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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』第5回

第13章 三人の決意


 一日経って、日曜日。昨日とはうってかわって、今日は朝からずっとヒマだ。

 おれはベッドに寝ころがって、スキルで浮かせたえんぴつをぼんやりと見あげていた。

「……はぁ」

 視線の先で、えんぴつが、くるくる回る。モヤモヤした時はよく、こんなふうにスキルでえんぴつを回す。そうすると、なんとなく心が落ちつく。でも今日は、あまり効果がないみたいだ。

 星夜は図書館、まひるはお菓子を買いに出かけたから、今日はろくに話もできてない。

 久遠さんとお父さんのこと、どうしよう。

 やっぱり答えは出ない。どうするかも、何をすればいいのかも。

「……おれがもっと、強かったらよかったのかな」

 コンコン

「朝陽、入るよ」

 やさしい声のあと、ドアが開いてハル兄が顔をのぞかせた。

「今から車の練習に行ってくるよ。そのまま仕事に行くつもりだから、夕食は冷蔵庫に入っている作り置きを食べて──あれ? 朝陽、どうかしたの?」

「え?」

「それ。悩みがあるときによくやってるよね」

 ハル兄はほほ笑みながら、くるくると回るえんぴつを指さした。

 うわっ、えんぴつ止めるの忘れてた!

 心配してくれてるんだ。でも、どうすればいいかなんて聞けないか。

 もっと心配をかけるし、ただでさえむずかしいことだし。

 今から車の練習をするハル兄に、悩みごとを増やすのも……あれ、そういえば。

「ハル兄って、なんで運転免許をとったの? こんなに運転が苦手なんだから、とるの大変だったよね。なんで、がんばれたの? 途中でやめようと思わなかった?」

「? どうしたの、急に。ぼくが朝陽に質問したのに」

「えっと、そうなんだけど……今、うまくいかないことがあって悩んでて。それでなんとなく、ハル兄が運転免許をとったときのことが、気になったんだ」

「なるほどね。参考になるかはわからないけど……たしかに運転免許をとるのは大変だったなあ。どうしても運転がうまくならなくて、あきらめかけたことも何度もあったよ。でも、それでもがんばれた。朝陽とまひると星夜と、みんなと車で出かけたかったからね」

「えっ、そんな理由で? ええと、ちょっと意外」

「ふふっ、ぼくががんばるには十分な理由だったんだよ。やりたいことは、できるからやるんじゃない。やりたいから、やる。気持ちが一番大事なんだよ」

 ハル兄は、にっこり笑った。

「くじけそうになったときは、本当はどうしたいのか、自分自身に聞くんだ。うまくいかなくて悲しいな、つらいな、そう思ったときこそ、〈自分がどうしたいのか〉を一番大事にしたい。やめてもいい、逃げてもいい……それでもやりたい。そう思ったから、がんばったんだ」

 自分の気持ちか。おれの気持ちは決まってるけど……。

「でも、やっぱりダメな時ってない?」

「そういう時は、準備や対策をすればいいんだよ。まず何ができるか考える。一人で思いつかないときは、まわりの人にも協力を頼む──朝陽にはいるでしょ? 絶対に頼れる人」

「あっ」

 すぐに二人の顔が浮かぶ。

 ちょっと生意気だけどやさしい顔と、見ると落ちつく涼しげな顔。

「……ハル兄、ありがと」

 おれの言葉に、ハル兄は笑って、ドアのすきまから手を振った。

「それじゃあ、行ってくるね。朝陽もがんばって」

「うん」

 そうだ、おれもいつまでも、ぼうっとしていられない!

 おれはベッドの上で飛びおきると、部屋を出て階段を下りる。

 たしかに、どうすればいいか迷ってると思ってた。でも、本当は──心は決まってた。

 だったら迷わない。それより、準備や対策。今、できることをする。

 二人が賛成してくれるかはわからないけど、できるかぎり、おれの気持ちを伝える!

 そう意気ごんでドアを開けてリビングに入ると、まひると星夜がソファに座っていた。

「あれ? ……二人とも、もう帰ってきてたの?」

「えーっと、お菓子を買いに行ったんだけど、気分が乗らなくて帰ってきちゃった」

「オレも、本の文字が頭に入ってこなくてさ」

 まひるは、ほおをかく。星夜も、手に持った本で肩をトントンとたたいた。

 なーんだ。二人ともおれと同じ?

「……星夜、まひる。おれ、やっぱり久遠さんとお父さんを助けたい。まひると星夜との約束は何より大事だけど、でもっ」

 それでも、やっぱりあきらめたくない。

「おれのわがままでごめん! でも、二人に手伝ってほしいんだ。どうすれば助けられるか、おれといっしょに考えて!」

「……了解」

 星夜が、くすっと笑った気がした。

「というより、最初からそのつもりだった」

「そうそう。わたしたち、手伝わないなんて言ってないでしょ。大事なきょうだいだもん」

「星夜、まひる……」

 二人がいると、おれはそれだけで励まされる。

 星夜とまひるが、何も言わずにうなずく。それ以上、言葉も心の声もいらない。

 みんなで行こう。久遠さんの家へ!

 三人、同時に自分の部屋へ急ぐ。

 買ってもらったキックスケーターを持っていこう。他には……ああ、もういいや!

 玄関に出ると、準備をすませたまひると星夜といっしょに家を出る。

 おれが二人に合わせて、キックスケーターでゆっくり走っていると、まひるが声を上げた。

「それで、夕花梨ちゃんの家に行って具体的にどうするの? 朝陽の考えは?」

「えっ! えっと……けっこう行き当たりばったりの案しか考えてないんだけど」

「ま、そんなところだと思った。でも話してみて。わたしと星夜もいっしょに考えるから」

 うわ、うれしい。今はそういうの心強い。

 調子にのりそうだから、まひるには絶対言わないけど。

「えっと、おれたちが通報しても警察は信じてくれないだろ? だから、久遠さんのお父さんに代わりに通報してもらうんだ」

「どういうこと?」

「まずは、お父さんにあの男たちが銃も持ってるような、あぶない犯罪組織だってことと、アジトや印刷工場について話す。そして、お父さんと久遠さんを守りながら警察まで送りとどけて、通報してもらうんだ。そうすれば二人を守りつつ、犯罪組織も捕まえられるだろ?」

「う~ん。朝陽にしてはいい案だけど……でも、どうやってそんなことを知ったのか、あのお父さんは疑問に思うんじゃない? かえって、わたしたちがあやしまれちゃうかも」

「え~、ああ、ううん……」

「なんとかなる、と思う」

 星夜が言った。

「久遠さんが連れさられかけたとき、朝陽は男たちの車を見ただろ? その車を昨日、偶然見かけた。中をのぞいたら拳銃があった、とか、ありそうな理由をつければいい。事実と大きく食い違わないから、疑われにくいだろう」

「あっ、たしかにいいかも! 星夜、ワルがしこい~」

「こういうときはそういうことも必要だろ?」

 星夜が不満そうに顔をしかめると、おれはまひると視線を合わせて、くっくっと笑った。

 これなら、なんとかなりそう。

 おれたち三人が、最悪の展開にはさせない。久遠さんとお父さんを守る!

「じゃあ、家に二人がいるか、サクッと様子を確認するね。夕花梨ちゃんの家までもう少しだから、もう視えるかな」

 まひるが、大きなひとみを閉じて、ぐっと息を止める。

 スキルを使ってる証だ。

「まひる、どう? 久遠さんたちは家にいる?」

「うん……お父さんは、いるけど……」

 ? やけに歯切れが悪い。まひるらしくない。

「どうしたの?」

「何か、変なの。お父さんは部屋でパソコンを操作してるんだけど、やけに手が震えてて。それに家の中も暗いし……リビングにいるのは夕花梨ちゃんのお母さん? 夕花梨ちゃんは……」

 まひるの口が、びくりと震えた。

「夕花梨ちゃんが……いない! どの部屋にも、庭にも! でも、あのお父さんが一人で外出させるはずないよね。なのに、いないってことは」

「……まさか連れさられた?」

 星夜のつぶやきに、背筋がぞっと冷たくなった。

 そんな。じゃあ久遠さんはもうすでに、犯罪組織の手に?

「あっ。お父さんが、パソコンで持ちだし用の記録メディアに何かのデータをコピーしてる。お札のデータを持って……組織のところへ行こうとしてるのかも!」

 ダメだ!

 おれは、キックスケーターで人通りのない道を走りだす。地面をけると、もう風みたいに速くなる。



 今追えるのは自分だけだ。まひると星夜に声をかける間もない。

 頼む、間に合え!

 角の向こうに、久遠さんの家が見えてくる。

 まだ昼なのに、家の窓のカーテンがぜんぶ閉まってる。

 それに──家の門扉が開けっぱなしだ。

 遅かった!

 ギギギッとボードをきしませながら、急停止すると、すっかり息が上がっていた。

 ダメだ、久遠さんのお父さんを止められなかった。せめて一人では行かせたくなかったのに!

 後ろから二人の足音がする。目を閉じたまひるが、星夜に手を引かれながら叫んだ。

「朝陽! 夕花梨ちゃんのお父さん、朝陽が着く少し前に家を出て、駅のほうに走ってる!」

「まさか、あのビルのアジトに!?」

「いや、人目につかないように受けとりたいなら、あっちだろう」

 星夜が静かに言った。

「昨日、朝陽とまひるがつきとめた──印刷工場だ」

 おれはキックスケーターのハンドルを、ぎゅっとにぎる。

 やることは一つだ。

 おれたちで久遠さんとお父さんを助けだす。

「行こう、三人で」


この続きは、5月16日に公開予定!
久遠さんたちを救うため、印刷所に潜入—―!
たのしみに待っていてね!



書籍情報


作: 大空 なつき 絵: アルセチカ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046321930

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★最新刊『神スキル!!! 絶叫! 暴走!? ねらわれたテーマパーク』は、5月9日発売予定!


作: 大空 なつき 絵: アルセチカ

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323637

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