
友だちの秀介といっしょに遊んでいたところ、春馬はふたたび『絶体絶命ゲーム』につれさられる。砂漠にたつ謎のタワーから12時間以内に脱出できれば命を助けてやる、と…さらにあの亜久斗が「今度こそおまえに勝つ」と立ちふさがって!? 今度こそ絶体絶命だ!!
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話(1巻)はコチラから
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1 幽霊屋敷からとつぜんに
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「ギャア─────!」
暗闇を切り裂くような悲鳴が、通路の先から聞こえてきた。
「な、な、なんだよ!? なにが起きてるんだ!?」
武藤春馬(むとうはるま)は足を止めた。そのとたん、
ブン!
目の前に、血にぬれた人形が落ちてくる。
「う、うわあ!」
おもわず悲鳴をあげてしまったが、すぐに気づく。
しまった、うしろには秀介がいるんだ。
親友とはいえ、情けない姿は見せたくない。
「ちょ、ちょっと驚いたな。ハ、ハハハ……」
強がって笑ってみせたが、心臓は爆発しそうだ。
謎解きやゲームは得意だけど、怖いのは苦手なんだよな。
幽霊屋敷のアトラクションくらい、だいじょうぶだと思ったけど……まいったな。
気を取りなおして、歩き出そうとしたときだ。
ドンッ!
「いてっ!」
暗い通路で、女の人がぶつかってきた。
「ごめんなぁ。いそいでるんやぁ」
女の人は顔をあげずに言うと、出口と反対方向に駆けていった。
ん? 今の声……。
どこかで聞いたことがある気がしたけど、だれだったかな?
「秀介、今の女の人、知ってる?」
ふり返ったが、うしろを歩いているはずの上山秀介(うえやましゅうすけ)の姿はない。
「おかしいな、どこかではぐれたのかな?」
まぁ、いいか。出口で待っていれば、合流できるだろう。
ぶじに幽霊屋敷を出た春馬は、空を見あげた。
10月の日曜日、暑くも寒くもなく、遊ぶには絶好の気候だ。
秀介にさそわれてやってきたけど、正解だったな。
「それにしても、秀介は遅いな。もしかして、中で気絶しちゃったとか?」
30分は待っているのに、秀介はまだ幽霊屋敷から出てこない。
ブルブルブル……
ポケットの中で、なにかが振動した。
「あれ、これはぼくのケータイじゃないぞ」
ポケットに入っていたのは春馬のケータイではない。見たことのないタブレットだ。
いったい、いつからここにあったんだろう?
1通の新着メールがある。
ひらくと、ディスプレイに動画が映った。
幽霊屋敷の入り口の前に、黒服姿の、見覚えのある女の人が立っている。
女の人は、ニヤッと笑った。
「──武藤春馬くん、久しぶりやね。
ウチのこと覚えてるよね。
キュートでセクシーな死野(しの)マギワちゃんやでぇ。
あのなあ、春馬。
あんた、こないだの『絶体絶命ゲーム』、ルール違反をしたやろう?
罰として、あんたにもう一度、ゲームに参加してもらうわ。
今回は、強制参加や。拒否してもムダやで。
ざんねんなのは、案内人がウチやないことやな。
今回のゲームは、前回より過酷になるかもしれへん。
ま、死なないようにがんばってな。
ほな、さいなら」
ブツリ、と動画が消えた。
幽霊屋敷の中で、ぶつかってきた女の人は、マギワだったんだ!
彼女がケータイを抜きとり、代わりにこのタブレットを入れたんだ。
「──武藤春馬だな」
そのとき、頭上から野太い声が聞こえてきた。
2人の見あげるような大男が、春馬をはさむように立っている。
2カ月前と同じだ。
まさか……もう一度だっていうのか?
「ぼくを『絶体絶命ゲーム』に連れていくの?」
「ものわかりがいいようだな」
「大きな声で助けを呼ぶこともできるんだよ」
もう一度、あんな怖い思いはしたくない。
絶対に逃げてやる!
「いいのか? 上山秀介と、永遠に会えなくなっても」
な、なんだって!?
「友だちに生きて会いたかったら、おとなしくついてくるんだな」
秀介はただの友だちじゃない。かけがえのない親友だ。
親友を人質にするなんて、なんという卑怯な手を使うんだ!
テーマパークの駐車場につれてこられた春馬は、黒塗りの車の後部座席に押しこまれた。
「また、アイマスクをするんですか?」
「いいや、このにおいを嗅ぐだけでいい」
となりに座った大男が、春馬の鼻の前に液体の入った瓶をさし出した。
鼻を衝く刺激臭がして、すぐに目の前が真っ暗になった。
どれくらい眠っていたんだろう。
春馬が目を開けると、そこは窓のない広い部屋だった。
対角線でわけられた部屋の半分は、真っ白だ。床も壁も天井も白く塗られている。
そして、もう半分は、すべてが黒い。
「いったい、ここはどこなんだ?」
見まわすと、そこには数人の少年少女がいた。
その中に、親友の姿を発見して、春馬は目を見ひらいた。
「秀介! 無事だったのか!」
駆けよると、なぜか秀介は不安そうに目をそらした。
「どうしたんだ?」
「いや……、春馬、ここはどこなんだろう?」
いつになく、秀介は不安そうだ。それもあたりまえかもしれない。いきなり、こんなところに連れてこられたら、だれだって怖い。
「上山秀介くんだよね」
そのとき、うしろから声をかけられて、秀介がふり返った。春馬もつられて、そちらを見る。
「あっ、未奈(みな)じゃないか!」
仏頂面の、ミディアムヘアの女子。
よく見るとかわいいのに、いつも怒ったような顔をしている少女は、前のゲームでいっしょだった、滝沢未奈だ。
「久しぶりだな! ぶじに1億円はもらえたのか!?」
「ええ……」
「妹さんは!?」
「手術は成功したわ。それより聞きたいんだけど、あなたの本当の名前はなんていうの?」
未奈がにらみつけてくる。
「あっ、ごめん。ぼくは上山秀介じゃないんだ。本当は武藤春馬っていうんだ」
「噓をついて参加してたのね!?」
「あ、ああ。ちょっと事情があってね……」
なんで、こんなに怒っているんだろう?
春馬が説明しようとしたとき、「だれか、助けて!」という女子の声が聞こえてきた。
やせた小柄な女子が、がっしりした体格の男子に襟をつかまれて、宙づりになっている。
「おい、やめろ!」
春馬が動くより早く助けに入ったのは、秀介だ。
「うるせえ、邪魔をするな! おれはこいつに恨みがあるんだ!」
ふり返ったのは、金色に染めた髪をツンツンにとがらせた鋭い目つきの男子だ。
「どういう理由があるか知らないけど、女子をいじめていいはずないよ!」
「うるせぇやつだな。それなら、おまえから先にやってやろうか!」
「おもしろい。相手になるよ」
いつもの強気な秀介にもどって、金髪の男子をにらんでいる。
そのすきに、おどされていた女子は、すばやく身をひるがえした。
「待て、おまえ!」
女子はそばにつっ立って見ていた、長身の黒縁メガネの男子のうしろにかくれた。
「ちょ、ちょっと、小生は関係ありませんからっ! 迷惑ですからっ!」
長身の男子が、小柄な女子を追いはらおうとする。
「ちょっと待って、みんな、冷静になろうよ」
おかっぱ頭の男子が、割って入る。
「おれを邪魔するやつは、無傷じゃすまねぇぞ!」
金髪男子はうなりながら、少女を追いかけようとする。
春馬は、金髪男子の前に立ちふさがった。
「いったい、なにがあったっていうんだ?」
春馬、秀介、おかっぱ頭の男子にかこまれて、金髪男子は顔をしかめる。
「あの女のせいで、おれは1億円を手に入れられなかったんだ! 途中であの女がゲーム終了に反対したせいで! 殺してやる!」
1億円? ということは。
「ちょっと待て。もしかして、君も『絶体絶命ゲーム』に参加したの!?」
春馬が聞くと、金髪男子は「おまえもか?」と目を見ひらく。
「ぼくは、夏休みの終わりに絶命館でゲームをやったんだ」
「あたしも同じゲームに参加したわ」
となりにやってきた未奈もうなずく。
「おれと、さっきの女が参加したのは、春休みの最終日だった」
『絶体絶命ゲーム』は、何回も開催されていたのか!
──数年前から学校やネットでウワサになっていたのが、賞金1億円の『絶体絶命ゲーム』だ。
春馬は、足を骨折した秀介の代わりで、ゲームに参加した。
ほかにも、さまざまな理由で「1億円がほしい」という10人の子どもたちが集められて、命がけのゲームをさせられたのだ。
「おまえたちは勝ったのか? 1億円は、本当にもらえたのか!?」
「あたしが勝って、本当に1億円を手に入れたわ」
未奈の言葉に、金髪男子が目をギラギラさせる。
「おれたちは最終問題が解けなくて、全員脱落だったんだ!」
金髪男子が、憎しみをむきだしにして、小柄な女子をにらみつける。
「待て、ゲームの経験者なら、暴力禁止のルールを知ってるだろう」
「まだ、ゲームは始まってねぇだろうが!」
そのとき、部屋が真っ暗になった。
フロアの照明が消えたのだ。
「な、なんだ!? なにがおきるんだ!?」
次の瞬間、赤、青、黄、緑、オレンジ、ピンクのカラフルなライトが室内を駆けめぐる。
まるでアイドルのコンサートのようだ。
「ハ────イ! みんなっ、元気かな──────っ!?」
バーン!
爆音とともに、部屋の中央に火柱が上がる。
煙の中から、パステルカラーをちりばめた派手な服の女性があらわれた。