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ものがたり

スペシャルれんさい『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』第7回

第19章 秘密の作戦


 ──かかった!

 これを待っていた。この、銃を持った火村が、すぐそばまで来る瞬間を。

 ねらうのは火村の上半身。

 後ろからスキルでつきとばして──おれのほうへ転ばせるだけ!

 ドンッ

「うっ!?」

 突然、スキルで背後から上半身を押すと、火村が驚きの声を上げる。

 おれは横に回転して、倒れこんできた火村の体を避け、笑顔で自分の両手を見せた。

 ──すっかり自由になった、両手を。

「なにっ!?」

 驚いた火村が、銃を持った手を床につく。

 手がゆるんだ。いける!

 おれは自由になった手で、どんっ! と火村の手から銃を弾きとばす。

 さらに、スキルを使って、手が届かないよう床の上をすべるように移動させる。

 拳銃は、段ボールのかげに入りこんで、視界から一瞬で消えた。

「くそっ、銃が!」

「銃より、自分の心配したほうがいいんじゃない!?」

 大きくジャンプしてけりあげると、無防備だった火村の体が軽々と宙を飛んだ。



 拳銃さえなければ、こんなやつ、スキルを使うまでもない。

「いてえっ!」

 火村が、床にはいつくばりながら叫んだ。

「なっ、なんだ。今、何が起こった!? 体が後ろから押された! ──それより、おまえ、おまえの両手は固くしばられていたはずだ!」

「そう、ちゃんとしばられてたよ」

 結び目もきつかった。なかなか解けるようなものじゃなかった。

 でも──。

「これを使ったんだ」

 おれは火村の前に立つと、手に持ったカッターをひらめかせた。

 火村が、ぎょっとする。

「そ、それは、作業用のカッター!? さっきまで持ってなかったはずだ」

「まあね。でも、ちょっと借りたんだ。あんたがさっきインク缶を銃で撃ったすきに、ステキなお兄様が、おれに届けてくれたから」

(……朝陽、変な言い方するな)

 星夜が、心の中で、ため息まじりに言う。

 そう、さっきおれが火村につかまってから──。

 星夜はすぐに、まひるのナビで、カッターを取りに作業室へ戻っていた。一時的に心の中で会話できなくなっていたのは、そのせいだ。

 そして、カッターを手に戻ると、おれがインク缶を倒して、火村たちの視線から外れた一瞬をつき、開いていたドアのすきまからカッターをすべらせるようにしておれにわたしたってこと。

 もちろん、犯人たちからは見えないおれの背後──しばられていたおれの手元に。

「この業務用のカッターならロープは切れる。つまり、棚を銃で撃ったときに、あんたの負けは決まったんだ」

「ちくしょう! ……いや、待てよ。それでもおかしい。おまえは手首をしばられてたんだぞ。カッターを手に入れたって、自分でロープを切れない!」

「えーっと……それはナイショ」

 カッターで切るのはスキルでやったから、なんて言えないや。

 でも、けっこうむずかしかったな。後ろは、ぜんぜん見えないから、カッターで手まで切らないか、本当にヒヤヒヤした。

 けっきょく、まひるにおれの手元を視てもらって、そのまひるのナビを星夜が心の声でおれに伝えて……ってまわりくどい方法でなんとかなったけど。

 カッターを動かしながら時間かせぎもしなきゃいけなくて、かなり疲れた!

「ま、こんな使い方ができるなんて、おれたちも知らなかったから、新発見だったな」

「は、はあ? 何わけわかんねえこと言ってんだ!」

「ごめん、こっちの話。どっちにしろ、説明する気はないけど!」

 おれはすばやくかけよると、火村めがけてジャンプした。

 火村が顔の前に両腕をかざして、ガードする。

「──けると思った? 違うんだな」

 おれが見てるのは、その背後の段ボールとロープ!

 スキルで引きよせた空の大きな段ボールが、火村の上半身にすっぽりかぶさった。そして、驚く火村のその足を、動かしたロープですばやくしばりあげる。

「なっ、なんだ!?」

「よっと」

 前から両手で押すと、火村はあっさり後ろに倒れてインクを積んだ棚にぶつかった。

 ぶつかった衝撃で倒れた棚から、インクの缶が火村に降りそそぐ。

 よし、缶が当たってのびてる。それに、服も顔もインクで真っ青! ま、自業自得か。

「これで、あと一人。あんただけだ、水原!」

「このっ!」

 水原は悪態をつくと、ナイフを手に久遠さんとお父さんのほうへ走りだす。

 まずい、二人があぶない! でも、水原が強くにぎっていて、ナイフを奪えない!

 パッと、まわりを見る。すぐに、小さなインク缶を見つけて強くにらんだ。

 ──シュッ!

 インク缶が水原を目がけて飛び、手元のナイフを弾きとばす。追加で、空の段ボールをかぶせて、火村と同じようにスキルでつきとばした。

 その先にあるのはもちろん、まだ火村が倒れているインク缶の山だ。

「えっ、えええ、ああ!?」

 ドシーン!

 水原がインクの水たまりで転んで床にのびきると、星夜がドアのかげから姿をあらわした。

「二人とも倒したみたいだな」

「かくれてないで手伝ってよ。星夜だって強い──って、えっ!?」

 突然、星夜がおれにヘッドセットを投げて、部屋の奥のドアへ走りだす。

 えっ、いきなり何!?

 受けとったヘッドセットから、まひるの大声が聞こえた。

『朝陽! 奥のドアから、見張りの二人が来る!』

「えっ」

 あわててドアを見ると、男が二人かけてくる。見張りの土屋ともう一人だ。

「なんだ、おまえら!」「どこから入った!?」

 星夜!

(だいじょうぶ。むしろ一人のほうが都合いいかも)

 星夜が心の中で返事する。

 二人の男を前にしても、星夜におじけづいた様子はない。いつもどおりのすずしい顔だ。

「このっ!」

 土屋がなぐりかかると、星夜が、さっとよける。迷いのないきれいな動きだ。

 その瞬間、もう一人の風間はニヤリと笑うと、よけた星夜に反対から、なぐりかかった。

 はさみうちだ!

「あぶないっ!」

 ──パンッ! あたりに軽い音が響く。風間のパンチの音じゃない。

 風間のパンチを、星夜が手のひらで受けながした音だ。

「なに?」

「悪いけど、不意打ちはきかないんだ」

 星夜は、手ではたいて器用に風間のパンチをそらすと、土屋の顔面へと方向を変えさせた。

 同じように、土屋のパンチは風間へ──。

 ドンッ!!

 土屋と風間、それぞれの本気のパンチがお互いの顔面に入る。

 思いきりパンチをくらった二人は、そのまま、ドシンと音を立てて、あっさりと床にのびた。二人とも、お互いのこぶしのあとが顔にくっきり残ってる。

 星夜はスキルで相手の心を読めば、どう動くのかわかるから、倒されないんだよな。

 あーあ、かわいそ。いつもは平和主義者だけど、星夜が一番ようしゃなくない?

 ……でも、これで。

「全員、倒したな」

「ああ」

 星夜と協力して、倒れた男二人を部屋へ引きずり、犯人の四人を一か所に集める。

 だらしなくのびきった火村、水原、風間、土屋の顔を見おろして、星夜が言った。

「さてと、こいつらが動けないようにしないとな」

「ロープでしばる? おれがスキルでぐるぐる巻きにしようか」

『まーだ。朝陽、その前に、夕花梨ちゃんのお父さんの一万円札作りのデータを取りもどして』

「あ、そっか」

『ちなみに、火村のズボンの左ポケット』

 さすがまひる、仕事が早い。

 おれは、のびている火村にかけよると、さっとポケットをさぐる。

 ……あった!

 迷わずつかんで引きぬくと、手の中で記録メディアがきらりと光った。

 これで、久遠さんのお父さんは罪に問われずにすむ。

「うっ、それは!」

 あ、起きた。

 火村が真っ青な顔のまま、なぐりかかってくる。けれど、床にはいつくばったままくり出したパンチは、むなしく空を切った。

「このっ、それを返せ! くそっ、銃さえあれば!」

「銃がなきゃ何にもできないんだな」

 おれは火村の前に立つ。

 部屋の奥にある布でかくされた紙を集中して見つめると、用紙がつぎつぎと宙に浮いた。

 ニセ札が印刷された紙だ。特大ポスターくらいはある大きな用紙に、一万円札が何十枚と印刷されている。

 火村が叫ぶ。

「ああ、それは!」

「そう、あんたの大好きなお金だよ」

 ──ふわり

 ねらいどおり、スキルで持ちあがった紙が、火村たち四人の上につぎつぎと舞いおちた。

「何が起きてるんだ!? 風もないのに紙が!」

 たくさんの紙の束は、重すぎて持ちあげられない。でも、一枚ずつなら持ちあげられる。

 大量に舞いあげられた紙が、部屋の空中に広がる。

 驚く火村に向けて、おれは、ヒュッと手を下に振った。

 バサバサッ ぶわあっ!

 浮いていたニセ札が四人の男たちの上へ降りそそぐ。抵抗していた火村も、絶え間なく降りそそぐ紙で、ついに押しつぶされた。

「なんだ、これは! まるで紙が生きてるみたいに動いて……ぐっ、重くて、動けない!」

「ま、やったことの重みをかみしめて」

 パラ パラパラパラ ……ぱらり

 男たち四人の上にできた紙の山に最後の一枚がかぶさると、全員気を失ったのか、部屋はしんとしずまりかえった。

 小さな力や気持ちはムダじゃない。集まれば、大きなものも動かせる力になるんだ。

(おれたちも行こう)

(ああ)



 あ、忘れてた。

 おれは、持っていた記録メディアを久遠さんのお父さんへ、ひょいと投げた。

 お父さんの手が、あわててキャッチする。

「あ……ありがとう! その、きみたちは?」

 久遠さんのお父さんが、記録メディアから顔を上げる。

 けれど、そのときにはもう、おれと星夜の姿は、部屋から消えていた。


    * * *


「夕花梨、起きなさい。夕花梨!」

「うん……」

 何度も名前を呼ばれて、わたしはようやくまぶたを開ける。すぐにお父さんの笑顔が見えて、ほっとした。

「夕花梨、ああ、よかった。ケガは? どこか痛いところはないか? 急いで外へ行こう。逃げるんだ」

「う、うん。でも……」

 ……あの男たちは?

 不安になって、こわごわとまわりを見まわすと、部屋の中は、なぜか、気を失う前とはすっかり変わってる。

 部屋の中央には積みかさなった大きな紙で、山ができている。その下では、何人かの男の人が気を失っている。

 あれは、さっきの男の人たち? それにこれ!

 近くにあった一枚の紙を見る。10000と数字が入っている。

 一万円札! しかも、一枚に大量の一万円札が印刷されたまま、切られていない。

「もしかして……ニセ札?」

 よく見ると、部屋の中はぐちゃぐちゃだ。棚も、インクの缶も倒れている。

 なんだか、嵐が通りすぎたあとみたい……。

「とにかく、行こう。立てるか?」

「うん。だいじょうぶ」

 お父さんの手を借りて、ゆっくり立ちあがる。まだ不安がぬぐえなくて、お父さんと手をつないだまま部屋を出た。

「夕花梨。本当にごめんな。こんなことに巻きこんでしまって」

 二人で出口へと歩きながら、お父さんが言った。

「それにしても、さっきの少年たちはだれだったんだろう。まるで、お父さんや夕花梨の事情を知っているみたいだった。突然、ここにあらわれたのも、不思議だったし……」

「突然あらわれた男の子が、わたしとお父さんを助けてくれたんだよね? 途中で気を失ってしまったから、わからないけど……」

 でも、しっかり覚えてる。

 犯人に、一人で立ちむかっていった時の横顔。

 わたしをかばってくれた背中──。

 ウ────!

 そのとき、近づいてくるパトカーのサイレンが聞こえた。

 急にお父さんが走りだして、わたしも走る。お父さんが押しあけたドアから外に出ると、点滅する赤いランプで目がチカチカした。

 パトカーの赤いランプ。

 それに──たくさんの警察官!?

 そのうちの一人が、わたしとお父さんの前に立つ。

「通報があって来ました。久遠真也さんと娘の夕花梨さんですね?」

「は、はい」

 ……わたしたち、助かったんだ! なんだかドラマみたい……。

 これもぜんぶ、気を失う前にかばってくれた男の子のおかげ、なのかな?

 暗くなりはじめた空を見あげると、まばゆい星が三つ、キラキラと輝いている。

 その星に向かって、わたしは心からささやいた。

「……助けてくれて、ありがとう」


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