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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』第14回 麗さんふたたび


ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(2巻)はコチラから
 1巻はコチラから


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14 麗さんふたたび

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 言いたかったことを、全部言いおえて。

 一花ちゃんは、じっとうつむいた。

 私たち三人の妹は、なんにも言葉を返せない。

 一花ちゃん、真剣になやんでるんだ。

 未来が不安――。

 その気持ち、私も本当によくわかる。

 私、施設にいたころ「高校を卒業したら自立しなくちゃいけない」って言われてた。

 たよれる人なんてだれもいないのに、一人で生きていかなくちゃならないなんて。

 考えただけで、永遠に止まない雨の中に、一人取りのこされたような気持ちになってた。

 私……一人で生きて……ひとりぼっちで、死んでいくのかな?

 って。

 でも、みんなと出会って。

 私には、家族がいるんだ、一人じゃないんだって思ったら、すごく心強い気持ちになって。

 不安な気持ちを、すっかり忘れることができたんだ。

 だけど……。

 簡単に、私と一花ちゃんを比べることなんてできないよ。

 だって、私の感じてた不安は、大きいけど、ぼんやりした、形のないもの。

 でも、一花ちゃんの不安は、『千草(ちくさ)さん』っていう、はっきりした形のあるものなんだもん。

 子どもたちだけで自立できるのかとか、お金がなくなったらどうすればいいかとか……。

 未来のことなんて、正直まだわからない。

 わからない、けど……っ……。

「――っ」

 この場にふさわしそうな言葉は、いっぱいうかんでくるの。

「きっと大丈夫だよ。私たちは一人じゃないんだもん」

 とか。

「どんな困難なことでも、四人が力を合わせれば、乗りこえられるよ」

 とか。

 そういう、あったかい、キラキラした言葉。

 でも、千草さんのことを知ったあとじゃ……。

 そんな前向きな言葉、うすっぺらい気休めにしかならないんじゃないか。

 うわすべりするばかりで、なんの意味もないんじゃないか、って。

 そう思ったら、のどが動かない……。

 ……みんなも同じようなことを考えてるのかな。

 四月ちゃんも、二鳥ちゃんでさえ、何も言えずにうつむいてる。

 あぁ、どうしよう…………っ。

「……三風、胸、どうかしたの?」

「えっ? あっ」

 一花ちゃんに聞かれて、初めて気づいた。

 私、こういうときのいつものクセで、首にかけたハート形のペンダントを、服の上から力いっぱいにぎりしめてたんだ。

「そ、そうだ! 一花ちゃん、これ見てっ」

 私はそのハート形のペンダントを取りだして、一花ちゃんに差しだした。

「あっ、せや……!」

「一花姉さん、これ」

 二鳥ちゃんも四月ちゃんも、同じようにペンダントを出す。

 三つの色ちがいのハートを前にして、一花ちゃんは目を見開いた。

「これって……!」

「一花も持ってるやろ、おそろいの、ピンクのやつ。部屋に落ってたの見つけたんや」

「僕らもこれを、大切に持っていたんですよ。施設に預けられた赤ちゃんのころから」

「私たち、ずっと離ればなれだったけど、ずっと、同じものをよりどころにしてきたんだよ。だから――」

 不安な気持ちに負けないで。

 私たちがいるから――。

 そう言おうと、せいいっぱい息をすいこんだとき、


 ――ピンポーン


 張りつめた空気に似合わない、間のぬけたインターホンの音がひびいた。

「……うち、出るわ」

 二鳥ちゃんは、ろうかについているインターホンの受話器を取った。

 いきなりドアを開けるのは不用心だもんね。

「はい、どちらさま?」

『こんにちはーっ』

 なれなれしい女性の声に、二鳥ちゃんはまゆをひそめる。

「は……? だれ?」

『私よ、私。あなたたちのお母さんの、麗(うらら)よ』

 受話器からもれてきた声に、私たちはあ然として顔を見合わせた。


◆ ◆ ◆ ◆


 インターホンを受けて。

 私たち四人は、かたい表情で、玄関のドアの前に集まっていた。

 麗さん――。

 四月二十五日――私たちの誕生日に、突然家にやってきて、

 ――「私、あなたたちのお母さんよ」

 と名乗った女の人。

 あのとき、麗さんは四月ちゃんだけを、ムリヤリ連れて行こうとしたんだ。

 一番かわいそうな子を、一人だけ引きとってあげるわ、なんて、一方的に手紙で告げて。

 すっごく勝手で、すっごくあやしい人だけど……。

 麗さんは、私たちのお母さんかもしれない人。

 たずねて来られれば、追いかえすわけにもいかないよ。

 ……この気持ち、ほかの人には、わかりにくいかもしれないね。

『そんなあやしい人、会っちゃダメだし、話も聞いちゃダメだよ!』

 って……私だって、心のすみでは思ってるんだよ?

 だけど……それでも、私たちはカギを開けて、ドアを開いた。

 親のいない私たちにとって『お母さんかもしれない人』って、すっごく重要な存在なんだもの。

「こんにちは。元気でやってる?」

 ドアの向こうに現れた麗さんは、私たちに明るく笑いかけた。

 この前来たときと同じように、かかとの高いクツをはいて、高そうなスーツを着ていて。

 宝石のついたアクセサリーを、いくつも身につけていて……。

 そして、その顔は、やっぱり私たちとよく似ていた。

「あんた、また来たんか。なんの用やのっ?」

 二鳥ちゃんの声はトゲトゲしている。

「うふふふ……。……あら? なあにあれ。どうして玄関に生ゴミがあるのよ」

 麗さんは二鳥ちゃんの質問に答えず、玄関からろうかに上がってすぐ左手にある、小さな出窓に目を向けた。

 そこに置いてあるのは、水を張ったお皿に入れられた、大根のヘタ。

 一花ちゃんの「キッチンガーデニング」だ。

「生ゴミじゃありません。葉っぱが出てきたら食べるんです。日当たりがちょうどいいから、そこに置いてるのよ」

 一花ちゃんはちょっとムッとした顔で答えた。

「へぇ。今の子どもの間では、変わった遊びがはやってるのねぇ」

「遊びじゃなくて、節約です!」

「節約う?」

 目を丸くするやいなや、アハハハハハハッ、と麗さんはお腹をかかえて笑いだした。

「うふふっ、ごめんなさい。イヤだわもう、面白くって! あなたたち、本当に貧乏なのね!」

 やっぱり、この人イヤだ……。

 私は、玄関のドアを開けてしまったことを早くも後悔しはじめた。

「何がおかしいねん! やっぱりあんた、もう帰って!」

 二鳥ちゃんがたたきにおりて、大笑いする麗さんの体を、家の外へ、ぐいっとおした。

「あら、やめてちょうだい。今日はあなたたちに伝えたいことがあって来たのよ。とっておきの話よ。でもその前にこれを」

 麗さんは、ひとかかえもありそうな大きなつつみを、ドサッ、と二鳥ちゃんにおしつけた。

「重っ……なんやの、これ?」

「メロンよ」

「メロン?」

「おみまいよ。かわいそうな千草さんへの」

 一花ちゃんの顔色がサッと変わった。

「あなた、どうして千草ちゃんのことを知ってるの?」

「ちょっとね、あなたたちのこと調べてたら、たまたま知っちゃったっていうか。……本当にお気の毒だわ。自立に失敗しちゃったのよね。まあ、めずらしい話でもないんでしょうけど」

 一花ちゃんはますます青ざめて、言葉を失った。

「「か、帰ってください!」」

 私と四月ちゃんは同時にさけぶ。

 やめて。

 今の一花ちゃんにそんなこと言うのはやめてよ……!

 だけど、麗さんがすなおに聞くはずもない。

「話があるって言ってるじゃない。……ねえ、一花、二鳥、三風、四月。この間は私、勝手なことを言って悪かったわ。一人だけを引きとるなんて、あまりに不公平よね」

「悪かった」と言ってはいるけれど、それほど反省していないような口調。

 うんざりしていた私たちだけど……次の言葉で息をのんだ。

「だから私、今度こそ、あなたたち四人全員を引きとろうと思ってるの」

 四人、全員を引きとる……!?

 それって、私たち、麗さんといっしょにくらすようになるってこと?

 で、でもっ――。

「ふざけんとって。あんた……うちらのほんまのお母さんとちゃうんやろ?」

 メロンを靴箱の上に置き、二鳥ちゃんはうたがいの目を麗さんに向けた。

 麗さんは挑発的に、ハッ、と笑う。

「言うと思った! 私だってバカじゃないわ。今日はちゃーんと証拠を持ってきたの」

 麗さんはハンドバッグから一枚の紙を取りだすと、ピッ、と私たちにつきつけた。

 そこに書いてあったのは――。


DNA型一致

四ツ橋麗と、宮美一花・宮美二鳥・宮美三風・宮美四月。親子である確率99%


「――わかったかしら?」

 こおりつく私たちを尻目に。

 麗さんは開いたままだった玄関のドアを、うしろ手でパタンと閉める。

「私が、あなたたちのお母さんよ」

 閉ざされたせまい玄関にひびいた声は、以前よりずっと大きく……はっきりと聞こえた。


第15回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318411

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