KADOKAWA Group
ものがたり

第2回【期間限定・1巻無料ためし読み】 『時間割男子(1) わたしのテストは命がけ!』

7 【火曜日・算数】恐怖の計算ジゴク

 どかっ

 部屋に入るなり、ケイは机に大量のプリントの山をつみあげた。

「うげ」

 あとから部屋に入ったわたしは、おもわず悲鳴をあげる。

 かるく三十センチをこえる山が、三つも……!?

「まさか、これ、ぜんぶやるの……?」

「とうぜんだ。ぜんぶやれば満点は確実。オレは百日の命が約束される」

 えぇっ?

 まさか、本気でわたしに満点をとらせるつもりなの?

「満点なんて、ぜったいムリだよ! わかってる? 前回のテスト、7点だよ、7点!」

「いばるな」

「い、いばってないもん……」

 でも、自分で言っててむなしくなってきた。

「今のままでは、満点をとれる確率は0.000001%にも満たない。しかしオレの完璧な計画どおりに目標をクリアしていけば、確実にとれるようになる。理論上はな」

 理論上はな、とか言われてもねぇ。

 うんざりしながらプリントの山をながめてたら、ケイはいちばん上の一枚をめくって、ぐいと押しつけてきた。

「わかったら、座れ。勉強をはじめる」

「えっ? い、いきなり?」

「とうぜんだ! イスにしばりつけてでも、100点とれるようにみっちり鍛えてやるからな!」

 ゴゴゴゴゴと燃えるような目。

 ひぃぃぃ!

 逆らったら本気でイスにしばりつけられそう!

 わたしはしぶしぶ鉛筆を手にとり、プリントにむかう。

「さあ、とけ! 一問につき五秒!」

「えぇっ!? そんなのムリ──」

 バンッ

「!」

 とつぜん、ケイがプリントの上に紙束をたたきつけた。

 え? なに?

 びっくりして、その場にフリーズする。

「これから文句を言うごとにプリントを十枚追加する」

「ええっ! そんなムチャクチャな! ただでさえ多──」

 ババンッ

 またプリント追加された!

「わ、わわ、わかったから!」

 やっぱりこの人、鬼だ!

 ふるえながら、プリントにむかう。

 ええと、小数のかけ算?

 うわあ、これ、ほんとニガテなんだよなぁ。


15×0.3


「うーん…………、3.5……とか?」

「ちがう、4.5だ! 計算ミスをするな、集中しろ! つぎ!」

「うぅっ……」

 つらい。頭痛い……。

 目の前につみあがった、終わりの見えないプリントの山。

 ボーッとそれをながめながら、現実逃避する。

 ああ、これがプリントじゃなくて、プリンだったらなぁ……。

(ん? プリン……?)

 ほわ~ん

 ふいに、甘い香りが鼻をくすぐった。

 反射的に、パッと横をむく。

「プッ……プリン!!」

 本物のプリンだ! なんで!?

 目の前にあらわれたプリンにとびつこうとした瞬間、ケイがお皿を持った手をひょいとあげた。

「これは小梅さんからオレがもらった、オレのプリンだ」

「ひ、一口! いや、せめてにおいだけでも!」

「ほぉ、そんなにプリンが好きか?」

「好きです! 三度のメシより!」

「なるほどな。じゃあ、こうしよう。つぎのテストが終わるまで──プリンいっさい禁止だ!」

 えぇ~~~っ!?

 つぎのテストって、月曜日の実力テストのこと?

「それだけじゃない。仮に赤点をとり、もしオレが消えるようなことがあれば……あの世で神様にたのんで、一生プリンが食べられない人生にしてやるからな!」

「なっ、なにそれ! そんなのたえられないよ!」

「じゃあ、勉強するしかないな?」

 うっ。

 ごくりとつばをのみこむ。

「プリンを人質にとるとは……ヒ、ヒキョーもの……!」

 うめくように言ったわたしに、ケイはカッと目を見ひらく。

「ムダ口をたたくな! ほら、つぎの問題!」

 わかったってばぁ!

 え~っと、つぎは……。


12.2×0.1


 うわぁぁぁん、むずかしい!!

 どっちも小数なんて、わかるわけないじゃん!

「う~ん、う~ん……に、にじゅう……?」

「ちがう、1.22だ! やる気があるのか、おまえは!」

 うぅっ! ないよ、やる気なんて~っ!

 半べそをかきながら、プリントにむかう。

 まったく休みなしで、もう一時間。

 休憩したくても、ケイが真横で監視してるから、席を立つことさえできないし。

 わたしが不正解するたび、赤ボールペンをカチカチならすから、めっちゃプレッシャー。

 ハァ。これぞ、まさに「アリジゴク」だよ……。

(正しくは「生き地獄」だよ!)


「ほら、はやくつぎをとくんだ!」

「わかったってば! ええと、『下の図のような形の体積を求めなさい』?」

 描かれてる図は、真四角の立体的な箱。

 あ。これ、たしか公式があったよね。

 書いてある数字を……足すんじゃなかった!?

「わかった! 7+7+7で、21だ!」

「ちがーーーーーーーーう!!」

 バッキーン!

 勢いあまってケイが赤ボールペンをまっぷたつに折った。

「立方体の体積の求め方は『底面積(タテ×ヨコ)×高さ』だ! 公式を覚えろ! あとは当てはめるだけだろ!」

「お、おかしいなぁ。たぶん覚えたはずなんだけど……」

「算数の世界では『たぶん』も『はず』も通用しない! このペケ丸ペケ子め!」

 うっ、その偽名、覚えてたんだ……。

「だいいち計算まちがいが多すぎる! 何回かけ算でまちがえれば気がすむんだ!」

「わ~ん!」

 だって! もう、なにがわかんないかも、わかんないんだもん!

 なんでわたしは計算ミスしちゃうの?

 なにが正解で、なにがまちがってるの!?

(うぅっ……やっぱ、きらいだ!)

 算数なんてきらい!

 算数なんてきらい!

 算数なんて、だいっっっっっっきらいだ~~~~っ!!



『時間割男子① わたしのテストは命がけ!』
第3回へつづく(12月15日公開予定)



書籍情報


作: 一ノ瀬 三葉 絵: 榎のと

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319333

紙の本を買う

電子書籍を買う

最新18巻もチェック!


作: 一ノ瀬 三葉 絵: 榎のと

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323835

紙の本を買う

電子書籍を買う

各教科のエキスパートな「科目男子」たちが、授業やテストのなやみをズバッと解決してくれる大人気連載!



年末年始はつばさ文庫を読もう!




この記事をシェアする

ページトップへ戻る