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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』第15回 私たちの親戚(しんせき)は


ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(2巻)はコチラから
 1巻はコチラから


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15 私たちの親戚(しんせき)は

……………………………………


 ――「私が、あなたたちのお母さんよ」

 玄関に立つ、二本の足が、細かくふるえて。

 心臓が、ドクン、ドクン、重たく脈を打っている。

 姉妹のだれも、ひとことも言葉を発さない。

 だけど、気持ちは手に取るように伝わってくる。

 目の前にいるこの人が、私たちのお母さん……!?

 顔も似てるし、DNAも一致って……!

 やっぱり、麗(うらら)さんが、私たちの本当のお母さんなの!?

「……なんでやの?」

 最初に口を開いたのは、二鳥ちゃんだった。

「なんで、あんたは、うちらを……生まれたばっかりのうちらを施設に預けたん? なんで、姉妹やのに、離ればなれに……っ」

 最後のほうは、もう言葉にならない。

 麗さんは、よくぞ聞いてくれました、というようにゆったりとかまえて。

 それから、長々と語りだした。

「私はね……本当に愛した、運命の人との間に、あなたたち四人を身ごもったの。でも、私のお父様たちは結婚をゆるしてくれなかった……。私はムリヤリ、好きでもない別の男の人と結婚させられてしまったの。……信じられる? その男の人、私のいとこなのよ。しかも、私より十歳も年上だったのよ? 『子どもは親の言うことを聞くのが当たり前なんだ』って、お父様たちは言ったわ」

「ひ……ひどい」

 思わずそうもらすと、麗さんはさらに語気を強めた。

「それだけじゃないの。お父様たちは、あなたたちが私のお腹の中にいるうちから、あなたたちの結婚相手まで決めてしまっていたのよ」

「「「「ええっ!?」」」」

「お父様たちはね、有名企業経営者の子息たちと、あなたたちを結婚させて、その企業と自分の会社とのつながりをより強いものにしようとたくらんでいたのよ。自分たちの利益のためにね」

「政略結婚やん」

 つぶやいた二鳥ちゃんに、麗さんはうなずいた。

「ええ、そうよ。あなたたちが私のもとで普通に育てば、いずれ、だれかと恋をする自由をうばわれてしまうことは確実だったの。私は、自分の子どもにだけは、私みたいな思いをしてほしくなかった。お父様たちの目のとどかない場所で、自由に生きてほしかった……。だから四人、別々の施設に預けるしかなかったのよ。もし、四人を同じ施設に預けたら、四つ子なんてめずらしくて目立つから、お父様たちにすぐ見つかってしまうでしょう?」

 おどろいて、ものも言えない。

 私たちは、生まれる前から結婚相手が決められていた?

 麗さんは、好きでもない人とムリヤリ結婚させられた?

 自分の子どもにだけは、自由に生きてほしかった?

 だから、別々の施設に預けるしかなかった?

 そんなことって、本当にあるの…………?

 まるで、ずっと遠い世界の、知らない国で起こったことみたいに聞こえるよ。

 だけど、麗さん……ケタちがいのお金持ちっぽいし……。

 ケタちがいのお金持ちの間では、そういうことも、本当にあるのかな……?

 混乱する頭で、取りとめなく考えていたら、

「ここで、クイズでーす」

 麗さんは、急におどけて、人差し指をピーンと立てて笑った。

 まるで、私たちをとまどわせるのを楽しんでるみたいに……。

「第一問・私がムリヤリ結婚させられてしまった『好きでもない人』――つまり私の今の夫は、一体だれでしょう?」

 ……そ、そんなのわかるわけないよ。

 たじろぐ私のとなりで、四月ちゃんがハッと何かに気づいた。

「DNA鑑定書に、四ツ橋(よつばし)、麗と名前がありました……。四ツ橋って、まさか――」

「さすが四月は頭がいいわね。うふふ……正解はこちら」

 麗さんはもったいぶりながら、ハンドバッグから一枚の写真を取りだした。

 それは……、

「家族写真……?」

 左奥から順に、太ったおじいさん、太ったおばあさん、やせたおじいさん、やせたおばあさんが、立ってならんでいて。

 手前のイスに座っているのは、麗さんと――。

「「「「あっ!」」」」

 私たちは同時に声をあげた。

 その写真の、麗さんのとなりに座っている男の人は。

 私たちが、ショッピングモールで見た、ポスターにのっていた人――。

 クワトロフォリアの社長・四ツ橋松太郎(しょうたろう)さんだった。

「あら、あなたたち四人とも、彼のことを知ってるのね。まあ、それもそうね。最近、松太郎さん、すっかり有名人だから」

 麗さんのクスクス笑う声がひびく。

「念のため、これも持ってきたんだけど、いらなかったかしら」

 続いてハンドバッグから取りだされたのは、名刺。

 名前といっしょに小さく印刷されている写真は、ショッピングモールで見たポスターの写真と同じものだ。

 やっぱり、見まちがえなんかじゃない。

 麗さんの夫は……クワトロフォリアの社長さんなんだ……!

「さっきも言ったけど、私、松太郎さんのいとこなの。元社長の竹彦(たけひこ)さんと、元副社長の菊造(きくぞう)さんは、腹ちがいの兄弟なのよ。松太郎さんは竹彦さんの息子で、私は菊造さんの娘。……さて、ここで第二問。私が何を言いたいかわかる?」

 私たちの答えを待たず、麗さんは続けた。

「あなたたち四人は、クワトロフォリアを経営する、四ツ橋グループの跡取り娘ってことよ」

 私たちが……?

 あまりのことに、姉妹はみんな声も出ない。

 目を見開き、身じろぎもできずにいる。

 でも、そんな……そんなことって。

 私たちが、クワトロフォリアの跡取りだなんて。

 信じられない気持ちで、もう一度、名刺に目を向けたとき、

「「「「っ!!」」」」

 私たち……。

 あることに気がついて、息をのんだ。

 名刺のはしに印刷されている、株式会社クワトロフォリアのロゴマーク。

 ピンク、赤、水色、紫色。

 一枚一枚ちがう色の葉を持つ、四つ葉のクローバー。

 これって……、これって、これって!!

 私たちがお母さんからもらった四つのハート形のペンダントと、色も形も同じだ!

 このペンダント、四つそろえると、クワトロフォリアのロゴマークになるんだ!

 私は、自分の首にかかった水色のハート形のペンダントを、服の上から痛いほどにぎりしめた。

 麗さんの言うこと、きっと本当だ。

 私たちは、クワトロフォリアの跡取り――この人の娘なんだ……!

 うたがいが確信に変わって、めまいがしそう。

 そんな私たちに向かって、麗さんは、やたらとしめっぽい声を出してうったえはじめた。

「私……生まれたばかりのあなたたちに、とってもひどいことをしたわ。でも、どうかこれだけはわかって。お母さんだって、つらかったの。あなたたちを一日だって忘れたことはなかったわ。ずっとあなたたちのことを想って、愛していたのよ!」

 ゆれる思考のすきまに、麗さんの声が、スッとしのびこむ。

 お母さんは、私たちを手放したくて手放したわけじゃないんだ。

 私たちのこと、きらいだったから、わざわざ別々に預けたわけじゃないんだ。

 私たちは、お母さんに愛されていたんだ……?

「それでね、私のお父様とお母様と、松太郎さんのお父様とお母様……つまり、あなたたちのおじい様とおばあ様たちはね、昔はガンコだったけど、今ではすっかり心を入れかえて、あなたたちといっしょにくらしたいって言ってるの。お友達にはみんなお孫さんがいるから、さみしくなっちゃったみたいなのよね。もちろん、いいなずけの話は白紙にもどすって。どうかしら? 私といっしょに来ない?」

 ……いっしょに……?

「ほら見て。この写真に写っているのが、あなたたちのおじい様やおばあ様たちよ。国の福祉省(ふくししょう)に寄付(きふ)をしたら、ぐうぜんあなたたち四人が見つかって……それはもう、およろこびになってたわ」

 麗さんはさっきの家族写真を、もう一度私たちに見せてくれた。

 太ったおじいさん、太ったおばあさん、やせたおじいさん、やせたおばあさん。

 みんな、おだやかにほほえんでる。

 この人たちが、私たちの……?

 この人たちと、くらせるの……?

 私たち四姉妹の間に広がった沈黙(ちんもく)は、永遠かと思うほど長かった。

 やがて、

「行きましょう」

 一花ちゃんが、私たち三人の妹に、おごそかによびかけた。

「願ってもないことだわ……。お母さんや、おじいさん、おばあさんたちとくらせるなんて!」

 二鳥ちゃんも、四月ちゃんも、私・三風も。

 みんな、泣きだしそうな笑顔でうなずいた。

 反対する人なんて、だれもいなかった。

 だって、そうだよね。

 何かあったら、助けてくれる、心配してくれる、居場所をくれる、支えつづけてくれる……。

 そんな、私たちを守ってくれる人たちと、いっしょにくらせるようになるんだもん。

 麗さんには……たしかにちょっと、言い方とか、イヤかなって思うところもあったけど。

 それでも……それでもっ、私たちの本当のお母さんなんだもん!

 喜びが、注がれたサイダーのあわのように、胸の中で次々にわきあがる。

 たまらなくなって『やったぁ!』ってさけびそうになったとき。

「やったわ……!!」

 だれよりも一番喜んでいたのは、麗さんだった。

 らしくもなく、ガッツポーズまでしてる。

 そのすがたは、まるで……えものをしとめた狩人みたい。

 …………気のせいかな?

 気の、せいだよね……?

 と思ったら、麗さんは急に、らんらんと光る目を私たちに向けた。

「ありがとう! やっぱり貧乏な子たちは物わかりがよくて助かるわ! じゃあさっそく、三風以外の三人は、これからパスポートを取りに行くわよ!」

「え?」

「は?」

「パ、パスポート?」

「……どういうことですか?」

 感動の気分をすっかりふきとばされた私たちは、『?』をいっせいに頭の上にうかべた。

 麗さんは子どものようにむじゃきな笑顔で、じれったそうにまくしたてる。

「だって、竹彦おじい様はニューヨーク。梅枝(うめえ)おばあ様はハワイ。菊造おじい様は東京。蘭子(らんこ)おばあ様はカナダのバンクーバーでくらしているんだもの! あなたたちには四人それぞれ別々の場所に行ってもらうのよ。でも、安心なさい! 四人とも同じくらいお金持ちで、同じくらいの大豪邸(だいごうてい)に住んでるの! ほしいものだって、なんだって買ってもらえるんだから!」

「かっ………………勝手に何言うてんの!?」

 ものすごい剣幕(けんまく)でどなった二鳥ちゃんに、麗さんはきょとんとした表情。

「二鳥は海外に行くのがイヤ? なら三風と行き先を交換しなさい。同じ顔なんだもの。どっちがどっちに行ったって同じことよ」

「っ…………このアホ!!」

 耳が痛くなるほどの声でさけんで、二鳥ちゃんは麗さんに飛びかかった!

「きゃあッ」

「帰れ! あんたみたいなん、何言うてもあかんわ! 帰れっ!」

 二鳥ちゃん、麗さんとつかみあいになっちゃった!

「二鳥ちゃん!」「二鳥姉さん!」

 とにかく止めなくちゃ! ケガしちゃう!

 私と四月ちゃんは、くつしたのままたたきにおりて、すぐに二人を引きはなそうとした。

 でも、力の弱い私たち二人だけじゃ、なかなかうまくいかないよ。

「一花ちゃんも手伝って!」

 助けを求めてふりかえると……。

 一花ちゃんは、じっと何か考えてる様子で。

 なんにも言わず、うつろな目をいっぱいに見開いたまま、玄関に立ちつくしていた。

 えっ…………?

 ……どうして?

 どうして、何も言ってくれないの?

 もしかして……一花ちゃん。

 麗さんの言うことを聞くつもり?

 子どもたちだけで自立するのが、不安だから……!?


第16回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318411

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