
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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5 変身と潜入
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一花ちゃんは、ショッピングモールの売り場をあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
いかにもうわの空って感じだし、だれかと合流する様子もない。
やっぱり、ただのショッピングじゃないみたい。
「あ、あの服かわいい……! うわ何あれ、おいしそう……!」
二鳥ちゃんは早くも華やかな売り場に目をうばわれ、
「遊びに来てるんじゃないんですよー」
と、そのたびに四月ちゃんにたしなめられて、
「えー……」
なんて口をとがらせている。
いつもなら、二鳥ちゃんをたしなめるのは一花ちゃんだ。
一花ちゃん相手になら「ちょっとくらいええやん、ケチ」とか、にくまれ口をたたくのに……。
相手がかわいい妹だと、言いかえせないのかな?
四月ちゃんは四月ちゃんで、以前の内気な様子からは考えられないくらい、しっかりしてる。
好きな推理小説みたいなことをしてるから、こんなにいつもとちがうのかな?
それとも、これが本来の性格なのかな?
二人とも、いつもとちょっとずつちがってて、なんだかドキドキするよ。
◆ ◆ ◆ ◆
一花ちゃんは、今、ショッピングモール一階の雑貨屋さんに入ってる。
私たちはお手洗いに通じるろうかの入り口で、そのお店を見張ってる。
「見て、一花ちゃんが出てきたよ!」
私は小声でよびかけた。
「あっ! 一花、お店の紙袋持ってるやん」
「一花姉さん、あのお店で何かを買ったんですね」
二鳥ちゃんと四月ちゃんも小声で推理する。
何を買ったんだろう?
何を買ったかがわかれば、手がかりになるかもしれないけど……。
と思ったときにはもう、二鳥ちゃんはそのお店にタッとかけだして、
「すみません! さっきの女の子が何を買うたか教えてもらえませんか?」
わわっ!
て、店員さんに声かけてるよっ。
「ちょ、ちょっと二鳥ちゃん……!」
「待って、三風姉さん」
お店に入ろうとした私の服を、四月ちゃんがきゅっとつかむ。
「僕ら、変装しているとはいえ、まじまじ見られれば顔が同じだとわかってしまいます。ヘタに目立つのはさけたい……それより一花姉さんを……!」
「そ、そっか!」
私たち二人は、あわてて一花ちゃんを追った。
あれっ? 一花ちゃん、どこ?
……み、見つからないよ……!
まさか見失っちゃった……!?
ヒヤッと心臓が冷たくなった。
……と思ったら。
すぐ近くの休憩(きゅうけい)スペースのベンチに、一花ちゃんはちょこんとこしかけてる。
な、なあんだ、そこにいたんだ。
あぁよかった……。
四月ちゃんと二人、胸をなでおろしたとき。
雑貨屋さんから、二鳥ちゃんがもどってきた。
「あかんわ。店員さん、一花が何買うたか教えてくれはらへん」
「そっか……」
「やっぱり、ですか」
予想はしてたけど、店員さんって、お客様の買ったものを他人に教えたりしないんだね。
何を買ったかつきとめるのは、あきらめるしかないのかなぁ。
そう思ったとき、
「せや!」
二鳥ちゃんが何かひらめいたように手を打ち、急に、私をじっと見つめた。
「へ? ど、どうしたの?」
「うんうん、これやったらいけるわ」
二鳥ちゃんの目、キラーンとかがやいてる。
「三風ちゃん、ちょっと来て! シヅちゃんは一花を見といてな」
「えっ、な、何〜!?」
私はそのままぐいぐい、二鳥ちゃんにお手洗いまで引っぱられていって――!?
「…………い、一花ちゃんに見える、かな?」
お手洗いから出てきた私が、その場でおずおずと一回転してみせると、
「一花や!」「一花姉さんだ!」
二鳥ちゃんと四月ちゃんは同時ににやり。
私、今日はたまたま、一花ちゃんと似た服を着てたんだ。
髪を一花ちゃんと同じポニーテールに結って、顔をかくしていたマスクを取る。
すると……。
私は一花ちゃんに変身できちゃった、というわけ。
「ふふん、忘れたらあかん、うちらは見分けがつかへんくらいそっくりな四つ子なんやで!」
「ええ。一花姉さんになりきれば……! 三風姉さん、もっと一花姉さんっぽく、堂々とふるまってみてください。だれでしょうゲームのときみたいに」
「ほ、本当にバレないかな?」
「バレへんバレへん。三風ちゃん、潜入捜査(せんにゅうそうさ)、がんばって!」
ぐいっ、と手を引かれ、トン、と背中をおされて。
私、さっきの雑貨屋さんに入っちゃった!
「あら」
わわっ、店員さん、すぐに気づいて、こっちに来た!
「いらっしゃいませ。先ほどお買いあげいただいたお客様ですよね。いかがされました?」
「え、ええっと、あのっ……」
ななな、何を言うか決めてなかったよ……!
今、私は一花ちゃんなんだから「何を買ったんですか?」なんて聞くのは変だよね?
「あ、あの、えっと、さっき、買った商品なんですけど……」
「はい」
「その……同じもの、って……」
「色ちがいやサイズちがいをおさがしでしょうか?」
「そ、そう、なんです!」
「でしたら、こちらにございます」
あぁ、心臓がドキドキしてる。
だけど、だいじょうぶ、ちっともバレてない。
店員さん、私のことを一花ちゃんだって、すっかり思いこんでるみたい。
本当に私たちって、顔だけはそっくりなんだなぁ。
「どうぞ、ごゆっくりごらんください」
店員さんが私にほほえみかけた。
案内された先にあったのは――、
「……へ?」
パステルカラーのふわもこ生地で作られた、上下セットの服。
……ルームウェア?
これって、ルームウェアだよね?
たしか、一花ちゃん、
――「ルームウェアとか、部屋着とか、わざわざ買うのはお金のムダじゃないかしら」
って、この前言ってた。
言葉通り、一花ちゃんの部屋着は、ミニバス時代のTシャツとハーフパンツだ。
一花ちゃん、どうしてルームウェアなんて買ったんだろう……?
自分用、なのかな?
それとも……だれかにプレゼントするのかな?
ふしぎに思いながら、私はお店を出て、二鳥ちゃんたちと合流した。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
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