
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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3 おかしな一花ちゃん
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「一花!」
「一花ちゃん!」
「一花姉さん!」
私たち三人は玄関にかけつけ、口々によびかけた。
一花ちゃんは、ドアのすきまからのっそりと体をすべりこませて……。
なんにも――「ただいま」すら、言わない。
「あんた、どこ行ってたん? 電話にも出えへんし、心配したやんか」
二鳥ちゃんがつめよると、
「ごめんなさい……ずっとスマホの電源を切ってたの」
一花ちゃんはしずんだ表情で、ぼそぼそとそんな返事。
やっぱり様子がおかしい。
一花ちゃんの雰囲気……まるで、体から冷気を放っているみたいだよ。
「ねえ、一花ちゃん……どこ行ってたの? 何があったの?」
私、思いきってそう聞いてみた。
でも、一花ちゃんはうつむいたまま、なんにも答えない。
私の声、とどかなかったのかな?
「なあ一花」「一花姉さん」
「あ、あの、一花ちゃん? 今まで、どこでどうしてたの……?」
言いたくないのなら、ムリに言わなくてもいいけど……。
そうつけたそうとしたとき、一花ちゃんのこぶしがぎゅっとにぎられた。
「あんたたちには関係ないでしょっ!!」
突然ひびいた、雷のようなどなり声。
私たち、その場に固まってしまった。
一花ちゃんは家に上がって、私たちの間を早足で通り、階段のほうへ向かっていく。
なんで、どうして……?
そんなにおこることないじゃない……!
行き先も告げず家を飛びだして、なんの連絡もなく、夜おそく帰ってきて。
私たち、すごく心配してたのに、「関係ない」なんてひどいよ……!
「どうしてそんなこと言うの? ぜ、全然っ、一花ちゃんらしくないよっ」
私、泣きそうになりながら、思わずそう言いかえしていた。
すると、一花ちゃんはちらりとこちらをふりむいて、こうはきすてた。
「らしいとか、らしくないとか、適当なこと言わないでよ。本当の私のことなんて、なんにも知らないくせに……!」
「い、一花、ちょっと――」
――トントントントン!
一花ちゃんは階段をかけあがり、自分の部屋にこもってしまった。
「なんやねん、一花のアホ」
二鳥ちゃんはプンプンおこってて。
四月ちゃんと私は、その場にあ然と立ちつくした。
――「本当の私のことなんて、なんにも知らないくせに」
一花ちゃんの言葉が、頭の中でぐるぐると回ってる。
「本当の私」って、何のことだろう。
やっぱり、一花ちゃんにも、何か言いにくい事情があるのかな……?
◆ ◆ ◆ ◆
翌朝。
いつもより早く起きてしまった私は、パジャマのまま食堂へ向かった。
とびらをそっと開けると、
「三風……。おはよう」
一花ちゃんがエプロンをつけ、台所で朝ごはんを作っていた。
表情はやわらかい。
いつもと同じように、優しく笑ってるようにも見える。
「お、おはようっ、一花ちゃん」
よかった……!
すっごく気まずい空気だったらどうしよう、って思ってたけど、そうでもなさそう。
でも、となると……。
かえって『昨日のはなんだったんだろう?』って気になっちゃうなぁ。
むしかえすのも悪いし……今はとりあえず、様子を見たほうがいいよね。
そうと決まれば、気持ちを切りかえなくちゃ。
「朝ごはん、何かなぁ?」
くんくん、とにおいをかいで、「あれ?」私は首をかしげた。
「一花ちゃん、おみそしる、作ったの? ごはんもたいたんだ」
「え? ええ。そうよ」
「食パン、冷凍したのがたくさんあるから、朝はそっちを食べなくちゃ、って言ってなかった? ほら、こないだ、みんなで話しあって、シュガートーストのもとを買ったじゃない」
「あっ……」
しまった、と言うように、一花ちゃんは、おたまでナベをかきまわす手をピタリと止めた。
「あ、で、でもごはんだっておいしいよねっ。私、ちょうどごはんの気分! うれしいなぁ」
私はつとめて明るい声でそうフォローして、台所を通りすぎ、洗面所に入った。
一花ちゃんにしてはめずらしい失敗だなぁ。
……って、そのときは思ってたんだけど……。
「おはようさん!」
「おはようございます」
二鳥ちゃんも四月ちゃんも起きてきたので、全員そろって朝ごはん。
今日のメニューは、たきたての白ごはんに、卵焼き、それから、わかめのおみそしる。
梅干しと、こんぶのつくだにもある。
「「「「いただきます」」」」
一花ちゃんの作ったおみそしるに、みんないっしょに、ズズッと口をつけたそのとき!
「うっ」「ブフッ!」「うぇ」「っ!?」
四人同時にふきだしちゃった!
「「か……から〜〜〜い……!!」」
四月ちゃんと私は口をへの字に曲げて、
「げほっ、ゲホゲホ…………うぇ」
いっぱい飲んでしまったらしい二鳥ちゃんは、苦しそうにせきこんでる。
「一花、なんやこれ。めちゃくちゃからいやん」
「……ご……ごめんなさい……。まちがえちゃったみたい」
「まちがえたとかいうレベルか〜? 塩ひとつまみやのうて、ひとつかみ入れたんかと思たわ」
「…………ごめんなさい」
一花ちゃんは四人分のおみそしるをだまって回収した。
軽いつっこみを真に受けられて、二鳥ちゃんは言葉をなくしてる。
(……やっぱりなんや普通とちゃうわ)
(昨日のことが関係してるんだよね?)
(そっとしておいたほうがいいんでしょうか……)
私たち三人の妹は顔を見合わせて、それ以上何か言うのをやめてしまった。
おかずが一品へった朝ごはん。
私はしかたなく、卵焼きを一切れ、食べてみたんだけど……。
「…………」
おみそしると反対に、こっちは味がほとんどついてない……。
食卓が、しーんとしちゃった。
な……何か、みんなで話せる、楽しい話題はないかな?
あ、そうだ!
「ね、ねえ、昨日のプリン、私たち結局食べそこねちゃったねー」
「そういえば、そうですね」
「よっしゃ。今日こそ決着つけようさ。だれでしょうゲームで!」
私たちはにぎやかに言って、ちらりと一花ちゃんを見た。
すると、彼女はそっけなくこう言った。
「ごめん、私、お昼から出かけるから」
えっ?
「どこに?」「何しに?」「一人でですか?」
私たちがいっぺんにたずねると、一花ちゃんはしばらく、ぼんやりした瞳でだまったあと、
「…………友達と……ショッピングよ」
元気のない声でつぶやいて、ろくに食べてもいないのに、はしを置いた。
◆ ◆ ◆ ◆
「絶っっっっっっ対おかしい!」
「シーッ……! 二鳥姉さん、声が大きいですよ」
朝食を食べおわったあと。
二鳥ちゃんと私と四月ちゃんは、二階にある二鳥ちゃんの部屋に集まって。
ベッドの上に輪になって座って、三人だけで、こっそり話しあいをしていた。
一花ちゃんは、台所のあと片付けをしてくれてるから、たぶん二階にはしばらく来ないだろう。
二鳥ちゃんの部屋は、私と同じ六畳のはずなのに……ずっとせまく感じる。
布団じゃなくて、ベッドだからかな。
壁の高いところに、アイドルのポスターが何枚もはってあるせいかな。
それとも、引っこしてきたときの段ボールが、いくつかまだそのまま積んであるせいかな。
秘密基地みたいな部屋で、私は声をひそめた。
「私も……一花ちゃん、絶対変だと思う。料理の得意な一花ちゃんが、あんなからいおみそしる作るなんて……卵焼きも、いつもはすっごくおいしいのに、今日のは全然おいしくなかったし」
「ええ。それに、節約が趣味の一花姉さんが、急に友達とショッピングなんてみょうです。おそらくウソをついているんでしょう。何かをかくすために」
「せやけど、昨日もあんな調子やったし、聞きだそうとしてもムリやん?」
「で、でも、心配だよね……」
あんな一花ちゃんを見ていたら、ただ信じて待つわけにもいかない気がするよ。
どうしたらいいんだろう……?
ズーン……と重苦しい空気があたりに満ちた。
「普通にたずねるのがムリなら…………いっそ、尾行(びこう)してみませんか?」
沈黙(ちんもく)をやぶる小さな声。
二鳥ちゃんと私はハッとして、同時に四月ちゃんを見た。
「そ、そんな、尾行なんて――」
やり方もわからないし、すぐバレちゃうかもしれないし――。
両手を体の前で小さくふって、あわあわしながらそう言いさす私。
だけど、二鳥ちゃんはとくいげに笑ってこう答えた。
「ふふん、変装やったらまかしとき」
え、えええ〜っ!?
「ほ、本当に尾行するのぉ〜!?」
「シーッ……! 三風ちゃん、声が大きいわ」
二鳥ちゃんは、私の口をモゴッとふさいで。
そのあと、四月ちゃんと視線を交わして、ニヤッと小さく笑った。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
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