3 おそろいの不思議な指輪
「まずゾゾッとすっげー嫌な感じがして、いきなり周りがまぶしくなったと思ったら、ボンッ、て体がはじけるみたいになって、意識がとんで。気がついたら、この姿になってた」
尊の言葉に、「私も」「俺も」とみんなが同意をする中。
わたしは「ごめん」と、情けない気持ちで声をあげた。
「わたしのせいかも。なんか、だれかに呼ばれた気がして、箱を見つけてね。それを開けたら、指輪が何個か入ってたんだけど、そこからすごい光が出てきて……」
「指輪……もしかして俺の足や若葉の手に付いてる、これか?」
そう言う行成のタカの足をよく見ると、吸いこまれるような青い石が付いた銀色のリングがはまっていた。
若葉ちゃんのハムスターの手には、同じデザインの緑の石の付いた指輪。
「そうかも!」
「まなみと尊のしっぽの付け根にも、付いてるね。まなみはピンクで、尊は赤い石だけど」
「マジで⁉ 色ちがいの石の指輪ってことか」
おたがいの指輪をまじまじと見くらべるわたしたち。
箱も調べてみよう、ということでみんなで一階に下りる。
「これだよ!」
「うわ……これはなんか見るからに……」
「あやしげだな」
「独特のオーラがあるね……」
床に落ちていたからっぽの箱を囲んで、うなる三人に。
「だよね……なんで開けちゃったんだろう~」
半泣きで下を向いたら、わたしの頭にポン、と犬の手がのせられた。
「ま、どうせ夢だろ。さっきは一瞬あせったけど、こんなこと、あるわけないし」
からっと言いきる尊。夢……?
「のわりには、感覚がリアルなような……でも、そうだよね……夢、かな……?」
自分を納得させるようにつぶやく若葉ちゃん。
そ、そうか。これ、夢か~。
夢の中の尊たちが「これは夢」とか言ってるのは、ちょっと不思議な感じだけど。
「……だよね。いきなり動物になるなんてね!」
「そうそう。夢の中でもやらかすのが、まなみらしいけど」
「尊、それどういう意味⁉」
「そのまんま。ドジでケーソツでそそっかしいソコツでマヌケなまなみらしいって意味」
「そこまで言う⁉ 尊こそ夢の中でも口が悪いな!」
言い合うわたしたちの横で、「――とりあえず」と行成がつばさを広げる。
「貴重な動物体験だ。楽しませてもらおう」
そう言うと、行成は開けっぱなしだったドアから、バサバサッと大空へと飛びたっていった。
――行成も夢でもブレないな⁉ あいかわらず自由人……。
でも、そうだね。
わたしが猫なんてちょっと複雑だけど……夢なら、楽しんじゃおう!
「よし、オレも――」
「待って、尊!」
「うわっ」
わたしは外に飛びだしかけた黒柴(くろしば)の体に、ぴょんと抱きついた。
ふわふわの毛なみに、思いっきり顔をすりすりする。
「はあ~、黒柴かわいい~。もふもふ最高~♡」
「こ、子猫が小犬に全力であまえている……!」
何このいやしの光景、とつぶやく若葉ちゃん。
「しっぽもたまらん♡」
「~~やめろ、くすぐったい! あとオレはかわいいじゃなくてカッコいいんだよ!」
くるんと丸まったしっぽにじゃれようとしたところで、パシッとはらわれた。
つれないなぁ、もふもふ……。
尊はドアから飛びだすと、畑の方へと勢いよく走りだした。
ワンワン! と犬そのものの声で鳴いて、すごいスピードでかけまわる。
あ~、やっぱりかわいいよ黒柴!
コロコロとはねる元気な体。極上の黒い毛なみ。
「国宝級の顔」なんて自称してたけど、実際、元の尊の外見はすこぶる良いんだよね。
でも、犬になるとこれほどとは! もう、ジタバタしちゃうかわいさだよ~。
遠吠(とおぼ)えまでして気持ちよさそう……よし、わたしも行くぞ!
「尊~、もう一回もふらせて~!」
「ふふん、オレの速さについてこれたらな!」
――すごい、体が軽い!
さすが猫。とんだりはねたり、自由自在。
目線が低いのもいつもとちがって、楽し~い。
晴れた大空を見あげると、行成がゆうゆうとつばさを広げて飛びまわっていた。
おそるおそる外に出てきた若葉ちゃんも、トトトッと身軽に走りだす。
よーし、次は木登りしてみようかな……うん、楽勝、楽勝♪
だけどほどなくして、体の奥がむずむずするような感覚がわいてくる。
何これ?
わたしが木の枝からぴょんと着地したら、他の三人も異常を感じたのか、そばに集まってきた。
直後、またボン! とあの感覚がして、みんな、人間の姿に元どおり!
小川をのぞきこむと、髪を左右で三つ編みした、見なれた自分の顔が水面に映った。
よかった、わたしももどれたみたい。夢の中とはいえ、やっぱりホッとするな~。
「……あれ、なんか、力が入らない……」
立ちあがるのがおっくうで、そう言うと、「わかる」と若葉ちゃんもしゃがみこんだ。
「体が重いな……」
「ああ、やたら疲れた。バスケの試合の後みたいだ」
行成や尊も同じみたい。
「あ、やっぱり指輪してる……」
そう言った若葉ちゃんの右手の中指には、たしかに、緑の石がキラリと輝いていた。
わたし、尊、行成の右手の中指にも、おそろいのピンク、赤、青の指輪が光っている。
古めかしいけど、どこか特別な感じがする、凝ったデザイン。
「こういうの、アンティークって言うんだっけ。なんかロマンがあるっていうか、カッコいいよね」
「まあな……ん? ……っ……なんだこれ、全然ぬけねー」
うそ⁉
「んんんっ、んー! この! キーッ! ……ハアハア、ほんとだ……ビクともしない」

「……私も無理みたい」
「右に同じ」
とほうにくれて、顔を見あわせるわたしたち。
「――とりあえず、帰るか。昼メシのすげーいいニオイがする」
尊の言うとおり、さっきから、お出汁(だし)や天ぷらのいい香りがただよっていた。
くんくん、とかごうとすると、すうっと鼻がとおる感じがして。
まるですぐそばに料理がおかれているみたいに、キョーレツなニオイになった。
「尊とまなみの指輪、光ってるな」
行成に言われて見てみると、ほんとだ、赤とピンクにぽうっと淡く発光している。
ニオイをかぐのをやめたら、光は消えた。
……よくわからないけど、動物に変身とか、光る指輪とか、ファンタジーな夢だなあ。
でも、夢にしては感覚がはっきりしすぎてるような……鼻だけじゃなくて、目も耳も、全身の感覚に言えることなんだけど。
なんともいえない違和感を覚えながら、わたしたちはおばあちゃんが待つ家にもどった。
第2回へつづく(4月18日予定)

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