
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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12 どっちも本当の一花ちゃん
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二鳥ちゃんの話を聞きおえて。
「一花ちゃんが、施設から里親さんのところにうつったのは、小学四年生の夏、だったよね」
頭の中を整理しようと、私は四月ちゃんにそう聞いた。
四月ちゃんは、こくりとうなずいた。
「それで、ミニバスを始めたのが、小学五年生のとき……」
「せやで」
と、今度は二鳥ちゃんがうなずく。
「ミニバスをやってたときは、不良のおもかげなんて全然なかった。……ってことはさ、一花ちゃん、立ちなおったんだよ」
そう言うと、四月ちゃんも二鳥ちゃんも、同時にホッとした顔になった。
だれからともなく、私たちは、一花ちゃんのコンパクトミラーをもう一度見る。
表にびっしり貼られているプリクラは、ミニバスクラブの友達ととったものみたい。
どれも楽しそうな笑顔。
フタのウラに大切そうに貼られているプリクラは、千草さんと出会ったばかりのころのもの。
明るくそめた髪に、にらむようなするどい目つき。
ずいぶんちがって見えるけど……。
「うまく、言えないんだけど……どっちも同じ、一花ちゃんだと思うの」
私のつぶやきを、二鳥ちゃんが拾う。
「わかるわ。『不良の一花』と『たのもしい一花』は別人とちゃう……。『不良の一花』の中にも『たのもしい一花』はねむってたやろうし……だから立ちなおれたんやろうし」
四月ちゃんも加わる。
「反対に、『たのもしい一花姉さん』――『今の一花姉さん』の中にも、『不良の一花姉さん』はねむっているはずです。そうは見えないけれど」
私はうなずいた。
「だけど……それが一花ちゃんなんだよね。私たちの好きな、世界でたった一人の」
私たちは、視線を交わして「ふふふ」とやわらかく笑った。
『たのもしい』とか『不良』とか『いい』とか『悪い』とかじゃなくて。
『一花ちゃん』は『一花ちゃん』。
そして、私たちはそんな『一花ちゃん』のことが好きなんだ。
居間があたたかいふんいきに満たされた、そのとき。
――ガチャ
あっ、玄関のドアの開く音。
「一花や。やっと帰ってきた」
三人で玄関までむかえに行こう。
……と思ったときにはもう、ダダダッ、とろうかを走ってくる音が聞こえて――。
「三風! どうして病院に来たの!?」
ひぇっ……!
居間に顔を出した一花ちゃん……予想はしてたけど、やっぱりすっごくおこってる。
ご、ごめんなさい。おこるのは当たり前だよね、本当にごめんね……。
言いたいのに、こおりついてしまったように、のどが動かない。
「三風だけじゃないわ。里親さんからも、ミニバスの後輩たちからも連絡をもらったのよ。あんたたち、私をつけまわしてどういうつもり!?」
一花ちゃんは四月ちゃんや二鳥ちゃんにもおこった。
すると、二鳥ちゃんは一花ちゃんと同じくらい大きい声でどなりかえす。
「どういうつもりはこっちのセリフや! なんにも教えてくれんと心配するに決まってるやんか!」
ああっ、どうしよう、ケンカになっちゃうよ……!
「ふ、二人とも落ちついてぇ……」
私が弱々しい声で言ったとき。
四月ちゃんが立ちあがって、一花ちゃんに向かってバッと頭を下げた。
「ごめんなさい! 里親さんの家に行ったのは僕です。昔の一花姉さんのこと――不良だったってこと、聞いてしまいました」
一花ちゃんはその言葉を聞くと、とたんにいきおいを失い、泣きそうな顔になった。
「なんで……なんでそんなことするのよ……」
声がかすかにふるえている。
「ごめん……」「ごめんなさい」「すみません」
私たちはそろって謝り、居間はしんとなった。
でもね一花ちゃん、私たち、一花ちゃんのことが心配で。
不良だったことにはおどろいたけど、ミニバスクラブでたよりにされてたってことも知って。
それで、あの、だからね……。
……ああっ。
どうしてこういうとき、私の口は動いてくれないんだろう。
思っているだけじゃ伝わらないのに……!
もどかしい気持ちでいっぱいになったとき。
急に、一花ちゃんがさけんだ。
「失望したでしょう、本当の私を知って……! しかもずっとかくしてて!」
「そ、そんなことないよっ!」
想いが、破裂(はれつ)したように。
私、反射的にそうさけんでいた。
「失望なんて、してないよ……っ!」
不良だったこと、千草さんのこと……言いたくても言えなかったんだよね。
仲よくなりたいと思っていればいるほど、相手には本当の自分を知ってほしい。
でも、仲よくなりたいと思っていればいるほど、本当の自分を知ってもらうのはこわい。
私が湊(みなと)くんに感じていた気持ちと、一花ちゃんが私たちに感じていた気持ち、似ているんじゃないの?
お願い、動いて、私ののど!
目を閉じて、息をすうっとすいこむと……。
ほんの少し頭が冷えて、私の口から、言葉がからまりながら、こぼれでてきた。
「一花ちゃん、いつか自分から全部言うつもりだったんだよね? 私、たぶん、その気持ちわかるの。ずっと迷ってて、でも言えなくて、つらかったんだよね? 私たちが勝手に『一花ちゃんらしさ』をおしつけちゃってたから――だから――」
言葉につまると、四月ちゃんと二鳥ちゃんが力をかしてくれた。
「僕ら、今の一花姉さんが好きです。でも今の一花姉さんは、過去がなければ存在してなかったんだと思います」
「やから、過去の一花も好き。不良から立ちなおって、みんなに尊敬されてる一花が好き。なんなら不良でもええくらい!」
ありがとう、二人とも。
伝えたいことをみんなで一花ちゃんに伝えたら、心がようやく少し軽くなった。
「私っ─――」「うち――」「僕は――」
言いはじめがかぶったので、私と二鳥ちゃんと四月ちゃんは、クスッと笑って。
それから、その次に続く言葉を、三人同時に口にした。
「一花ちゃんが
「一花が 大好き」」」
「一花姉さんが
あったかい気持ちが言葉にのって、春風のようにふきぬけていって。
一花ちゃんの目から、涙がひとつぶ、はらりとこぼれた。
「ありがとう……」
泣いてる一花ちゃん、初めて見た。
私たち三人の妹は、一花ちゃんによりそって、背中を何度もなでてあげた。
大好きな千草さんが入院して、きっとすっごくつらかったんだよね。
ううん、今もきっと辛いはず。
病室で見た千草さん……ずいぶんやせてたし、心も弱ってるみたいだったから……。
「あの……一花ちゃん。私たちに、何か力になれることってない、かな?」
思いきってそうたずねると、一花ちゃんは泣きながら、
「話を聞いてほしいの」
とつぶやいて、涙をぬぐった。
「……あなたたちに言おうと思ってたことがたくさんあるの。過去のことも、千草ちゃんのことも、それから……今、不安でたまらないことも……」
私たちがうなずくと、一花ちゃんは呼吸を整えて、話をしてくれた。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
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