
2024年 新シリーズ売上 第1位の「放課後チェンジ」。
人気うなぎ登りの第3巻が60ページも試し読みできちゃう!
第3巻から読んでもおもしろい!
ハラハラドキドキ、おなかをかかえて笑っちゃうお話を今すぐチェック!
まなみ、尊(たける)、若葉(わかば)、行成(ゆきなり)は動物に変身できる! 大喜利(おおぎり)大会やクイズ大会など、大笑いのイベントの連続。
ところが、悪霊による「ほれ薬」の事件が発生!!
行成が、まなみに恋をしちゃった!? あわてる尊も巻きこんで、まさかのドキドキの関係に!
『放課後チェンジ 友情の危機!? 波乱の夏祭り』
(藤並みなと・作 こよせ・絵)
8月6日発売予定!
※これまでのお話はコチラから
4 今鷹家(いまたかけ)の一族
尊(たける)が帰ってきて、少しして二人とも人間にもどったタイミングで、美里(みさと)さんがお茶と和菓子を持ってきてくれた。
さっき行成が廊下に出てたのは、この時間に来てもらうよう、お願いしてくれてたみたい。
美里さんはもうすっかり落ちついて、いつも通りかと思ったけど――
「あっ、申し訳ありません」
お茶を配る時にうっかりこぼしていて、どこか上の空みたいだった。
「それでは、いただきまーす♪」
行成(ゆきなり)の家に来ると、いつも季節を感じるおいしい和菓子を出してもらえる。
今日は七夕の星空をイメージしたという、透きとおった青のグラデーションに金ぱくが散った、ゼリー状のすずしげな和菓子。
宝石みたいにキレイな上に、シャリッとしつつ、ぷるんって感じもして、ほどよい甘さの中にほんのり香るレモンの風味がさわやかで、絶品!
幸せにひたっていたら、「失礼する」と声がして、廊下側のふすまが開いた。
入ってきたのは、するどい目つきとりっぱなヒゲが特ちょう的な紋付はかま姿の男性と、凛として上品な着物姿の女性。
「父さん、母さん。出張からもどられたんですか」
かすかに目をみはりながら言った行成にコクリとうなずいたこのヒゲの人が、今鷹流(いまたかりゅう)第十四代家元、今鷹宗成(いまたかむねなり)。斎号(さいごう)は氷厳斎(ひょうげんさい)(斎号っていうのは、家元が名のるもう一つの名前なんだって)。
氷のように冷ややかで、きびしそうな顔つきの行成のお父さんは、部屋のすみに置かれていた行成の『溶溶漾漾(ようようようよう)』の字を見ると、まゆをひそめた。
「この書は、おまえが書いたものだな、行成」
「はい」
行成のお父さんはそうか、と低い声で言うと、じいっと文字を見つめる。
次の瞬間、いかめしい表情のまま、両目からドッと滝のようななみだを流した。
「我が息子ながら、才能があふれすぎてコワイ」
「大げさです」

クールに返す行成に、「しかも謙虚(けんきょ)。この歳にしてあまりにも人格者」と、さらにドッと感激(かんげき)の追いなみだを流す。
行成のお父さん、一見こわそうだけど息子のことをでき愛してて、行成いわく『重度の親バカ』なんだよね。
「行成は幼いころから、たぐいまれなる才能を発揮していた……」
わたしたちに向かって、とうとうと話しだす行成のお父さん@十四代目家元・氷厳斎(ひょうげんさい)。
「骨とう市に連れていくと、ガラクタの中から歴史的な芸術家が手がけた茶器やかけじくを見つけだした。テレビの格付け番組では、お菓子で作った本物そっくりの盆さいや生け花を、いつも必ず見分けられた……」
すごいけど、急に身近な話になったな?
「行成は、茶人にとって大切な『本物』を見ぬく目を持っている。何より、日々のたゆまぬ修行で才能をみがき続ける努力のできる、天才だ。家元をついだあかつきには、『大天斎(だいてんさい)』の斎号(さいごう)をおくりたいと思っている」
大・天・才!
「イヤです。――いったい何しに来たんですか?」
「出張でつかれたから、愛しい息子にいやされに来た」
「ジャマなので早く去ってください」
そっけない行成に、「反抗期……」とまた滝のなみだを流す行成のお父さん。
「あなた、行成ももう中一ですから」
お父さんをいさめてから、わたしたちを見まわして、上品な着物美人の行成のお母さんが、あわくほほ笑んだ。
「本日はようこそ、おこしくださいました。少しお会いしない間に、みなさんもすっかり成長されましたね。むかしはこんなに、小さかったのに……」
そう言いながら、指でマメつぶのようなサイズを作る。
……お母さんのおなかの中にいるころの話かな?
「これからも、どうか行成と仲良くしてくださいね」
「はーい」
「もちろんです」
「こちらこそよろしくお願いします」
わたしたちの返事に行成のお母さんは優雅にうなずくと、お父さんに呼びかける。
「あなた、そろそろおいとましましょう」
「も、もう少し……」
「本気で行成にキラわれますよ」
「うっ…………あと五分だけ」
「二度寝じゃないんですから」
行成のお母さんは、おうじょうぎわの悪い十四代目家元の着物のえりくびをつかむと、細い腕でずるずると廊下に引きずりだし、最後にわたしたちに笑顔を向けた。
「それでは、ごゆっくり」
「行成……」
つかまえられたお父さんが未練がましくこちらに手を差しのべたけど、お母さんがピシャリとふすまを閉めて、二人の姿は見えなくなる。
「――行成のお父さん、あいかわらずだね~」
「マジ顔ではじけてるのが、おもしろいよなー」
「すごいね、未来の大天斎?」
どっと笑いだすわたしたちに、行成はうんざりしたようにため息をついた。
「今日は父さんたちが留守だから、ちょうどいいと思っていたのに……。さて、休けいはもう十分だな。そろそろ習字を再開しよう」
休けい後は、さっきそれぞれが発表した字を、行成が書いてくれたお手本を見ながら、集中して練習した。
キレイに書けるようになったら、今度は創作漢字を順番に発表して、また練習。
最後に行成から【本日の爆笑賞】に選ばれたのは、わたしが創作した漢字だった。
『呉』とその横に左右をひっくり返した『呉』をならべた字で、読み方は『ふたりはプ●キュア』……「長すぎる!」「でもわかる!」と一同、大ウケ。
前に田舎にお泊まりした時、たまたまみんなでアニメの再放送を見てたんだよね。爆笑賞うれしい~……って、もはや完全に大喜利大会になってる?
いやいや、ちゃんと習字もがんばったから! 本当に!
「今日はありがとう、行成。おかげで楽しく練習できた!」
「永字八法(えいじはっぽう)もだいぶ身についたし、前より上手く書けるようになったと思うよ」
「これで書道大会でハジかかずにすむぜ」
「そう言ってもらうと、俺も家族のハジをさらしたかいがあった」
四人でおしゃべりしながら玄関に向かって歩いていると、廊下の向こうから、着物姿の小さな男の子と女の子がやってきた。
行成の五つ下の双子の弟妹、友成(ともなり)くんと撫子(なでしこ)ちゃんだ。
撫子ちゃんは、友成くんの腕に抱きつくようにしながら歩いている。
「あっ、兄様。尊さんたちも、こんにちは」
サラサラの前髪をぱっつん切りにした友成くんが礼儀正しくおじぎをすると、
「みなさま、ごきげんよう」
背中まで伸びたまっすぐな黒髪が日本人形みたいな撫子ちゃんも、友成くんからはなれて、きちんとおじぎをした。
でも撫子ちゃんはまたすぐに友成くんの腕に自分の腕をからませて、もたれかかる。
「やめてよ、撫子。はずかしい」
「照(て)れる友成もカワイイですわ」
「二人とも仲いいね~?」
わたしが言うと、撫子ちゃんは「はい!」と花のような笑みを浮かべた。
「わたくし、友成が世界でいちばん大好きなんです」
ギュッとハグして、うりうりと友成くんの腕にほおずりする撫子ちゃん。
「さっきまではふつうに宿題をしていたのに、急にこんなことを言いだしたんです。わけがわかりません」
友成くんは少し赤面しながら、ほとほとこまった様子。
「友成、大好き。ずっといっしょですわ」
「わかったから、もうはなれてよ……!」
ふだんから仲がいい双子だけど、こんなふうにベタベタしてるところは初めて見るかも?
行成も、まゆをひそめながら、小首をかしげていた。
第4回へつづく(8月5日公開予定)
書籍情報
8月6日発売予定!
シリーズ1、2巻ためし読み公開中★
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