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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』第4回 変装と追跡


ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(2巻)はコチラから
 1巻はコチラから


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4 変装と追跡

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 午後一時。

 お昼ごはんを食べおわり、片付けもすんだころ。

「行ってきます……」

 一花ちゃんは半分ため息みたいな声でつぶやいて、家を出た。

「いってらっしゃーい」

 何げないふうをよそおい、一花ちゃんを見送ったあと、私たちはさっそく行動を開始。

 サングラスやぼうし、マスクなどで顔をかくし、すばやく一花ちゃんを追いかける。

 一花ちゃんは、小学生のとき、ミニバスケットボールの選手をしていたらしいの。

 だから、けっこう体力があるし、ふだんから歩くのも速くって。

 おくれて家を出た私たちが、追いつくのはむずかしいんじゃない?

 って心配してたんだけど、

「あ、おった! 一花や」

 一花ちゃんは予想よりずっとのろのろ歩いていたので、簡単に追いつくことができた。

「一定の距離をたもったまま、そっと追跡しましょう」

 見なれた住宅街を、足音を消して、そろりそろり。

 私たち三人の妹は、バレないようにこっそりと、一花ちゃんのうしろすがたを追いかける。

 こんなこと、本当にしていいのかなぁ。

 一花ちゃんに見つかって「何してるの!」っておこられたらどうしよう。

 一花ちゃん、ふだんは優しいけど、おこったときはすっごくこわいんだ。

 それに、どこに行くかもわからないのに……。

 知らない街までついて行って、迷子になったらどうしよう。

 不安な私と対照的に、二鳥ちゃんと四月ちゃんはやる気満々だ。

 歩く一花ちゃんを目で追いながら、時々、電柱のカゲとかにササッ、とかくれたりして……。

 ……それってかえって目立たない?

 大丈夫かなぁ……?

 

 やがて、住宅街をぬけ、駅前にやってきた私たち。

「あ、一花、電車に乗るみたいやで」

 二鳥ちゃんの言うとおり、一花ちゃんは駅に入り、券売機できっぷを買っている。

「どこまでのきっぷ買うたんやろ? あぁもうっ……ここからやとわからへんわ……」

「そ、そうだね……わからないね」

 やっぱりこれ以上の追跡はムリだよ。

 一花ちゃんに何があったかは気になるけど……尾行なんてやめたほうがいいんじゃないかな。

 そう言おうと口を開いたら、

「問題ありませんよ。一番安いきっぷを買って、一花姉さんのおりる駅で乗りこし精算すればいいんです。行きましょう」

「なるほど! シヅちゃんやっぱし天才やわ!」

「えぇ〜〜……っ」

 私、がっくりとかたを落とした。

 やっぱりついて行くしかないみたい……。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 ――ゴトンゴトン、ゴトンゴトン……

 電車の規則的なゆれ。

 席は空いているのに、一花ちゃんは立ってつり革を持ち、流れる景色をぼんやりとながめてる。

 そんな一花ちゃんを、私たちはとなりの車両から、じっと観察している。

 この位置からなら、気づかれることも、うっかり見失ってしまうこともなさそうかな。

「ふぅ。ここまで全然バレてへん。やっぱし、うちの考えた変装がよかったからやわ」

 二鳥ちゃんは得意げだ。

 たしかに、私たちは、ちょっとこった変装をしてる。

 二鳥ちゃんは、ボヘミアン柄の大人っぽいマキシワンピースにサンダル。

 髪型はおだんごで、色のこいサングラスで顔をかくしてる。

 レジャーに出かける高校生、っていう設定だ。

「普通の服にサングラスやと目立つやろ? でもこういう感じの、リゾート地に着ていくようなワンピースやったら、サングラスとコーディネートばっちりで、まったく不自然ちゃうわ」

 私は反対に、まるきりのふだん着。

 グレーのパーカーにデニムパンツ。

 髪をひとつにひっつめて、マスクで顔をかくしてる。

 花粉症でまいっている人、っていう設定。

「顔見られそうになったら、クシャミしたり、目をこするふりしてごまかせるやん?」

 四月ちゃんは小学校の制服を着て、髪型はかわいく、両サイドに細い三つ編み。

 顔をかくしているのは、金色の校章がししゅうされた、白い学童帽(がくどうぼう)だ。

 連休だけど、学校で集まりがある小学六年生、っていう設定なんだ。

「昔着てたうちの制服、よう似合うてる。シヅちゃんはほっそりしてるから、まだ十分小学生で通るわ。えりがつまってるから、首のうしろの傷あとも見えへんよ。安心しい」

 二鳥ちゃんは落ちつきなく、私の手をにぎったり離したり。

 大人っぽいかっこうをしてるけど、中身は二鳥ちゃんのままだなぁ。

「こんなにかわいい制服……本当に借りてよかったんですか……?」

 四月ちゃんはソワソワしてる。

 制服は、チャコールグレーの三段フリルになったスカートに、同色のブレザー。

 赤い、小さなネクタイリボンまでついている。

「たしかに……すっごくかわいいよね。二鳥ちゃんが好きなアイドルの衣装みたい」

「というか、二鳥姉さん、私立の小学校だったんですね」

「えっ、私立だったの?」

「せやで。聖ヨフネ学園初等部。毎朝、お祈りの時間があったわ」

 さらっと二鳥ちゃんは言うけど……。

 私立小学校に通ってたなんてすごいなぁ。

 うすうす感じてたけど、二鳥ちゃんが養子になってたお家って、お金持ちだったのかな?

 二鳥ちゃんの部屋に積んであった段ボールの中身、あれ、全部洋服だったんだ。

 そのおかげで、一花ちゃんの目にふれたことのない服を着られた――。

 つまり、バレにくい変装ができた、ってことなんだけど。

 あんなにたくさん洋服を買ってもらえたなんて、ちょっとうらやましいや。

 尾行(びこう)をすると決まったときだって、

 ――「交通費はうちが出すわ。昔もらったお年玉、ちょっと残しててん。これで足りるかな」

 と、自分の貯金箱からポンと一万円札を出したのも二鳥ちゃんだった。

 もし一花ちゃんが見ていたら「もったいない!」っておこっただろうなぁ。

 なんて考えてたら、車両のゆれがだんだんおだやかになっていって……。

 ――間もなく花見森(はなみもり)、花見森です。右側のドアが開きます。ご注意ください……

 アナウンスが知らない駅の名前を告げると、電車はホームにすべりこんで停車。

 プシュー、とドアが開いた。

 一花ちゃんはその音にハッと顔を上げ、タッ、とすばやく電車をおりた!

「ええっ!? おりんのかいな」

 私たちもあわててあとを追う。

 一列になって、息ぴったりに小走りする、おしゃれな高校生、花粉症の人、制服の小学生。

 変なトリオ、と、われながら少し笑っちゃった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 おりたのは、それほど大きくない駅だった。

 改札を出ると、一花ちゃんは、大きな道路沿いの歩道をまっすぐ歩いていく。

 歩く速さは、相変わらずのろい。

 重たい足取りなのが、うしろから見ているだけでもわかる。

「やっぱり、一花姉さん、少し変ですよね」

「うん……」

 私、最初は、尾行なんてするの悪いんじゃないかなぁって、ためらってたけど……。

 一花ちゃんの様子を見ているうちに、心配な気持ちのほうが大きくなってきた。

 私たちが尾行してることは、今のところまったくバレてない。

 でも、それは、私たちの尾行がうまいからじゃなくて……。

 一花ちゃんが、あまりにも『心ここにあらず』の状態だからなんじゃないかな?

 っていう気がしてきたの。

 一体、どこに、なんの目的で行くんだろう。

 ここまできたら、なんとしてもつきとめなくちゃ!

 一花ちゃんは家事がとくいな、しっかり者のお姉ちゃん。

 私たち、今まで、生活の面でも、精神的な面でも、一花ちゃんに助けられてきた。

 もし一花ちゃんに困ったことが起きてるなら、今度は私たちが一花ちゃんを助けなきゃ。

 

 そのまま三十分ほど歩いて、少しつかれを感じはじめたころ。

 ようやく、いなかっぽかった道が開け、道路の先に、どーんと大きい建物が見えてきた。

 あれは……郊外(こうがい)の、大型ショッピングモールだ。

「一花ちゃん、やっぱりショッピング、なのかな?」

 ちょっとだけホッとした気分になって、歩きながら、二人の姉妹に聞いてみると、

「絶対ちゃうと思う」「あり得ませんね」

 同時にズバッとした回答。

「だって、あの一花姉さんですよ? お風呂の残り湯で洗濯(せんたく)したり、家電のコンセントをこまめにぬいたり、大根のヘタを水栽培(みずさいばい)して『キッチンガーデニングよ。葉っぱが出てきたら食べましょう』とか言うような節約のプロなのに、わざわざこんな遠いところまでショッピングって……」

「それに、あんなごっついショッピングモールにわざわざ行くんやったら、もっとおしゃれするんちゃう? 一花のかっこ見てみ。デニムパンツにグレーのパーカーやで」

「わ、私だって、デニムパンツにグレーのパーカーだよ……?」

 今気づいたけど、私、今日はたまたま、一花ちゃんと似た服だ。

「三風ちゃんは別にええやん……変装やから。花粉症で参ってる人っていう設定やから」

「えぇ、そうかなぁ?」

 今さらだけど、どうせ変装するなら、私ももっとかわいい変装がよかったなぁ。

「あ、一花姉さんが建物に入りますよ!」

 四月ちゃんの言葉に前を向くと、一花ちゃんがショッピングモールに入っていくのが見えた。

「急ご」

「うん……!」

 私たちも、すばやく自動ドアをぬけ、ショッピングモールの中へと入っていった。


第5回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318411

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