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『いみちぇん!』続編!『いみちぇん!!廻』ためし読み連載 第6回

角川つばさ文庫の伝説級☆人気シリーズ『いみちぇん!』続編! 「わたしは、モモお姉ちゃんの意志を継ぐ!!」千方センパイの妹、藤原りんねが中学生になって、ミコトバヅカイに!? 先祖代々のお役目のナゾにも迫っていく、『いみちぇん!』ファンならゼッタイ読みたい最新シリーズだよ☆(公開期限:2026年8月31日(月)23:59まで)

※これまでのお話はコチラから

 6 壊れゆく「ふつう」

 玲連のことで頭がいっぱいで、樹ちゃんが転校してきたってみんなに言うのを、すっかり忘れてた。

「ごめんね、りんねちゃん。みんな、りんねちゃんに彼氏がいるってカンちがいしたんだよね? そりゃ騒ぎにもなるよねぇ」

「ちがうよっ!? そんなのじゃなくって、みんな樹ちゃんにビックリしてたんだよっ。ほら、匠お兄ちゃんは『中等部の王子さま』だったでしょ? その弟が来たって」

「あー、それもあるのか。匠兄は人気あったらしいもんね。でもちゃんと、ぼくたちは幼なじみだって、誤解を解いてもらえるみたいで、よかったね」

「う、うん。解けてるといいね……」

 教室は、天と地が引っくり返ったような大騒ぎになっちゃって。アキたち三人が目をきらきらさせて、「後は任せて。いってらっしゃい!」って送り出してくれて、なんとか教室を脱出できたの。

 それで今、人のいない場所に──って、屋上へ向かってるところだ。

 階段を上りながら、大人っぽくなった横顔を眺めてたら、樹ちゃんはわたしににっこりした。

「ひふみ学園は、校舎がきれいでうらやましいな。屋上にも屋根があったりするの?」

「ううん? ただの外だよ?」

「あ……っ、じゃあマズいかも」

「マズいって?」

 階段の終点の踊り場に着いて、わたしは鉄の扉を押す。

 あれ、いつもより重たい。樹ちゃんが後ろから扉に手を添え、ぐいっと押し込んでくれた、ら。

ざあああああああああ。

 空は真っ暗、どしゃ降りの雨! 耳たぶがキンッとするほど冷たい風が吹きつけてきた。

 あわててバタンと扉を閉める。

「雨!? 教室出た時、こんなじゃなかったよね」

「さっき雨のにおいがしたから、そろそろ来るかなって思ってたんだ」

「そうなんだぁ……」

 ──そういえば、矢神さんちの裏山で遊んでた時も、双子はよく雨や風のにおいの変化に気がついた。おうちに着いたとたんにザーッと降り出して、驚いたり。

 ああいうの、すっごくカッコいいなぁって思ってたんだ。

「お弁当、ここで食べちゃおっか」

 踊り場に座って、ちょいちょいと手招きするお兄さんが、あの「樹ちゃん」と同一人物なんだって、やっとホントに信じられた気がする。

 わたしたちは壁を背に、並んでお弁当を開けた。

 樹ちゃんは寝ぼうして、わたしの家に迎えに来るほうを優先で、お弁当はあきらめたんだって。さっき購買に行こうとしたら、「すごく並ぶから、急いでるなら」って、クラスのコたちがちょっとずつお裾分けしてくれたんだそうだ。

 プラ容器には、カラフルなおかずに、サンドイッチやおむすびまで!

 転校二日目にして、すっかり人気者……っ。人見知りのわたしには、想像もつかない世界だ。

 でも、ここに依ちゃんがいてくれてたら、夏山で一緒に遊んだ頃と、おんなじ空気だな。

 二人で昨日起こった事件をおさらいして、まだ見つかってない「強いなにか」が現れるかもしれないから、油断しないでおこうねって結論になって。

 そこで、ちょっと会話が途絶えた。わたしはプチトマトを口に入れる。

「……わたしね、樹ちゃんが急にカッコいいお兄さんになっちゃったなぁって思ってたんだよ」

 秋に会った時も「大きくなったなぁ」って思ったけど、なんだか顔つきまでちがう? 男子の成長期って、すごい。

「ぼくが? まさかぁ。兄弟で一番地味だよ。ぼくこそ、りんねちゃんがお姉さんになっててビックリした。でも、昔の面影もあってよかったな。そばにいるのに、ずうっと緊張しっぱなしなんて困るもんね」

 まさにそれはこっちのセリフな事を言われて、わたしたちは笑い合う。

「そういえば、りんねちゃん。『面影』って、なんで『面影』って言うんだろう。『面』は、お面の面で、『顔』っていう意味なのはわかるけどさ。それに『影』がついたら、真っ黒な顔になっちゃいそう」

 そしてわたしたちの話題は、今も、漢字の話に行き着くんだ。

 わたしは頭に、『面白難解漢字辞典』を思い浮かべる。

 ええと、たしか「影」は、光と影の「暗い部分」っていう意味の他にも、「外に現れてない、見えない部分」とか、いろんな意味を持ってる。

 なんと、暗いとこの正反対で、「光」とか「輝き」っていう意味まであって。

 それは、「カゲ」という言葉の元々が、太陽や月が「カガやく」の「カガ」だからなんだ。

 漢字の「影」は、「景」たす「彡」でできてるけど、「景」が「お日さまの光」のことで、「彡」は「模様」のこと。つまり、「光が描いて作りだした模様」が、「影」の元々の意味なんだって!

 だから「月影」だと、月光が落とした黒い影じゃなくって、「月の光」そのものを指す。

 わたしの説明に、樹ちゃんはアスパラベーコンをもぐもぐしながら、何度もうなずいた。

「『火影』って言葉もあるもんね。あれも、火が映し出す影じゃなくて、火の『光』そのものの意味だ」

「うん、そう! 水や鏡に反射して映る姿も、光が作る模様だから、『水影』とか『鏡影』って呼ぶでしょ。たぶん、『光が作る模様』から、『光が映し出した姿』に意味が広がった?」

「なぁるほど……。だから、『面影』は同じふうに、『心に思い浮かべて、映し出した顔』っていうことで、『影』の字を使うんだ」

「うん、わたしもそう思うっ」

 わたしは漢字大好きだし、樹ちゃんも文房師だし、漢字の話は毎回盛り上がっちゃう。

 元は「光の模様」だったのに、正反対の「暗い部分」とか、「ソックリさん」にまで意味が広がっちゃうんだから、漢字って面白いよねぇ。

 いつの間にか、外は雷まで鳴り始めた。ドアの隙間から、稲光が射しこんで、壁にわたしたちの影を映す。思わず身を縮めたところで、──ふと、頭にひらめいた。

「あ、『影』! きっと『影』だっ、樹ちゃん!」

「えっ!?」

 身を乗り出したわたしに、樹ちゃんは頭を後ろに引いて、ゴンッと壁にぶつける。

「玲連に貼られてた黒札は、たぶん『影』!」

 もやもやしてたナゾが解けたっ。

「影」のいろんな意味と、今までの玲連にまつわるふしぎが、全部当てはまってる!


 わたしは大興奮で、樹ちゃんに説明した。

 まずは、玲連が急に撮り始めた、心霊写真。

 これは「面影」と同じ使い方の「影」だと思うんだ。

「心に思い浮かべた姿」が、写真にそのまま写ったんじゃないかな。

 みんな「うちのおじいちゃんを写して~」とか、彼女に頼んで撮ってもらってたから、その時、その人の姿を思い浮かべてたよね。

 だから、あの怖い背後霊が写っちゃったセンパイも、ほんとに幽霊がいたワケじゃなくて、ただ、その時に、「こういう幽霊が写ったら怖いな~」って想像してたのが、そのまま写っちゃったんだ。

 アキのおばあちゃんを写した時、ぼんやりとしか撮れなかったのは、アキがおばあちゃんの顔をうろ覚えで、「面影」をしっかりイメージできてなかったせい。

 つまり未来さんは、ほんとにただのジョークアプリで、心霊写真が撮れた原因は、撮影者の玲連が、「影」の黒札を貼られてたせいだったんだ。

 それで、次。

 玲連が教室で床にストンと落ちて消えたように見えたのも、きっと自分の「影」、体が光に当たって作り出された暗い部分、そのものになっちゃったからなんだ。

「ねっ、『影』でどっちも説明できるよっ」

「ほんとだ……! りんねちゃん。さすがだよ」

 樹ちゃんも目を見開いて、うんうんうなずいてくれる。

「そうすると、玲連さんは『影』の札を、二回もちがう意味で貼られてたって事になるよね。一回目は、心霊写真を撮り始める前。二回目は、教室で消される直前。オオカミはどうして、そんなに彼女にこだわったんだろう。彼女の邪気から生まれたから……?」

 考えながら言う樹ちゃんに、わたしは眉をひそめた。

「──あれっ、待って。なんか変かも」

「うん?」

「一回目は朝だったから、教室に入る前に、札を貼られたのかな。でもね。二回目に床に消えた時、玲連はずっとわたしたちと一緒にいて、その時オオカミは、まだ教室に来てなかった。だれも攻撃してきてないのに、急に消えちゃったんだ。なんでだろうって、ふしぎだったの」

「……オオカミの黒札じゃなかった可能性がある? 大マガツ鬼の仕業か?」

 樹ちゃんの声が、急にピリッとした。

「なぁに、それ? あっ、『強いなにか』の事?」

「うん。めちゃくちゃ強いマガツ鬼を、そう呼んでるんだ。大マガツ鬼レベルになると、自分の邪気を隠すこともできるはずだから、気づかないうちに黒札を貼られる事も、あるのかなぁ……」

 樹ちゃんは難しい顔になっていく。

 じゃあ、玲連を消したのはオオカミじゃなくて、その、大マガツ鬼の仕業?

「でも、だったら、玲連がもどって来てるのがツジツマ合わない? その大マガツ鬼、倒してないのに」

「そっか。そうなるよね。……大マガツ鬼の気が変わって、いったん別の黒札で、玲連さんを返してくれた、とか? なんだか無理矢理だな」

「……樹ちゃん。気のせいかもしれないけど、今日の玲連、ちょっと変な感じがしたの」

 ためらいつつも、一応伝えると、樹ちゃんはスッと立ち上がった。

「りんねちゃんが『変だ』って感じた直感は、信じるべきだと思う。ぼくも、玲連さんの様子を確かめに行っていい?」

「う、うんっ。わたしも、樹ちゃんが見てくれたら安心」

 文房師なら、違和感の正体がわかるかもしれない。

 わたしはヒザの上に広げたお弁当箱を、大あわてで片づける。まだほとんど残ってるのを見た樹ちゃんは、ものすごく申し訳なさそうに眉を下げたけど、キッと「お役目」用の顔になった。

 わたし、まずはごはんを早く食べる修行が必要かも?

 だけどとにかく──、

「「行こう!」」

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