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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』第1回 突然の電話


ひとりぼっちだった三風の前に、同じ顔をした四つ子の姉妹たちがあらわれて、姉妹四人だけの、たのしくてちょっと大変な毎日がスタート! でも、別々の場所で育った四人だから、まだ、姉妹に言えていない「ひみつ」があって…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第2巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(1巻)はコチラから


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1 突然の電話

……………………………………


「「「これは、だーれだっ?」」」

 家の居間に、そっくりな声が三つ、重なってひびく。

 そのかけ声と同時に、私はスマートフォンをパッと見せられた。

 画面に表示されてるのは、私とまったく同じ顔をした女の子!

 これって私?

 ううん、私じゃないよ。

 この写真は、私以外の、三人の姉妹のうちのだれかなの。

「うふふ、わかるかしら?」

 私の正面で、スマートフォンを差しだし優しくほほえむのは、長女の宮美一花ちゃん。

 お姉さんっぽいポニーテールに、ピンクの髪飾り。

 だけど、私とまったく同じ顔。

「制限時間は一分やで。あと五十九秒、五十八、五十七、五十六……」

 右どなりで、時計を見ながらイタズラっぽく笑うのは、次女の宮美二鳥ちゃん。

 元気いっぱいのツインテールに、赤い髪飾り。

 彼女も、私とまったく同じ顔。

「今度のは難問ですよ」

 左どなりで、自信ありげにメガネをキラリと光らすのは、四女の宮美四月ちゃん。

 知的なふんいきのハーフアップに、紫色の髪飾り。

 またまた、私とまったく同じ顔。

 ふふっ、こーんなふしぎな光景にも、もうなれちゃった。

 私は、三女の宮美三風。

 二本のゆるい三つ編みに、水色の髪飾り。

 私たち、四つ子なんだ!

 ……って。

 紹介してる場合じゃないや。

「……うーーーーーーん…………」

 私はスマートフォンの画面をじいーっと見つめた。

 今日は五月の連休初日。

 なんにも予定のない私たちは、家の居間で、ゲーム(と書いて真剣勝負と読む)の最中なの。

 ゲームの名前は、ずばり「だれでしょうゲーム」!

 ルールはとっても簡単。

 まず、出題者三人が、三人のうち一人の写真をスマホで撮影する。

 解答者は、写真に写っているのがだれか、考えて答える。

 正解すれば一ポイント。何回かくりかえして、一番ポイントの多い人の勝ち。

 みんなそっくりだから、加工とかしちゃうとけっこうむずかしいんだ。

 たとえば、お茶目にウインクしている子が、二鳥ちゃんじゃなくて、なんと四月ちゃんだったり。

 大人っぽくほほえんでいる子が、一花ちゃんじゃなくて、じつは私だったりするってわけ。

 今は私が解答者。

 見つめる画面には、私と同じ顔の女の子が、窓辺でクマのぬいぐるみを片手に笑ってる。

 子どもっぽくてかわいいこの雰囲気、二鳥ちゃんに近いような気がするけど……。

 もしかしたら、そう見せかけてるだけで、じつは一花ちゃんかもしれないし。

 メガネはかけてない……けど、メガネをはずした四月ちゃんかもしれないよね……?

「えぇ…………これ、だれだろう……?」

 思わずあごに手を当てて、ぎゅっとまゆをよせちゃった。

 そんな私を見て、ほかの三人はニヤニヤ。

「言ったでしょう。とっておきの難問なんですよ」

「三風ちゃん、必死や」

「プリンがかかってるんだものね」

 そう。このゲームには、おやつの大きいプリンがかかってるの。

 スーパーとかで売られてるプリンって、三連のものばかりでしょ。

 だから四人分買うときは、三連のプリン一パックと、一個売りのプリンをひとつ買うんだけど、一個売りのプリンのほうがちょっと大きい。

 その大きいプリンをかけてるってわけ。

 初めから、一個売りのプリンを四つ買えばいいのにって?

 ダメダメ。

 一か月に使えるお金は決まってるんだから、節約しなくちゃ。

 私たち四人は、国が始めた、中学生自立練習計画の参加者。

 自立の練習をするために、この家で、子どもだけでくらしている。

 節約を心がけることも、正しい金銭感覚を身につけることも、自立には必要なのよ。

 ……なーんて、これはしっかり者の一花ちゃんがいつも言ってることなんだけどね。

「三、二、一、ゼロ! タイムアップー!」

 ――カンカンカンカンカンカーン!

 わわっ!?

 二鳥ちゃんがフライパンをおたまでたたいてる。

 いつの間に台所から持ってきたんだろ?

「何やってるのー! キズがつくでしょ。やめなさーい!」

 うふふっ、案の定、すぐ一花ちゃんにおこられちゃった。

 二鳥ちゃんは、それでもフライパンをカンカン鳴らしながらにげまわる。

「あっはははっ」

 クスクス笑ってたら、

「さあ、三風姉さん、タイムアップですよ。答えは?」

 ずずずいっ、と四月ちゃんがせまってきて。

「「答えは?」」

 追いかけっこをしていた一花ちゃんと二鳥ちゃんも、声をハモらせ、すぐさま寄ってきた。

「え、えっと……この画像は……」

 二鳥ちゃん?

 と見せかけて一花ちゃん?

 それとも四月ちゃん?

「わ、わかんないっ、けど……う〜……。……い、一花ちゃん!?」

 確率は三分の一っ。思いきって答えた。

 すると……、

「「「ブッブー」」」

「えぇ〜、ハズレ……!?」

「ふふっ、正解は─

「僕、でした」

 ニコッと笑う四月ちゃん。

 あ、たしかに、この笑顔、画像の子とまったく同じだ。

「四月ちゃんだったんだ! わからなかったよー!」

 私、不正解だったのに、なんだか楽しい気分になってる。

 だってこれ、四つ子ならではのゲームなんだもん。

 四人とも大きいプリンを食べるより、ひとつの大きいプリンをかけて四人でゲームするほうが、きっと何倍も楽しいんじゃないかな?

 盛りあがっていたそのとき、

 ――ピロン

 水色のカバーがついた私のスマートフォンが、短い通知音を鳴らした。

「あ……!」

 画面を見て思わず声がもれる。

 湊くんからのメッセージだ!

 うれしさで、胸がきゅんと小さくはねた。

「三風ちゃんどないしたん?」

「メッセージよね。友達から?」

「う、うん! 友達からっ」

 お姉ちゃんたちに聞かれ、ゆるんでしまった顔をあわてて元にもどす。

 湊くん─野町湊くんは、私のクラスメイト。

 明るくて優しい、とってもステキな男の子なんだ。

 最近はこんなふうに、よくスマホのメッセージを送りあうようになった。

 男の子の友達と、だんだん仲よくなっていけてるのって、なんだか新鮮で、うれしいなぁ。

「友達かあ〜……」

 二鳥ちゃんは何かを考えている様子。

 そのあと、すぐに「せや!」と手を打って、

「明日、家に友達よばへん? みんなでだれでしょうゲームしたら、絶対おもろいわ!」

 楽しそうに、そうよびかけたんだけど、

「ダメに決まってるでしょ」

 と、一花ちゃんは一瞬で却下。

「えーっ、なんでなんでー?」

「決まってるじゃない。私たちに親がいないってバレちゃうからよ。バレたら必ずイヤな目にあうわ。変な目で見られるに決まってるし、友達なんていなくなっちゃうんだから」

「はぁ? 何言うてんの。そんなん、わからへんやんか」

「私にはわかるの。世間って、あんたが思ってるよりきびしいのよ」

「な、なんやの、大人ぶって……!」

 二鳥ちゃんは不満そう。言いかえそうと言葉をさがしてるみたい。

 一花ちゃんも、何もそこまで決めつけないでもいいのに……。

(あわわ……)(どうしましょう……)

 私と四月ちゃんは、とまどいの視線を交わした。

 楽しく盛りあがってた空気が、ちょっとだけ冷めちゃったみたい。

 私たちは四人とも、赤ちゃんのころバラバラに施設に預けられ、離れた場所で育てられた。

 だから、同じ顔だけど、性格や考え方は全然ちがう。

 そのせいで、たまに意見がぶつかっちゃうときもある。

 一花ちゃんは、最初は施設、それから里親さんの家で育った。

 家事にもなれてて、料理も上手で、まさに、しっかり者のお姉さん。

 だけど、家族以外の他人には、あまり心をゆるさないタイプみたいなんだよね。

 対して、二鳥ちゃんは、大阪のとあるお家の養子だった。

 本当の娘みたいに大切にされてたから、明るくておしゃれで、元気いっぱい。

 楽天的な性格で、友達だってけっこう多いみたい。

 だから、一花ちゃんの『家の事情は絶対ヒミツ』って意見に納得いってないんだと思う。

 ……だけど。

 結局、私たちは全員、学校の友達のだれにも─湊くんにも、本当のこと─

 つまり、私たちには親がいなくて、子どもだけでくらしてるってことが、言えてないんだ。

 いつかは知ってほしいと思ってるんだけど……。

 気をつかわせちゃうかな、とか、引かれたらどうしよう、とか。

 そんなことを思っちゃうと、どうしても勇気が出なくて……。

 私はスマートフォンに目を落とし、さっき湊くんから来たばかりのメッセージを開いた。

《連休だね。三風ちゃんは何か予定ある? 俺は明日、家族でばあちゃんに会いに行くんだ》

 何げないメッセージなのに、心がきゅっと痛くなった。

 私たちには、お母さんやお父さんはもちろん、おばあちゃんやおじいちゃんもいないの。

 だから、『家族でばあちゃんに会いに行く』なんて、ちょっぴりうらやましいよ。

 ……なんて言えるはずもなく。

《家族でお出かけ、楽しそうだね! 私はなんにも予定ないの。今、姉妹と家で遊んでまーす》

 当たりさわりのないことを書いて「送信」をおした。

 さて。

「ね、ねえねえ、ゲームの続きをしようよ!」

「ええ、そうですね。次は一花姉さんが解答者の番ですよ」

 私と四月ちゃんは、お姉ちゃんたちを取りなすようにそう言った。

「……せやな。ほんなら一花は部屋の外に出といて!」

 もう、二鳥ちゃん、そんな冷たい言い方はないよ。

「わかってるわよ」

 一花ちゃんもツンとして立ちあがった。

 そのとき。

 ――ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ…………

 だれかのスマートフォンが鳴りだした。

 耳ざわりな高い音─

 なぜか心がざわざわする。

 この音、私のスマホの着信音じゃない。

 二鳥ちゃんのでも、四月ちゃんのでもない。

「……私だわ」

 一花ちゃんは、ピンクのカバーのスマートフォンを耳に当て、

「はい、一花です─

 と言いながら、居間を出ていった。

 そのあとすぐに、トン、トン、トン、と、家の階段を上る音。

 一花ちゃん、自分の部屋に向かったみたい。

「ちょうどええわ。うーんとむずかしい問題作ってぶつけたろ。大きいプリンは絶対、一花にはわたさへん!」

 ふーん! と鼻息のあらい二鳥ちゃん。でもすぐに、

「さ、だれのどんな写真とろか?」

 と、いどむような笑顔になった。

 よかった。一花ちゃんと二鳥ちゃん、本気のケンカにはならなそうだね。

 私と四月ちゃんはホッと息をついた。

「あの、それなら僕、いい考えがあるんですけど─

「本当? どんなどんな?」

 私たち妹三人が、居間で話しあいを続けていると─

 ――ドンドンドンドンドンドンドンドン!

「な、なんや!?」

 突然ひびいた大きな音。

 これ、階段をかけおりる音だ!

 一花ちゃん、どうしたんだろ?

 私たち、おどろいてろうかに出た。

 すると、目に飛びこんできたのは、玄関でクツをはいている一花ちゃんのすがた。

 上着を着て、お出かけ用のリュックをせおってる。

「えっ、一花ちゃん……?」

「どこかに出かけるんですか?」

 ふりむいた一花ちゃんは、すっごくあせった表情で……。

 顔は、少し青ざめているようにも見える。

「ごめん、私、行かなくちゃ。千草ちゃんが……!」

「えっ、ちょっ─

 ――バタン!

 話を聞く間もなく、玄関のドアが閉められた。

 一花ちゃん、家を飛びだしちゃったよ……!?


第2回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318411

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