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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『絶体絶命ゲーム② 死のタワーからの大脱出』第2回 タワーの上から見えたもの


友だちの秀介といっしょに遊んでいたところ、春馬はふたたび『絶体絶命ゲーム』につれさられる。砂漠にたつ謎のタワーから12時間以内に脱出できれば命を助けてやる、と…さらにあの亜久斗が「今度こそおまえに勝つ」と立ちふさがって!? 今度こそ絶体絶命だ!!
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(2巻)はコチラから
 1巻はコチラから



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5 タワーの上から見えたもの

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 春馬と未奈が階段を上がっていくと、塔屋といわれる、屋上につながるせまい場所に出た。

 屋上に出られるらしいスライドドアがあり、窓のくもりガラスから日差しが入っている。

 ザーッという雑音が聞こえてきて、壁に設置してあるモニターに砂嵐が映った。

 ここにもなにか仕掛けがあるのだろうか?

 モニターの砂嵐はすぐに消えて、ユキが映る。

「ウワァ────麗華を助けにきたの~!? お人好しだねっ★ でも、オッケー♪ ユキは、そういうやさしい人がだーいすきだよっ! そんな、エラーイキミたちのために、ここにはゲームも仕掛けもないから安心してね。それじゃ屋上へどうぞ~」

 春馬はドアを開けようとした。

 が、なにかが引っかかって、開かない。

 よく見ると、ドアのみぞに、鉄パイプがおかれていた。

 麗華が自力でロープを解いても、屋上から出られないように、つっかい棒をしていたようだ。

 鉄パイプを取りのぞいてから、ドアを開けた。

 陽の光に目がくらむ。

 屋上はサッカー・グラウンド2面分くらいの広さがある。

 1メートルほどの高さの壁でかこまれているが、落下防止のフェンスなどはない。

 日差しは強いが、湿気をふくんだ冷たい風が吹いているので、肌寒いくらいだ。

 タワーのまわりを見た春馬は、信じられない風景にパニックになりそうだった。

「ここはいったい、どこなの……?」

 となりの未奈が呆然とつぶやいた。

「……わからない。こんな場所、はじめてだ」

 目の前は、砂漠だ。

 山も緑も建物もなく、砂の地平線がどこまでもつづいている。

「いったい、どうなっているんだ……?」

 ふり返ると、うしろの風景も前と変わらない。ただ、砂漠の先に海が見える。

 春馬は建物のはしに歩いていく。

「ねぇ、どこいくの?」

 未奈が心ぼそそうな声で言った。

「そうか、未奈は高所恐怖症だったな。そこで待っていて」

 春馬は屋上をかこっている高さ1メートルほどの壁から、下をのぞいてみた。

 建物周辺には、すぐ横にオアシスのような大きなプールがあるだけだ。

 まるで、砂漠にロケットがつきささったように、タワーが建っている。

「……ここって地球なの?」

 塔屋の前にもどった春馬に、未奈が青ざめた顔で聞いた。

 ふだんなら「決まってるだろう」と返す春馬だが、今は未奈と同じ心境だ。

「日本で砂漠といったら、鳥取砂丘だけど……」

「それなら、ここは鳥取県?」

「どうかな……。もしかしたら……日本じゃないのかもしれない

「なにか、におわない?」

 未奈に聞かれて、春馬は大きく息を吸った。

「火薬のにおいだな」

「花火?」

 未奈の天然ぶりに、春馬は頭をかいた。

 この状況で思いつくのは、花火より──爆弾だ。

 まさか、ここは戦闘地帯じゃないだろうな?

 頭の中に、ニュースで見た砂漠地方の紛争地域が思いうかび、冷や汗が出てくる。

「うぅぅぅぅぅ……」

 どこからか、うめき声が聞こえてきた。

「この裏から聞こえてくるわ」

 未奈と春馬は塔屋の裏にまわった。

 まわりの砂漠にはにあわない、リゾートにあるような派手なパラソルの下で、さるぐつわをされた麗華が椅子にしばられている。

 麗華は、きれいに巻かれた髪に、うすく化粧までしている。

「麗華、大丈夫?」

 未奈がさるぐつわをとると、麗華はむっとした顔をする。

「遅いですわよ。わたくし、生きた心地がしませんでしたわ。そばかすでもできたら、どうしてくださいますの」

 これが、助けにきた人間にかける言葉だろうか。

「……これって、とらわれのお姫様っていう設定だったのかな?」

 春馬がいやみを言うと、麗華は視線をそらした。

「それより、はやくロープをほどいてくださらない」

「その前に、教えてもらいたいことがあるんだ」

「な、なんですの」

「麗華は、なにものなんだ?」

「なにものって……わたくしは天才女優の桐島麗華ですのよ」

「ぼくの知っている桐島麗華は、野犬に襲われて死んだはずだけど」

「ああ、そのことですのね。それは……ほほほ」

「笑ってごまかしてもダメだよ。あの映像は作りものだろう」

「ふふ、じつはそうですのよ。クオリティーが高かったでしょう? アカデミー賞ものですわ」

 アカデミー賞だって? ふざけてる。

「あぁ、ユーチューブにアップしたいくらいね。それで、きみはなにものなんだ?」

 春馬の問いに、麗華はすまして黙りこんだ。

 これは、かんたんには口を割らないかもしれない。

「……あの1億円は、麗華が出してくれたのね?」

 未奈が意外なことを口にした。

「それ、どういうこと?」

「わたし、『絶体絶命ゲーム』について色々と調べたの」

「調べたらダメだって言われてただろう?」

「好奇心は止められないわ」

「気持ちはわかるけど……」

「春馬だって、噓をついてゲームに参加してたでしょう」

 それを言われたら、返す言葉もない。

「それで、なにがわかったの?」

「あのゲームって、すごくお金がかかってるでしょう。賞金の1億円だけじゃなく、絶命館を作ったり、人をやとったり。そういうことができる日本人って、多くないはずだと思ったの。それで、日本のお金持ちのインスタグラムをかたっぱしから調べたの。そうしたら、中東の王族のパーティーの写真に、ある人が写っていたんだ」

 話を聞いていた、麗華の顔色が変わった。

「一般人は絶対に入れないパーティーよ。日本から唯一呼ばれたのは、雨澤ソフトウエアの社長家族だけ」

 その会社名は小学生の春馬でも知っている。

 日本を代表する、ソフトウエア開発会社だ。

 雨澤社長の資産は1000億円以上といわれている。

 雨澤社長なら、賞金の1億円くらい、痛くもかゆくもない。

「桐島麗華の正体は、雨澤ソフトウエア社長令嬢なんでしょう」

 麗華はふてくされた顔をした。

「……インスタの写真を調べるなんて、卑怯ですわよ」

「未奈の話は事実なのか!?」

「そうよ。わたくしの本名は、雨澤麗華。パパは雨澤ソフトウエアの社長よ」

「いったいなんのために、こんなゲームを……!?」

 春馬は言葉をうしなった。

 ふつうの小学生を集めて、命がけで競わせる。

 絶望のふちにおいこむ。

 それもすべて、麗華のパパのお遊びだったということか……!?

「麗華、ありがとう。賞金1億円のおかげで妹は助かったわ」

 未奈の言葉に、春馬はハッとした。

「手術は成功したようですわね。聞いていますわ」

 麗華は満足そうな顔をする。

「……なるほど、未奈が上へのドアを選んだのは、麗華にお礼を言うためだったのか」

「ええ、そうよ。でも……」

 なぜか未奈は、うかない顔になる。

「話は終わったでしょう。ロープをほどいてくださらない」

「待って」

 春馬を、未奈が止めた。

「ネットで調べていて、もう1つわかったことがあるの。──1カ月前、雨澤ソフトウエアが開発したソフトに不具合がみつかって、莫大な賠償金を請求されているって」

「そのニュースなら知っている。……そうだ、たしか雨澤ソフトウエアは倒産寸前だって言われてたな……」

 おかしいぞ。

 資産が1000億円あれば、賞金1億円のゲームを主催してもおかしくない。

 でも、今の麗華のパパは会社が倒産寸前だ。

 こんなゲームをやる余裕はないはず。

「……まさか、今回のゲームの主催者は、麗華のパパじゃないのか?」

「そ……それは……。それより、ロープをほどいてくださいな。もう腕が痛くて……」

「本当のことを教えてくれ。それまで、ロープはほどかない!」

「それは……」

 麗華が口ごもる。春馬は立ちあがった。

「未奈、もどろう」

「そうね。麗華のパパが考えたシナリオなら、なにがあっても安全よね」

 春馬と未奈がいこうとすると、「わ、わかりました。話しますわ」と麗華が大きな声で言った。

「知っていることを全部、話してくれるんだな」

 麗華はしぶしぶ、うなずいた。

「……未奈の話は、事実ですわ。パパの会社について、アメリカで大きな訴訟になっているのよ。そのせいでパパの会社は倒産寸前よ」

「それなら、こんなゲームをやっている余裕はないんじゃないか」

「……だから、このゲームを仕掛けたのはパパじゃないんですのよ。雨澤ソフトウエアを支援してくれる人物があらわれましたの。その人物は『絶体絶命ゲーム』に興味をもち、わたくしが参加者として、時間内にここから脱出できたら、パパを支援するという条件を出しましたのよ」

 今回の麗華は、本当に一参加者だということか!

「でも、そんなの、あたしたちは関係ないじゃない!」

「それが大ありなんですわ。わたくし、これまでの人生で、一度も苦労をしたことがありませんの。ほしいものはすべて買ってもらえたし、したいことはなんでもさせてもらいましたから。すべてパパのおかげですわ。ですから、パパを救うためにゲームに参加するのは苦ではありませんのよ」

「まだ、あたしたちが参加させられた理由を聞いてないんだけど?」

 未奈がむっとした顔で言った。

「ですから……わたくし、今までのゲームで活躍した人たちに、ゴールまで連れていっていただこうと思いましたの。いわば、助っ人ということですわね」

 麗華がニッコリと微笑んで言った。

「………………はーっ、あきれた!」

「そのために、ぼくたちは呼ばれたっていうのか……!?」

 あぁ、堪忍袋の緒が切れそうだ……。

「それなのに、わたくしを助けようと屋上までやってきたのが、たったの2人とは情けないですわ。まったく、信じられませんわ! 失礼してしまいますわ!」

「迷惑だ! すごーく迷惑だ!」

 春馬がさけぶと、未奈も大きくうなずいた。

 麗華がふしぎそうな顔になる。

「でも、春馬も未奈も『絶体絶命ゲーム』のルール違反をしたでしょう? 罪はつぐなわなければなりませんわよ」

「そんなの無効だ!」

「ゲームはもう始まってしまいましたわ。今回のゲームを考えたのはパパじゃありませんのよ。闇の組織の人よ。血も涙もない怖い人よ。ここを脱出できなかったら、みんな、本当に殺されますわ。わたくしだって、どうなってしまうことか……!」

「闇の組織の人ってだれなんだ?」

「そこまでは知りませんわ。でも、アメリカの訴訟を取り下げさせられる人ですのよ。マフィアかもしれませんわね。だから、絶対にここから逃げないとならないんですのよ」

 麗華が身をふるわせる。

 怯えているのは本当のようだ。

「噓はつきませんわ」

 この話を信じていいのだろうか?

 陽がかたむき、パラソルの影が移動して、麗華の足に日光が当たる。

「いやだわ、日焼けしてしまいます。春馬、お願いですわ。これ以上は、なにもかくしてないと誓いますわ。だから、ロープをほどいてくださいな」

 春馬は未奈と目をあわせた。

「……どうする、未奈?」

「必要なことは聞けたから、あたしはもういいわよ。妹を助けてくれた恩人でもあるしね」

「ありがとう。やっぱり、未奈はやさしいわ。庶民の鑑ですわ」

 最後の一言はよけいだったが、春馬と未奈は麗華を助けることにした。

 椅子のうしろに回り、結び目をゆるめると、ロープはかんたんにほどけた。

「まあ、ようやく自由ですわ。はやく日かげに入らないと、日焼けをしてしまいます。失礼」

 椅子から立ちあがった麗華は、すばやく塔屋のほうに駆けていく。

「春馬、これなにかな?」

 未奈が麗華の座っていた椅子の背もたれを指さした。

 そこに、1枚のカードが貼りつけられている。

「もしかして!」

 手にとると、それはカードキーのようだ。

「きっと、これでドアが開けられるんだ、行こう!」

 未奈と春馬がもどっていくと、塔屋のドアが閉まっている。

 いやな予感がした。

 春馬がドアを開けようとするが動かない。

「どうなってるんだ?」


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