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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『絶体絶命ゲーム① 1億円争奪サバイバル』第4回 ラストゲームがはじまる

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17 密室の罠

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 時間は刻々と迫っている。

 実際は聞こえていないのに、頭の中でチッチッチッ……と、タイマーがへっている音が響く。

 ゆっくりしている時間はない。

 春馬は、建物を探しながら、動物の好物について考えることにした。

 こうなったら、かたっぱしから部屋に入ってみよう。

 最初に『真実の部屋』に入った。

 壁、ゆか、天井に大小さまざまな目のイラストが描かれている。

 机と椅子があるだけの教室のような部屋。

「どこかに仕掛けがあるかもしれない」

 壁やゆかを調べたが、どこにも仕掛けはない。

 時間を無駄にした。

『真実の部屋』を出ると、『時計の部屋』に入った。

 ガラスのゆかの下が大きな時計になっている円形の部屋だ。

 春馬は時計を見て、首をひねった。

 ゆかの時計は長針と短針が12を指していて、秒針は止まっている。

 さっきは動いていたのに、壊れているのかな?

 部屋を見まわしたが、動物の好物らしきものは見つからない。

 春馬はホールに出た。

 少し離れているけど、『螺旋塔』に行ってみよう。

 わたり廊下を小走りで駆けた。

 まわりを見たが、トラとクマの好物らしきものはない。

『螺旋塔』の階段の下まできた。

 昼間でも、ここは不気味だ。

 展望室か階段に好物がおいてあるかもしれない。でも、階段で往復するのは時間がかかる。

 上りはエレベーターを使おう。

 エレベーターを呼ぶボタンを押すと、すぐにドアが開いた。

「ラッキー」

 エレベーターに乗ると、階数のボタンが1列にたくさん並んでいる。

 前に乗ったときは、マギワが操作したので気がつかなかった。

 一番下のボタンには『1』、一番上は『R』。中間のボタンにはなにも書いてない。

 中間のボタンを押したら、途中で止まるのかな?

 そんなことを考えながら『R』のボタンを押した。

 エレベーターには、小型テレビほどのモニターも設置してある。

 ドアが閉まり、ぶーんという機械音がして、エレベーターがあがりはじめた。

 展望室まで少し時間がかかるだろう。

 それまでに、トラとクマの好物を考えよう。

 食べものだとしたら、トラは肉だ。クマは木の実だろうか。

 2つとも厨房になかった。

「もしかして……」

 怖いことが頭をよぎった。

 トラもクマも、人間を襲うことがある。好物はぼくたち……ま、まさかな……。

 ガタンと音がして、エレベーターが停まった。

「着いたのかな?」

 そうではなかった。最悪のことがおきた。

 モニターがつき、マギワの姿が映る。

「うわぁ、不注意やなぁ。いそいでいるときこそ確実な方法にせなあかんでぇ。地震がおきたらエレベーターは止まるんや。そうしたら、どうするんや? 階段を使うんやったな。このままなら、ここで終わりやでぇ。ほな、さいなら」

 そんな……。

 春馬はドアをたたいたが、むなしく音が響くだけだ。

 このまま、エレベーターの中でタイムアップになるのか。

 ぼくは、ここで死ぬのか。

 どうすればいいんだ?

 ここから脱出する方法は……。ダメだ。うかばない。


 ここに閉じこめられて、どれくらいだろう。

『館の爆発まで、あと60分です』

 館内放送が流れた。

 階段を選んでいたら、こんなことにならなかった。

 テレビ局のアナウンサーは、エレベーターを使わないと聞いたことがある。

 地震などで閉じこめられて、放送に間にあわなくなると、こまるからだ。

 マギワも、地震がおきたらエレベーターは止まるって言っていたな。

 以前、地震の緊急対策をテレビで放送していた。

 エレベーターに乗っているときに地震がおきたら、すべてのボタンを押すんだったな……。

「もしかして……」

 春馬は、階数のボタンをすべて押した。

 しかし、なにもおきない。

 やっぱり、ダメなのかな……。

 そのとき、ガタンとエレベーターがゆれた。

 まさか、落ちたりしないだろうな。

 春馬の不安は、すぐにおさまった。

 エレベーターが上昇しはじめたのだ。

「やった、成功したぞ!」

 そして、展望室に到着した。

 エレベーターを降りた春馬は、いそいで展望室をひとまわりした。

 ここにも、クマとトラの好物はなかった。

 帰りは階段で下りることにした。

『館の爆発まで、あと30分です』

 館内放送が流れた。

 時間がどんどんなくなる。どうすればいいんだ。

 春馬は駆け足で階段を下りた。

 わたり廊下を歩いていると、館内放送でマギワの声が流れてきた。

「みんな、なにしてるんや。このままやと全員が脱落やでぇ。特別にヒントを出すでぇ。クマの好物ははちみつ、トラの好物は肉や。がんばらないと、みんなの好物の1億円がなくなるでぇ」

 これがヒントだって?

 ぜんぜん、わからない。

「トラの好物が肉なのは予想通りだったけど、クマははちみつだったのか」

 なにかが引っかかった。

「はちみつ、ハチミツ、蜂蜜、ハチミッツ、ハチ3つ、8が3つ、8、8、8……。あああ!」

 麗華の部屋番号だ。

 888号室で8が3つだと言っていた。あの部屋になにかある。

 春馬はわたり廊下を駆けぬけ、館の階段を駆けあがった。

 2階の廊下を走り、『888号室』の前まできた。

 ゆっくりとドアを開ける。

 そこに先客がいた。


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18 弱肉強食のバトル

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 888号室で、春馬を待っていたのは亜久斗だった。

「……遅いよ名探偵くん。待ちくたびれたじゃないか……」

 亜久斗がベッドに寝そべって知恵の輪をしている。

 その横に、はちみつのびんがおかれている。

「それ、どこにあったんだ?」

「花びんの中だよ。おれの部屋に花びんはなかったので、おかしいと思ったんだ」

「先を越されたなら、しかたがないな」

 春馬は気のないふりをして、亜久斗を観察する。

 バトルでカツエにも負けない亜久斗に、力では勝てない。

 それに、彼の行動はどうも奇妙だ。

 マギワの放送を聞いてから、春馬がここにくるまで数分しかたってない。それなのに、彼はすでにはちみつのびんを見つけている。放送前から、こうしていたんだ。どうしてだ?

「ぼくが来るのを待っていたのか?」

「おれはね、きみと戦いたくて『ゲーム続行』と言ったんだよ」

「おまえ、バカじゃないのか!」

「かもしれない」と亜久斗は笑った。

「勝負したいなら、ここでのゲームを終わらせてからでもできただろう!」

「そうだな。……でも、この勝負は楽しいだろう? おれたち、どちらかが死ぬんだ。いや、2人とも死ぬかもしれない。なんか、ヒリヒリするだろう。生きているって感じがする」

 こいつはおかしい。

「正解は、クマだと思うかい?」

 亜久斗が質問してきた。

「ぼくの推理を聞きたいわけ?」

「そうだ」

 春馬は2つのことを考えていた。

 1つは、亜久斗の質問の『クマが正解か?』ということ。

 もう1つは、彼がなにを考えているのか?

 どちらも答えは出ない。

「亜久斗は、ぼくになにをしてほしいんだ?」

「勝負だよ」

「それなら、はちみつを先に見つけたきみの勝ちだろう」

「本当の勝負はこれからだ。クマが正解とはかぎらないからね」

「……だから、ぼくとなにがしたいんだよ!」

「いっしょにきてほしい」


 春馬と亜久斗は『弱肉強食の部屋』に入った。

 タイマーは『0:23:29』と表示している。

 残り時間は、23分か。

 そのとき、春馬は部屋の異変に気がついた。

 ゴリラの人形が壊されている。そして、カツエがいない。

「まさか、彼女はゴリラを破壊して逃げたのか」

 春馬は驚いているが、亜久斗は気にもしていないようだ。

「あの女はどうでもいい。ゴリラに捕まった時点で脱落だ。それよりも、おれたちの勝負だ」

 クマが正解なら、亜久斗の勝ちでゲームは終わり。

 彼からはちみつのびんを奪うのは不可能だ。

 春馬は、クマが正解ではないことを願うだけだ。

「ところで、トラの好物は肉と言っていただろう?」

 もったいぶるように亜久斗が話をはじめた。

「だから、なんだよ。それはまだ見つかってないんだろう」

「いいや、ちがう。ぼくは見つけたんだ」

「えっ!」

 はったりだろうか。でも、亜久斗はそういうことをするタイプには見えない。

 もしかして……。

「その顔は、きみも同じことを考えていたね」

 春馬の背中に汗が流れた。

「おれはゴリラに襲われたカツエを見て、ピンときたんだ。トラは人間を襲うこともある。好物の肉はおれたちだ。おれはこの2頭の好物を持ってきたんだ」

 ──やられた!

 ぼくはトラのエサとして、ここに連れてこられたんだ!

 亜久斗が888号室で待っていたのは、勝負したいからじゃない。利用したいからだ。

「はちみつはここにおいておこう」

 亜久斗がはちみつのびんをゆかにおいたが、手がすべったのかびんが横になり、春馬のほうにころがった。

「えっ?」

 春馬はころがるびんを目で追ってしまった。それもトラップだった。

「すきありだ」

 瞬間、春馬の顔面に激痛が走った。

 春馬の意識が飛んだ。


「──……まずはトラから試すとしようか」

 亜久斗の声が聞こえてきた。

 どうやら、1発のパンチで失神させられたようだ。

 意識がもどってくると、ぼんやりとトラが見えた。

 倒れた春馬を、亜久斗がトラの前まで運んだのだ。

 亜久斗はタイマーを見る。

『0:19:00』となっている。

「残り時間19分か。あの世にいく時間だ。さよなら」

 そう言うと亜久斗は、ふらりと立ちあがった春馬をトラの前につきとばした。

「うわぁぁぁぁぁ!」

 春馬はトラに抱きつき、暴れて悲鳴をあげた。

 そして、ゆかに倒れて動かなくなった。

「トラではなかったようだな。……さよなら、秀介」

 亜久斗はそう言うと、はちみつのびんを持ってクマの前にいく。

「クマが正解か。残りものには福がある……か。これで、1億円はおれのものだ」

 亜久斗はクマの前に立つと、はちみつのびんをさしだした。

  うぉぉぉぉぉ!

 短い間のあと、クマはほえると、大きな手ではちみつのびんをつかんで口にほうりこんだ。

 まるで本物のクマのようだ。

「そうか、うれしいのか。さぁ、1億円を出してくれ」

 次の瞬間、クマが亜久斗に襲いかかった。

「えっ!」

 大きなクマの手が亜久斗を横なぐりに吹っ飛ばした。倒れた亜久斗の上に襲いかかる。

「ど……どうして……」

 クマの巨体にのしかかられて、亜久斗は瀕死状態だ。

「……クマは不正解だよ」

 春馬が、トラの下からはいだしてくる。

「トラの好物が、人間というのは……まちがいだ」

 息も絶え絶えの亜久斗は、春馬を見て目をまるくしてる。

「お……お……おまえ……どうして……」

「芝居をさせてもらった。動物がどういうふうに襲ってくるか、ぼくたちは見ていないだろう。だから、トラを相手に、派手にやられたふりをしたんだ」

「……そ……そんな……」

 亜久斗は必死に意識を保とうとするが、その目がじょじょに閉じられていく。

「トラの好物の肉のヒント、ありがとう」

「……な……に……?」

「ぼくをトラに押し出す前、亜久斗は19分で、いく時間と言っただろう。はちみつは8が3つで、19分でいくなら、トラの好物の肉は……」

「29、か……」

「そうだ」

「……29だって。……ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」

 亜久斗の最期の言葉は、絶叫だった。


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