
友だちのもとに届いた、謎めいた招待状。ケガをした友だちのかわりに出むいた春馬は、「絶体絶命ゲーム」に参加することに…! 集められていた10人の少年少女。賞金は1億円! 勝つのはただ1人。負ければ……死!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
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15 ラストゲームがはじまる
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「残ったのは上山秀介、滝沢未奈、三国亜久斗、竹井カツエの4人やな。1人あたりの賞金は2500万円や。そして────いよいよラストゲームやぁ!!」
マギワがうれしそうに言った。
春馬はみんなの顔を見てから、マギワの前に出た。
「なんや、どうしたんや?」
「ゲームを終了します」
「へぇぇぇぇ……、どうしてや。あと1ゲームやで、みんなも同じ考えか。カツエもええのか?」
「2500万なら十分だ。欲をかいて死んだら元も子もねぇからな」とカツエ。
「未奈は足りないんやないか。妹さんを助けるのに1億円が必要やろ」
「それは……足りないけど……。でも、もう決めたから」
未奈はきっぱり言った。
「亜久斗はどうや?」
「おれは………………終了しない。続行で」
亜久斗は抑揚のない声で言った。
「えっ!」
春馬が大きな声を出し、未奈とカツエは顔を見あわせる。
「どういうつもりだよ! 終わりにするって約束しただろう!」
春馬が食ってかかるが、亜久斗は平気な顔だ。
「約束はしてない。いや、していても、それがなんだというんだ」
「おまえ!」
殴りたかったが、がまんした。春馬と同じように、カツエも未奈も怒っている。
「どうしてなの?」と未奈が聞いた。
「気が変わった。ただ、それだけ」
「いや~さすがやなぁ。やる気があってうれしいわ。ウチの考えたラストゲームをやらないなんて、悲しいもんなぁ。いやっ、ほんまによかったわぁ」
マギワは大喜びしている。
「気が変わったじゃすまないだろ! 今からでもいいから、終了と言えよ!」
春馬がおどしても、亜久斗は知らん顔だ。
「あのなぁ、そういうのは強要したらあかんのよぉ」
マギワが止めに入った。
みんな、亜久斗にだまされたのだ。
「それじゃ、ラストゲームの舞台にレッツゴーやぁ」
春馬たちは、マギワの案内で最終ゲームの舞台『弱肉強食の部屋』に入った。
天井までが5メートル以上ある、教室の2倍くらいの広さの部屋だ。
テーマパークのジャングルのようになっている。
そして、実物よりもひとまわり以上も大きなクマ、ゴリラ、トラのはく製のような人形が距離をあけておかれている。まるで、遺伝子操作で巨大化された動物のようだ。
チッチッチッチッ……と、どこからか機械音が聞こえている。
「いよいよ最終ゲームやなぁ。では、栄えあるファイナリストの紹介やぁ」
ノリノリのマギワだが、春馬はそんな心境ではない。
「エントリーナンバー1番、頭脳戦もスポーツも得意なマルチファイター、上山秀介ぇぇぇ!」
マギワに言われて、春馬はなんとなく一礼してしまった。
「エントリーナンバー2番、度胸と直感力で勝ち残った強気のファイター、滝沢未奈ぁぁぁ!」
未奈は唇をかみしめている。気合いを入れなおしたようだ。
「エントリーナンバー3番、スポーツなら敵なしのパワーファイター、竹井カツエェェェ!」
カツエは1歩前に出ると、「こうなったら、やるだけよ」とうなる。
「エントリーナンバー4番、心理分析と冷静な判断のクールファイター、三国亜久斗ぉぉぉ!」
亜久斗は無表情だ。
「最終ゲームは…………運だめしや」
運だって……?
「福の神がついている者が勝つゲームや。そして、これに勝てば優勝で1億円。みんなの好物の1億円が手に入るんやでぇ。まさに、残りものには福があるというやつや」
えっ、どういうことだ? 計算があわないぞ。
「ここには4人いる。3人でわけたとしても、1人1億円にはならないけど……」
春馬が質問すると、マギワは満足そうにうなずく。
「今、それを説明しようと思ったところなんや。……ラストゲームの勝者は1人や」
「勝者は1人……? だって、残り3人は?」
「脱落やな」
あっさりと言われて、春馬は頭が真っ白になった。
ここに招待された10人中、生きて帰れるのは1人だけ……。
「ふ、ふ、ふ、ふざけるな! 勝者は1人だって! そんなの最初に説明するべきだろう。今さら、なんなんだ! 9人も殺すつもりなのか!」
「──うるさい、黙れ!」
声をかけたのはカツエだ。
「カツエだって、ゲーム終了でいいって……」
そこまで言って春馬は口ごもった。
カツエは戦う決意をしたようで、厳しい顔をしている。
となりの未奈も同じように、腹を決めたような表情だ。
「未奈もやる気なのか?」
「……このゲームにエントリーしたときから、あたしに選択肢なんてなかったの。2500万円じゃ、妹を救えない。1億円が必要なのよ。あたしは優勝しないとならないの」
「……!」
「ふふふふふ……」と亜久斗は押し殺した声で笑っている。
春馬以外は、すでに戦闘モードに入っているようだ。
「秀介、そんな顔をしていたら、真っ先にやられるでぇ」
マギワに言われて、春馬は現実にもどされた。
ぐずぐずしていたらゲームに負ける。ここは切り換えないと……。
チッチッチッチッ……
不気味な機械音が部屋に響いている。
「まずはゲストの紹介やぁ。クマちゃん、トラちゃん、ゴリラちゃんや。みんな、ウチのかわいいファミリーや」
マギワが動物のはく製を紹介すると、カツエが顔を真っ赤にして、
「そんなことより、はやくゲームをはじめろよ!」とさけんだ。
「なんや、せっかちやなぁ。せかさなくても説明するで。最終ゲームは、この部屋にいるウチをのぞいた動物に、好物を与えてほしいんや」
どういうことだ?
みんなが首をかしげていると、マギワが説明をつづける。
「正解の動物に好物を与えられたら、この館から出て、1億円をもらえるで。ただ、まちがえた動物に好物を与えたら、そいつに襲われてジ・エンド。脱落や」
「……つまりはクマ、トラ、ゴリラのどれかに、その好物を与えたらいいんですね。そして、3頭の内の2頭がはずれで、1頭が正解。どの動物が正解かは、運……ということなんですね?」
春馬がわかりやすく解説して、マギワの同意を求めた。
しかし、マギワは春馬の解説を無視して話を進める。
「あぁ、しまった。大事なことを言い忘れてしもうたぁ。この館は午後2時に爆発するんや。だから、それまでに正解を出さないと死んでしまうんやった」
なんだって!? 爆発!?
「もしかして、この音?」
チッチッチッチッ……
春馬が機械音の発生場所を探すと、壁にデジタルのタイマーが設置してあった。
『2:30:10』『2:30:09』『2:30:08』『2:30:07』と、1秒ごとにへっている。
「爆発まで、残り2時間30分や」
「もう探しにいってもいいのか!」
カツエがしびれを切らして聞いた。
「そうやな。最終ゲーム、スタ──────って、もうひとつ重要なことを忘れてたわ」
部屋から出ていこうとしていたカツエ、未奈、亜久斗がふりかえる。
「このゲームは、ノールールや」
「ノールールって……なんでもありってこと?」春馬が聞いた。
「ここからは、一切の反則なしってことやな」
それを聞いたとたん、亜久斗がなめまわすような目で春馬を見た。
彼はなにを考えているんだ。マジで不気味なやつだ。
「おーっとっと、説明が長くなってしまったなぁ」
そう言ってマギワは1回息をととのえる。
「最終ゲーム、スタ────トやぁぁぁぁぁぁぁ!」
マギワがさけぶと、すぐにカツエが部屋を飛びだしていく。
つづいて亜久斗が部屋を出ていった。
未奈もなにかをふり切るように、まっすぐ前だけを見て、走っていった。
「どうした、秀介。いかへんのか?」
その場に立ちつくしていた春馬に、マギワが声をかけてきた。
「……どうしてですか?」
「なんやて?」
「どうして、ぼくたちにこんなことをやらせるんですか?」
「そう言われても、ウチは雇われただけや。なーんにも知らんのや」
「卑怯だ。大人は卑怯だ!」
春馬が声を荒げると、マギワは今までに見せたことのない厳しい顔をした。
「あまえたら、あかん! これがアンタらの生きている世界や。この世界は勝つか負けるかなんや。文句があるんやったら、勝つことや。残ることや。残りものには……」
そこまで言って、マギワははっという顔をして口を閉ざした。
どうしたんだろう?
マギワは「残りものには福がある」と言いたかったみたいだけど……。
「……ほれ、はやく行かんと先を越されるで」
それでも春馬は動かない。
「死にたいんか!」
マギワがムチをふるった。
春馬の足もとで、バチンとムチが鳴る。
「勝つよ。勝てばいいんでしょう!」
春馬が部屋を出ようとしたそのとき、未奈が入ってきた。
彼女は、ホールにあった木彫りの鮭を抱えている。
「もしかして、それがクマの好物だと思っているの?」
未奈は返事もしないで、クマのはく製の前に進んでいく。
「そんなに簡単じゃないと思うけど」
未奈は目をつむって、木彫りの鮭をクマのはく製にさしだした。
なにがおきるのか……。
春馬はかたずをのんで見守る。
これが正解なら、未奈が優勝でゲームは終わる。
────なにもおきない。
「どうしたんだろう……」と未奈が首をかしげる。
「そのクマ、首に白い月の輪の模様があるだろう。ツキノワグマだ」と春馬。
「だからなんなのよ」
「鮭が好物なのはヒグマだ。ツキノワグマも食べないことはないだろうけど、好物は木の実だ」
春馬の言葉に、未奈は不満そうな顔をする。
「それなら、これかも」
未奈はトラの前に鮭を持っていくが、結果は同じだ。
「わかってるわよ。そんなに簡単じゃないって言いたいんでしょう」
未奈は捨て台詞で部屋を出ていく。
タイマーは『2:14:45』となっている。
春馬はようやく部屋を出た。
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16 ルール無用の恐怖
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春馬は廊下を歩きながら、必死で気持ちを鎮めていた。
こんなときこそ冷静にならないと……。
でも、こうしている間にも、だれかが正解の動物の好物を見つけるかもしれない。
いや、これは最後のゲームだ。
簡単に答えが見つかるとは思えない。
館内をゆっくり歩きながら、頭の中を整理する。
まずは、動物の好物を探すことだ。
クマ、トラ、ゴリラだな。
でも、どの動物が正解かはわからない。
マギワは、ヒントらしいことは言わなかった。
それじゃ、すべての動物に挑戦してみるか。
好物と言って考えられるのは食べものだ。
厨房にいけば、なにかあると思うけど……。
料理は怨田と鬼崎が運んでくれた。
こんな山奥だから、出前じゃないだろう。建物の中で料理されているはずだ。
まずは食堂にいってみるか。
春馬が食堂に入ると、椅子とテーブルがあるだけだ。
「ここにはなにもないな」
昨日も今日も料理は温かかった。すぐ近くで調理されてるはずだ。
食堂を出た春馬は、となりの部屋のドアを開けた。
怨田と鬼崎がいた。2人は荷造りをしている。
「なにか用か!」
怨田が低い声で言った。
「ごめんなさい。まちがえました」
春馬はあわててドアを閉めた。
あの2人は荷造りをしていた。ここが爆発する前に逃げるつもりだ。
『──爆発まで、あと2時間です』
館内放送が流れた。
残り2時間か。急がないと……。
となりのドアを開けると、掃除道具があるだけだ。
そのとなりのドアは電子ロックがかかっていて、数字のタッチパネルがついている。
暗証番号で開けるタイプだ。
「ここがあやしいな」
こういうドアを開けるのを、テレビドラマで見たことがある。
指で押した跡をみれば、番号がわかるんだ。
春馬はタッチパネルを下から見た。しっかり指紋が残っている。番号は①、②、③。
番号はわかったけど、暗証番号は4桁だ。同じ数字を2回押しているんだな。
①②③①、①②③②、①②③③、①①②③、①②②③、③②①③、③②①②、③②①①……。
組みあわせはまだまだある。全部を試していたら、時間オーバーになる。
暗証番号って覚えやすい番号にするんだよな。記念日とか誕生日とか……。
もしかして!
マギワの自己紹介を思いだした。
彼女は1年の終わるまぎわに生まれたので、マギワという名前になったと言っていた。
1年の終わるまぎわの日は、12月31日。
暗証番号は①②③①だ。
春馬はタッチパネルを押そうとして、指を止めた。
いや、これだとふつうだ。マギワの性格なら、ひとひねりしているはずだ。
誕生日の数字①②③①を逆から押してみよう。
ガシャと音がしてロックが解除され、ドアが開いた。
「やったぞ!」
そのとき、背中に視線を感じた。
ふりむいたが、だれもいない。
「おかしいな。気のせいか……」
ドアを開けると、予想は的中。厨房だ。
春馬はすばやく中に入った。
水道、ガスレンジ、オーブン、たな、冷蔵庫がある。
しかし、食料品はない。
そうか、冷蔵庫だな。
冷蔵庫を開けたが、中はがらんとしている。
空かと思ったが、奥になにかある。
手を伸ばしてとると、1本のバナナだ。
「これだけか……、そうか、これでいいのか!」
バナナはゴリラの好物だ。
ゴリラが正解なら、ぼくの勝利だ!
バナナを持って部屋を出ると、いきなり背中が重たくなった。
首がしめつけられて、息ができない。
なななな……なにがおきたんだ。
「ドアを開けてくれてありがとうよ」
この声はカツエだ。待ちぶせしていたんだ!
彼女がうしろから、ぼくの首をしめているんだ。
「ど……どうして?」
体に力が入らなくなった春馬は、持っていたバナナを落とした。
「あたし、このゲームに勝つアイディアを思いついたんだ」
「な……なん……だ?」
「おまえたちを失神させて、1人でゆっくりと動物の好物を探すんだよ」
「そ……そんなこと……」
春馬の意識がうすれていく。
「悪く思わないでよ。あたしは父ちゃんと家族のために、お金が必要なの。工場を取りもどして、社員も呼びもどして、昔みたいに幸せに暮らすの。そのためには、お金がいるんだ」
頭がぼうっとしてきた。もうダメだ……。
そう思った瞬間、春馬の体が横に飛ばされた。
カツエから離れられたようだけど、ふらふらで立っていられない。
春馬はその場に倒れた。
なにがおきたんだ?
春馬の前に、むきあっている2人の姿がぼんやり見える。
「なにしやがる!」
さけんでいるのはカツエだ。
「横取りしないでくれ」
この声は……亜久斗!
亜久斗が、ぼくを助けてくれたのか!
春馬はくらくらする頭をおさえながら、目をこらす。
カツエと亜久斗がむきあっている。
「まぁ、いいかぁ。おまえから倒してやるよ!」
そう言ってカツエが、亜久斗に襲いかかる。
パンチとキックをすごいスピードで浴びせかける。
これは、なんなんだ……。
春馬は目を疑った。
カツエのはなつ強烈なパンチとキックを、亜久斗はかるがるとかわしている。
息のあがるカツエに対して、亜久斗は涼しい顔をしている。
ビュッ!
風を切る音が聞こえた。
倒れたのはカツエだ。
すごいスピードでよく見えなかったが、亜久斗のパンチがカツエの顔面に命中したようだ。
「おまえ、いったいなにものだよ!」
なんとか立ちあがったカツエと、亜久斗がにらみあう。
2人は目をあわせたまま、距離をちぢめようとしない。
「こんな対決している場合じゃねぇ!」
カツエはすばやく身をひるがえすと、バナナを拾って駆けていった。
「……亜久斗、ぼくを助けてくれたのか?」
春馬が言うと、亜久斗はうすく苦笑いした。
助かったのはいいが、手に入れたバナナをカツエに奪われた。どうすればいいんだ?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そのとき、カツエの悲鳴が響いてきた。
なにかあったようだ。
春馬と亜久斗は駆けだした。
『弱肉強食の部屋』の前につくと、一足先に未奈が来ていた。
「……ゴリラは正解じゃないみたい」
未奈が緊張した顔で言った。
春馬と亜久斗は部屋に入った。
ゴリラの太い腕に抱きしめられたカツエが、白目をむいて動けなくなっている。
カツエがやられた。
ゴリラは正解じゃなかった。
「これで残りは、トラかクマだな」と亜久斗。
「勝つのはあたし」と未奈。
「へぇ、どうしてだい?」
「1億円がどうしても必要なのは、あたしだけだから。気持ちだけは、だれにも負けない」
「そういう気持ちで戦っても、楽しめないだろう」
亜久斗が言うことは、やはりよくわからない。
「戦って楽しいわけないじゃない」
「ふーん」
『爆発まであと1時間30分です』
館内放送が流れた。
それを聞いて、未奈が部屋を飛びだしていく。
亜久斗が行こうとするのを、春馬は呼びとめた。
「亜久斗」
「なんだい?」
「さっきは助けてくれて、ありがとう」
「……きみはなにもわかってない」
そう言って、亜久斗も部屋を出ていった。