3 大喜利(おおぎり)みたいになってるよ⁉
「楽しくなってきた! もっとこういうのやろう」
「じゃあ次は、好きな四字熟語」
四字熟語……って、一石二鳥(いっせきにちょう)とか一日一善(いちにちいちぜん)とか、漢字が四文字の言葉だよね?
え、どうしよう、そもそも四字熟語をあんまり知らないぞ。
好きな漢字四文字…………回転寿司? いやこれ言うとゼッタイ尊にバカにされそう。
うーん、うーん、こうなったら……。
「――みんな書けたみたいだな。じゃあ、一番早く書けていた若葉から」
「ナゾのエントリーはなくなったんだね」
若葉ちゃんの好きな四字熟語は――
『一騎当千(いっきとうせん)』
「なんかカッコいい!」
「一人で千人を相手にできる、群をぬいた英雄や能力のことだな」
「そう。さっき三国志の話をしたからか、頭にうかんで。ロマンがあるよね」
「対戦ゲームで若葉と協力プレイすると、マジで一騎当千だもんな~」
うんうん、若葉ちゃんらしいチョイスだ。
「続いては、まなみ」
「はい!」
「まなみのことだから『回転寿司』とかだろ」
尊からからかうように言われて、「そんなわけないでしょ!」と言いかえす。
あ、あぶなかった~!
「ただ、これってのがパッと思い浮かばなかったから、自分で作りました」
「創作四字熟語⁉」
目を丸くする三人にうなずいてから、ジャジャーンと見せる。
『肉球文文』
「『にくきゅうふみふみ』猫に肉球でふみふみされるくらい、気持ちよくて幸せ~って意味です」
「……まなみもかなり自由だよね」
「『ふみふみ』は漢字で書くなら『踏踏』だぞ?」
「書こうとしたけど、むずかしかった! それに、文文のほうがなんか形がやわらかそうだし、ふみふみしてるイメージが伝わらない?」
「やりたい放題か」
「ふふっ、かわいくて、私は好きだよ。肉球文文」
「ありがとう、若葉ちゃん!」
「若葉はまなみに甘いよな……じゃ、次はオレな」
尊が書いた四字熟語は――
『親分刃牙』
「何、これ? 少年マンガのタイトル?」
「尊も創作四字熟語?」
「……『ボスバーガー』か」
行成の言葉に、「あたり!」と尊。
ボスバーガーは尊の好きなファーストフード店だけど、親分でボス、刃でバー、牙でガー⁉
「強引すぎ! てか、これなら回転寿司と同レベルじゃない⁉」
「こっちのが一ひねりあるだろ」
「そのひねりは必要? もはやひらめきクイズみたいになってるけど」
「そして好きな四字熟語というより、単なる好きなものだな」
「目的は筆づかいの練習なんだから、細かいこと言うなって」
「それはそうか」
行成、あっさり受け入れた!
「じゃあ最後に師匠、発表をどーぞ」
「今のところ真っ当な四字熟語は私だけだから、期待してるよ、行成」
若葉ちゃんの言葉に、うなずいた行成が見せた四字熟語は――
『溶溶漾漾』
「いや細かい! 口では細かいこと言わなくても、筆づかいはありえないほど細かい!」
「字画多すぎだろ! しかも読み方わからん!」
「『溶溶漾漾』たくさんの水がしずかにゆったりと流れるようすを表す言葉だ」
「ヨーヨーヨーヨー!? ハイパーヨーヨーになれなかった悲しきヨーヨーの試作品?」
「オレはラッパーのかけ声かと思った」
「自作じゃないけど、自作以上に変化球出してきた……」
若葉ちゃんも初めて知った言葉らしい。
しかしこんなに細かいのに、字全体はのびやかで迫力があって、ととのってるのがスゴイ。
「さて、次のお題は――」
お笑いの大喜利みたいになってるよ、行成!?
「有名な『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』『鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス』『鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス』という三つの川柳(せんりゅう)――五七五の句がある。それぞれ、カリスマだが残酷なところもあった織田信長(おだのぶなが)、農民の出から天下統一を成しとげた豊臣秀吉(とよとみひでよし)、天下がとれるまでしんぼう強く機会を待った徳川家康(とくがわいえやす)の性格を表現した句だ。こんなふうに、みんなも『鳴かぬなら』で始まるホトトギスの句(く)を詠(よ)んでみよう」
「ガチで大喜利じゃねーか」
「というか、長くない? 半紙におさまる?」
「そろそろ小筆の練習もした方がいいから、今回は小筆で書いてくれ。俺が例を見せよう」
そう言って、サラサラと流れるような文字で行成が書いた五七五は――
『鳴かぬなら 一服するか ホトトギス』
「ホトトギスがお茶するの⁉」
「たしかに上手くいかない時は、一息ついた方がいいよね」
「オッケー、理解した」
「書けた人から発表してくれ」
しばらく、みんなで半紙を前にして頭をひねる。
「――はい、できました!」
「じゃあ、まなみの一句」
『鳴かぬなら 推し活しよう ホトトギス』
「勧誘するな!」
「いっしょに楽しいことをしたいと思って。推しは生活のうるおいだよ~。尊も『インペリアル』のファンクラブに入らない? 今なら特典でポストカードついてくる!」
「死ぬほどいらんわ! オレまで巻きこむな!」
「まなみらしいね。私もできた」
「はい、若葉」
『鳴かぬなら レベルが足りない? ホトトギス』
「ゲームのスキル的な?」
「うん。ホトトギスはレベルがあがった! ホトトギスは鳴きかたを覚えた! みたいな……もう一つ、できたんだけど、いい?」
「のってるな、若葉。どうぞ」
『鳴かぬなら 武器はくちばし ホトトギス』
「スキルを覚えないなら、くちばし攻撃だと思って」
「若葉ちゃんのゲーマースイッチが入った!」
「ホトトギスがスキルを使うなら『いやしの子守歌』とか『勇気のマーチ』とかか」
「わかる、回復・補助系な。――じゃあ、オレも詠むぞ」
「尊の一句」
『鳴かぬなら 焼き鳥からあげ バンバンジー』
「こいつ食べる気だー!」
「ホトトギス、すでにバンバンジーにされてるけど!?」
「……語感がツボった……!」
ククク……と肩をふるわせる行成。意外と感覚的な笑いが好きだよね。
「わたしもまたできたよ!」
「まなみ、どうぞ」
『鳴かぬなら 昼寝中かな ホトトギス』
「まなみじゃあるまいし」
「何でよ!? ホトトギスだって眠たくなることもあるでしょ? ほら、漣(れん)くんのドラマを一気見して徹夜(てつや)したとか……」
「勧誘成功してる⁉」
「――よし、できた」
「はい、再び尊」
『仲間なら いるさ!! おれが仲間だ!! ホトトギス』
「出だしからおかしい!」
「でもやたらカッコいい!」
「某海賊王(ぼうかいぞくおう)志望の名ゼリフだな……」
「尊は型をくずしすぎ! 最後は師匠(ししょう)がバシッとしめてください!」
「なんか師匠の意味が変わってる気がする……」
「それな」
収拾がつかなくなってきた中、行成が詠(よ)んだ一句は――
『鳴かぬなら 個性をつらぬけ ホトトギス』
おお~っ、とみんなで拍手する。
「鳴かないホトトギスがいてもいいもんね」
「我が道を行くなら、応援したいね」
「その結果、バンバンジーかもだけどな」
尊の言葉に、ブハッと行成が吹きだした。
「もう、せっかくキレイにまとまってたのに!」
「ちょっと待って、トイレ……わっ⁉」
となりで尊が立ちあがった、と思ったら、いきなりこっちにたおれこんできた⁉
「ええっ⁉」
わたしもたたみの上にたおされる。
「お、重……」
「悪い、足がしびれて……」
顔を上げたとたん、ヒジをついておおいかぶさる尊の顔が、吐息がかかるくらい近くにあって。
「「!」」

目が合うと同時に、ボン! と二人して猫と犬に変身した。
「~~ビックリさせないでよ、尊!」
「わざとじゃねーし、今はトイレが先!」
スッと行成が開けた窓から中庭へ、ふらつく 足どりであわてて出ていく黒柴。
……ほんと、ビックリした……まだ胸がドキドキしてる……。
落ちつかなくて、若葉ちゃんに近づくと、よしよしと体をなでてくれた。
「私も足、しびれてきてる。まなみは平気?」
「うん、とちゅうで一回、正座をくずしたからかな」
もうあきた~、と手足をバタバタさせたのが良かったみたい。
行成はさすがに平然としていて、廊下(ろうか)に出て、「美里さん」となにか声をかけてから、もどってきた。
「そろそろ書いた文字に赤字を入れて、練習する時間にしたいが、その前に一度休けいをはさむか。どのみち、その姿では筆は持てないし」
「そうだね~……あ、でも一つだけ、書ける四字熟語があるよ!」
わたしはぴょんとつくえの上に飛びのると、墨汁にチョンと猫の両手の先をつける。
そして、白い半紙の上にペタペタペタペタと、あとをつけた。
「肉球文文!」
どうだ、としっぽをふるわたしに、二人とも笑顔になる。
「師匠、この書はいかがですか?」
「これは……修正の余地はないな」
そう言って行成は、赤い筆で大きな花丸をくれた。
第3回へつづく(7月30日公開予定)
書籍情報
8月6日発売予定!
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