KADOKAWA Group

『いみちぇん!』続編!『いみちぇん!!廻』ためし読み連載 第7回

角川つばさ文庫の伝説級☆人気シリーズ『いみちぇん!』続編! 「わたしは、モモお姉ちゃんの意志を継ぐ!!」千方センパイの妹、藤原りんねが中学生になって、ミコトバヅカイに!? 先祖代々のお役目のナゾにも迫っていく、『いみちぇん!』ファンならゼッタイ読みたい最新シリーズだよ☆(公開期限:2026年8月31日(月)23:59まで)

※これまでのお話はコチラから

 7 二人だけの世界

「待てってば!」

「八上くんは帰ってくださいっ」

「あの樹ってヤツに、オレが何されるかわかんないんだよっ」

 一生懸命走るわたしの横に、八上くんもついてくる。

 わたしたちは水たまりを跳ね上げながら、裏庭を突っ切った。

 行き止まりに、プールの金網フェンスが見えてくる。あのあたりだけ、なぜか空気が白くかすんでる。

「樹ちゃん!」

 わたしは肩を上下しながら、霧の中を分け入って、フェンスに飛びついた。

 金網ごしのプールサイドに、ゆらゆら、人影がたくさんある……!

 みんなオレンジの制服を着た、中等部のコたちだ。一列に行儀よく並んで、ゆっくりとプールサイドを歩いていく。

 十人、二十人、もっといるっ?

「あいつら、なにやってんだ? もう授業が始まってんのに」

「真冬なのに、プールの授業なんてやらないですよね」

 霧の合間に覗く横顔は、みんなぼんやりとうつろだ。だれも一言も発さず、静かに、ただそこに並んでる。

 もしかして、玲連と桜だけじゃなく、他にも黒札を貼られてる人が、こんなにいっぱいいる……!?

 しかも、この霧に包まれてる一帯だけ、雨が弱い。

「ダメだよっ、止まって!」

 樹ちゃんの声!

 白くかすむ、二十五メートルプールの奥のほう。

 一列に並んだ生徒たちの終着点は、飛び込み台だ。そこに次々と生徒が乗っかって、水面に倒れこんでいく……っ!

 水柱は上がらない。ただ、スッと吸い込まれるように水の中へ消える。

 樹ちゃんが男子生徒の肩をつかんで止めようとする。だけどそのとなりの飛び込み台から、女子が一人、プールに落ちた。その後ろで順番待ちしてたコも、また一人、もう一人……っ。

「あれ、見ろ!」

 八上くんがプールの真ん中あたりを指さす。

 白いモヤが覆う水面に、ぬうっと、なにかが現れた。

 さっき落ちた男子が、仰向けに浮かんできた──!?

 彼はのっそりと立ち上がると、地面を歩くのと同じ調子で、水の上を歩きだす。

 あれが、「影」!?

 プールサイドに着くと、そのままフェンスの出入り口をくぐっていく。その彼の後ろを、二番目に落ちた女子が、無表情で同じコースをたどる。

「安室桜の時も、まるっきりあんな風だった」

「じゃあ、みんなも同じ札を貼られてるんだ……っ」

 マガツ鬼を捜そうと周りに首を巡らせたとたん、頭がくらっとした。

 となりでガシャッと音がしたと思ったら、八上くんも足もとがふらついたみたいで、金網をつかんでる。

「──りんねちゃんっ! 霧を吸わないで!」

 樹ちゃんがわたしたちに気づいた。彼は口にハンカチを当ててる。

 それを見て、わたしはアッと声を上げた。

 みんながぼうっとしてるの、この霧のせいっ?

「八上くん、これ使ってくださいっ」

 わたしはハンカチを貸して、自分はカーディガンの袖を口に当てる。

 この霧も、マガツ鬼の攻撃なんだ……!

「雨」に「務」のパーツをたすと、『霧』になる。

「務」には、「手探りして求める」って意味があるんだ。だから「雨」と合体すると、「手探りするほど、水気が立ち込めてて、もやもやしてる」っていう事で、「曖昧な様子」の意味にもなるの。

 この霧を吸ったら、頭の中が、もやもや曖昧になっちゃう。

 みんなも霧のせいで、マガツ鬼の思うまま、プールに飛び込むように誘導されてるんだっ。

 樹ちゃんがこっちにダッシュしてきた。

 プールサイドの上と下から、フェンスごしに見つめ合う。

「樹ちゃんっ。マガツ鬼はどこっ?」

「姿が見えないんだ。気配は感じるから、なにかいるのは間違いないのに」

 樹ちゃんは文房師の鋭い瞳を、周囲に走らせる。

 わたしと八上くんも、周りを見回した。

 このプールを覆いつくす霧と同じに、ぼんやり、広い範囲で、なにかいるような気がする。ただ、その気配がのっぺり広がりすぎてて、どこにいるのかまでは、わかんない。

 樹ちゃんの背後では、みんながどんどんプールに落っこちていく。

 早く止めなきゃ……!

 でもマガツ鬼の居場所がわからないと、反撃もできないよっ。

「とりあえず、わたしもそっちに行くね!」

 わたしはフェンスの入り口のほうへ走ろうとする。

 その時、目の前を、なにか小さなものが横切った。それがチラッと白い光を放った気がした。

 筆を持ってないほうの手で、パッとそのあたりをつかんでみる。

「チョウチョ?」

 開いた手のひらに、ホログラムみたいな、無色透明の羽を開いたチョウがとまってる。

 あれっ。このコ、ふつうのチョウとはちがう。でも、邪気みたいな嫌な感じはしない。

 もう一度まわりを確かめる。

 ほとんど止みかけの雨が、空中でちっちゃな水の粒を跳ねさせてる。

 あっちこっちで、ちらちらちらちら。まるでなにかに、雨をさえぎられてるみたいに……。

 ──このコと同じ〝見えないチョウ〟が、たくさん飛び交ってるんだ!

 八上くんがわたしの手のひらを覗き込んで、声を上げた。

「あっ、こいつ!」

「知ってるの?」

 すぐさま問い返すと、彼はグッと言葉を喉につまらせた。

 その瞬間だ。

 わたしの手から飛び立ったチョウが、八上くんのおでこにとまった。

 チョウは白い光を放ちながら、みるみる形を変え──、五角形の、小さな札になる!

 透明な札はまぶしく光り、おでこの上で、みるみる溶け消えていく。

「ウワッ」

 八上くんがヒュッと真下に吸い込まれていく!

 玲連が床に落っこちたのと同じに、彼は、足もとの水たまりの中へ──っ。

「八上くん!」

 わたしは彼に飛びついた。肩のあたりをつかめたけど、勢いよく落ちていく自分より大きな体を、引っぱりもどせるワケがなかったっ。

 わたしも一緒に、水たまりの中に落ちる!

「りんねちゃんっ!」

 樹ちゃんが金網に足をかけ、あっという間にフェンスのてっぺんへ乗り上がる。

「──必ず助けに行くから、待ってて!」

 彼の声を聞きながら、わたしは八上くんと、真っ暗な穴をどこまでも落ちていく。

 水たまりの穴の「入り口」が、ぐんぐん遠ざかる。

 その入り口の向こうで、だれかのシルエットが二つ、むくっと起き上がるのが見えた。



 気づいたら、わたしは水たまりの上に座り込んでた。

 となりで八上くんもきょとんとしてる。

「今、わたしたち、落っこちた……?」

「落ちたよな……?」

 周りを見回すと、プールに並んでた生徒たちもいない。あの透明なチョウの気配もなくなってる。雨もやんで、しんと静まり返ってる。

 フェンスの上に乗っかってた樹ちゃんの姿も、ないや。

 さっきまでと同じ場所なのに、人気がない以外にも、なにか変な感じがする。ニセモノの玲連を眺めてた時みたいな、微妙な違和感。

 わたしたちはヨロヨロ立ち上がった。

 まだ、なにが起きたのかよくわからないけど。

 さっき見えた、無数の透明なチョウ。あれが悪さをしてた、大マガツ鬼だったんだよね?

 あのチョウ、一匹一匹は小さくても、プール全体を覆い尽くすような気配は、オオカミみたいなふつうのマガツ鬼より、ずっと強かった。

 紙漉き体験の時に感じた気配と同じ感じがしたから、あのチョウが光の原因だったのは、まちがいなさそうだけど。

 でも、邪気は感じなかったし、八上くんが貼られた札は、白札でも黒札でもない、透明な札で。

 しかも煙も噴き出さず、赤い光も発しなかった。

 わたしが知ってる悪いものとは、全然ちがう……。

 樹ちゃんなら、ああいうマガツ鬼を見たことあるのかな。相談したい。

「藤原って、左利き?」

「う、ううん? 右です」

 言われてハッとした。右手に持ってたはずの千花が、なぜか左手にある。

「八上くんも、腕時計、右腕につけてましたか?」

「……つけてない」

 彼は時計を上から手で覆って、眉をひそめる。

 左と右が入れ替わってる?

 八上くんのその顔も、ふだんと印象がちょっとちがう気がする。人間の顔って完全な対称じゃなくて、左右差があるって言うよね。

 じっと見つめちゃったら、八上くんはふいっと顔を背けた。

「つか、その敬語やめろ。ウザい」

「あっ、ハイ、……うん」

 つまりわたしたちは、左右反転の世界に落ちてきた……のかな。

 どうして左右反転?

 それに、落ちていく最中、水たまりの向こうに見えたシルエットは、たぶん〝わたしたちのニセモノ〟だったんだよね……?

 あのニセモノたちは、これから本物のふりをして教室へもどっていくんだ。それで家に帰って、わたしはちぃくんたちと夕ご飯を食べる? 想像したら、不気味すぎる。

 足もとの水たまりに、青ざめたわたしの顔がぼんやり映ってる。それを眺めて──、わたしはやっと気がついた。

「ここ、水鏡の向こう側だ!」

 八上くんは眉をひそめた。

「水鏡? 水面に、物が反射するってやつか。あ、だから右と左が逆?」

「うんっ。わたしたち、水たまりの中に落ちたんじゃなくて、水鏡の向こう側に来ちゃったのかも」

 桜たちが水しぶきも上げなかったっていうのも、水中に沈んだワケじゃなかったから?

 水面がそのまま、水鏡の世界への入り口になってたんだ……っ。

 八上くんがおでこに貼られた透明な札には、なんて書かれてたんだろう。

「水鏡」の「影」かな。でも、ニセモノを作る、影武者の意味の「影」も必要?

 あ、でも、「逆様」とか「彼方此方」のほうが都合がよさそう。それなら、水鏡の世界と現実世界を引っくり返して、水鏡に映ったニセモノを現実世界に出すのと、現実の本物を水鏡の世界へ消しちゃうの、いっぺんにできちゃう。

 ……うん! これが当たりな気がする。

 わたしはしゃがんで、水たまりに手をひたしてみた。砂の地面にぺたっと触れるだけで、もう反対側にはもどれない。

「藤原、どうにかできんのか。五時間目の授業、とっくに始まってる」

 わたしはギクリと身を縮めた。

 向こう側にもどるには、わたしが術で、チョウの札を書き換えればいいんだろうけど──。

 ちゃんとチカラをコントロールできるかどうかの前に、わたし、千花しか持ってない。墨と札がないと、どうにもできないよ。

「ご、ごめん。道具が足りなくて、なにもできないの。樹ちゃんがいないから……」

「おまえ、助けるアテもないのに、わざわざオレと一緒に落っこちたのか?」

「うん……」

 八上くんは騒ぎに巻き込まれた上に、こんなところに連れて来られて。その上、わたしはチカラがあるくせに、もどしてあげられない。そんなのガッカリだよね。

「あのチョウが、オレになんか貼ったんだよな? ただの虫じゃない感じがしてたけど、あれも『鬼』だったのか。虫型のもいるの、初めて知った」

 わたしはきょとんとして、彼を見上げた。

 八上くんはふだんとまったく変わらない、平坦な調子だ。むしろいつもより口数が多いくらい。

「なんだよ」

「う、ううん。……あの、怒るかなぁと思ったの。わたしが役立たずすぎて」

「オレがこんな事になってんのは、矢神サンのせいだろ。おまえを守れとか脅されなきゃ、オレはさっさと教室に帰ってた。あの人、藤原のなんなんだ? 〝主さま〟とか呼んでたよな」

 ウッと変な声が漏れちゃった。

 術を使ってるところも見られてるし、マガツ鬼の話もしたし、今さらだけど。まさか、「樹ちゃんは、わたしの家臣になったんだって」なんて、説明しづらいよ。

 八上くんはしばらく、口ごもるわたしを観察してたけど。面倒くさくなったのか、周りの景色のほうに首を向けた。

「まぁいいや、ベツに興味ないし。あの人、あの勢いなら、なにがなんでも助けに来るだろ」

「うんっ。絶対に来てくれる。樹ちゃんは、ウソつかないんだよ」

「つくだろ。優しいお兄さん風のキャラを作ってたじゃないか。本性はヤバそうなヤツだ」

「そ、そんな事ない。樹ちゃんは、元からずっと優しい」

「藤原にだけだろ」

 八上くんはスタスタと裏庭を横切って、体育館裏の石段に腰を下ろす。

 樹ちゃんの助けが来るまで、座って待つつもりなんだ。

 現実世界では、チョウが無数にひらひら舞ってた。きっと樹ちゃんも、すぐ札を貼られて、こっちの世界に送られてくるよね。

 そしたら武器の四宝がそろって、わたしが術に失敗さえしなければ、脱出できる。

 人間を書き換えるんじゃなくて、この空間を書き換えるだけなら、……すこしは怖くない、はずだし。

 わたしは八上くんと一人分の間を空けて、並んで座った。

「八上くんは、あのチョウの事、知ってるの? さっき、『あ、こいつ』って言ってた」

「……」

 珍しくたくさんしゃべってくれてたのに、また急に黙っちゃった。

 だれもいない水鏡の世界で、わたしたちが口を閉じると、耳鳴りがしそうなほど静かになる。

 八上くんはわたしをチラリと見て、息をつく。

「……さすがにこんな大事になったら、放っておけないもんな。わかった、話す」

 そして、タメ息まじりに語り出してくれた。


 文化体験会の、紙漉き体験の時。

 みんなが押し花で飾り付けをしてた頃、八上くんは空いたビニールプールで、苛立ちをぶつけるみたいに漉き枠を動かし続けてた。

 感情の行き場がない時は、いつも絵を描いたり走ったり、なにか作業に集中する事にしてるから、ちょうどよかったんだって。

 夢中になって、プールに沈めた手が、水のキンとした冷たさも感じなくなった頃。──どこからか、「ダレ?」って問いかけるような声が聞こえてきた。

 驚くと同時に、体の内側が、応えるようにポッと熱くなった。

 そして気づいたら、漉き枠から噴き出した白い光に包まれて──、目の前に、あのチョウがふわふわ羽ばたいていた。

 作りかけの紙に、命が宿った。


 このチョウは、紙に宿った精霊だ。


 そうわかった後、彼はハッとした。

 樹ちゃんは講座が始まる前、オオカミに打撃を与えて追い払ってた。このチョウもふつうの生き物じゃない。彼に気づかれたら、このチョウも、やられるかもしれない。

 それで、みんながまぶしさに騒然としてる間に、窓からチョウを逃がしたんだ──って。


 話を聞き終えたわたしは、すぅぅっと大きく息を吸って、肺をふくらませた。

 じゃあ、あの白い光って、八上くんが、チョウを、紙から生んだ瞬間の光だったんだ。

 そ、そんな、人間が精霊を生むなんて、できるの?

 なら、チョウはマガツ鬼じゃない。だってマガツ鬼は、人間の悪い言葉から生まれるんだもの。

 攻撃してきたってコトは、悪い存在のはずだけど……、でも、嫌な気配がなかったのもホントだ。

 精霊がマガツ鬼になっちゃうなんていう事も起こるのかな。

「あのチョウ、すごくきれいだったよな。オオカミみたいに消さないで、なんとかできないのか」

「わ、わかんない……。でもこのままほっとけない、よね」

 一匹一匹は小さくても、あの大群が全部まとまって攻撃してきたら、たぶん樹ちゃんが言ってた「大マガツ鬼」レベルで危ないよ。

 チョウが宿った本体の紙も、樹ちゃんに預けて、矢神家で祀ってもらったほうがいいのかもしれない。

 そこまで考えて、わたしはアッと声を上げた。

「八上くん、その、チョウが宿った本体は!? 今どこにあるのっ?」

「本体? 体験で作った紙なら、教室の、オレの机の中」

「……じゃあ、ダメかぁ……」

 もしここにあったら、最悪、本体を破いちゃえば、チョウも消えるし、術も解ける。わたしたちもここから出られるよ──って、思いついたんだけど。

 その手段がダメで、むしろよかった。マガツ鬼でもない精霊を破いて消しちゃうなんて、かわいそうだ。それに書道の四宝をわざと破り捨てるなんて、絶対にしたくない。

 ……やっぱり八方塞がりだ。

 わたしたちは、またシンとなっちゃった。

「ほんとにこの世界、オレたちしかいないのか。プールに落ちたヤツらは?」

 八上くんのつぶやきに、わたしはバッと立ち上がり、勢いよく周囲に首を巡らせる。

「急になんだよっ」

「玲連たちは!? 桜も、プールから落ちたコたちも、本物が、こっちの世界に来てるはずだよねっ? なのに、どうしてだれもいないんだろ!?」


 わたしたちは、プールのフェンス下の地面に、「みんなをさがしてきます」と木の枝で書きつけて、樹ちゃんにメッセージを残しておいた。

 プールの周り、更衣室、それから自分たちの教室まで覗いたけど、ぜんぶ空振りだ。どこにも人の気配がない。

 それに、よく知ってる廊下で、よく知ってる教室のはずなのに、左右が反転してるせいで、すごく不気味に見える。

「ほんとにわたしたちの他は、この世界に来てないのかな」

「オレたちと他のヤツらのちがいって考えたら、水たまりに落ちたか、プールに落ちたか──か?」

「落ちた場所によって、行き先もちがう?」

 プールと水たまりで、別々の水鏡になってるから、その向こうの世界もバラバラ? それが一番、ありえそうかな……。

 話しながら、わたしは廊下の窓から下を覗いてみた。グラウンド一面に無数の水たまりが散らばって、鈍色の空を映してる。

 その景色をぼんやり眺めた後で。わたしは思い当たって、サーッと血の気が引いた。

「いたのか?」

「や、八上くん……っ。大変なことになっちゃった」

「もう大変だろ」

「ちがうっ。樹ちゃんが、助けに来られないかも!」

 八上くんもしばらく考えた後で、ハッと顔を青くして、下の景色を覗き込んだ。

「水鏡の数だけ別々の世界があるなら──。オレたちがいる〝この世界〟に来るには、同じ水たまりから落っこちなきゃいけない?」

「だよ、ね? 樹ちゃんが、わたしたちが落ちた水たまりを覚えてて、その上に立ってる時に、チョウの札を貼られなきゃいけないんだ。──でもそれって、すごく、すっごく、難しい?」

 プールフェンス前の、わたしたちがいたあたりにも、水たまりがいっぱいできてた。

 しかもさらに大変な事には、樹ちゃんは術を使えない。

 だから、もしも樹ちゃんが、ちがう水鏡の世界に入っちゃったら。

 ……二度と、そこから出てこられない。

 筆を持ってるわたしと、残りの四宝を持ってる樹ちゃんが合流できなければ、わたしたちも、樹ちゃんも、玲連たちも、バラバラの世界に閉じ込められたまま。

「帰れない……」

 つぶやいたわたしに、八上くんは目を見開いて、また水たまりの景色へ目をもどした。

次のページへ▶


この記事をシェアする

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEでシェアする
ページトップへ戻る