7 【火曜日・算数】恐怖の計算ジゴク
どかっ
部屋に入るなり、ケイは机に大量のプリントの山をつみあげた。
「うげ」
あとから部屋に入ったわたしは、おもわず悲鳴をあげる。
かるく三十センチをこえる山が、三つも……!?
「まさか、これ、ぜんぶやるの……?」
「とうぜんだ。ぜんぶやれば満点は確実。オレは百日の命が約束される」
えぇっ?
まさか、本気でわたしに満点をとらせるつもりなの?
「満点なんて、ぜったいムリだよ! わかってる? 前回のテスト、7点だよ、7点!」
「いばるな」
「い、いばってないもん……」
でも、自分で言っててむなしくなってきた。
「今のままでは、満点をとれる確率は0.000001%にも満たない。しかしオレの完璧な計画どおりに目標をクリアしていけば、確実にとれるようになる。理論上はな」
理論上はな、とか言われてもねぇ。
うんざりしながらプリントの山をながめてたら、ケイはいちばん上の一枚をめくって、ぐいと押しつけてきた。
「わかったら、座れ。勉強をはじめる」
「えっ? い、いきなり?」
「とうぜんだ! イスにしばりつけてでも、100点とれるようにみっちり鍛えてやるからな!」
ゴゴゴゴゴと燃えるような目。
ひぃぃぃ!
逆らったら本気でイスにしばりつけられそう!
わたしはしぶしぶ鉛筆を手にとり、プリントにむかう。
「さあ、とけ! 一問につき五秒!」
「えぇっ!? そんなのムリ──」
バンッ
「!」
とつぜん、ケイがプリントの上に紙束をたたきつけた。
え? なに?
びっくりして、その場にフリーズする。
「これから文句を言うごとにプリントを十枚追加する」
「ええっ! そんなムチャクチャな! ただでさえ多──」
ババンッ
またプリント追加された!
「わ、わわ、わかったから!」
やっぱりこの人、鬼だ!
ふるえながら、プリントにむかう。
ええと、小数のかけ算?
うわあ、これ、ほんとニガテなんだよなぁ。
① 15×0.3
「うーん…………、3.5……とか?」
「ちがう、4.5だ! 計算ミスをするな、集中しろ! つぎ!」
「うぅっ……」
つらい。頭痛い……。
目の前につみあがった、終わりの見えないプリントの山。
ボーッとそれをながめながら、現実逃避する。
ああ、これがプリントじゃなくて、プリンだったらなぁ……。
(ん? プリン……?)
ほわ~ん
ふいに、甘い香りが鼻をくすぐった。
反射的に、パッと横をむく。
「プッ……プリン!!」
本物のプリンだ! なんで!?
目の前にあらわれたプリンにとびつこうとした瞬間、ケイがお皿を持った手をひょいとあげた。
「これは小梅さんからオレがもらった、オレのプリンだ」
「ひ、一口! いや、せめてにおいだけでも!」
「ほぉ、そんなにプリンが好きか?」
「好きです! 三度のメシより!」
「なるほどな。じゃあ、こうしよう。つぎのテストが終わるまで──プリンいっさい禁止だ!」
えぇ~~~っ!?
つぎのテストって、月曜日の実力テストのこと?
「それだけじゃない。仮に赤点をとり、もしオレが消えるようなことがあれば……あの世で神様にたのんで、一生プリンが食べられない人生にしてやるからな!」
「なっ、なにそれ! そんなのたえられないよ!」
「じゃあ、勉強するしかないな?」
うっ。
ごくりとつばをのみこむ。
「プリンを人質にとるとは……ヒ、ヒキョーもの……!」
うめくように言ったわたしに、ケイはカッと目を見ひらく。
「ムダ口をたたくな! ほら、つぎの問題!」
わかったってばぁ!
え~っと、つぎは……。
② 12.2×0.1
うわぁぁぁん、むずかしい!!
どっちも小数なんて、わかるわけないじゃん!
「う~ん、う~ん……に、にじゅう……?」
「ちがう、1.22だ! やる気があるのか、おまえは!」
うぅっ! ないよ、やる気なんて~っ!
半べそをかきながら、プリントにむかう。
まったく休みなしで、もう一時間。
休憩したくても、ケイが真横で監視してるから、席を立つことさえできないし。
わたしが不正解するたび、赤ボールペンをカチカチならすから、めっちゃプレッシャー。
ハァ。これぞ、まさに「アリジゴク」だよ……。
(正しくは「生き地獄」だよ!)
「ほら、はやくつぎをとくんだ!」
「わかったってば! ええと、『下の図のような形の体積を求めなさい』?」
描かれてる図は、真四角の立体的な箱。
あ。これ、たしか公式があったよね。
書いてある数字を……足すんじゃなかった!?
「わかった! 7+7+7で、21だ!」
「ちがーーーーーーーーう!!」
バッキーン!
勢いあまってケイが赤ボールペンをまっぷたつに折った。
「立方体の体積の求め方は『底面積(タテ×ヨコ)×高さ』だ! 公式を覚えろ! あとは当てはめるだけだろ!」
「お、おかしいなぁ。たぶん覚えたはずなんだけど……」
「算数の世界では『たぶん』も『はず』も通用しない! このペケ丸ペケ子め!」
うっ、その偽名、覚えてたんだ……。
「だいいち計算まちがいが多すぎる! 何回かけ算でまちがえれば気がすむんだ!」
「わ~ん!」
だって! もう、なにがわかんないかも、わかんないんだもん!
なんでわたしは計算ミスしちゃうの?
なにが正解で、なにがまちがってるの!?
(うぅっ……やっぱ、きらいだ!)
算数なんてきらい!
算数なんてきらい!
算数なんて、だいっっっっっっきらいだ~~~~っ!!
『時間割男子① わたしのテストは命がけ!』
第3回へつづく(12月15日公開予定)
書籍情報
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- 【定価】
- 858円(本体780円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323835