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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』第8回 思わぬ遭遇(そうぐう)


ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(2巻)はコチラから
 1巻はコチラから


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8 思わぬ遭遇(そうぐう)

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 四月ちゃんが柿之本町でおりた、そのすぐあと。

「うち、市立体育館に行くわ。だって一花は小学生のときミニバスケットボールやってたって言うてたし、市立体育館と、何か関係があるかもしれへんやん?」

 って推理して、二鳥ちゃんは市立体育館前でバスをおりることになった。

「う、うん、がんばって! じゃあ、私、残ったひばり総合病院に行くね」

「たのむで!」

 二鳥ちゃんを見送ったら、私、とうとう一人になっちゃった。

 私の担当は、病院かぁ。

 一花ちゃんがいる可能性は、あまり高くなさそうだけど……。

 それでも、できるだけのことはしなくちゃね。

 私は、変装用のマスクを、スチャッ、とつけて。

『ひばり総合病院前』でバスをおりて、歩道に一歩ふみだして。

 よし、一花ちゃんをさがすぞ。

 って、気合いを入れて、病院のほうを、くるっとふりむいたんだけど……、

「え……っ」

 思わず絶句(ぜっく)。

 ひばり総合病院って、こんなに広いの……!?

 建物がいくつも連なっていて、そのひとつひとつがすごく――学校の校舎よりも大きい。

 とりあえず、一番近くの建物にかけこんで、案内板を見てみた。

 今、私のいる、ここが外来棟(がいらいとう)。

 となりに建っているのが、入院棟(にゅういんとう)新館。

 奥のほうに建っているのは、別院。

 道をはさんで少し離れたところにあるのは、入院棟旧館。

 この中から、どうやって一花ちゃんをさがしたらいいんだろう?

 というか、そもそも一花ちゃんはいるの……?

「いきなり、ピンチだよ……」

 外来棟の受付には人がいる。

 聞いてみようかな?

 でも、なんて?

 自分の顔を指さして、

「あの、私と同じ顔の女の子がここに来ませんでしたか?」

 なーんて、いやいやいや、ムリムリムリ……。

「はぁぁ……どうしよ……」

 困ってうつむいていたら、

「あれ、三風ちゃん?」

 声にハッと顔を上げると、そこにいたのは――、

「みっ、湊(みなと)くん!?」

 はねた髪に、明るい笑顔。

 ク、クラスメイトの、野町(のまち)湊くんだ……!

 思いもよらない遭遇(そうぐう)に、私の頭は真っ白。

「……み、湊くん、どうしてここに……? あっ……昨日『家族でばあちゃんに会いに行く』って言ってなかったっけ……?」

 なんとかそうたずねると、

「うん。そうだよ。ばあちゃん、ちょっと前から検査入院しててさ。やっと退院だから、今日は家族でおみまいとお手伝いに。今、母さんと父さんが、何かの手続きしてるみたい」

「あ……そうなんだ」

『ばあちゃんに会いに行く』って、そういう意味だったんだ。

 私、てっきり家族でいなかのおばあちゃんの家に行くんだろうって、かんちがいしてた。

 納得したところで、湊くんのみけんに、急にしわがよった。

「三風ちゃん、マスクしてるけど、カゼ? 大丈夫?」

 わわっ、本気で心配されてるみたい。

「う、ううん、ちがうの……」

「じゃあ、もっとほかの病気……?」

「ううん! えっと、これはただの花粉症で……く、くしゅんくしゅん! あっ、でも、花粉症で病院にかかってるわけじゃないの。本当に大丈夫だよっ」

 ううっ、ごめんなさい、ウソです……。

 とっさにクシャミのふりまでしちゃった。

 心配かけちゃった手前、良心がズキズキ痛む。

「あ、そうなんだ。でも、花粉症も大変だよね。うちの妹もズルズルやってるよ。最近はヒノキの花粉が飛んでるんだって」

「へ……へえ〜……。……そうなんだ」

 私、花粉症なんて、本当は一度もかかったことがない。

 だましてるのがもうしわけなくて、うまく受けこたえできないよ。

 すると、湊くんは話題を変えるように、さらりとこう言った。

「そういえばさっき、あっちの入院棟で、三風ちゃんの姉妹の子を見かけたけど――」

 えっ!?

「ほっ、本当!?」

 そ、それって一花ちゃんじゃない?

 私がすごいいきおいで食いついたので、湊くんはちょっとびっくりしちゃってる。

「う、うん……たぶん、見まちがえとかじゃないと思う。三風ちゃんも、今日は家族で、だれかのおみまいに来たの?」

 そうなのおみまいなの、って、ごまかすことはできる。

 だけど、そうしたらきっと『だれのお見舞い?』って湊くんは聞くだろうし……。

 そうしたら、きっとまた何か別のウソをつかなきゃならなくなる。

 ウソをかくすためにウソを重ねて、心配されたり気づかわれたり……。

 大切な友達の湊くんに、いつまでこんなことするつもりなの?

 これ以上ウソをつくのは、心が苦しいよ。

「……湊くん」

 私、きゅっとこぶしをにぎりしめて、痛む胸をおさえた。

「ごめんなさい。じつは……じつはね」

 言いながら、そっとマスクをはずす。

「このマスク、花粉症じゃなくて変装なの。私たち……一花ちゃんを尾行(びこう)してるんだ」

「えっ、尾行?」

 目を真ん丸にした湊くん。

 私はかまわず、全部打ちあけた。

 昨日、一花ちゃんが家を飛びだしてしまったことも。

 朝から一花ちゃんの様子がおかしかったことも。

 心配になって尾行したことも。

 今は、姉妹で三手に分かれて、一花ちゃんをさがしていることも。

「そうだったんだ……」

 すぐに本当のことが言えなくて、ごめんね、湊くん。

 しょんぼり、うつむいてしまった私だけど、

「それは、心配だよね。わかった。案内するよ。あっちだよ!」

「えっ……!?」

 湊くんは全然気にしていないみたい。

 すぐに、たのもしい早足で歩きだしてくれた。


 私たちは外来棟を出て、入院棟旧館のほうへと向かっていた。

 きれいに整備された広い歩道には、プラタナスの木が等間隔(とうかんかく)に葉をしげらせている。

「にしても、あのまじめそうな一花さんが急に家を飛びだしたなんて……お母さんやお父さんも心配してるでしょ」

 歩きながら、湊くんは言った。

 お母さんやお父さんも心配してる――か。

 そう考えるのは自然なことだよね。

 でも、うちにはお母さんもお父さんもいない。

 私たち四姉妹は、あの家で、子どもだけでくらしてる……。

 そんな本当のことは……やっぱり、言えない。

 もうちょっとなのに、勇気が出ない。

 どうして、言えないんだろう。

 私、じっとだまってしまった。

 せっかくできた、明るくて優しい友達なんだもの。

 私、湊くんと、もっと仲よくなりたい。

 仲よくなりたいと思っていればいるほど、相手には本当の自分を知ってほしい。

 本当の自分を知ってもらえないままだと、今みたいに、心の距離が空いちゃう。

 それって、とてもさみしいこと。

 でも、仲よくなりたいと思っていればいるほど、本当の自分を知ってもらうのはこわい。

 だって……どうしたって思うから。

 本当の自分を知られて、きらわれたりしたらどうしよう、って。

 本当の、自分――。

 ――「本当の私のことなんて、なんにも知らないくせに……!」

 ふいに、一花ちゃんの言葉がよみがえった。

 一花ちゃんも、もしかして、今の私みたいな気持ちだったのかな……?

 湊くんは、だまってしまった私をちらりと見て、心配そうにまゆを下げた。

 たぶん、『三風ちゃん、一花さんが心配なんだ』って判断したんだろうね。

 それ以上は、何も聞かれなかった。

 

 それから、歩くこと、一、二分。

 やっと入院棟の旧館が見えてきた。

 門の奥にあるのは、年季(ねんき)の入った大きな建物。

 庭には、歩道と同じように、プラタナスの並木が数メートル続いてる。

「三風ちゃんの姉妹を見かけたのは、あの建物の一階だよ。その子、待合席で、ぼーっと座ってたんだ。パッと見ただけだったから、姉妹のだれかまではわからなかったけど……」

 と湊くん。

 そっか、私たちってそっくりだから、だれなのかまでは、わからなかったんだね。

 …………って。

 あれっ……?

 私、入院棟に向かって歩きながら、ななめ前にいる湊くんにたずねた。

「湊くん、さっき外来棟で会ったとき、私が三風だって、パッと見てすぐにわかったよね? しかも私、変装してたのに……どうして?」

 湊くんも歩きながら答える。

「どうしてだろ? いつも見てるからじゃないかな?」

 ――え?

「あ……」

 どちらからともなく、私たちは足を止める。

 五月の風がざわっと通りすぎ、プラタナスのこもれ日が、二人をつつんできらきらとゆれた。

「あ、あのっ、いつも会ってるからって意味だよ、教室で! カメラやってるから、観察力が人より高いんだよ、たぶん。ふんいきとかで、三風ちゃんはわかるんだ」

 って、湊くんは照れたような早口。

「えへへ」って、困ったように笑ってる。

 私……胸が急に高鳴りだした。

 心の奥が、日なたみたいにあったかい。

 湊くんは、まだ本当の私を知らない。

 でも、パッと見ただけで私を見分けられちゃう。

 私の見た目やふんいきは、きっとだれより細やかに知ってる。

 それって……すごくうれしい。

 私のことを、見ててくれてるんだ。

「……湊くんは、だれでしょうゲーム、きっと一番強いね」

 ホッとした気持ちになったら、そんな言葉が口から出ちゃった。

「だれでしょうゲーム?」

「うん、そう。だれでしょうゲーム。二鳥ちゃんが考えたゲームなんだ。ルールはね─」

 簡単にだれでしょうゲームの説明をすると、湊くんは楽しそうな笑顔を見せた。

「へえ、そんなゲームしてるんだ。すっごく面白そう! 三風ちゃんたち、お母さんやお父さんでも見分けつかなそうなくらい、そっくりだもんね」

「お母さんとお父さんは家にいないの。私たち、姉妹四人だけでくらしてるんだ」

 まるで、すった息をはくような自然さで。

 私、気がついたら打ちあけていた。

 でも『しまった!』とは、ふしぎと思わなかった。

 つっかえていた言葉が、風にほどけるようにスルッと出て、すがすがしいくらいだった。

 言ってしまってから、『湊くんになら打ちあけても大丈夫』って思ったの。

 ううん。

 無意識に、『湊くんになら打ちあけても大丈夫』って思ってたから、口が動いたのかな。

「えっ、子どもだけでくらしてるの?」

 湊くんはまじめな顔。

 私も同じくらいまじめな顔でうなずく。

「どうして? ……お仕事で、出張とか?」

「えっと……どうしてか、っていうと……――」

 ――ピリリピリリ……

 ふいに、湊くんのスマホが鳴った。

「あ、母さんからメッセージだ」

「わ、ごめん、こんな遠くまで案内してもらっちゃって」

「全然いいんだよ。気にしないで。……だけどごめん、俺、もうもどらなきゃ」

「そっか……」

 施設で育ったってことも、中学生自立練習計画のことも……。

 聞いてほしいことはいっぱいあるけれど、全部話すには、ちょっと時間が足りないみたい。

「あの……いつか、いつか絶対、どうして私たちが子どもだけでくらしてるかってこと、話すから、それまで待っててくれる……? あっ、それから、学校のみんなには、このこと、ナイショにしてほしいんだけど……」

 勝手なことばかり言ってごめんね……。

 もうしわけなくて、下を向いちゃった。

 だけど、

「わかった。だれにも言わないよ。二人のヒミツだね」

 ゆっくり顔を上げると、湊くんは優しくほほえんでくれていた。

 彼の笑顔は、お日さまみたい。

 遠くにあっても、明るさもあったかさも、ちゃんと私にとどくから。

「三風ちゃん、この先一人で大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。ありがとう、湊くん」

 私たちは手をふって別れた。

 入院棟旧館の入り口へ向かう、私の足取りは軽い。

 いつか絶対、胸を張って本当のことを言おう。

 それから、いつか絶対、湊くんもいっしょにだれでしょうゲームをするんだ。

 ちょっとだけだけど、私たちの事情を知ってもらえて、心がうんと楽になった。

 仲よくなりたい人に、本当の自分を知ってもらうのって、勇気がいる。

 だけど、こんなに心地いいことだったんだね。


第9回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318411

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