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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』第2回 おそろいのペンダント


ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(2巻)はコチラから
 1巻はコチラから


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2 おそろいのペンダント

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 一花ちゃんが家を出ていって、ひっそりした玄関。

 残された私たち三人の妹は顔を見合わせた。

「なんやねん一花、急に……。……プリン、いらんのかな?」

「な、なんだか、すっごくあわててる、って感じだったけど……」

「でも、今日は別に、何かの特売日、とかじゃなかったですよね……?」

 一花ちゃん、どこに行っちゃったんだろ。

 まだゲームのとちゅうだったのに……。

「もーっ、何事やっちゅーねん。しゃーないな」

 二鳥ちゃんはブツブツ言いながら、赤いカバーのスマートフォンを操作した。

 耳に当てて、しばらくして、

「……あかんわ。一花、電話出えへん」

「そっか……移動中だから、電話に出られないのかな?」

「だといいのですが……何か、電話に出ている場合ではないほどの緊急事態が、一花姉さんの身に起こっている可能性もあります」

 えっ、緊急事態……?

 不安のカゲがサアッと心をつつむ。

「一花姉さんの部屋をのぞいてみましょう」

 いきなりそう言って、四月ちゃんは階段を上りはじめた。

「えっ、部屋? どうして?」

「一花姉さんが家を飛びだしたのは、おそらくあの電話を受けたからです。そして、一花姉さんはあの電話を自分の部屋で聞いた。ということは、部屋に何か手がかりが残されているかもしれません。たとえば、行き先を記したメモとか」

「か、勝手に部屋に入って、あとでおこられないかな?」

「緊急事態(きんきゅうじたい)ですから」

 トントントン、と四月ちゃんはどんどん階段を上がっていく。

「シヅちゃんって、大人しそうに見えて、意外と行動派なんやなあ……」

 小さな声で、感心したように二鳥ちゃんはつぶやいた。

 私も同じ気持ちだよ。

 四月ちゃんは、施設育ちで……ずっといじめにあっていたから、少し内気な性格なんだ。

 会ったばかりのころと比べれば、ずいぶん積極的になったなぁって、おどろいちゃう。

 あ、そういえば四月ちゃん、「よく図書館で推理小説を読んでました」とか言ってたっけ。

 頭もすっごくいいし、こういうときは、たよりになるかも?

 二鳥ちゃんと私は、四月ちゃんのあとに続いて、一花ちゃんの部屋へと向かった。

 

 一花ちゃんの部屋は、私の部屋のすぐとなりの、六畳の和室。

 部屋の中には、勉強机とタンスと本棚がある。

「やや、みだれた形跡(けいせき)がありますね……」

「ほんまやな」

 私たちは探偵のように部屋の中を見回した。

 一花ちゃん、きっと、あわててたんだろうな。部屋はいつもより散らかってる。

 タンスの引きだしは開けっぱなしだし、ゆかには、ぼうしやカバンが落ちてるし……。

「ん?」

 勉強机の下で、今一瞬、何かが光ったような……?

「あっ! これって……!」

 私は思わず、それを拾いあげた。

 落ちていたのは、ピンクのハート形をしたペンダントだったの。

「これ、私、色ちがいを持ってる! ほら!」

 そうさけんで、私は自分の胸元から、水色のハート形のペンダントを取りだしてみせた。

「「ああっ!」」

 私のペンダントを見た二鳥ちゃんと四月ちゃんは、同時に声をあげた。

「うちもそれ持ってる!」「僕も持ってます!」

「ほ、本当に!?」

 二人はすぐさま自分のペンダントを見せてくれた。

 二鳥ちゃんは赤。四月ちゃんは紫色。

 形も大きさもぴったり同じ、ハート形だ……!

「わっ、私、赤ちゃんのころ、施設の玄関にバスケットごと置きざりにされたらしいんだけど、そのバスケットの中に入っていたのが、このペンダントで……きっとこれ、お母さんとのたったひとつのつながりなんじゃないかって思って、今までずっと大切にしてきたの」

「うちもいっしょ!」

 二鳥ちゃんがさけび、四月ちゃんもうなずく。

「言いましたっけ……僕、小学生のころ、いじめっこに、宝物を川に捨てられたことがあって」

「聞いたよ。すっごく大切な宝物だったんだよね」

「シヅちゃんは、川に飛びこんで、その宝物をさがしたんやろ?」

「ええ。その宝物、っていうのが、この紫色のハート形のペンダントなんですよ」

 四月ちゃんはしみじみそう言って、紫色の石をなでた。

「そうやったんや……みんなおんなじものを大事にしてたんやな。うちも、さみしいときはこのペンダントが心の支えやった」

 二鳥ちゃんも、自分のペンダントをなつかしそうに見つめた。

 それから、面白そうにクスッと笑う。

「にしても、さすが四つ子。姉妹みーんな、自分のペンダントの色を、それぞれ好きになったんやな」

「あ、本当だ……!」

 一花ちゃんはピンク。

 二鳥ちゃんは赤。

 私・三風は水色。

 四月ちゃんは紫色。

 出会ったばかりのころ、私たちは自己紹介をして、好きな色を言いあった。

 私たちの髪飾りは、四人の好きな色に合わせて、二鳥ちゃんが買ってくれたもの。

 みんなちがう色が好きなんだなぁ、って思ってたけど……。

 全員、このペンダントに影響されて、それぞれの色を好きになっていたんだ。

「四人、おそろいのペンダントだったんだね……」

 私も、自分の水色のペンダントをあらためて見つめた。

 私たち、育った場所もちがうし、性格だってちがうけど……。

 みんな、このおそろいのペンダントをよりどころにして、今までがんばってきたんだよね。

 ペンダントも、気持ちも、おそろい。

 そんなことを思ったら、こんなときだけど、ちょっとあったかい気持ちになった。

 二鳥ちゃんも、四月ちゃんも同じみたい。

 二人とも、ふふ、とやわらかくほほえんでる。

 さっきまでの不安も、ふしぎとおさまっていて─。

「一花姉さんにも、僕と同じように、何か言いにくいことがあるのかもしれませんね」

「うん。でも……いつか話してくれるよね。私たち家族なんだもん」

「せやな。帰ってきたら問いつめたろ」

 私たちは一花ちゃんを信じて待つことにした。

 お母さんからたくされた、おそろいのペンダントを、それぞれ首にかけて。

 

 それにしても。

 お母さん、か……。

 このことを考えると、ちょっぴり気が重くなる。

 先月、私たちのお母さんを名乗る、麗(うらら)さんって人が家にやってきて、大さわぎになったんだ。

 たしかに、麗さんの顔は、私たちとよく似ていたんだけど……。

 麗さん、すっごく勝手なことばかり言ってきたし。

 それに、なんだかイヤ〜な態度だったし、あやしかったなぁ。

 あの事件から、もう一週間たった。

「またすぐに来る」って麗さんは言ってたけど、本当に来るのかな?

 もし本当に来ちゃったら、私たち、どうすればいいんだろう。

 ……あぁ、思いだすと不安になってくるよ。

 私はざわめく気持ちを落ちつかせるように、胸元のペンダントをぎゅっとにぎった。

 私たちがずっと会いたかったお母さん。

 ペンダントを通じて、心の支えにしていたお母さん。

 あんな人じゃ、ないよね……?

 あっ、そうだ……そういえば。

「ねえ、二鳥ちゃん、四月ちゃん、さっきのペンダント、もう一度見せてくれる?」

「ん? ええけど」

「どうかしたんですか?」

 私は居間のちゃぶ台に、赤、水色、紫色、三つのペンダントをならべてみた。

 一花ちゃんのピンクのペンダントは、元あった場所にもどしたから、ここにはない。

 三つのハート形の石をじーっと見つめて……私は言った。

「……このペンダントと似た何かを、どこかで、見たような気がするんだけど……」

「ええっ、ほんまに?」

「ど、どこでですか?」

「う〜〜〜…………」

 この形とこの色。

 絶対、どこかで絶対、見たことあるの。

 麗さんがやってきたときだっけ……?

 それとも、それよりずっと前だっけ……?

 記憶の引きだしを、あっちこっち手当たり次第に開けてみたけれど。

「う………………わ……わかんない」

「ってわからんのんかーい」

 二鳥ちゃんがつっこんで、

「ハートって、ありふれたモチーフですしね」

 四月ちゃんは気にとめるふうでもなくて。

 私も、ついにどこで見たか、思いだすことができなかった。


◆ ◆ ◆ ◆


 一花ちゃんを信じて待つ、とは決めたものの。

「……一花ちゃん、おそいね」

「せやな……」

「……何してるんでしょう」

 夜の八時。

 いつまで待っても一花ちゃんは帰ってこないから、しかたなく三人だけで夕ごはんにして。

 食べおわったころには、みんな心配になってきた。

 食堂のテーブルの上には、空になった三人分の食器がならんでいる。

 いつもなら、すぐにお皿を片付けて、宿題しようとか、テレビ見ようってなるんだけど……。

 今は、全然そんな気分になれない。

 家族が一人いないだけで、時間が先に流れていかないように感じてしまうよ。

「一花ちゃん、どこにいるんだろう……」

 何度か電話をかけたけど、一度もつながらないし、スマホのメッセージだって未読のまま。

「さがしに行ったほうがええかな?」

「でも、どこを……?」

 ちょうどそんな相談を始めたとき。

 ――ガチャ

 あっ、玄関のドアが開く音!

 やっと一花ちゃん、帰ってきたんだ!


第3回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318411

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