すうっと体が冷たくなった。
頭の中で、金と青のひとみをした白猫が、にゃーん、と鳴く。
胸がギュッとしめつけられたみたいに、苦しい……。
「おい、まなみ、だいじょうぶか?」
尊に肩をゆすられて、いつのまにか息を止めていたことに気づいた。
すうはあと大きく呼吸をしてから、うん、とうなずく。
「どうやったら呪いが解けると思いますか?」
若葉ちゃんの質問に、『そうじゃのう……』とフクロウは首をかしげる。
『先ほどの一幕をみるに、その指輪は悪霊を昇天させる力もあるようじゃ。悪霊を救い、うらみをはらった清らかな霊力を指輪にためていけば、やがて指輪についた動物たちのうらみも消えるのではないか?』
「悪霊を昇天させれば、指輪も外れる……? でも、悪霊なんて他にそうそういないんじゃ……」
『伝説の指輪には【災いを呼ぶ指輪】という別名もある。おぬしらの周りでは今後、呼びよせられた悪霊による事件が、つぎつぎと起こるようになるじゃろう』
「「「「……!」」」」
言葉を失うわたしたちを見まわして、フクロウは淡々と続ける。
『悪霊は古い物や想いのこもった物、強い負の心をもつ者などにとりついて、悪さをする。放っておけば、どんどん力をつけて手に負えなくなる。なるべく早いうちに昇天させてやることじゃ』
そこまで話したところで、フクロウはバサバサッとつばさを広げた。
「あっ、待ってくれ!」
「もう少しお話を聞かせてください!」
飛んでいこうとするフクロウを、とっさに追いかけようとしたけど……まだ体に力が入らない。 走りたくても、のろのろとしか動けない!
わたしだけじゃなく、尊たちも同じみたい。
『指輪の能力を使うと、体力を消耗(しょうもう)する。体力不足では、指輪の能力も使用できん。特に変身は、多くの体力を必要とするようじゃな。しばらく休めば回復するじゃろうが……』
「お願いします、まだ行かないで……!」
「あなたは何者なの⁉」
必死に声をあげるわたしたちを、フクロウは空から見おろすと。
『早く呪いが解けるといいのう』
それだけ言い残して、ゆうゆうと去っていった……。
「――とりあえず、次にやることは見えたな」
行成が気をとりなおすように、わたしたちを見まわした。
「あのフクロウの言うことがすべて正しいかはわからないが……悪霊を昇天させて霊力をためていけば、指輪は外れるかもしれない、という情報が手に入った。指輪が外れれば、変身もしなくなるはずだ」
「もしあやしい事件のウワサをきいたら、すぐ調べることにしよう。悪霊に関わるとか不安だけど……必要なミッションみたいだから、やるしかないか」
みだれた髪を手でなおしながら、ため息をつく若葉ちゃん。
「あのフクロウ、『おぬしらの周りでは今後、呼びよせられた悪霊による事件が、つぎつぎと起こるようになるじゃろう』なんて言ってやがったけどさ」
ぶっ、尊の物まね、似てる! 思わずふきだしちゃった。
尊は不敵に笑いながら、言葉を続ける。
「悪霊を昇天させるには、寄ってきてくれた方がラッキーだよな。呪いだかなんだか知らねーが、こうなったらこの力を利用して、事件をガンガン解決して、悪霊もガンガン救ってやろうぜ」
「呪いを利用⁉ すごいこと言うな……でも、いいね、それ」
尊のそういうポジティブで転んでもただでは起きないとこ、好きだな……あっ、好きって、別に恋愛みたいな意味じゃなくて!
あー、やばい、このままじゃまた変身しちゃうかも⁉ 深呼吸、深呼吸……。
「……まなみ、なに一人でわたわたしてるの?」
「なんでもございません!」
不思議そうに若葉ちゃんにツッコまれて、ぶんぶんっと首を横にふる。
あ、今は疲れてるから、指輪の力は使えない。
つまり、ドキドキしても変身しないのか。ホッ……。
――ともかく、確実に変身しなくなるためには、指輪を外すこと。
そのためには、悪霊が関わってるかもしれない事件を調べて、解決すればいいんだね!
「じゃあ、事件を調査するためのチーム名をつけよう! そうだな~、動物探偵団は?」
「そのまますぎねえ?」
「じゃあ、アニマル探偵団!」
「なんか芸人っぽい」
「いちいちうるさいな! ケチつけるなら尊も考えてよ!」
「オレは探偵団より、シンプルにチームがいい」
「えー、じゃあ、チームアニマル?」
尊と言いあってたら、「えーと」と若葉ちゃんが手をあげる。
「変身することがバレたら困るわけだし、動物をそのままチーム名にするのはさけた方がいいかも」
それはそうか……。
じゃあどうしよう、とうなってたら、ぽつりと行成が言った。
「アを〇でかこむと、アにマルだろ。そこにアニマル、動物って意味を秘めて、チーム ㋐ とか」
㋐ で『ア』に『マル』。表向きには、マルアって読ませる……。
「いいじゃん! おもしろい」
「私もそういう言葉遊び、好き」
「異議(いぎ)なーし」
フクロウからなんだか怖いことをいっぱい言われたけど、こうしてみんなと話してると、不安がうすれていった。
代わりに胸にわき起こってきたのは、未知の世界に飛びこんでいくワクワクだ。
尊。若葉ちゃん。行成。
この幼なじみたちがいっしょなら、きっと、だいじょうぶだよね!
無敵のパワーを感じながら、指輪をした四つの右手を重ねあわせ、わたしは高らかに宣言した。
「―― チーム ㋐(マルア) 、ここに結成!」
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