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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『絶体絶命ゲーム① 1億円争奪サバイバル』第4回 ラストゲームがはじまる


友だちのもとに届いた、謎めいた招待状。ケガをした友だちのかわりに出むいた春馬は、「絶体絶命ゲーム」に参加することに…! 集められていた10人の少年少女。賞金は1億円! 勝つのはただ1人。負ければ……死!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!


※これまでのお話はコチラから

 

……………………………………

15 ラストゲームがはじまる

……………………………………


「残ったのは上山秀介、滝沢未奈、三国亜久斗、竹井カツエの4人やな。1人あたりの賞金は2500万円や。そして────いよいよラストゲームやぁ!!

 マギワがうれしそうに言った。

 春馬はみんなの顔を見てから、マギワの前に出た。

「なんや、どうしたんや?」

「ゲームを終了します」

「へぇぇぇぇ……、どうしてや。あと1ゲームやで、みんなも同じ考えか。カツエもええのか?」

2500万なら十分だ。欲をかいて死んだら元も子もねぇからな」とカツエ。

「未奈は足りないんやないか。妹さんを助けるのに1億円が必要やろ」

「それは……足りないけど……。でも、もう決めたから」

 未奈はきっぱり言った。

「亜久斗はどうや?」

「おれは………………終了しない。続行で」

 亜久斗は抑揚のない声で言った。

「えっ!」

 春馬が大きな声を出し、未奈とカツエは顔を見あわせる。

「どういうつもりだよ! 終わりにするって約束しただろう!」

 春馬が食ってかかるが、亜久斗は平気な顔だ。

「約束はしてない。いや、していても、それがなんだというんだ」

「おまえ!」

 殴りたかったが、がまんした。春馬と同じように、カツエも未奈も怒っている。

「どうしてなの?」と未奈が聞いた。

「気が変わった。ただ、それだけ」

「いや~さすがやなぁ。やる気があってうれしいわ。ウチの考えたラストゲームをやらないなんて、悲しいもんなぁ。いやっ、ほんまによかったわぁ」

 マギワは大喜びしている。

「気が変わったじゃすまないだろ! 今からでもいいから、終了と言えよ!」

 春馬がおどしても、亜久斗は知らん顔だ。

「あのなぁ、そういうのは強要したらあかんのよぉ」

 マギワが止めに入った。

 みんな、亜久斗にだまされたのだ。

「それじゃ、ラストゲームの舞台にレッツゴーやぁ」


 春馬たちは、マギワの案内で最終ゲームの舞台『弱肉強食の部屋』に入った。

 天井までが5メートル以上ある、教室の2倍くらいの広さの部屋だ。

 テーマパークのジャングルのようになっている。

 そして、実物よりもひとまわり以上も大きなクマ、ゴリラ、トラのはく製のような人形が距離をあけておかれている。まるで、遺伝子操作で巨大化された動物のようだ。

 チッチッチッチッ……と、どこからか機械音が聞こえている。

「いよいよ最終ゲームやなぁ。では、栄えあるファイナリストの紹介やぁ」

 ノリノリのマギワだが、春馬はそんな心境ではない。

「エントリーナンバー1番、頭脳戦もスポーツも得意なマルチファイター、上山秀介ぇぇぇ!」

 マギワに言われて、春馬はなんとなく一礼してしまった。

「エントリーナンバー2番、度胸と直感力で勝ち残った強気のファイター、滝沢未奈ぁぁぁ!」

 未奈は唇をかみしめている。気合いを入れなおしたようだ。

「エントリーナンバー3番、スポーツなら敵なしのパワーファイター、竹井カツエェェェ!」

 カツエは1歩前に出ると、「こうなったら、やるだけよ」とうなる。

「エントリーナンバー4番、心理分析と冷静な判断のクールファイター、三国亜久斗ぉぉぉ!」

 亜久斗は無表情だ。

「最終ゲームは…………運だめしや

 運だって……?

「福の神がついている者が勝つゲームや。そして、これに勝てば優勝で1億円。みんなの好物の1億円が手に入るんやでぇ。まさに、残りものには福があるというやつや」

 えっ、どういうことだ? 計算があわないぞ。

「ここには4人いる。3人でわけたとしても、1人1億円にはならないけど……」

 春馬が質問すると、マギワは満足そうにうなずく。

「今、それを説明しようと思ったところなんや。……ラストゲームの勝者は1人や」

「勝者は1人……? だって、残り3人は?」

「脱落やな」

 あっさりと言われて、春馬は頭が真っ白になった。

 ここに招待された10人中、生きて帰れるのは1人だけ……。

「ふ、ふ、ふ、ふざけるな! 勝者は1人だって! そんなの最初に説明するべきだろう。今さら、なんなんだ! 9人も殺すつもりなのか!

「──うるさい、黙れ!」

 声をかけたのはカツエだ。

「カツエだって、ゲーム終了でいいって……」

 そこまで言って春馬は口ごもった。

 カツエは戦う決意をしたようで、厳しい顔をしている。

 となりの未奈も同じように、腹を決めたような表情だ。

「未奈もやる気なのか?」

……このゲームにエントリーしたときから、あたしに選択肢なんてなかったの。2500万円じゃ、妹を救えない。1億円が必要なのよ。あたしは優勝しないとならないの」

「……!」

「ふふふふふ……」と亜久斗は押し殺した声で笑っている。

 春馬以外は、すでに戦闘モードに入っているようだ。

「秀介、そんな顔をしていたら、真っ先にやられるでぇ」

 マギワに言われて、春馬は現実にもどされた。

 ぐずぐずしていたらゲームに負ける。ここは切り換えないと……。

  チッチッチッチッ……

 不気味な機械音が部屋に響いている。

「まずはゲストの紹介やぁ。クマちゃん、トラちゃん、ゴリラちゃんや。みんな、ウチのかわいいファミリーや」

 マギワが動物のはく製を紹介すると、カツエが顔を真っ赤にして、

「そんなことより、はやくゲームをはじめろよ!」とさけんだ。

「なんや、せっかちやなぁ。せかさなくても説明するで。最終ゲームは、この部屋にいるウチをのぞいた動物に、好物を与えてほしいんや」

 どういうことだ?

 みんなが首をかしげていると、マギワが説明をつづける。

「正解の動物に好物を与えられたら、この館から出て、1億円をもらえるで。ただ、まちがえた動物に好物を与えたら、そいつに襲われてジ・エンド。脱落や」

「……つまりはクマ、トラ、ゴリラのどれかに、その好物を与えたらいいんですね。そして、3頭の内の2頭がはずれで、1頭が正解。どの動物が正解かは、運……ということなんですね?」

 春馬がわかりやすく解説して、マギワの同意を求めた。

 しかし、マギワは春馬の解説を無視して話を進める。

「あぁ、しまった。大事なことを言い忘れてしもうたぁ。この館は午後2時に爆発するんや。だから、それまでに正解を出さないと死んでしまうんやった」

 なんだって!? 爆発!?

「もしかして、この音?」

  チッチッチッチッ……

 春馬が機械音の発生場所を探すと、壁にデジタルのタイマーが設置してあった。

『2:30:10』『2:30:09』『2:30:08』『2:30:07』と、1秒ごとにへっている。

「爆発まで、残り2時間30分や」

「もう探しにいってもいいのか!」

 カツエがしびれを切らして聞いた。

「そうやな。最終ゲーム、スタ──────って、もうひとつ重要なことを忘れてたわ」

 部屋から出ていこうとしていたカツエ、未奈、亜久斗がふりかえる。

「このゲームは、ノールールや」

「ノールールって……なんでもありってこと?」春馬が聞いた。

ここからは、一切の反則なしってことやな」

 それを聞いたとたん、亜久斗がなめまわすような目で春馬を見た。

 彼はなにを考えているんだ。マジで不気味なやつだ。

「おーっとっと、説明が長くなってしまったなぁ」

 そう言ってマギワは1回息をととのえる。

「最終ゲーム、スタ────トやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 マギワがさけぶと、すぐにカツエが部屋を飛びだしていく。

 つづいて亜久斗が部屋を出ていった。

 未奈もなにかをふり切るように、まっすぐ前だけを見て、走っていった。

「どうした、秀介。いかへんのか?」

 その場に立ちつくしていた春馬に、マギワが声をかけてきた。

「……どうしてですか?」

「なんやて?」

「どうして、ぼくたちにこんなことをやらせるんですか?」

「そう言われても、ウチは雇われただけや。なーんにも知らんのや」

「卑怯だ。大人は卑怯だ!」

 春馬が声を荒げると、マギワは今までに見せたことのない厳しい顔をした。

「あまえたら、あかん! これがアンタらの生きている世界や。この世界は勝つか負けるかなんや。文句があるんやったら、勝つことや。残ることや。残りものには……」

 そこまで言って、マギワははっという顔をして口を閉ざした。

 どうしたんだろう?

 マギワは「残りものには福がある」と言いたかったみたいだけど……。

「……ほれ、はやく行かんと先を越されるで」

 それでも春馬は動かない。

「死にたいんか!」

 マギワがムチをふるった。

 春馬の足もとで、バチンとムチが鳴る。

「勝つよ。勝てばいいんでしょう!」

 春馬が部屋を出ようとしたそのとき、未奈が入ってきた。

 彼女は、ホールにあった木彫りの鮭を抱えている。

「もしかして、それがクマの好物だと思っているの?」

 未奈は返事もしないで、クマのはく製の前に進んでいく。

「そんなに簡単じゃないと思うけど」

 未奈は目をつむって、木彫りの鮭をクマのはく製にさしだした。

 なにがおきるのか……。

 春馬はかたずをのんで見守る。

 これが正解なら、未奈が優勝でゲームは終わる。

 ────なにもおきない。

「どうしたんだろう……」と未奈が首をかしげる。

「そのクマ、首に白い月の輪の模様があるだろう。ツキノワグマだ」と春馬。

「だからなんなのよ」

「鮭が好物なのはヒグマだ。ツキノワグマも食べないことはないだろうけど、好物は木の実だ」

 春馬の言葉に、未奈は不満そうな顔をする。

「それなら、これかも」

 未奈はトラの前に鮭を持っていくが、結果は同じだ。

「わかってるわよ。そんなに簡単じゃないって言いたいんでしょう」

 未奈は捨て台詞で部屋を出ていく。

 タイマーは『2:14:45』となっている。

 春馬はようやく部屋を出た。


……………………………………

16 ルール無用の恐怖

……………………………………


 春馬は廊下を歩きながら、必死で気持ちを鎮めていた。

 こんなときこそ冷静にならないと……。

 でも、こうしている間にも、だれかが正解の動物の好物を見つけるかもしれない。

 いや、これは最後のゲームだ。

 簡単に答えが見つかるとは思えない。

 館内をゆっくり歩きながら、頭の中を整理する。

 まずは、動物の好物を探すことだ。

 クマ、トラ、ゴリラだな。

 でも、どの動物が正解かはわからない。

 マギワは、ヒントらしいことは言わなかった。

 それじゃ、すべての動物に挑戦してみるか。

 好物と言って考えられるのは食べものだ。

 厨房にいけば、なにかあると思うけど……。

 料理は怨田と鬼崎が運んでくれた。

 こんな山奥だから、出前じゃないだろう。建物の中で料理されているはずだ。

 まずは食堂にいってみるか。

 春馬が食堂に入ると、椅子とテーブルがあるだけだ。

「ここにはなにもないな」

 昨日も今日も料理は温かかった。すぐ近くで調理されてるはずだ。

 食堂を出た春馬は、となりの部屋のドアを開けた。

 怨田と鬼崎がいた。2人は荷造りをしている。

「なにか用か!」

 怨田が低い声で言った。

「ごめんなさい。まちがえました」

 春馬はあわててドアを閉めた。

 あの2人は荷造りをしていた。ここが爆発する前に逃げるつもりだ。

『──爆発まで、あと2時間です』

 館内放送が流れた。

 残り2時間か。急がないと……。

 となりのドアを開けると、掃除道具があるだけだ。

 そのとなりのドアは電子ロックがかかっていて、数字のタッチパネルがついている。

 暗証番号で開けるタイプだ。

「ここがあやしいな」

 こういうドアを開けるのを、テレビドラマで見たことがある。

 指で押した跡をみれば、番号がわかるんだ。

 春馬はタッチパネルを下から見た。しっかり指紋が残っている。番号は①、②、③。

 番号はわかったけど、暗証番号は4桁だ。同じ数字を2回押しているんだな。

 ①②③①、①②③②、①②③③、①①②③、①②②③、③②①③、③②①②、③②①①……。

 組みあわせはまだまだある。全部を試していたら、時間オーバーになる。

 暗証番号って覚えやすい番号にするんだよな。記念日とか誕生日とか……。

 もしかして!

 マギワの自己紹介を思いだした。

 彼女は1年の終わるまぎわに生まれたので、マギワという名前になったと言っていた。

 1年の終わるまぎわの日は、12月31日。

 暗証番号は①②③①だ。

 春馬はタッチパネルを押そうとして、指を止めた。

 いや、これだとふつうだ。マギワの性格なら、ひとひねりしているはずだ。

 誕生日の数字①②③①を逆から押してみよう。

 ガシャと音がしてロックが解除され、ドアが開いた。

「やったぞ!」

 そのとき、背中に視線を感じた。

 ふりむいたが、だれもいない。

「おかしいな。気のせいか……」

 ドアを開けると、予想は的中。厨房だ。

 春馬はすばやく中に入った。

 水道、ガスレンジ、オーブン、たな、冷蔵庫がある。

 しかし、食料品はない。

 そうか、冷蔵庫だな。

 冷蔵庫を開けたが、中はがらんとしている。

 空かと思ったが、奥になにかある。

 手を伸ばしてとると、1本のバナナだ。

「これだけか……、そうか、これでいいのか!」

 バナナはゴリラの好物だ。

 ゴリラが正解なら、ぼくの勝利だ!

 バナナを持って部屋を出ると、いきなり背中が重たくなった。

 首がしめつけられて、息ができない。

 なななな……なにがおきたんだ。

「ドアを開けてくれてありがとうよ」

 この声はカツエだ。待ちぶせしていたんだ!

 彼女がうしろから、ぼくの首をしめているんだ。

「ど……どうして?」

 体に力が入らなくなった春馬は、持っていたバナナを落とした。

「あたし、このゲームに勝つアイディアを思いついたんだ」

「な……なん……だ?」

「おまえたちを失神させて、1人でゆっくりと動物の好物を探すんだよ」

「そ……そんなこと……」

 春馬の意識がうすれていく。

「悪く思わないでよ。あたしは父ちゃんと家族のために、お金が必要なの。工場を取りもどして、社員も呼びもどして、昔みたいに幸せに暮らすの。そのためには、お金がいるんだ」

 頭がぼうっとしてきた。もうダメだ……。

 そう思った瞬間、春馬の体が横に飛ばされた。

 カツエから離れられたようだけど、ふらふらで立っていられない。

 春馬はその場に倒れた。

 なにがおきたんだ?

 春馬の前に、むきあっている2人の姿がぼんやり見える。

「なにしやがる!」

 さけんでいるのはカツエだ。

「横取りしないでくれ」

 この声は……亜久斗!

 亜久斗が、ぼくを助けてくれたのか!

 春馬はくらくらする頭をおさえながら、目をこらす。

 カツエと亜久斗がむきあっている。

「まぁ、いいかぁ。おまえから倒してやるよ!」

 そう言ってカツエが、亜久斗に襲いかかる。

 パンチとキックをすごいスピードで浴びせかける。

 これは、なんなんだ……。

 春馬は目を疑った。

 カツエのはなつ強烈なパンチとキックを、亜久斗はかるがるとかわしている。

 息のあがるカツエに対して、亜久斗は涼しい顔をしている。

  ビュッ!

 風を切る音が聞こえた。

 倒れたのはカツエだ。

 すごいスピードでよく見えなかったが、亜久斗のパンチがカツエの顔面に命中したようだ。

「おまえ、いったいなにものだよ!」

 なんとか立ちあがったカツエと、亜久斗がにらみあう。

 2人は目をあわせたまま、距離をちぢめようとしない。

「こんな対決している場合じゃねぇ!」

 カツエはすばやく身をひるがえすと、バナナを拾って駆けていった。

「……亜久斗、ぼくを助けてくれたのか?」

 春馬が言うと、亜久斗はうすく苦笑いした。

 助かったのはいいが、手に入れたバナナをカツエに奪われた。どうすればいいんだ?

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 そのとき、カツエの悲鳴が響いてきた。

 なにかあったようだ。

 春馬と亜久斗は駆けだした。

『弱肉強食の部屋』の前につくと、一足先に未奈が来ていた。

「……ゴリラは正解じゃないみたい」

 未奈が緊張した顔で言った。

 春馬と亜久斗は部屋に入った。

 ゴリラの太い腕に抱きしめられたカツエが、白目をむいて動けなくなっている。

 カツエがやられた。

 ゴリラは正解じゃなかった。

「これで残りは、トラかクマだな」と亜久斗。

「勝つのはあたし」と未奈。

「へぇ、どうしてだい?」

「1億円がどうしても必要なのは、あたしだけだから。気持ちだけは、だれにも負けない」

「そういう気持ちで戦っても、楽しめないだろう」

 亜久斗が言うことは、やはりよくわからない。

「戦って楽しいわけないじゃない」

「ふーん」

『爆発まであと1時間30分です』

 館内放送が流れた。

 それを聞いて、未奈が部屋を飛びだしていく。

 亜久斗が行こうとするのを、春馬は呼びとめた。

「亜久斗」

「なんだい?」

「さっきは助けてくれて、ありがとう」

「……きみはなにもわかってない」

 そう言って、亜久斗も部屋を出ていった。


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