
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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7 名探偵四月ちゃん
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一花ちゃんを乗せたバスを追いかけて、二鳥ちゃんは走って、走って、走って、走った!
私と四月ちゃんも、そのうしろでせいいっぱい走った。
だけど、車に追いつけるわけもなく……。
「あぁ〜……! 尾行(びこう)、失敗や〜!」
二鳥ちゃんはずっと先の歩道で地団太(じだんだ)をふんでる。
さすが、俊足(しゅんそく)……。
二鳥ちゃん、五十メートル走のタイムが、姉妹で一番速いんだ。
それに、あんなに猛ダッシュしたのに、まだまだ元気そう。
反対に、私はヘトヘト。
四月ちゃんは、もうフラフラ。
「「……ハァ……ハァ……ハァっ…………」」
かたで息をしながら、やっと二鳥ちゃんのいるところまでたどりついた。
でも……一花ちゃんの乗ったバスは、もうカゲも形もない。
尾行、失敗しちゃった……。
結局、一花ちゃんの身に何が起きたのか、わからないままだよ。
しゅんとかたを落としたそのとき。
「……あ…………あきらめるのは、まだ……早い、です」
となりから、とぎれとぎれに四月ちゃんの声が聞こえた。
私と二鳥ちゃんは、ふしぎに思って彼女のほうを向く。
「まだ早い……て、せやけど、一本おそいバスで追っかけたかて、一花、どこでおりてるかわからへんねんで?」
「だから……推理するんですよ」
四月ちゃんはゆっくり顔を上げた。
同時に、メガネの奥にある目が、スッと細くなる。
「ひとまずバス乗り場までもどりましょう。話はそれからです」
◆ ◆ ◆ ◆
バス乗り場までもどった四月ちゃんは、時刻表と路線図を見上げてる。
「さっきのバスは、十四時四十二分発、黒葉山(くろばやま)方面行き。停留所(ていりゅうじょ)は十五か所です。その中から一花姉さんの行きそうな停留所を推理するんです」
「で、でもどうやって?」
推理っていったって、手がかりはゼロだ。とてもムリなことのように思える。
だけど、四月ちゃんは人差し指をピンと立て、かすかにほほえんだ。
「いくつかヒントがあったじゃないですか。まず、一花姉さんが、さっきのバスの、一番うしろの窓ぎわに座っていたこと」
「え? それが、なんのヒントなん?」
「公共の乗り物に乗るとき、本来なら一花姉さんは、ほかの人のために立っているはずです。しかし、座ったということは、立っていると、これから乗って来る人やおりる人のジャマになる可能性がある……ウラを返せば、姉さんは終点近くまで乗っている可能性が高い、ということ」
「「おおっ……!」」
私と二鳥ちゃんは同時に声をもらした。
すごいっ……そこまでわかっちゃうなんて!
「せや、たしかによう考えたら、一花、電車では席が空いてても立ってたし!」
「うん! 一花ちゃん、どこに行くにも、三十分くらいなら平気で歩いちゃうから、すぐ近くの停留所でおりるってことは、まずないんじゃないかな」
四月ちゃんは「そのとおりです」と言うように小さく笑ってうなずいた。
「次に、一花姉さんはショッピングモール内のベンチに座っていました。それは黒葉山方面行きのバスを待つためだったんですよ。ということで、さらに停留所がしぼられます」
「ご、ごめん……何が『ということ』なのか、さっぱりわからないんだけど……」
「うちも……」
「ええっと……ここの停留所を通るバスは三系統。その中で黒葉山方面行きは一番本数が少ないバスなんです。もしほかのバスでもたどりつける停留所なら、そちらに乗るはず。だけど、姉さんはわざわざ黒葉山方面行きのバスを待っていた。つまり、一花姉さんが向かったのは、ほかのバスが通らず、かつ終点に近い停留所のはず…………となると――」
四月ちゃんはバスの路線図を穴が開きそうなほど見つめた。
二つの瞳はどこまでも静かに、深く深く澄んでいる。
答えを弾きだそうと、ものすごい速さで頭が回転している音が聞こえるみたい─。
私がごくっとツバを飲みこんだそのとき。
四月ちゃんのくちびるが開かれた。
「――可能性が高い停留所はこの三つ。『柿之本町(かきのもとちょう)』『市立体育館前』『ひばり総合病院前』!」
四月ちゃん、名推理!
「すごいっ!」
「シヅちゃん、やっぱし天才や!」
私と二鳥ちゃんは、四月ちゃんに拍手をおくった。
数分後、やってきたのは、お目当ての黒葉山方面行きのバス。
「乗りましょう」
私たちは四月ちゃんを先頭に、次々にバスへと乗りこんだ。
そうだ。あきらめるのはまだ早い。
私たちが協力すれば、きっと、一花ちゃんの真実にたどりつける。
◆ ◆ ◆ ◆
「さて、とはいえや。三か所も順番に回ってたら日ぃくれてまうわ。ちょうど三人おるんやし、三手に分かれようさ」
バスの座席に座ってゆられながら、二鳥ちゃんは言った。
「ええ、そうしましょう」
と四月ちゃんも同意。
だけど私は……、
「ええっ、こ、この先、一人になっちゃうの……?」
とたんに不安になってきちゃった。
だって、今から行くのは全然行ったこともない場所なんだもん。
バスで知らない道を進んでる今ですら、じつはちょっと不安なくらいなのに……。
「大丈夫やって。バス停の位置さえ覚えてれば、帰ってこられるわ」
「そ、そうかなぁ……」
私、施設でくらしてた小学生のころは、バスも電車も数えるほどしか乗ったことがなかった。
だから、今日一日で、本当に大冒険した気分だよ。
――次は、柿之本町、柿之本町です……
アナウンスが車内にひびく。
「ここは僕がおりましょう」
ピンポン、と、四月ちゃんは降車ボタンをおした。
「そういうたら、『市立体育館前』と『ひばり総合病院前』は、まあわかるけど、『柿之本町』には何があるん?」
二鳥ちゃんがたずねると、四月ちゃんは当たり前のことのように答えた。
「一花姉さんの、里親さんの家ですよ」
「「ええっ!?」」
二鳥ちゃんと私、びっくりしてさけんじゃった。
「せやったら、一花がおる確率、一番高いんちゃう?」
「あっ、でも住所! 住所がわからないと――」
「問題ありません。頭に入ってますから」
四月ちゃんはすまして答える。
「……四月ちゃん、一花ちゃんの里親さんの住所なんて、いつ知ったの……?」
「以前、里親さんから、一花姉さんあてに手紙が来たことがあったでしょう? あのとき、書いてあった差出人の住所を覚えていたんですよ」
「あぁ、あのときの……!」
私は思いだす。
四月の半ばごろ、一花ちゃんに、里親さんから手紙が来たんだ。
封筒には……たしか、
――《千草(ちくさ)からの手紙を転送します》
とか書かれてたっけ。
あの手紙を受けとったあと……。
一花ちゃんは、夜中にふらっと散歩に行っちゃったりして、なんだかちょっと変だった。
でも、同時に来た、お母さんを名乗る人からの手紙のほうが気になって……。
一花ちゃんの手紙のことは、つい何も聞かないままにしちゃったんだ。
そういえば……。
一花ちゃん、昨日、家を飛びだしたときも、
――「千草ちゃんが……!」
ってつぶやいてた気がする。
千草さんって、だれなんだろう。
一花ちゃんが、里親さんのお家にいたころの友達かな?
と思ったときには、バスは柿之本町の停留所に停車して、
「それでは、姉さんたち、健闘を祈ります」
足取り軽く、四月ちゃんはバスをおりていった。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
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