
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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6 見失っちゃった!
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ルームウェアのナゾはひとまずおいておいて。
私たちは一花ちゃんの尾行(びこう)にもどった。
一花ちゃんは、さっきからショッピングモール一階のベンチに座ったまま。
正面にある掲示板を見つめて、ぼんやりと何かを考えこんでいる様子。
「一花、何見てんのやろ?」
「さあ……? この角度からじゃ、わかりませんね」
一花ちゃんは時々、腕時計を見て時刻を確認している。
何かを待っているのかな?
と思った、次の瞬間、
――バラバラバラッ!
立ちあがりざま、一花ちゃんはカバンを盛大にひっくりかえした。
ファスナーが全開のリュックを、逆さに持ちあげちゃったんだ。
こんな失敗、ふだんはしないのに……。
やっぱり、一花ちゃん変だよ。
「まあまあ、あらあらあら」
一花ちゃんのとなりに座っていた優しそうなおばさんが、カバンの中身を拾いあつめるのを手伝ってくれているみたい。
私たちも出ていって手伝ってあげたいけど……ここはぐっとガマン。
一花ちゃんはおばさんにお礼を言って、リュックをせおい、ベンチを立った。
そのあと、私たちはすぐその場にかけよった。
一花ちゃんが何を見ていたのか、チェックしておかなきゃ、って思ったんだ。
何かの手がかりになるかもしれないからね。
さっきまで一花ちゃんが見つめていたもの。
それは……一枚のポスターだった。
《クワトロフォリアはチャリティーを応援しています》
「「「あっ、クワトロフォリア!」」」
私たちは同時に声をあげた。
クワトロフォリアは、中学生自立練習計画に寄付(きふ)をしてくれている、大企業なんだ。
寄付のほかにも、新生活祝いとして、私たちにおそろいのワンピースをプレゼントしてくれた。
――「いつかクワトロフォリアさんに直接お礼を言いたいわね」
――「社長さんに電話してみたらええんちゃう?」
――「えぇえ、そ、それはちょっと……」
――「大企業の社長さんなんて、雲の上の人、って感じがします」
なんて、前に姉妹で話してたこともあって。
私たち三人の視線は、クワトロフォリアのポスターにくぎづけになった。
「へえ、この人が社長さんかぁ」
二鳥ちゃんが指さしたところには、社長・四ツ橋(よつばし)松太郎(しょうたろう)さんの顔写真がのっている。
短い髪に、きりっとしたまゆ。まじめそうな瞳。
歳は、四十代半ばくらいかな。
「思ったより若い人なんだね」
私が感想を言うと、
「最近、社長に就任(しゅうにん)されたばかりなんですよ。ほら、ここに書いてあります。……最近は、若手経営者として、テレビCMや情報番組などにも出演されているみたいですね」
って四月ちゃんが教えてくれた。
「へぇ。有名人なんだ」
私、クワトロフォリアには本当に感謝してるんだ。
だって、私たちが四人いっしょにくらせるようになったのは、この会社のおかげなんだもの。
施設の先生から初めてそれを聞いたときは、寄付の金額の多さに、本当にびっくりしたなぁ。
…………そうだ。
私、あのとき……。
クワトロフォリアのチラシを見て、それで何かとてもかわいいものに心をひかれた気がする。
何かとてもかわいいものって、なんだっけ……?
何かが……記憶の底に、引っかかってる。
単にかわいいだけじゃなくて……。
すごく、大切なことのような気がするんだけど……。
何かを思いだせそうで、もっとじっとポスターを見ていたかったけど、
「あぁ、ねえ、あなた!」
急によびかけられて、ビクッ。
私たちはいっせいに声のほうを向いた。
そこにいたのは、さっき一花ちゃんのカバンの中身を拾いあつめてくれたおばさんだった。
「よかったわぁ。もどってきてくれて」
え……? おばさん、私に話しかけてる?
あっ、そっか。
私、髪型、ポニーテールのままだから、また一花ちゃんだと思われてるんだ。
「これ、さっきあなたがカバンから落としたんじゃない? そこのカドで拾ったの。ずいぶん遠くまで飛んでっちゃってたわね」
そう言ってわたされたのは、フタにびっしりプリクラがはられた、小さなコンパクトミラー。
おばさんは「それじゃあね」とえしゃくして去っていった。
私たち三人は、そのコンパクトミラーをのぞきこむ。
「これ、一花姉さんが友達ととったプリクラみたいですね」
「うん。一花ちゃんが写ってるから、まちがいなく一花ちゃんのものだよね」
「あぁ……! なんやなつかしいわぁ」
声を高くしたのは二鳥ちゃん。
「うちの小学校のときの友達も、似たような鏡にプリクラびっしり貼ってたわ。鏡のフタのウラまで、プリクラでびっしりちゃう?」
二鳥ちゃんに言われ、コンパクトミラーのフタを開くと……。
そこにもプリクラが、たった一枚、はられてた。
写っているのは、長い髪の活発(かっぱつ)そうな女の子と、短い金髪の不良っぽい女の子。
「この二人、だれでしょう?」
「わかんない、けど……このコンパクトミラー……なんだか、あれみたいじゃない? 大切な写真を入れて、首から下げておく……」
「「ロケットペンダント?」」
「それ!」
私は大きくうなずいた。
「僕にも見せてください」
「あ、うん」
私がコンパクトミラーをわたすと、視力のあまりよくない四月ちゃんは、プリクラに顔を近づけて、じっと見つめた。
「そのプリクラの人……きっと、一花ちゃんにとって、大切な人なんじゃないかな?」
ロケットペンダントって、大切な写真をいつでも見られるように入れておくものだから……。
なんて考えていたそのとき。
四月ちゃんが、ハッ、と息をのんだ。
「一花姉さんは!?」
あっ!
「「あぁーっ!?」」
大変だ!
ポスターやコンパクトミラーに気を取られて、一花ちゃんのことを忘れてた!
どこ? どこ? どこだろう?
三人で、あたりをすばやく見回す。
さっき雑貨屋さんの前で一花ちゃんを見失いかけたときは、案外すぐ近くにいたし。
今度もすぐ見つかるんじゃ……なんて思っていたけど、いない……!?
「ああーっ!」
絶望的な声をあげ、二鳥ちゃんが指さしたのは、ガラスの自動ドアの向こう。
そこに停車してるバスの中!
一番うしろの席の窓ぎわに、一花ちゃんは座ってる……!
「「「待って!!」」」
お願い! 間にあって!
私たちは全力で走る。
でも、願いむなしく─。
――ブロロロロロロロ……
一花ちゃんを乗せたバスは、発車して。
あっという間に、ショッピングモールのロータリーから走りさってしまった。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
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