1章 林間学校スタート!
1 うそ? ほんと? 星神里(ほしがみさと)伝説
「ふあ~あ……」
青空の下で大きなあくびをしたら、「クク……」と近くからあやしい笑い声がした。
「斉賀(さいが)さん、気持ちはわかるわ。せっかく夏休みになったのに、朝から校庭に集合なんてやってられないわよね……私もできれば今すぐ帰宅して、エアコンのきいた部屋で二度寝したい……」
わたし、斉賀まなみに向かって暗い笑みをうかべながらそう話すメガネ女子は、クラスメートの梨田希望(なしだのぞみ)ちゃん。
「ゴカイだよ。わたしはワクワクしすぎて、昨日はなかなか眠れなかったのに、今朝はすごく早起きしちゃったの。今もめっちゃ楽しみだよ~。いよいよ出発だもん!」
わたしの言葉に、希望ちゃんは、「……そう……」とうなだれる。
「やはり私たちは相いれない光と影……いや、陽と陰(いん)…………」
「そんなことないよ! わたし、希望ちゃんと仲良くなりたいもん。せっかく同じ班になったんだから、いっしょに林間学校、楽しもう」
「や、やめて……私にはあなたの光は、強すぎる……!」
まぶしい日差しをさえぎるように手をかざして、はなれていこうとする希望ちゃんを、あわてて引きとめた。
「ダメだよ、これからバスに乗るんだから、いっしょにいなきゃ」
『班のメンバーがそろったら、バスに乗ってください。A組は1号車、B組は2号車……』
校庭には、スピーカーごしの先生の声がひびいている。
林間学校では男女別の五~六人の班ごとに行動することになっていて、わたしの班は若葉ちゃんと希望ちゃんと、あと二人。
「まなみ!」
向こうから、班長の若葉ちゃんが小走りでやってきた。
「佐原(さはら)さんたち、まだ来ない?」
「うん。トイレとかかな?」
残りのメンバー、佐原海妃(さはらみき)ちゃんと北山彩音(きたやまあやね)ちゃんの姿が、さっきから見当たらないんだ。
登校した時には見かけたから、校内にはいるはずなんだけど。
「そうか……もう一度、さがしてこようかな」
こまり顔で、校庭をキョロキョロと見まわす若葉ちゃん。
「わたしも分担してさがそうか?」
「ううん、まなみは希望ちゃんとここで待ってて――」
「どうしたんだい、水沢さん?」
とつぜん、見なれない男子が、前髪をかき上げながら近づいてきた。
すらっとしてほりの深い顔立ちの、なかなかのイケメンだけど……少しキザっぽいフンイキ。
「何かトラブルかい?」
「万里小路(まりこうじ)くん……」
かすかに、若葉ちゃんのほおがこわばった。
「だいじょうぶ。気にしないで」
「そう? でもピンチの時はいつでもこの万里小路(まりこうじ)夜斗(ないと)をたよっておくれ。ボクは君の騎士(ナイト)になると心に決めたんだ……マイ・スイート・プリンセス」
うやうやしく若葉ちゃんの手を取って、ひざまずく万里小路くん。
――なんだこの人、キザとかいうレベルじゃないぞ!?
「ええと……ほら、班の人が呼んでるよ。早く行って」
パッと手をはらって若葉ちゃんが言うと、「Oh(オウ)……」となやましげにひたいを押さえて頭をふりながら、立ちあがる万里小路くん。
「運命はいつも残酷(ざんこく)だ。でもボクはくじけない。いつの日か、君をこの腕に抱くその日まで――アデュー」
アデュー……⁉
頭の上につくったチョキをピッとふってから、万里小路くんは去っていった。
「なんか……濃(こ)いね。何者?」
「B組の万里小路くん。班長会でたまたまとなりの席になって、消しゴムを貸したら気に入られちゃったみたいで……」
はあっと大きなため息をつく若葉ちゃん。
若葉ちゃんにも、知らないうちにロマンスの影が!? だけど……
「いくら顔がよくても、あのノリはきついね」
「ほんとに。彼とつき合うつもりはないって、前に伝えたんだけど、伝わらなかったかな……」
「一度ことわったけど、変わらないんだ?」
「うん……言い方が遠まわしすぎたのかも。あっ、そんなことより、佐原さんたち!」
ハッと若葉ちゃんが息をのんだ時、「お待たせー」とさがしていた女子たちがかけよってきた。
「わっ、二人とも、髪かわいい!」
海妃ちゃんと彩音ちゃん、いつもとはちがう、おそろいで髪をまいて編みこみをした、オシャレなヘアスタイルに変わっていた。
わたしの言葉に、二人は笑顔になる。
「へへ、海妃が持ってきたヘアアイロンで、トイレでアレンジしてきたの」
「星見里(ほしみさと)キャンプ場といえばあの伝説もあるし、気合い入るよね」
あの伝説?
「もう出発時間だから、急ごう」
若葉ちゃんがあせった様子でみんなをうながして、バスへと歩きだす。
「――よし、3班、オーケー」
バスの入り口前に立っていた担任の先生が、手元のメモにマルをつけて、若葉ちゃんはホッとしたようにため息をもらした。間に合ってよかった!
バスの中の席はもうほとんどうまっている。おくから順に、補助席(ほじょせき)もつかっていた。
「希望ちゃん、乗りもの酔いしやすいって言ってたよね。窓ぎわに座って」
「ありがとう、水沢さん……」
「あっ、わたし、補助席座りたい!」
「えっ、いいの、まなみ?」
「うん、一度座ってみたかったの」
いつもはたたまれている席を広げて組みたてて、こしを下ろす。
その作業がなんだか楽しいし、特別感があって、ウキウキしちゃう。
「ねえねえ、さっき言ってた『伝説』って何?」
左どなりの席の彩音ちゃんにたずねると、「まなみ、知らないの?」とおどろかれた。
「これから行く星見里キャンプ場は、星の神の里で『星神里(ほしがみさと)』って書く別名もあってね。ロマンスの神様がいるパワースポットで、『満天の星の下で、星形のものをわたして受けとってもらうと、永遠(えいえん)の愛が約束される』っていう言い伝えがあるんだよ」
「そうなんだ!?」
「星形にフシギな力が宿って、永遠にまたたく星の光のように、永遠(とわ)に消えない愛の誓いが二人の間に交わされるんだって」
おくの席の海妃ちゃんも、目をキラキラさせて話に入ってくる。
「わ~、ロマンティック!」
「でしょ? キュンとしちゃうよね」
「とりあえず、絶好の告白チャンスだよね。体育祭の団長たちも、この星神里伝説をきっかけにつき合い始めたんだって」
「ええっ、あの団長たちも!?」
それを聞くとなんだか現実味がわいてくるな……。
「ねえねえ、星形のもの、持ってきた?」
「もちろん」
「好きな人がくれたら超うれしいよねー」
ふと気づけば、前後の席の女子たちも伝説のウワサで盛りあがっていた。
「星形ならおかしでもいいんだよね?」
「軽いノリでわたせば、気づかずに受けとってくれないかな~、神崎(かんざき)くん」
そんな声も耳に入って、ギョッとする。
どういうこと?
「私は今鷹(いまたか)くんにチャレンジしよう。フツーに告(こく)ったら脈(みゃく)がなさそうでも、星形のものを受けとってもらえたら伝説パワーで恋人になれるんでしょ?」
そんなウラ技ありなの!?
「なかなか、なりふりかまわないね……」
若葉ちゃんも聞こえたみたいで、苦笑いしてる。
「あっ、いよいよ出発するみたい!」
窓の外が動きだすのが見えて、わたしは声をはずませた。
伝説のことは気になるけど、だましうちみたいなやり方は無効(むこう)だと思うし、気にしないことにしよう、うん。
旅行へ向かう乗りものが動きだす時って、ほんとワクワクする。
二泊三日の林間学校、めいっぱい楽しむぞ~!
「……酔(よ)ったわ……」
「希望ちゃん!? もう!?」
「ふ、ふくろ、ふくろ!」
つづく 第2回は、1月16日公開予定!
書籍情報
2月12日発売予定!
シリーズ1、2、3巻ためし読み公開中★
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