
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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17 力を合わせれば
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「「「「ふ〜〜〜〜…………」」」」
麗(うらら)さんを家から追いだしたあと。
私たち四人は居間に集まり、ぐったりと体を休めていた。
一花ちゃんはちゃぶ台にひじをついていて。
二鳥ちゃんはたたみにうつぶせになっていて。
私は、ちゃぶ台をはさんで一花ちゃんの正面に、足を投げだして座ってて。
四月ちゃんは、メガネをはずし、四つならべた座布団の上にねころがっている。
四月ちゃん、頭を使いすぎてつかれちゃったんだって。
ムリもないよ。
今日は一日中、大活躍だったもんね。
「……あの人がやってきたらいつも戦争ね」
一花ちゃんは、キッチンガーデニングの大根を、新しいお皿にうつしながら言った。
「お、前のより大きいお皿になって、よう育ちそうやん!」
二鳥ちゃんが、ピョンとはねおきて笑う。
「まったく、だれのせいよ」
「ごめんって。お姉ちゃんゆるして」
「つごうのいいときだけ『お姉ちゃん』ね」
「ほんまにごめんって。今日からうちが大根の水かえやるから」
「ウソばっかり、絶対明日になったら忘れてるわ」
「そんなことないって! 明後日になるまでは忘れへんもん!」
そんなやりとりを聞いて、私と四月ちゃんはクスッ。
そうしたら、一花ちゃんと二鳥ちゃんもクスクスッ。
みんなおかしそうに笑った。
一時はどうなることかと思ったけど、もうすっかり、仲直りだね。
「……にしても、シヅちゃん、ようあのオバハンがウソついてるてわかったなぁ。うち、DNA鑑定の紙見せられたら、ほんまのお母さんやって、すっかり信じきってしもてたわ」
「簡単ですよ」
と、四月ちゃんはあおむけにねたまま答える。
「あの人……『あなたたちのつけてる髪飾りの色、クワトロフォリアのロゴマークと同じ色なんだもの。これってすごいぐうぜんじゃない?』って言ってたでしょう」
「あ! そっか」
私もやっと気づいた。
「私たち、生まれたばかりのころ、お母さんからもらったペンダントに影響されて、それぞれの色を好きになったんだもん。髪飾りの色は、ペンダントと同じ色なのに……それを『ぐうぜん』なんて言うのはおかしいよね」
「ええ……じつを言うと、僕もとちゅうまで、あの人が本当のお母さんだと思いこんでいたのですが……『偶然』という言葉を聞いて、強い違和感を覚えて、一度冷静になってみたんです。そうしたら、次々と矛盾(むじゅん)点がうかんできて……案の定、あの人は僕らのペンダントのことなんて、まったく知らないみたいでしたし」
「ということは、麗さんはやっぱり、本当のお母さんじゃない……のかな?」
ん? あれ……?
でも、それなら――、
「あのDNA鑑定書は何やったん? 『親子である確率99%』って書いたったやん」
「それよね」
二鳥ちゃんと一花ちゃんは首をかしげる。
うーん……どういうこと?
私はうでを組んで頭をひねり、言った。
「DNA鑑定書は、ニセモノとか……?」
「ウソだったってこと? じゃ、クワトロフォリアがどうのこうの、って話もウソなのかしら」
「それはほんまみたいやで。ほら」
二鳥ちゃんがスマートフォンで開いて見せてくれたのは、クワトロフォリアのホームページ。
《役員》というページに――。
「あっ」
《監査役・四ツ橋(よつばし)麗》
名前といっしょに、麗さんの顔写真がのってる!
さらにページをスクロールすると、次々に見覚えのある顔が出てきた。
四ツ橋竹彦(たけひこ)、四ツ橋梅枝(うめえ)、四ツ橋菊造(きくぞう)、四ツ橋蘭子(らんこ)……。
「この人たち、あの人の持ってきた家族写真に写ってた、おじいさんとおばあさんね」
「麗さん……クワトロフォリアの社長夫人っていうのは、本当だったんだ」
だけど、私たちの本当のお母さんじゃないんだよね……?
なのに顔は似てるし、DNA鑑定では親子関係があるって……?
「それに、これもあるやん」
ちゃぶ台の真ん中に置かれているのは、ピンク、赤、水色、紫色――。
クローバーの形にならべられた、色ちがいの、ハート形のペンダント。
四つ合わせると、クワトロフォリアのロゴマークになるこのペンダントを、私たちは生まれたときから持っていた……。
……何がなんだかわからなくなってきたよ。
「麗さんは、まだ何かをかくしている様子でしたし……クワトロフォリアの社長夫人であることは事実のようですが、僕らの本当のお母さんなのか否かについては、なんとも言えません……。たしかなのは、彼女がまた、僕らをつかまえにやってくる危険性は十分にある、ということ」
慎重(しんちょう)な口調でそう言って、四月ちゃんは顔をくもらせた。
たしかに……。
麗さん、「私はあきらめないんだから」って、言ってたもんね。
「あっ……で、でも、クワトロフォリアって、身よりのない子たちに何十億って寄付をしてくれた、いい会社なんじゃなかったの……?」
私がおそるおそる言うと、一花ちゃんはスッと目つきをするどくした。
「こういうふうにも考えられるわ。『クワトロフォリアは、私たちをさがしだしてつかまえるために、身よりのない子たちに何十億って寄付(きふ)をして、国の福祉省(ふくししょう)に取りいった』」
「うわっ、最低な陰謀(いんぼう)や」
「そんな……!」
クワトロフォリアって、いい会社だと思ってたのに……裏切られた気分だよ。
「まだ推測(すいそく)にすぎませんよ、三風姉さん」
しょんぼりした私に、四月ちゃんは優しく声をかけてくれた。
ナゾはまだ、残ったまま、ってことか……。
「まあ、ひとまず今回もあの人を追いだせてよかったわ。あのとき私、あんまり不安で、心がゆらいで、カッとなっちゃってたから……二鳥が止めてくれて助かった……」
一花ちゃんはキッチンガーデニングのお皿をなでながら、しみじみと言った。
「せや。感謝してや。一花、あのオバハンの言うこと聞くつもりやったやろ。四人バラバラになるとこやってんで」
二鳥ちゃんがじょうだん半分みたいにそう言って、一花ちゃんを軽くにらむと、
「……だって不安なんだもの」
と、一花ちゃんはかたを落とす。
すると、とたんに二鳥ちゃんは気色(けしき)ばんだ。
「あんた……まだそんなこと言うてんの!?」
ええっ、またケンカ……!?
「お金なんかいらんやん……! みんないっしょにおるほうがずっと大切や!」
「それは何度も聞いたわ。私だって本当はそう思ってる。……だけど不安なものは不安なのよ。この不安は─私の目に焼きついた千草(ちくさ)ちゃんのすがたは、そう簡単に消えるとは思えないの。……わかってよ」
それを聞くと、二鳥ちゃんは顔をゆがめて。
泣きそうな声で、しぼりだした。
「わかりたいけどっ……それでも、うちは絶対イヤなんや……家族やのに離ればなれになったり……大人のつごうであっちに行ったりこっちに行ったり、そんな、モノみたいにあつかわれんのは…………っ」
「二鳥……?」
一花ちゃんが……ううん、私も、四月ちゃんも、みんな首をかしげた。
「前々から、少し変だなとは思ってたけど……二鳥、あんたどうして、そこまでひどくおこってるの? あんたにも、何か特別な理由があるの?」
二鳥ちゃんは、ふいをつかれたようにだまりこんだ。
やっぱり、何か事情があるのかな?
それって、なんだろう?
気になったけど、二鳥ちゃんはすぐに、元の強い調子にもどって言いかえした。
「り、理由って、そんなんおこんのは当たり前やんか。うちかて、だれになんと言われようが、自分の考えは絶対まげられへんからっ!」
「何よ……! もう勝手にしてっ」
「ね、姉さんたち――」
一花ちゃんと二鳥ちゃんは、また言いあらそいを始めそう。
四月ちゃんは二人の間でオドオドしてる。
――私は?
私、まだ自分の考えを……。
自分の本当の気持ちを、みんなにひとつも伝えていないんじゃない?
それに気づいたら。
急に胸のあたりから、熱いかたまりがせりあがってきて。
心臓が、ギュウって……もう痛いくらい。
言わなくちゃ。
私の気持ち、伝えなきゃ。
きれいなだけの『言葉』じゃなくて。
迷いも不安もひっくるめた、ありのままの『気持ち』を。
「あっ、あの、私、思うのっ!」
三人の同じ顔の姉妹が、いっせいに私のほうを向いた。
「あの、私……全然、うまく、言えないんだけど……四人で助けあえば、これからも本当に、やっていけるんじゃないかって思うの。大変なことも、きっといっぱいあると思う。でも、くじけそうになったときは、いつも、だれかがだれかを支えるの。もし、一人がピンチになったら、残りの三人が手助けする。二人がピンチになったら、あとの二人がなんとかする。三人いっぺんにもうダメってなったときは、残った一人が助けをよんでくる……そんなふうにするの」
世の中はそんなに甘くないんだぞって、心の中でだれかがささやく。
でも、これが私の本当の気持ちだよ!
「私たち、まだ子どもかもしれないけど、家族を支えることは、絶対に、絶対にできる! だって、私、一花ちゃんのことも二鳥ちゃんのことも四月ちゃんのことも、すっごく大切なんだもの。わ、私だって、みんなにとって、大切なはずだもの。家族のだれかが苦しいとき、無視したり、放っておいたりしないでしょ? 一人じゃ心細くてムリだったけど、四人いたからできたってこと、今まで、いっぱいあったよね? だからこれからも大丈夫だよ、きっと……!」
胸が、いっぱいになって。
泣くところじゃないのに、泣いちゃいそうだよ。
自分の本当の気持ちを伝えるのって、すごくすごく勇気がいる。
それでも、私が伝えたかったのは、ただひとつ。
この先も、ずっと四人で生きていきたい。
みんなのことが、大好きだから。
ってこと――。
言いおえて、四人それぞれが、じっとだまって。
最初に口を開いたのは、四月ちゃん。
「たしかに……結果的に助けあっていて、だからこそできたことって、いっぱいありますよ。今日だって……二鳥姉さんが、一花姉さんのゆらいだ気持ちを止めてくれたから、一花姉さんは実力行使で麗さんを追いだせたわけで……」
「「それを――」」
言いはじめがかぶって、一花ちゃんと二鳥ちゃんはちょっと気まずい顔。
目と目で合図して、一花ちゃんが先に言うことになったみたい。
「……それを言うなら、四月があんなすごい推理をしてウソを見やぶってくれたから、私はあの人をぶっ飛ばせたのよ」
「僕が麗さんのウソを見やぶれたのは、あのとき、三風姉さんと二鳥姉さんが、手をにぎってはげましてくれたおかげですよ」
「……ぷっ、ククク、ぶっ飛ばせた、やって」
「茶化さないでよ」
二鳥ちゃん、さっきまでおこってたのに、もう笑ってる。
「ふふっ。せやけどほんまに、そもそもシヅちゃんが『尾行(びこう)しよう』って言わんかったら、うちら今ごろ、どこでどうなってたかわからんし」
「その尾行がうまくいったのは、二鳥姉さんの考えた変装のおかげでしょ」
「変装までしてたの? ちっとも気づかなかった……! でもまあ、私を見失って三手に分かれるなんて……たしかに、姉妹がいなくちゃできないことよね」
みんな、わかってくれてる。
そうだよ。
私が言いたかったのは、そういうことなの。
目をうるませていたら、
「「「それに――」」」
と、一花ちゃんも二鳥ちゃんも四月ちゃんも、急に私を見つめた。
「な、何?」
「三風ちゃんも」
「ふぇっ」
二鳥ちゃんに正面からだきしめられて、私、固まっちゃった。
ほっぺたとほっぺたがぎゅっとくっついて、二鳥ちゃんのあったかさが伝わってくる。
「わ、私、今回はとくに何もしてなくない?」
「したわ」「しました」
一花ちゃんは私の右側に、四月ちゃんは私の左側に、ぴったりくっつく。
「ええっ? いつ?」
「「「今」」」
三つの声が見事にハモって。
姉妹を代表するように、一花ちゃんはささやいた。
「みんなが助けあってたことに気づかせてくれたのは……みんなの気持ちをこうしてつないでくれたのは、三風よ」
二鳥ちゃんも四月ちゃんも、うんうんって、うなずいてる。
私の気持ち……ちゃんと、伝わったんだ。
どうしてだろう。目の奥が熱い。
こんなつもりじゃ、なかったのに――。
「みんなっ……これからも、ずっとずっといっしょだよ!」
泣いちゃわないよう、せいいっぱいさけんだら。
みんな、にっこりほほえんで、体やうでを、ぎゅっとだきしめてくれた。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
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