
ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
……………………………………
2 おそろいのペンダント
……………………………………
一花ちゃんが家を出ていって、ひっそりした玄関。
残された私たち三人の妹は顔を見合わせた。
「なんやねん一花、急に……。……プリン、いらんのかな?」
「な、なんだか、すっごくあわててる、って感じだったけど……」
「でも、今日は別に、何かの特売日、とかじゃなかったですよね……?」
一花ちゃん、どこに行っちゃったんだろ。
まだゲームのとちゅうだったのに……。
「もーっ、何事やっちゅーねん。しゃーないな」
二鳥ちゃんはブツブツ言いながら、赤いカバーのスマートフォンを操作した。
耳に当てて、しばらくして、
「……あかんわ。一花、電話出えへん」
「そっか……移動中だから、電話に出られないのかな?」
「だといいのですが……何か、電話に出ている場合ではないほどの緊急事態が、一花姉さんの身に起こっている可能性もあります」
えっ、緊急事態……?
不安のカゲがサアッと心をつつむ。
「一花姉さんの部屋をのぞいてみましょう」
いきなりそう言って、四月ちゃんは階段を上りはじめた。
「えっ、部屋? どうして?」
「一花姉さんが家を飛びだしたのは、おそらくあの電話を受けたからです。そして、一花姉さんはあの電話を自分の部屋で聞いた。ということは、部屋に何か手がかりが残されているかもしれません。たとえば、行き先を記したメモとか」
「か、勝手に部屋に入って、あとでおこられないかな?」
「緊急事態(きんきゅうじたい)ですから」
トントントン、と四月ちゃんはどんどん階段を上がっていく。
「シヅちゃんって、大人しそうに見えて、意外と行動派なんやなあ……」
小さな声で、感心したように二鳥ちゃんはつぶやいた。
私も同じ気持ちだよ。
四月ちゃんは、施設育ちで……ずっといじめにあっていたから、少し内気な性格なんだ。
会ったばかりのころと比べれば、ずいぶん積極的になったなぁって、おどろいちゃう。
あ、そういえば四月ちゃん、「よく図書館で推理小説を読んでました」とか言ってたっけ。
頭もすっごくいいし、こういうときは、たよりになるかも?
二鳥ちゃんと私は、四月ちゃんのあとに続いて、一花ちゃんの部屋へと向かった。
一花ちゃんの部屋は、私の部屋のすぐとなりの、六畳の和室。
部屋の中には、勉強机とタンスと本棚がある。
「やや、みだれた形跡(けいせき)がありますね……」
「ほんまやな」
私たちは探偵のように部屋の中を見回した。
一花ちゃん、きっと、あわててたんだろうな。部屋はいつもより散らかってる。
タンスの引きだしは開けっぱなしだし、ゆかには、ぼうしやカバンが落ちてるし……。
「ん?」
勉強机の下で、今一瞬、何かが光ったような……?
「あっ! これって……!」
私は思わず、それを拾いあげた。
落ちていたのは、ピンクのハート形をしたペンダントだったの。
「これ、私、色ちがいを持ってる! ほら!」
そうさけんで、私は自分の胸元から、水色のハート形のペンダントを取りだしてみせた。
「「ああっ!」」
私のペンダントを見た二鳥ちゃんと四月ちゃんは、同時に声をあげた。
「うちもそれ持ってる!」「僕も持ってます!」
「ほ、本当に!?」
二人はすぐさま自分のペンダントを見せてくれた。
二鳥ちゃんは赤。四月ちゃんは紫色。
形も大きさもぴったり同じ、ハート形だ……!
「わっ、私、赤ちゃんのころ、施設の玄関にバスケットごと置きざりにされたらしいんだけど、そのバスケットの中に入っていたのが、このペンダントで……きっとこれ、お母さんとのたったひとつのつながりなんじゃないかって思って、今までずっと大切にしてきたの」
「うちもいっしょ!」
二鳥ちゃんがさけび、四月ちゃんもうなずく。
「言いましたっけ……僕、小学生のころ、いじめっこに、宝物を川に捨てられたことがあって」
「聞いたよ。すっごく大切な宝物だったんだよね」
「シヅちゃんは、川に飛びこんで、その宝物をさがしたんやろ?」
「ええ。その宝物、っていうのが、この紫色のハート形のペンダントなんですよ」
四月ちゃんはしみじみそう言って、紫色の石をなでた。
「そうやったんや……みんなおんなじものを大事にしてたんやな。うちも、さみしいときはこのペンダントが心の支えやった」
二鳥ちゃんも、自分のペンダントをなつかしそうに見つめた。
それから、面白そうにクスッと笑う。
「にしても、さすが四つ子。姉妹みーんな、自分のペンダントの色を、それぞれ好きになったんやな」
「あ、本当だ……!」
一花ちゃんはピンク。
二鳥ちゃんは赤。
私・三風は水色。
四月ちゃんは紫色。
出会ったばかりのころ、私たちは自己紹介をして、好きな色を言いあった。
私たちの髪飾りは、四人の好きな色に合わせて、二鳥ちゃんが買ってくれたもの。
みんなちがう色が好きなんだなぁ、って思ってたけど……。
全員、このペンダントに影響されて、それぞれの色を好きになっていたんだ。
「四人、おそろいのペンダントだったんだね……」
私も、自分の水色のペンダントをあらためて見つめた。
私たち、育った場所もちがうし、性格だってちがうけど……。
みんな、このおそろいのペンダントをよりどころにして、今までがんばってきたんだよね。
ペンダントも、気持ちも、おそろい。
そんなことを思ったら、こんなときだけど、ちょっとあったかい気持ちになった。
二鳥ちゃんも、四月ちゃんも同じみたい。
二人とも、ふふ、とやわらかくほほえんでる。
さっきまでの不安も、ふしぎとおさまっていて─。
「一花姉さんにも、僕と同じように、何か言いにくいことがあるのかもしれませんね」
「うん。でも……いつか話してくれるよね。私たち家族なんだもん」
「せやな。帰ってきたら問いつめたろ」
私たちは一花ちゃんを信じて待つことにした。
お母さんからたくされた、おそろいのペンダントを、それぞれ首にかけて。
それにしても。
お母さん、か……。
このことを考えると、ちょっぴり気が重くなる。
先月、私たちのお母さんを名乗る、麗(うらら)さんって人が家にやってきて、大さわぎになったんだ。
たしかに、麗さんの顔は、私たちとよく似ていたんだけど……。
麗さん、すっごく勝手なことばかり言ってきたし。
それに、なんだかイヤ〜な態度だったし、あやしかったなぁ。
あの事件から、もう一週間たった。
「またすぐに来る」って麗さんは言ってたけど、本当に来るのかな?
もし本当に来ちゃったら、私たち、どうすればいいんだろう。
……あぁ、思いだすと不安になってくるよ。
私はざわめく気持ちを落ちつかせるように、胸元のペンダントをぎゅっとにぎった。
私たちがずっと会いたかったお母さん。
ペンダントを通じて、心の支えにしていたお母さん。
あんな人じゃ、ないよね……?
あっ、そうだ……そういえば。
「ねえ、二鳥ちゃん、四月ちゃん、さっきのペンダント、もう一度見せてくれる?」
「ん? ええけど」
「どうかしたんですか?」
私は居間のちゃぶ台に、赤、水色、紫色、三つのペンダントをならべてみた。
一花ちゃんのピンクのペンダントは、元あった場所にもどしたから、ここにはない。
三つのハート形の石をじーっと見つめて……私は言った。
「……このペンダントと似た何かを、どこかで、見たような気がするんだけど……」
「ええっ、ほんまに?」
「ど、どこでですか?」
「う〜〜〜…………」
この形とこの色。
絶対、どこかで絶対、見たことあるの。
麗さんがやってきたときだっけ……?
それとも、それよりずっと前だっけ……?
記憶の引きだしを、あっちこっち手当たり次第に開けてみたけれど。
「う………………わ……わかんない」
「ってわからんのんかーい」
二鳥ちゃんがつっこんで、
「ハートって、ありふれたモチーフですしね」
四月ちゃんは気にとめるふうでもなくて。
私も、ついにどこで見たか、思いだすことができなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
一花ちゃんを信じて待つ、とは決めたものの。
「……一花ちゃん、おそいね」
「せやな……」
「……何してるんでしょう」
夜の八時。
いつまで待っても一花ちゃんは帰ってこないから、しかたなく三人だけで夕ごはんにして。
食べおわったころには、みんな心配になってきた。
食堂のテーブルの上には、空になった三人分の食器がならんでいる。
いつもなら、すぐにお皿を片付けて、宿題しようとか、テレビ見ようってなるんだけど……。
今は、全然そんな気分になれない。
家族が一人いないだけで、時間が先に流れていかないように感じてしまうよ。
「一花ちゃん、どこにいるんだろう……」
何度か電話をかけたけど、一度もつながらないし、スマホのメッセージだって未読のまま。
「さがしに行ったほうがええかな?」
「でも、どこを……?」
ちょうどそんな相談を始めたとき。
――ガチャ
あっ、玄関のドアが開く音!
やっと一花ちゃん、帰ってきたんだ!
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318411
注目シリーズまるごとイッキ読み!
つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼