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8 人が〝消える〟フロア
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春馬は6階の部屋の前にやってきた。
ドアに注意書きがある。
『ようこそ、6階へ。
このフロアのゲームは『エンドレス・カラオケ』。
個室で思うぞんぶん、カラオケが楽しめます。
廊下は、警備ロボの『ダツラクン』が巡回しています。
ダツラクンに捕まると、脱落になります。
ただし、ダツラクンは個室には入れません。
個室にとどまっていれば、脱落することはありません。』
ここもカードキーは必要ないが、入ったら出られないようだ。
ドアを開けると、大音量でハードロックが流れている。
「うわぁ、うるさいな」
赤、青、黄、緑、オレンジとポップな色づかいの廊下が、迷路のように伸びていて、その両側にドアが並んでいる。
本当に、カラオケボックスのようだ。
教室くらいの大きな個室から、10人くらい入れる個室、1人用個室、男女別のトイレまである。
廊下を歩いていくと、前から円柱形の奇妙な機械がやってきた。
廊下のはばと同じくらいの直径で、高さは1メートルほどの、ドラム缶のような形をしている。
「なんだ、あれ……あれが、ダツラクンか!?」
大音量でロックがかかっているせいで、ダツラクンに気づくのが遅れた。
のろのろとしたスピードだが、あれに捕まったら脱落だ。
早く逃げないと……!
ダツラクンは個室には入れないんだったな。
春馬はいそいで近くの個室に飛びこんだ。
個室の中には、ソファとテーブルとモニターがあり、ステージにマイクスタンドもある。
廊下とちがって、室内はとてもしずかだ。
「こんなところで、カラオケをやっている余裕はないよ」
ドアの小窓から廊下をのぞいていると、ダツラクンが通りすぎていった。
スピードは遅いが、廊下のはばいっぱいだから、行き止まりに追い詰められたら逃げられない。
注意して進むしかない。
ダツラクンが通りすぎたのを確認して、春馬は廊下に出た。
部屋を調べながら歩いていく。
すると、ロックの曲に混じって、かすかに「ここを開けて!」というさけび声が聞こえてきた。
見ると貴美子が、1つの個室のドアを必死でたたいている。
その先の廊下から、貴美子のほうに、ダツラクンがむかってくる。
どうしたんだ? 個室のドアが開かないのか?
このままだと、貴美子はダツラクンに捕まる。
彼女が脱落になれば、亜久斗は未奈を解放するはずだ。
…………だめだ、彼女が脱落になるのを黙って見ているなんてできない!
春馬は駆けだした。
「どうしたんだ!」
貴美子のそばで大声で言うと、彼女はドアを指さす。
春馬がドアを開けようとするが、鍵がかけられている。
ドアの小窓から、幹夫がこちらを見ている。
「ドアを開けろ!」
さけびながらドアをたたくが、幹夫は不気味な笑みをうかべて首を横にふった。
なんてやつだ。でも、怒っている時間はない。
ほかの個室に入るしかない。
貴美子の手をひいてうしろの個室にむかう。
が、その先からもダツラクンがやってきた!
まずい、ダツラクンは1台じゃないのか!
春馬から個室のドアまでは8メートルほど、そこから5メートルほど先にダツラクンがいる。
1人なら間に合う。でも、春馬は貴美子をおいてはいけない。
「くるんだ!」
「えっ」
春馬は貴美子の腕をつかむと、強引にひっぱった。
貴美子が棒立ちになる。
「走れ! 全速力で!」
流れるロックに負けないように大声で叫ぶ。
「う……あ…………………うあぁぁぁぁ!」
貴美子はとつぜん奇声を発すると、別人のような形相になって走りだした。
なにかに取り憑かれたようないきおいだ。
これが、火事場の馬鹿力か!
バン!
個室に飛びこみ、いきおいよくドアを閉める。
ダツラクンがドアの前を通過していった。
貴美子がその場でゆかにへたりこむ。
「あ……あ……ありがとう……」
「お礼はいいよ。それよりも、本気になれば、速く走れるんじゃないか」
「あんなに必死に走ったのはじめてです」
「最初からあのいきおいで走っていたら、よゆうで間にあったのに」
「ドアを閉められて、パニックになっちゃったんです……わたし、ピンチに弱くて」
「まあ、それは、ぼくも同じだけど」
「でも、春馬くんは冷静だった」
「冷静なふりをしていただけだよ。本当は必死だったんだ」
「そうなの……わたしと同じなんだ」
「怖くなったら、先のことは考えないで、今できることをやればいいんだ」
「今、できること……?」
「それにしても、幹夫はひどいやつだな」
そのとき、いきおいよくドアが開いた。
入ってきたのは、剛太だ。いきなりどなる。
「貴美子なんて、助ける必要ねぇぞ!」
剛太は一部始終を見ていたようだ。
「前のゲーム、貴美子のせいで、だれも賞金をもらえなかったんだからな!」
「しょうがないでしょう。養護施設を守るために、少しでも多くお金が必要だったんだもの」
「ふざけるな! あのとき、賞金をもらっていたら、おれは今ごろマウンドの上だ!」
「そ、それは悪いと思っているけど……」
貴美子が下をむく。
「わざわざ、そんないやみを言いにきたのか?」
春馬がケンカ腰で言うと、剛太はニッと白い歯を見せてきた。
いったい、なんだっていうんだ。
「とんがるなよ。それより、春馬、おれと協力しねぇか」
「協力だって?」
「おれたちは敵じゃねぇ。このタワーから脱出するという目的は同じだ。そのためには、下にいかないとならねぇ」
言っていることはまちがっていないが、剛太は信用できない。
「その顔はうたがってるな?」
「あたりまえだろう。ぼくも『絶体絶命ゲーム』の経験者だ」
「そのわりには貴美子を助けたりして、ずいぶんとお人好しじゃねぇか」
「う、うるさいな!」
春馬が声を荒げると、剛太はニヤリと笑った。
「まぁ、いい。おれがピッチャーをやっていたことは、話しただろう」
「野球チームへの誘いなら断るよ」
「そうじゃねぇ!」
じょうだんのつもりだったんだけど、本気にされた。
お笑いのセンスがないんだよな。
「ピッチャーに一番大切なことが、なにかわかるか?」
剛太がきいてきた。とうとつな質問だ。
「……コントロール……じゃないのか?」
「はずれだ。ピッチャーに大切なのは、対戦するバッターの力量を見きわめることだ。体がほそくてもバッティングの才能があるやつはいるし、体格がいいだけで、運動神経ゼロのやつもいる。バッターの力を見ながら勝負するんだ。おれは、それを見ぬく力がすぐれていた。そして、その力は今でも役だっている」
「なにが言いたいのか、わからないんだけど?」
「鈍感なやつだな。つまり、おれは人を見る目があるってことだ」
「ようするに、自慢か」
「そうじゃねぇ。話はこれからだ。おれはこの階にきてから3時間以上も下へいく方法を探してる。それがまだ見つからねぇ」
「それは……」といやみを言おうとした春馬に、剛太が手のひらをむけた。
「おまえの言いたいことはわかる。おれがグズだと言いたいんだろう。でも、そうじゃねぇ。見つけられないのは、おれだけじゃねぇ。幹夫も貴美子も陽平も見つけられなかった」
だれも見つけられていないということか……。
いや、1人足りないぞ。
「そうだ。おまえが考えた通り、メイサだけは別だ」
なんだよ。こいつには超能力でもあるのか?
考えていることをまた当てたぞ。
「おかしな目で見るな。おれに超能力なんてねぇ」
うわぁ、またまた当てた。マジですごいぞ。
「たいした能力じゃない。おれは優秀なピッチャーだったんだ。バッターが変化球を待っているのか、ストレートを待っているのか、インコースか、アウトコースか、いつも考えていた。それで、相手の表情で、なにを考えているのか予測できるようになったんだ」
「ぼくはサッカー部だから、野球のことはよく知らないんだ」
剛太の能力に驚いたが、ここは平気なふりをしておこう。
「おまえ、サッカーをやっているのか。1つのボールをみんなで奪いあって蹴るんだろう。おれにはあわねぇな。野球も団体スポーツだけど、基本はピッチャー対バッターの1対1の勝負だ。これこそ真の対決だ。それと比べたらサッカーは……」
「サッカーの話はもういい。それでメイサはどうしたんだ?」
話が横道にそれそうだったので、春馬が質問した。
「──消えた」
剛太は苦虫を噛みつぶしたような顔で言った。
「消えた? 本当なのか?」
春馬は貴美子に確認する。
「そうなんです。この階まではメイサさんもいっしょでした。それが、いつの間にかいなくなったんです」
「ダツラクンに捕まって脱落したんじゃないのか?」
「それならだれかが気がつくはずだし、ユキが発表するだろう。だがメイサは音もなく消えた」
どういうことだ?
彼女はどうやってここから出たんだ。
「それでおれは考えたんだ。おまえなら見つけられるんじゃないか、とな」
ちょ、ちょっと待てよ。
「どうして、ぼくなら見つけられるんだ?」
「おれは人を見る目があると言っただろう。──おまえは、なにかがちがう、そう感じるんだ」
「買いかぶりだ」
「いいや、おれの目は正しい。それで、おまえに相談だ」
「言いたいことはわかったよ。下へいく方法を調べて、教えろというんだろう」
「そうだ」
「それって、ぼくにはなんの得もないよね?」
「いいや、ある。この階では、おまえと貴美子にも危害をくわえないってことで、どうだ」
それは、あたりまえのことだけど……。
「おれのパワーなら貴美子を捕まえて、ダツラクンの前にほうり投げることはかんたんだ」
本気でやるとは思えないが、貴美子を脅すには十分のようだな。
「わかった。それじゃ、この階に限って協力しよう」
春馬の言葉に、貴美子は安心した顔をする。
「それと、陽平はどうして脱落したんだ?」
「幹夫にやられたんだ。下へいくドアを探すのに夢中になった陽平は、ダツラクンに気がつくのが遅れた。それで、近くの個室に入ろうとしたんだが……」
「そこには幹夫がいて、鍵をかけて開けなかったのか?」
「そうだ。廊下のすみに追いやられた陽平は、ダツラクンの上を飛びこえようとしたが、すごい吸引力で吸いつかれて動けなくなったんだ」
「ダツラクンからは逃げられないのか?」
「むりだな。陽平は死にものぐるいで逃げようとしたが、ダメだった。一度接近されたら、もうダメだ。……そのあと、ユキがやってきたら停電した」
停電だって?
「1分くらいフロア中が真っ暗になった。もう一度明るくなったときには2人ともいなかった」
「そのときに、メイサも連れていったんじゃないのかな」
「そうじゃない。彼女がいなくなったのは、それよりだいぶ前だ」
……メイサは出口を見つけた、ということか。
「──わかった。この階をくわしく調べてみるよ。見落としているところがあるかもしれない」
春馬は1人で調べてみることにした。
すべての個室の床から壁まで調べたが、下へいく階段も、通路も、かくしドアも見つからない。
最後にトイレを調べたが、男子トイレに仕掛けはなかった。
洋式の便器と、小さい洗面所があるだけだ。
残りは女子トイレだ。
「すみません、少し調べさせてください」
このフロアにいる女子は貴美子だけだが、もしだれか入っていたら大変なので、ひと声かけてから女子トイレのドアを開けた。
男子トイレと同じ作りで、変わったところはない。
すべてを調べたが、かくしドアも通路も階段もない。
『残り時間7時間12分』
まずいぞ。
亜久斗の言った制限時間まで、残り12分。
それまでに、だれかを脱落させないとならないけど、そんなことができるのか。
剛太と戦っても、かんたんには勝てなそうだし、幹夫は鍵をかけて個室にこもっている。
残っているのは貴美子だけど、彼女は春馬を信じきっている。
このままだと、未奈は亜久斗に失神させられて、そのまま脱落になる。
いったい、どうしたらいいんだ。
いきなり肩をたたかれて、春馬は飛びあがりそうなくらい驚いた。
ふり返ると貴美子がいて、うしろを指さしている。
ダツラクンが、すぐそばまで迫っていた。
大音量のロックで、ダツラクンがきているのに気がつかなかったのだ。
春馬は、貴美子と近くの個室に飛びこんだ。
「出口は見つかりました?」
「いいや、全部の個室をさがしたんだけど、どこにもない」
「個室じゃないところにあるんじゃないですか」
「どうして?」
「メイサさんが消えたとき、陽平君もまだ脱落してなくて、みんなで出口をさがしていたんです。だから、個室の中で消えたら、ドアの小窓からだれかが目撃したと思うんです」
「それなら、廊下はもっと難しいよ」
「窓がない個室は、トイレくらいですよね」
「トイレも調べた」
「──きゃあ!」
いきなり、貴美子が悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
「ご、ごめんなさい。モニターに映った自分に驚いただけです。わたし、怖がりなんです……」
「怖がりなのに『絶体絶命ゲーム』に挑戦したの?」
「どうしても、児童養護施設を守りたかったんです。そのためなら、どんなに怖いことでも耐えられると思ったんです。結局、ダメだったけど……。どんなに強く願っても、どんなにがんばっても、現実にできないことってあるんですよね」
貴美子は悲しそうな顔をした。
「ぼくたちには、たいした力はないよ。でも、あきらめたらなにも実現できない。ずっとがんばっていれば、いつかやりたいことができるようになるんじゃないかな」
「そうかな……」
貴美子はモニターに映った自分の顔を見る。
「わたし、小さいころから、鏡が怖いんです。自分とちがう動きをしたらどうしようって……」
「本当に怖がりなんだね」
「だって、カラオケボックスの洗面所の鏡って、ほかの世界につながってる感じがしません?」
「都市伝説?」
「そ、そうじゃないけど……。ここの洗面所でも、怖くてドアを閉められなかったです」
「洗面所か……」
そのとき、メイサが消えた謎が解けた。
「そうか、そういうことだったのか!」
「どうかしましたか?」
「出口が見つかったんだ!」
春馬は、ダツラクンがいないのを確認してから、廊下に飛びだした。
『残り時間7時間5分』
もう時間はない。
出口を見つけられても、このままなら未奈は脱落になる。
女子トイレを調べていると、貴美子と剛太がやってくる。
3人は近くの個室に入った。
「その顔は、謎を解いたな」
剛太は満足そうな顔で言った。
「ああ。メイサは下へいく通路を見つけたわけじゃない。偶然だったんだ」
「どういうことだ?」
「出口をさがしたぼくたちの盲点が、女子トイレだ。ぼくは女子トイレだけは入るのに気が引けた。それで、熱心に調べられなかった」
「おれは調べたぞ。命がけのゲームなんだ、男子も女子もねぇだろ」
「それなら、女子トイレの中に入って、鍵はかけた?」
剛太は首をひねった。
「どういうことだ?」
「メイサは、顔に包帯を巻いていただろう」
「それがどうした?」
「ぼくの推理だと、8階のガス噴出で、彼女の包帯がほどけかけたんだと思う。包帯を巻きなおすために洗面所に入ると、メイサは鍵をかけて、洗面所の鏡にむかった。すると……」
「どうなったんだ?」
「床が開いて、下に落ちた」
「そうか。鍵をかけなかったかもしれねぇな。貴美子はなんで落ちなかったんだ?」
「わ、わたしは……」
「洗面所の鏡が怖くて、ドアを閉めなかった。そうだろう?」
「はい。……でも、それだと女子トイレの鍵はかかったままになるんじゃ?」
「中にいた人が落ちると、床がもとにもどって、鍵が開く仕組みなんだ。廊下に大音量でロックがかかっているのは、下に落ちる音をごまかすためだ!」
春馬の説明を聞いて、剛太と貴美子は納得したようだ。
「それで、だれからいくんだ?」
「まっ先に剛太がいくと言うかと思ったけど」
「謎をといた者に優先権があるだろう」
意外と紳士的なようだ。
「ぼくはあとでいいよ」
順番はどうでも良かったが、先にいくと、剛太と貴美子が残る。
「おれが貴美子と2人になるのを心配してるんだな」
また剛太に考えを読まれた。
「おまえ、マジでお人好しだな」
「好きなように言え。それよりも先にいくのか?」
「あぁ、そうだな。おれの勘はあたっただろう。おまえはどこかちがう」
3人は個室を出て、女子トイレの前にいく。
最初に、剛太が女子トイレに入った。
鍵をかける音がしたあと、かすかだが物が落ちるような音が聞こえた。
ドアを開けると、剛太が消えている。
となりで、貴美子が大喜びで拍手する。
そのとき、春馬の背後でなにかが動いた。
「危ない!」
貴美子がさけび、春馬をつき飛ばした。
ブン!
そこにマイクスタンドがふり下ろされる。
な、なんだ!?
ふりむくと、マイクスタンドを持った幹夫が立っていた。
「なにをするんだ!」
さけぶ春馬に、幹夫はマイクスタンドをふりまわして威嚇する。
「そんなことしなくても、全員が下にいけるんだぞ!」
春馬は大声で言うが、幹夫は首を横にふる。
「このタワーから脱出できるのは、1人だけだあ──!」
幹夫も大声で言いかえす。
いや、そうじゃない。
ユキは、脱出できるのは1人だったり、全員だったりと言った。
全員かもしれないんだ。……でも、脱落した者がいるから全員はないのか?
それなら、1人しか助からないのか。
だとしたら、ほかの者を脱落させる行動を非難できないが……。
どうしたんだろう。幹夫は勝ちほこったような余裕の笑みだ。
──もしかして!
春馬がパッとふりむくと、5メートルくらいうしろに、ダツラクンが迫っていた。
マイクスタンドをふりまわす幹夫と、ダツラクンの間にはさまれてしまった。
貴美子は幹夫のうしろにいる。
幹夫のねらいは、春馬を脱落させることだ。
絶体絶命だ。
ダツラクンは、すぐうしろにきている。こうなったら、けがを覚悟で幹夫にぶつかっていくしかないが……。
いきなり、貴美子が幹夫の腰に抱きついた。幹夫のふりまわすマイクスタンドの動きが止まる。
「今です、逃げて!」
貴美子がさけび声をあげる。
すかさず、春馬は幹夫の横を駆けぬけた。
しかし、次の瞬間、幹夫は力まかせに貴美子をふり飛ばした。
「あっ!」
短い声を発して、貴美子は廊下をころがった。そこにダツラクンがやってくる。
「あぶない!」
春馬がさけぶが、遅かった。
ダツラクンが、貴美子の体に吸いつく。
ダツラクンの大きな体の下敷きになって、貴美子が動かなくなる。
とつぜん、廊下に流れていたロックの曲が止まり、しずかになった。
『──ゴシマキミコ、ダツラク。ウゴクト、キケンデス。オトナシク、シテクダサイ』
ダツラクンから無機質な音声メッセージが流れる。
「しょ、小生は関係ありませんよ。すべて、あなたが悪いんですっ!」
捨て台詞を残して、幹夫は女子トイレに飛びこんでいった。
彼を追っている場合じゃない。
春馬を助けようとして貴美子はダツラクンに捕まった。
彼女を助けないと……。
「ストップ! 彼女に近寄ったらダメだよーっ!」
ダツラクンに近づこうとすると、聞きおぼえのある声に止められた。
ふりむくと、いつの間にかユキがいる。
「ざんねーんだったねー、貴美子は脱落★ 春馬はぁー、すぐルール違反しようとするねっ、イケない子! 『これがぼくのルールだ』っていうのは通用しないよー!? ダメダメダメ──!」
もう、春馬にはどうにもできない。
「それじゃ~、いくよっ♪ ドロロ~ン、パッ!」
ユキがさけぶと、部屋の照明が消えて、フロアが真っ暗になった。
照明はすぐにもどったが、ユキと貴美子の姿はない。
女子トイレのドアを開けると、幹夫もいなくなっていた。
亜久斗の決めた制限時間まで、残り1分だった。
モニターにユキが映り、貴美子の脱落を知らせた。
その場に立ちすくんでいると、未奈と亜久斗が下りてきた。
「つかれた顔をしてるじゃないか、春馬」
亜久斗は楽しそうに言った。
「ごめんなさい、あたしのために」
未奈は春馬に謝り、亜久斗をにらみつける。
「なにがあったの?」
「……貴美子が脱落したのは、偶然だ。ぼくがなにかをしたわけじゃないよ」
春馬は言葉少なに答えた。
「下にいく通路は女子トイレだ。入って鍵を閉めると、床が開いて下へいける」
第3回へつづく(5月20日公開予定)
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