KADOKAWA Group
ものがたり

『放課後チェンジ 友情の危機!? 波乱の夏祭り』ためし読み 第2回 行成の一日習字教室

2024年 新シリーズ売上 第1位の「放課後チェンジ」。
人気うなぎ登りの第3巻が60ページも試し読みできちゃう!
第3巻から読んでもおもしろい!
ハラハラドキドキ、おなかをかかえて笑っちゃうお話を今すぐチェック!

まなみ、尊(たける)、若葉(わかば)、行成(ゆきなり)は動物に変身できる! 大喜利(おおぎり)大会やクイズ大会など、大笑いのイベントの連続。
ところが、悪霊による「ほれ薬」の事件が発生!!
行成が、まなみに恋をしちゃった!? あわてる尊も巻きこんで、まさかのドキドキの関係に!



『放課後チェンジ 友情の危機!? 波乱の夏祭り』
(藤並みなと・作 こよせ・絵)
8月6日発売予定!



人物紹介


目次


※これまでのお話はコチラから

 

2 行成の一日習字教室


 そして、一日習字教室の日。

 三人で行成の家に行くと、りっぱな門の前でお手伝いの美里(みさと)さんが、ほうきをもって立っていた。お母さんと同じくらいの世代で、クリーム色の着物にタスキをした美里さんは、はきそうじ中みたいだけどほうきは動かさず、ボーッと宙をながめている。

「美里さん、こんにちは!」

 わたしが声をかけると、美里さんはハッとしたようにこっちを見て、ほほ笑んだ。

「あら……みなさま、いらっしゃいませ。若様(わかさま)がお待ちですよ」

 行成は住みこみで働いているお手伝いさんやお弟子さんから、「若」とか「若様」なんて呼ばれてるんだ。時代劇みたいだよね。

 大きな松や花咲く木がたくさん植えてある庭をながめながら、玄関に向かっているとちゅう、突然に先頭を歩いていた美里さんが息をのんだ。

「八代(やしろ)さあああああああん!」

 持っていたほうきを投げすてて、向こうから来た運転手の八代さんに突進するや勢いよく抱きつく美里さん。何ごと!?

「ごふうっ!?」

 いつもスーツを着こなしてダンディな八代さんも、強烈(きょうれつ)なタックルを受けて大きく目をむき、ふっとびかけたところをなんとか持ちこたえる。

「八代さん、八代さん、さびしかったです。いつ帰ってきたんですか?」

「つ、つい先ほど……でも今朝も会ったばかりでは――」

「帰ってきてすぐに会いに来てくださったんですね? うれしいっ、八代さん……!」

 熱っぽい視線で八代さんを見つめ、情熱的にハグをする美里さん。

「落ちついてください、美里さん。若のご友人たちの前ですよ⁉」

「あっ、オレたち、先に行かせてもらうんで!」

「ごゆっくりどうぞ~」

 赤面し、タジタジになっている八代さんと、抱きついたままの美里さんにそう告げて、わたしたちはそそくさとその場をはなれる。

「ビックリした……あの二人もすごいラブラブだったね」

「でも美里さん、いつもとキャラがちがいすぎない?」

 ふだんは上品な美里さんの、初めて見る一面におどろきつつ、玄関に向かうと、ちょうどガラリとトビラが開いて行成が出てきた。

「……どうした?」

 わたしたちのようすを見てそうたずねた行成は、紺(こん)の着流(きなが)し姿。

 家では着物で過ごすことが多いんだって。

「えーと、美里さんと八代さんって恋人同士だったんだね」

「……前からおたがいに密かな好意を抱いているようには見えたが、恋人同士になったのか?」

「あっ、両片思いだったんだ⁉ でも、うん、さっきはもう恋人って感じだったよ」

「付き合いたてだから、あんな感じになってるのかな……?」

「とりあえず、中へどうぞ」

「オジャマしまーす!」

 行成の家は、すごく広いのにホッと落ちつくような温もりがある、日本家屋。

 はなやかさはないけど、よく見るとふすまの上のところに細かい彫刻があったり、照明がさりげなくオシャレだったり……気がついた瞬間、わあっと思うようなものが、あちこちにひそんでいる。

 今日案内されたのは、真ん中に大きなつくえが置かれた和室だった。

 中庭に面していて、窓の向こうで光を浴びてゆらめく緑やすずしげな池、お寺にあるような石灯籠の景色が、まるで大きな絵画みたい。

「……それはたしかに、美里さんらしくないな」

 わたしたちが、さっき見た二人のようすを話すと、行成もフシギそうに首をかしげた。

 けれど、さほど興味もないみたいで、「それじゃあ始めるか」とつくえの上に習字道具をならべだす。うーん、行成、塩対応。

 いつから両片思いだったのかとか、働いている人同士の恋って他にもあるのかとか、いろいろ聞きたかったけど……今日はわたしがたのんだ習字教室だしな。

 しかたない、ガマンガマン……。

 

 行成は、習字の時の正しい姿勢や筆の持ち方を確認した後、『永字八法(えいじはっぽう)』というのを教えてくれた。

 点、はね、はらい……といった習字の基本的な八つの筆の動かし方が、『永』という漢字につまってるそうだ。

 永字八法をマスターしたら、どんな字もキレイに書ける! ということで、まずは『永』を部分ごとにわけて、点から順番に一か所ずつ、くり返し練習。

 白い半紙に筆を走らせると、すうっと鼻をつく墨汁の香り。なんだか背筋がのびる気がして、好きだなこのニオイ。

「こう、筆をしっかりと紙に押しつけて、勢いよく引いて、最後にするどく止める」

 行成がお手本を見せながら、時にはいっしょに筆をにぎって書きながら、丁寧に教えてくれて。

 いくつか書いたものをチェックしてもらって、できてなければまたくり返し練習して。

 それぞれの技法のコツを覚えたら、今度は『永』の字を、くり返し……くり返し…………何度も…………。

「まなみ、墨汁(ぼくじゅう)に顔ツッコむぞ!」

 尊の声にビクッと目がさめた。

 半紙を見ると、にじんだ線が毛虫みたいにいくつもうねっている。

「服はよごれてないみたい。良かったね」

「ごめん、わたし、寝ちゃったんだ……でも」

 わたしは思わずその場にあお向けになって、手足をバタバタさせた。

「もう同じ字ばっかり書くのは、あきたよ~」

 すかさず尊から、「あまったれ」とバカにされる。

「行成。基礎(きそ)が大事なのはわかるし、すごくためになったけど、そろそろちがう字にしない?」

「たしかに、オレたち、ここまでガッツリやらなくてもいいかも」

「尊、若葉ちゃんの言葉にはあっさり手のひら返すの、何⁉」

「まなみのは泣き言で若葉のは提案だから」

「……わかった。みんなかなり上手になってきたし、次は好きな漢字を書いて、発表しよう」

 行成の言葉に、「はーい」と返事しながらガバッと身を起こすわたし。

 ちょっとやる気、出てきた!

「発表までするの? あ、ただ書くだけよりメリハリができて、あきがこないように?」

 若葉ちゃんの疑問に、うなずく行成。

「そう。あと、人に見せると思うと、気合いが入るだろ。永字八法を忘れずに書いてくれ」

「オッケー!」

 筆をにぎり、あらためて半紙を見つめる。

 好きな漢字……好きな漢字……そうだ、これにしよう!

「――それでは、エントリーナンバー1、斉賀まなみさん、どうぞ」

「はい!」

 なんの大会にエントリーされたのかナゾだったけど、行成に呼ばれて、勢いよく手をあげるわたし。

「わたしの好きな漢字は、ジャカジャカジャカジャカジャカジャカ……ジャーン!」

 自分で効果音をつけながら、ぺらりと見せた半紙に書かれた文字は、

『漣』

 あー、とみんなが苦笑した。

「何、このビミョーな空気!? めっちゃいい漢字でしょ!?」

「漢字じゃなくて、その名前のアイドルが好きなんだろ」

「それはそうだけど、それだけじゃないし! レン、の響きがまずシャープでキラキラして天使のかなでたハープの音色みたいに胸を打つけど、さらにこの漢字、『さざなみ』とも読むんだよ。はちゃめちゃにカッコよくない!? 全人類の心をゆさぶり、たゆみない感動の波を起こしつづける漣くんにピッタリすぎるキセキの神ネームで名づけてくれた親御さんの最高センスに全身全霊で感謝の土下座をささげたい――」

「もういいからダマレ」

「推しができると、推しにかかわる全てが最高に思える現象だね」

「幸せそうで何よりだ。次、エントリーナンバー2、神崎尊さん、どうぞ」

「オッケー。オレの好きな漢字は、これ」

 尊が書いてみせた文字は、

『尊』

 ……って自分か!

「このナルシスト! よく恥ずかしくならないね⁉」

「オレもオレの名前も最高だろ。恥じる必要がどこにある?」

「この人、自尊心レベル999だ……」

「実際、自分やまわりを尊ぶことはすばらしいし、いい字だと思う。次、エントリーナンバー7、水沢若葉さん」

「3~6はどこいった⁉ ……コホン、ええと、私はこの字を書きました」

 若葉ちゃんの半紙に書かれていたのは、

『滅』

「「「!?」」」



 これ、破滅とか滅亡とかの「滅ぶ」って漢字だよね? 

「わ、若葉ちゃん……?」

「どうした、若葉……!?」

「スマファイⅢでユズリハが技を決めた時に、画面に大きく『滅』って出るのがカッコいいの」 

 おそるおそるたずねたわたしたちに、少しほおを染めながらグッとこぶしをにぎって話す若葉ちゃん。あ、そういうこと……はー、ビックリした……。

「よかった、若葉が悪に落ちたかと思ったぜ」

「確かにアニメとかの演出でも、漢字がドンッて出てくるの、なんかいいよね。じゃあ、エントリーナンバー100、今鷹行成さん!」

「そんなに参加者いたの!?」

「というか、俺も書くのか?」

「行成の好きな漢字も知りたいよな」

 うんうん、とうなずくわたしたちに、「そういうことなら……」と少し考えてから、芸術的な筆づかいで行成が書いた漢字は――

『呉』

 みんな、キョトンと目をまたたたく中、若葉ちゃんがたずねる。

「これ、『三国志(さんごくし)』で出てくる国の名前だよね?」

「ああ。あと広島の呉市(くれし)とか、着物の織物である呉服などに使われる漢字だが、形が好きなんだ。人がおどってるように見えないか?」

「……言われてみれば、手をあげてフラメンコとかをおどってる姿に見えてきた!」

「バラくわえて『オ・レ!』とか言ってそう!」

「読みは『くれ』だから『ク・レ!』だけどな。実際、漢字の成り立ちを調べると、人が激しく舞いおどるようすをもとに作られたらしい」

 そうなんだ~。それを知るともう、陽気な棒人間にしか見えなくなってきた。

 これからこの字を見るたび、ちょっと笑っちゃいそう!


次のページへ▶


この記事をシェアする

ページトップへ戻る