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注目シリーズまるごとイッキ読み!『放課後チェンジ 世界を救う? 最強チーム結成!』第6回 心にささったトゲ

5 犯人、見つけた!


 若葉ちゃんにだけは、昨日館林(たてばやし)さんたちから「佐穂(さほ)ちゃんに話しかけないほうがいい」って言われたことを話して、昼休み、いっしょにB組の教室に行ってみた。

 B組は尊と行成のクラスでもあるけど、二人はどこかへ行ってるみたい。

 佐穂ちゃんは沈んだ表情で、席を立ったところだった。

「佐穂ちゃん!」

 わたしが声をかけると、おどろいたように、こっちに来る。

「まなみちゃんと、水沢さん……?」

「友だちの若葉ちゃん、連れてきた!」

「初めまして。水沢若葉(みずさわわかば)です」

「は、初めまして……」

「いいお天気だし、中庭行かない? 今アジサイがすごくキレイなんだよ~」

 わたしの言葉に、佐穂ちゃんは「そうなんだ」と目を丸くした。

「うん、行きたい」

 そんな感じで中庭まで連れだしたけど、佐穂ちゃんはなんだか緊張(きんちょう)してる様子。

 若葉ちゃんも、人見知りなところがあるから、笑顔がちょっとかたかった。

「……あの……佐穂ちゃん」

 遠慮(えんりょ)がちに、若葉ちゃんが声をかける。

「どこか行こうとしてたんじゃない? だいじょうぶ?」

 えっ、あ、そういえば、わたしが声をかけた時にちょうど立ちあがってたっけ。

「ごめん、ムリにさそっちゃった?」

「ううん、だいじょうぶ。図書室行こうかなって思ってただけだし……あっ」

「何?」

「どうしたの?」

「本、持ってきちゃったから。その、置いてくればよかったな、って……」

 胸にかかえた本を見て、はずかしそうにする佐穂ちゃん。

 今度は若葉ちゃんが「あっ」と声を上げた。

「その本……『ドリーム・クエスト』のノベライズ?」

「う、うん」

「私もその本、持ってるよ! もともとゲームの『ドリクエ』が好きで、本屋でノベライズが出てるの見つけて、うれしくてすぐ買っちゃった」

 それまでのかたい表情から一変して、生き生きと話しだす若葉ちゃん。

「おんなじだ!」

 佐穂ちゃんも、ぱあっと笑顔になった。

「私も、ゲームがおもしろくて……でもこの本、ちょっとむずかしくて……」

「わかる、わりと文章が大人向けだよね。好きだけど……。ゲームのパーティーはだれを入れてた?」

「えーと……」

 目を輝かせて質問する若葉ちゃんに、佐穂ちゃんも楽しそうに答える。

 おお、二人の間にあった見えない壁(かべ)がなくなって、すごい勢いで距離が縮まっていく……!

「──若葉ちゃんはゲーマーなんだよ。RPGは全キャラ最大レベルになるまでやりこむし、リズムゲームもめっちゃ上手で、むずかしい曲もフルコンしちゃうの」

「えー、すごい……リズムゲームなら私、『プロスタ』やってる」

「いいよね、『プロスタ』! 私も今いちばんハマってる。こないだのイベントで──」

 その後も話ははずんで、昼休みが終わるころには、三人で友だちになっていた。


 次の日も、その次の日も、昼休みに佐穂ちゃんを連れだしておしゃべりした。

 そうするうちに……打ちあけてくれたんだ。

 佐穂ちゃんがこの春に引っこしてきて、他に知り合いがいなかったこと。

 最初はクラスでも何人か話す子がいたんだけど、いつのまにか、さけられるようになって、孤立していること……。

「あとね……ときどき、だれかに物をかくされるの。シャーペンとか、消しゴムとか……最初は気のせいかと思ったんだけど、くつ箱から出てきたり……今日も、買ったばっかりのノートが、教室を移動した後から見当たらなくて……」

 中庭のベンチで話す佐穂ちゃんの瞳に、みるみるなみだがたまる。

 わたしも胸が苦しくなった。

「なにそれ、ひどいね……!」

 ギュッと佐穂ちゃんの手をにぎりしめると、佐穂ちゃんはなみだをこらえて、言葉を続ける。

「引っこしてくる前に、友だちにチョウチョの形のバレッタをもらってね……学校につけてくるのは禁止だけど、お守りに毎日持ってきて、机の中にいれてたの。でも……ゴールデンウィーク前に、それもなくなって……」

「まだもどってこないの!? ドロボーじゃない! 犯人はわかってるの?」

 佐穂ちゃんは少しためらってから、首を横にふった。

「あやしいなって人はいるけど……思いきって、聞いてみたけど、知らないって言われて。証拠(しょうこ)がないから……」

 わたしの頭に浮かんだのは、館林さんたちだ。あの子たちが、クラスメートに佐穂ちゃんの悪口をふきこんで、一人ぼっちになるように追いつめてるんだと思う。

 その上、いやがらせでドロボーまで……? でも、たしかに、証拠はない。

「先生とか、大人に報告(ほうこく)した?」

 背中をやさしくなでながら、若葉ちゃんが聞く。佐穂ちゃんはまた首を横に振った。

「ルールを破って学校に持ってきたのは、私だから……でも、すごくすごく大事な、バレッタだから……あれだけは、どうしても……返してほしいの……!」

 話しながら、ついにガマンできなくなったように、ボロボロと泣きだす佐穂ちゃん。

 わたしもなみだがあふれてくる。

「わかった。絶対、とり返そう! わたしたちも協力するから! だから……もう、泣かないで……泣かない……っ……えーん! 佐穂ちゃーん……!」

「まなみだって号泣じゃない、落ちついて。……佐穂ちゃん、話してくれてありがとう。バレッタも、ノートも、取りもどそうね」

「……うん……!」


 佐穂ちゃんの今日なくなったばっかりっていうノートは、まだ学校のどこかにかくされてるかもしれない。

 放課後、若葉ちゃんとさがしてみることにした。

 五時間目が水泳の授業だったから、体は少しだるかった。

 ほんとはすぐ家に帰ってゴロゴロしたいところだけど、佐穂ちゃんのためにがんばろう!

 自分に気合いを入れながら、教室を出たタイミングで──

 少し離れたところでこそこそと話してる、館林さんたち三人の姿が見えた。

 とっさに、がやがやしてにぎやかな廊下で、あの子たちの声だけに、耳をすます。

「──渡辺佐穂、あせってたよね。いい気味」

 クスクス、と笑いまじりの声が聞こえてきて、息をのんだ。

「うん、いい気味」

「これから、捨てに行くんでしょ?」

 捨てるって、ノートを……!?

「まなみ、どうしたの?」

「今〈猫の耳〉で会話をぬすみ聞きしたんだけど、やっぱりあの三人が佐穂ちゃんをいじめてるんだよ。これから捨てに行こうって話してて……止めなきゃ!」

「待って!」

 突撃(とつげき)しようとしたところを、若葉ちゃんに引き止められる。

「ノートを捨てるって話してる? そのノートは今、館林さんたちが持ってるって? ちゃんと証拠を押さえないと、しらばっくれるかも……」

「そうか……じゃあ、しばらく尾行してみよう」


 三人が向かったのは、学校のそばを流れる大きな川の方だった。

「このへん?」

「いいんじゃない? じゃ、捨てちゃお~」

 あたりに人がいないのを確認してから、どこかはしゃいだ様子で、リュックカバンからノートをとりだす。さすがにもういいでしょ!?

 橋から川に投げこもうとしたところで、わたしはかげから飛びだした。

「待ちなさい! 現行犯(げんこうはん)だよ!」

 ギョッとしたように振りかえった館林さんに一気にかけよって、その手からノートをうばう。

 ノートにはたしかに「渡辺佐穂」と名前が書いてある。

「佐穂ちゃんに何のうらみがあって、こんなことするの!?」

 わたしがキッとにらみつけると、三人はバツが悪そうに顔を見あわせてたけど、すぐに館林さんが開きなおるように胸をそらした。

「ウザいから」

「……何それ!?」

「あの子、ウザいの。暗いし、声小さくて聞こえにくいし」

「そうそう、なんかムカつく」

「ダサいペンケース使ってるよね」

 他の二人も同調するみたいに、言葉をつらねる。

「そんなのぜんっぜん、理由になってない! 人のものを盗るのは犯罪だよ!?」

「うるせー、おまえもウザい! だまってろ、カンちがい女!」

「そうそう、ダメ人間のくせに!」

「底辺のゴミクズ!」

 ブッチーン!! とカンニンぶくろの緒が切れた。



「最底辺のウザダメ人間は、人の気持ちがわからないあんたたちの方だから! ねえ、鏡見たことある? マージーでー、醜悪(しゅうあく)・性悪(しょうわる)・最悪! イジメとかクソダサいことしてる犯罪者のくせに開きなおって、ツラの皮百枚重ねのミルフィーユか! 千年くらい滝に打たれて反省しなさい!!!」

「「「…………!」」」

 一息にまくしたてると、三人は絶句した。

 こないだは不覚をとったけど、口ゲンカじゃ負けないんだから!

「バレッタもあんたたちがかくしたんでしょ!? 返してよ!」

「……しっ、知らないし! 行こっ……」

 ひるんだように、三人はバタバタと逃げていく。

「こらっ、話はまだ──」

「まなみ、待って!」

 カッとして追いかけようとしたところで、若葉ちゃんに呼びとめられた。

「そんな状態で追いかけたら、いつ変身しちゃうかわからないよ。今は水泳で疲れてたから、セーフだったみたいだけど……」

 はあーっとため息をつきながら、スマホを持った若葉ちゃんが出てくる。

 はっ、確かに! あぶない、あぶない。

「証拠はバッチリとったよ」

「あっ、動画撮影(さつえい)してたんだ!? さすが……って、若葉ちゃん、泣いてる!? だいじょうぶ?」

 わたしがビックリしてかけよると、若葉ちゃんは「ごめん、だいじょうぶ」と大きな瞳(ひとみ)ににじんでたなみだを指でぬぐった。

「まなみこそ、さすがだったよ。こういう時に、ちゃんと怒れるんだもん。私は親しくない人にはなかなか意見が言えないし、ひどいことがあると、怒るより悲しくなっちゃうから」

 館林さんたちのイジワルな言葉の嵐を聞いて、悲しくなっちゃったんだ……。

「若葉ちゃんはやさしいね」

「やさしいのは、まなみの方。……昔、私がいじめられた時に、まなみが助けてくれたことを思いだした」

 ああ……と、思わず顔をしかめるわたし。実は小五の時、若葉ちゃんもクラスの女子に悪いウワサを立てられたり、ノートに悪口を書かれたりしたことがあったんだ……。

「いろいろあってすごくしんどかったけど、あの時もまなみがビシッと言ってくれて、クラスの風向きが変わったんだよね。見て見ぬ振りをしてた子たちも味方に付いてくれるようになって、いやがらせがなくなった」

 若葉ちゃんはわたしを見つめながら、花のような笑顔で言う。

「──まなみの、人の気持ちに寄りそって、大事な時にはちゃんと行動できるまっすぐなところ、すっごくカッコいいと思う」

「…………!」

 真正面からほめられて、めんくらうと同時に、かあーっと顔が熱くなった。

「いや~、それほどでも~。オラ、照れちゃうゾ……」

 某(ぼう)アニメの五歳児の声まねをして、照れかくしをしつつ。

 内心すごくうれしくて、ひそかにかかえていたモヤモヤが、晴れるような気がした。

 ……わたしってダメなやつだなあ……って落ちこんでたけど。

 若葉ちゃんがこう言ってくれるなら、まんざらでもないところもあるのかな……?

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