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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』第9回 この人が千草(ちくさ)さん?


ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(2巻)はコチラから
 1巻はコチラから


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9 この人が千草(ちくさ)さん?

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 一花ちゃんはどこだろう。

 私は一人で、入院棟(にゅういんとう)旧館へと足をふみいれた。

 入院棟……ってことは、入院してる患者さんがいる建物、ってこと。

 入り口を入って正面にある売店にも、パジャマすがたの患者さんがちらほら見える。

 パジャマ――?

 あっ、そういえば、一花ちゃん、雑貨屋さんでルームウェアを買ってたけど。

 あれって、入院しているだれかに、パジャマとしてプレゼントするものだったのかな!?

 頭の中でパズルのピースがひとつはまって、ドキッとした。

 つまり、一花ちゃんはだれかのおみまいに来たってことだよね。

 湊くんが言ってた一階の待合席には、一花ちゃんのすがたはない。

 もうどこかの病室に行っちゃったのかな?

 案内板を見てみると、この入院棟旧館は地下一階から地上九階まであって、地階は検査室、一階は売店や待合席や受付、病室は二階から上にある、ってことがわかった。

 ……この広い入院棟で、一花ちゃんのいる病室を見つけることなんてできるのかな……?

 早くも弱気になっちゃいそうだったけど……と、とりあえず二階へ!

 私は階段を上った。

 二階につくと、ながーいろうかが、右と左、二手に分かれてる。

 ううっ、全部の階がこんな感じなのかな……。

 どうしよう?

 一階にもどって、受付で聞いてみる?

 ……ムリだよ。入院してる人の名前も、どうして入院してるのかも、私、知らないし。

 なら、ひと部屋ひと部屋、一花ちゃんをさがして歩く?

 ……それじゃ本当に日がくれちゃうよ。

 いっそ、放送でよびだしてもらう?

 ……いやいや、デパートで迷子になったのとはわけがちがうんだから……。

 自動販売機や公衆電話の置いてあるあたりで、とほうにくれてたら、

「あら、どうしたの?」

「ひゃ!」

 私、思わず飛びあがった。

 おそるおそる声のほうを向くと……そこにいたのは、若い女性の看護師(かんごし)さん。

「昨日も、おみまいに来てましたよね」

「あ……はあ…………」

 昨日もおみまいに……ってことは、看護師さん、私を一花ちゃんだとかんちがいしてるの?

「あ、もしかして、迷った?」

 気さくにそう問われて、私、反射的にこくりとうなずいていた。

「病院って広いもんね。ここは二階です。上嶋(うえしま)さんの病室は、三階の西側、3015号室よ」

 三階の西側、3015号室……!

 その言葉を、私は頭にきざみこんだ。

「あ、あの、ありがとうございますっ」

「いいえ、どういたしまして」

 看護師さんはにっこり笑った。

 でも、それから、ふいに悲しそうな顔になって……。

 私のかたをたたいて、そっと、こう続けた。

「つらいかもしれないけれど……あなたがそばにいてあげて」

 えっ?

 どういう意味だろう?

 聞きかえすこともできなくて……。

 私は看護師さんと別れ、三階の西側、3015号室へ向かった。


◆ ◆ ◆ ◆


 三階の西側、3015号室……。

 ……ここだ。まちがいない。

 部屋の入り口の表札には《上嶋千草(うえしま ちくさ)》って書かれてる。

 千草、さんって――。

 ――「ごめん、私、行かなくちゃ。千草ちゃんが……!」

 家を飛びだしたとき、一花ちゃんが言ってた人の名前だ。

 あのとき、一花ちゃんは『千草ちゃんが、入院しちゃったの』って言いたかったのかな。

 病室のとびらは、開けっぱなしになっている。

 二人部屋みたいだけど……奥のベッドは使われていないみたい。

 ということは、手前のベッドにいるのが千草さん?

 そこに、一花ちゃんもいるの?

 ベッドのまわりには、白いパーテーションカーテンが引いてあって、中がわからない……。

 ちょっとだけ近くに行ったら、話し声とか聞こえるかな?

 一歩、二歩、病室に入って、ベッドに近づいた、そのとき。

 ――シャッ

 ベッドのまわりのカーテンが、小さく開いた。

「あっ……!」

 一瞬のことで、かくれる場所なんてどこにもなかった。

 私、見つかっちゃった……!

「あれ……? どしたの、一花。花瓶(かびん)は?」

 そう言いながら、ベッドから出てきたのは、パジャマすがたの女の人。

 あ……!

 この人、あのプリクラに写ってた、長い髪の女の子だ。

 あの人が、千草さんだったんだ!

 ……って、今はそんなことより……っ。

「……あの、私、えっと……」

 どうしよう。

 一花ちゃんはこの部屋にいないみたいだけど……私、千草さんになんて答えればいいの?

 今、千草さんは私のことを「一花」ってよんだ。

 私のことを、一花ちゃんだとかんちがいしてるんだ。

 私、一花ちゃんじゃなくて、妹の……四つ子の妹のうちの一人の三風で。

 なぜここにいるかっていうと、一花ちゃんが心配で、尾行(びこう)してきたからで……。

 か、勝手に来ちゃって、ごめんなさい……。

 説明しなきゃいけないことと、あやまらなくちゃならないことが、ぐちゃぐちゃにからまる。

 私、初対面の人の前だと緊張しちゃうタイプで……。

 のどがつまって、なんだかもう、泣きそうだよ。

 千草さんはそんな私をじっと見て、なぜか、納得したような、弱々しい笑みをうかべた。

 そして、ポツリと、

「昨日は、ごめんね」

 え?

「かっこ悪いとこ見せちゃった。……びっくりしたよね。でも、そんな顔しないで。一花のせいじゃないよ」

 千草さん、私のことを一花ちゃんだって、かんちがいしたままなんだ。

 ちがうんです。私は一花ちゃんじゃない。妹の三風なんです。

 そのとき、とっさにそう言えたらよかったのに。

 でも。

「入院っていってもさ、ただの栄養失調(えいようしっちょう)だし? 一週間もすれば退院できるんだよ。だから全然平気っ」

 千草さん、よく見たら、すっごくやせてて。

 千草さんの口調は、言いにくいことを、すごくがんばってしぼりだしてるみたいで。

 そのくせ、心配かけないようにと、わざと軽い調子をよそおっているような感じもして。

 私……ついだまったまま、耳をかたむけてしまった。

「ほんとにイヤになっちゃうな。一人で生きていく、自立する、ってかっこつけて里親さんの家を出て、二か月もしないうちにこれだもん……でも、大丈夫だよっ。私、昨日は落ちこみすぎてつい『死にたい』とか言っちゃったけど、今はもう、そんなこと思ってないから」

 ……えっ……?

 死にたい?

 私…………。

 聞いちゃいけない、本当に重い話を、聞いてしまったんじゃ……。

 思わず半歩あとずさった、そのとき、

「だれ!?」

 するどい声にふりむくと、そこには花瓶を持った一花ちゃんが、おどろいた顔で立っていた。

「えっ……えっ……? ええっ!?」

 千草さんは私たちを交互に見て、目を白黒させてる。

「い……い……一花が、二人いるーっ!!」

 ごめんなさい!

 深刻(しんこく)な話をだまって聞いちゃって、本当にごめんなさい!

 もう、どうしたらいいかわからないよっ――。

「ごめんなさいっ、私、一花ちゃんじゃないんです!!」

 私、バッと頭を下げて、それだけさけぶと、千草さんの病室からにげだしてしまった。


第10回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318411

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