
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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11 うちの聞いた話
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四月ちゃんの話を聞きおわり、私と二鳥ちゃんは言葉を失ってしまった。
一花ちゃん、夜中に一人で散歩に行ったりしてて、変だなって思ったことはあったけど。
あれって、不良だったころのなごりだったのかな……。
他人に心をゆるさないところがあるなぁ、どうしてだろう? って思ってたけど。
それは、差別を受けた、つらい過去があったからなんだ……。
どんな差別なのか、くわしくはわからない。
でも、なんとなく想像はつく。
私だって、施設でくらしていたころ、親がいないというだけで、イヤな目にあったことが何度かあるから……。
「一花ちゃん……『本当の私のことなんて、なんにも知らないくせに』って、そういう意味だったんだ」
きっと、不良だった過去を知られたくなくて。
でも、知ってほしい気持ちもたしかにあって。
そんなとき、千草(ちくさ)さんが入院して、ショックで……。
だけど、一花ちゃんの過去も事情も知らない私たちとの間には、見えない距離が空いてた。
私と湊(みなと)くんの間に空いていたような、見えない距離。
だから、千草さんのこと、ついに私たちに言うことができなかったんじゃないかな。
「おしつけっていうか……思いこみっていうか……そういうのがあったからかもしれへんな」
と二鳥ちゃんもつぶやく。
「一花は長女で、優しくてしっかり者で、家事がとくい……そういう、『らしさ』を、うちらは知らん間に一花におしつけてて……せやから『昔は不良でした』って言いだしにくかったんかも」
『らしさ』をおしつけていたから――。
私にも心当たりがある。
あのとき、声をあらげた一花ちゃんに、私はこう言ってしまったんだもの。
――「どうしてそんなこと言うの? ぜ、全然っ、一花ちゃんらしくないよっ」
「……尾行(びこう)なんて、するべきではありませんでした……」
四月ちゃんはつらそうにうつむく。
「だって、もし僕が一花姉さんの立場だったとしたら、こんなふうに、勝手に過去をあばかれるのはイヤですから……」
たしかにそうかもしれない。
いくら心配だからって、こっそり人のあとをつけるなんて、あまりほめられたことじゃないし。
結局、一花ちゃんにも見つかっちゃって……イヤな思いをさせちゃった。
私は深く反省して、だまって下を向いた。
でも、二鳥ちゃんだけは顔を上げて、
「そうかなあ? うちは尾行してよかったと思てるで」
と、いくらか明るくほほえんだ。
「えっ、どうして?」
私が問うと、二鳥ちゃんは今日見てきたことを、楽しげに話して聞かせてくれた。
◆ ◆ ◆ ◆
うち・二鳥が向かったのは市立体育館。
そんなに目立つほど大きい建物やなかったけど、車や人がよう出入りしてたから、
「あ、あそこや」
って、バスをおりてすぐにわかった。
見るからに、何かもよおしが行われてるらしい。
建物の中からひびいてくるのは「ワァーッ」とか「がんばれー!」とかいう応援(おうえん)の声。
それから、ダンッ、ダンッ、ってボールがはずむ音。
これ、バスケットボールの音ちゃう?
一花は、小学生のとき、ミニバスの選手やったって言うてた。
ひょっとしたらここにおるんちゃう?
うちは体育館の入り口へ急いだ。
門のところのカンバンには《ミニバスケットボール地区大会予選》みたいなことが書かれてる。
ビンゴや!
でも、案の定、受付には人がおって、なんていうか『関係者以外おことわり』のふんいき。
さて、どないしょうかな……ヘタに出ていってもあかんやろうしな……。
とりあえず、室内競技やからサングラスはいらんか。
と思って、サングラスをはずしたそのとき。
入り口から『牡丹ヶ丘(ぼたんがおか)』ってゼッケンをつけた女の子が三人、連れだって出てきた。
その子ら、うちの顔を見るなり、
「あっ!」「一花先輩!」「きゃーっ」――
ものすごいうれしそうにパッと笑って、
「来てくれたんですね! ありがとうございます!」
「もう! びっくりしました! みんなにも知らせなきゃ」
「牡丹(ぼたん)小の試合、もうすぐ始まりますよ! こっちです!」
きゃあきゃあ言いながら、うちのうでをぐいぐい引っぱって体育館の中へ連れこんだ。
「わぁ!? ちょお、待ってってー!」
あっという間に牡丹ヶ丘小学校――一花の母校の応援席に連れて行かれたうち。
何人もの選手の女の子が、試合の始まりを待っているようで、あたりはざわついていた。
でも、うでを引っぱってきた子が、
「みんなーっ! 一花先輩来たよーっ!」
ってさけんだら、二十人くらいの女の子がいっせいにこっちを向いて、うれしそうに笑って。
「一花先輩!」「見に来てくれたんですね!?」――
「わーい!」「やったーっ!」「本当にうれしいです!」――
「先輩、すっごくおしゃれですね!」「こっちに座ってください!」――
ここでもまた「一花先輩一花先輩!」の、お祭りみたいな大さわぎ。
いやあ、さすがのうちもまいったわ。
「ちょ、ちょっと聞いて! うち、一花やないねん! 妹の二鳥や」
正直にそう言うても、
「あはは、なんですかそれ」「またまたぁー」「どうして関西弁なんですか?」――
「あれ? 先輩、ちょっと身長、小さくなりました?」「んなわけないっしょ〜」――
なんて言われて信じてもらえそうにない。
そうこうしてるうちに、
「こら、何事だ!」
って、やっと話がわかりそうな、コーチらしき大人の男の人がやってきた。
事情を説明したら、
「あっ……! 宮美に生きわかれの姉妹が見つかったと聞いていたが……まさかきみが?」
そのひとことで、まわりは時間が止まったみたいに、しーんと静かになった。
次の瞬間、
「ええええええっ!?」
今度はさっきとは別の意味で大さわぎ。
「いいい、一花先輩……じゃないんですか?」
「最初からそう言うてたやんか」
「一花先輩の、ふ、双子の妹さんですかっ!?」
「双子やのうて、四つ子なー」
「一花先輩といっしょに来たんじゃないんですか?」
「いや……いっしょ、ていうか」
ほんまのこと言うて心配かけてもアレやし、と思て。
そこはにごして、聞くだけ聞いた。
「一花は、ここには来てへんの?」
「来てないですけど……」
「今日行く、とか連絡もなかったんや?」
「あ、はい。たぶん……だれも聞いてないよね?」
「聞いてなーい」「聞いてないよ」「聞いてません……」――
と、女の子たちは口々に答える。
「あ、そうなんや。うち、なんやかんちがいして来てもうたみたいやわ。ごめんなー」
ははは、とごまかすように笑いながら、うちは内心あせってた。
一花、一体、今どこにおるんやろ。
会えるかわからんけど、今からでも『柿之本町(かきのもとちょう)』か『ひばり総合病院』のどっちかにかけつけたほうがええんとちがうか。
『来ていきなりやけど、用事思いだしたから帰るわ!』
って言おうとしたまさにそのとき。
リーダーっぽい、背の高い女の子が、うちの手をきゅっとにぎってきた。
「ねえ、せっかくだから、試合、見ていってくださいよ!」
ニコーッ、と笑ってその子が言うたら、たちまち、
「そうですよ」「見ていってください」――
「せっかくですから」「ぜひぜひ!」――
「一花先輩」「ううん、二鳥先輩っ!」――
二鳥先輩、やって。
正直、悪い気はせえへんかった。
「せ、せやけど、うち一花とちゃうで? みんなはそれでもええの?」
念のためそう聞いてみた。そしたら、
「もちろんですよ!」
「一花先輩に見られてるみたいで、あたしたちも気合い入るんで!」
「一花先輩の妹さんに応援されたら、勝てる気がする!」
とか言われて……結局言われるがまま、応援席の最前列で、試合観戦&応援。
「がんばれ牡丹小! いけー!」
思いきり大声出したり、点が入ったらみんなで飛びあがったり、応援って楽しいなあ。
うちも、なんやかんやでノリノリになってしまった。
あ、試合は大接戦やってんけど、なんとか勝てたで。
それにしても、うちへの歓迎(かんげい)ぶりといったらないと思わん?
正確には一花への歓迎ぶりか。
試合が終わったあとも、
「二鳥先輩の声、一花先輩とそっくりで……応援の声聞いてたら、なんだか去年にもどったみたいで……」
なんて言うて泣きだしそうな子がおったほど。
せっかくやから、何げのう、一花のことを聞いてみた。
「一花って、ミニバスやってたころはどんなキャラやったん?」
って。
そしたら、みんなの口から出てくるのは、ええことばっかり。
「一花先輩はすごい人でした!」
「一花先輩は五年生からクラブに入ったんですけど、バスケをみるみる上達させて」
「六年のときにはキャプテンもつとめてて」
「私たちが小さなことでケンカしそうになったら、間に入って仲直りさせてくれて」
「学校のいじめっこには、堂々と正面から立ちむかって」
「みんなのあこがれだったんですよ。私、今でも一花先輩が目標!」
一花って、そないみんなから信頼されてたんや。
この子らにとって、めっちゃたのもしい存在やったんや。
そう思たら、なんやうちまでほこらしかったわ。
そんなん尾行でもせんかったら、聞けへんかったやん?
あの一花が、自分から、
「私、じつは昔、ミニバスクラブのみんなにたよりにされてたのよ。すごいでしょ」
なーんて言うわけないし。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
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