!
アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪
表紙・もくじページ
【1-2 さあ考えよう。どうして幽霊は泣いているのか】
視界のスミに、なにかが入りこんだ。
黒いなにか。たぶん影――人影?
ふり向いたとたん、その人影は動いて、本棚の向こうに消えてしまう。
もしかして、わたしがジャマだったんだろうか。
はやく本棚の前から退かないかな、と、こちらを見ていて。それでわたしと目が合いそうになって、あわてて逃げた……とか?
うん、ありそうだ。
わたしはいつも人のジャマをしてしまう。ふだんは自動ドアにもムシされるくらい存在感がないくせに。
結局、本はとらずに、わたしは立ち去ることにした。
つづいて、のぞいてみたのは児童書の棚。
児童書は基本、やさしい世界なので好き。児童書はわたしを好きじゃないだろうけど。
あぁ、なつかしい。『エルマーのぼうけん』は『エノレマーのぼうけん』だとカンちがいしていたし、『はてしない物語』を『はしたない物語』だと思っていたっけ。
昔の恥(はじ)を思い返しながら、本棚の間を歩く。
「…………えっ」
思わず、声がもれてしまった
なぜなら、視界のスミに、またもや人影が見えたから。
わたしがふり向くと同時に、人影も動いて、本棚の奥に消えてしまう。
やっぱりジャマをしてしまったのだろうか。人が少ない図書室なのに。
……それとも、まさか。
まさか、人影は、わたしに用がある? わたしのあとをつけている?
そんなバカな、と思いつつ、不安がまったくぬぐえない。
――アグリさんて、知ってる?
思い出される、水橋(みずはし)さんの言葉。そうだ、あの人影は、女の子ではなかったか。
ヤバい。図書室から、はなれなきゃ。わたしは早歩きで出口を目指す。
グスッ、グスッ、グスッ
すると、かすかに聞こえてくる音。
グスッ、グスッ、グスッ
いや、音じゃない。これは、声。それも泣き声ではないか。
はやく逃げなきゃ。わかっているのに、わたしは立ち止まってしまう。
ムシしなきゃ。わかっているのに、わたしはふり向いてしまう。
ふり向いた先にいたのは、本棚に寄りかかるようにして、うずくまる少女の姿。
「……あぁ」
あぁ、やっぱり、ふり向くべきじゃなかった。
だって、その少女は、体が透けていたから。
わたしにとって、得体の知れない人影は、必ずしも人の影とは限らない。
わたしはいわゆる、視(み)える人だ。
幽霊とか妖怪とか、ふつうじゃないものが視えてしまう質だった。
わたしの視線に気づいたのか、うつむいていた少女が顔を上げる。
涙でぐちゃぐちゃになった顔が、うらめしそうにわたしをにらむ。
まちがいない。水橋さんが言っていたアグリさんだ……。
泣きながら、アグリさんはわたしをにらみつづけた。まるで、泣くことになった原因が、わたしにあるかのように。
それとも、ほんとうに、わたしのせい?
「……あ、あの、どうして泣いているのですか?」
勇気をふりしぼって聞いてみる。しかしアグリさんは、わたしの問いに答えない。
無言で、ますますうらめしそうに、顔を歪(ゆが)ませるだけ。
わたしは、幽霊にもムシされるのか。
「あっ」
そうだ。アグリさんには、対処法(たいしょほう)があったじゃないか。
アグリと何度も唱(とな)えること、だっけ。
「……アグリ」
とりあえずつぶやくと、効果はてきめん。アグリさんは悲鳴をあげ、苦しそうに身をよじる。
「アグリ、アグリ、アグリ、ア……」
五つ目を唱えようとして、やめる。
だってアグリさんが、あまりにつらそうに見えたから。
頭をかかえ、泣きながら震える姿は、見ているこっちがつらくなるほど苦しそうで。
これじゃあ、ほんとうに、わたしが泣かせているみたい。
『アグリ』と唱えないとおそわれるんじゃ――一瞬、そんな不安が頭をよぎったけれど、わたしには、これ以上唱えることなんて、できなかった。
だけど、一度唱えてしまったせいなのか、アグリさんの泣き声はどんどん小さくなって、半透明の体はもっと透明になっていく。
やがて、朝霧(あさぎり)が空気に溶けこんでいくみたいに、アグリさんの姿はスーッと消えてしまった。
なんとも言えない後味の悪さが、わたしの胃をしめつける。
小山内さんのときといい、わたしはイヤな別れ方しかできないのか。
深く深くため息をつく。
もう、いいや。もう、帰ろう。
宿題をしていた場所までもどると、先ほどまでわたしが座っていた席のとなりに、男子生徒が座っているのが見えた。
ほかにも席はあいているのに、なんでわざわざとなりに?
あぁ、気まずい。見知らぬ人が近くにいるというだけで、わたしの動きはギクシャクしてしまう。
意識するな意識するなと心の中で念じつつ、ノートを回収しようと席に近づいて――気づく。
その男子生徒は『鬼全体解剖図』を読んでいた。
いったいどんな人が、こんな本を読むんだろう。反射的に、わたしは机から目線を上げ、
「うきゅぷっ!?」
と奇声(きせい)をあげてしまった。
わたしって、ほんとうにおどろいたとき、『うきゅぷっ』とか言う人間だったのか。
「……うきゅぷ?」
わたしの奇声に、読んでいた本から顔をあげた男子生徒が首をかしげる。
わたしがおどろいた理由。それは男子生徒が、あまりにも美しかったから。
グッと引きこまれる大きな目、スッと通った鼻筋(はなすじ)、新雪よりも白い肌に、透明感のある髪。
整(ととの)いすぎた顔は、もはやつくりものめいていた。
『美少年』という題名の、芸術作品だと言われれば信じてしまうくらいに。
「きみは、鬼の正体ってなんだと思う?」
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<第4回は2022年11月11日更新予定です!>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。
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