それからしばらく蔵の中を探してみたけど、めぼしい成果はなかった。
「ねえ、おばあちゃん、これ、蔵の中で見つけたんだけど…… 」
わたしが箱を見せると、おばあちゃんはパチパチとまばたきしてから「あらあ」と声を上げた。
「この箱、開いたの? ずっと『開かずの箱』だったのに……」
「開かずの箱⁉」
「そうそう、おじいちゃんのご先祖様(せんぞさま)から伝わる大事な箱だって言ってたけど、どうやっても開かなかったのよ。まなみちゃんはどうやって開けたの?」
普通にふたを持ちあげたら、簡単に開いたのに……⁉
古い仕掛けがこわれたのかしらねー、と笑うおばあちゃんは、箱の中身についてはなにも知らないっぽい。
「あの、おじいちゃん、他にこの箱について何か言ってた?」
「うーん……なんだったかな、動物の霊(れい)がどうのとか、おとぎ話みたいなことを言ってた気がするけど……」
「「「「動物の霊……⁉」」」」
思わずギョッとするわたしたちに、「おじいちゃん、空想好きだったしねえ」とのほほんと話すおばあちゃん。
「おばあちゃん、そのへん、もっとくわしく!」
「あら、まなみちゃんたちもこういうの好きなの? そうね……おじいちゃんの話では……」
おばあちゃんはまゆをよせて考えこんでいたけど、やがて申しわけなさそうな笑みを浮かべた。
「……ごめん、よく覚えてないのよ。いやねえ、歳をとると物忘れがひどくて……」
「そっか……何か思いだしたら、また教えてね!」
とりあえず、このことは四人のヒミツにすることにした。
最初は大人に話したほうがいいかなと思ったんだけど……
尊「万が一こんな体質のことが世間に知られたら、変な目で見てくるやつは絶対いるし、マスコミやミーチューバー、オカルトファンとかがおしよせて、四六時中つきまとわれるぞ」
行成「最悪、研究所にカンキンされて人体実験をされたり、差別されたりする可能性もある。こちらに危害をくわえてでも指輪を手に入れようとするような、手段を問わないやつも現れるだろう。ヒミツを知る者が増えれば増えるほど、その危険性も高まる」
若葉ちゃん「えたいの知れない力だし、人に話すことでその人たちにも悪影響をおよぼすことだってありえるよね……」
いや、こわすぎるでしょ!
絶対バレないようにしなきゃ!
ネットで「指輪 外す方法」で調べて、いろんな方法を試してみたけど……
「うう、ダメだよ~!」
「やっぱり外れないね……」
「マジで、ガッツリはまってるよな」
「デロデロデロデロデロデロデロデロデーデン♪」
ナゾのメロディを口ずさむ行成に、何それ? と首をかしげる。
若葉ちゃんが、苦笑いしながら教えてくれた。
「ゲームで呪いの装備(そうび)をつけた時の効果音だよ」
呪いの装備って!
「え、わたし、呪われたの? 日に日にやせ細っていったり、悪夢にうなされたり、エビ天食べたらおなかがぴーぴーになったりするの?」
「人を呪おうとした報いだな」
「あれは尊がエビ天とったからだし、順番がちがうから!」
「落ちつけ。また変身するぞ」
むきーっと尊を小突こうとしたら、振りあげた手首をぱしっとつかまれた。
「まだ起きてもないことにビビってたってしょうがねーだろ。呪われたとしてもオレたちがいっしょだし、なんとか方法を探してやる」
いつのまにか背がのびて、わたしを見おろすようになった尊から。
「――おまえを一人にはしないから」
なだめるようにそう言われた瞬間、ドキーン! と胸が鳴って、ボン!
ぎゃあああ、しまった~!
「まなみ⁉」
「呪われたとか言わないでよ、バカ!」
またしても猫になってしまったわたしは、怒ったふりをしてごまかして。
縁側から外へ、ピョーンと飛びだした。
ひとけのない生垣の裏まで行くと、わたしは地面につっぷして、頭を抱えた。
――やばいやばい、これはやばい。
人間の姿だったらきっと今、両手でほてった顔をおおって、しゃがみこんでると思う。
尊につかまれたところが、やけに熱くて、そこから全身に、熱が広がる。
やたらと速まった鼓動(こどう)は、まだおさまってくれない。
やっぱりなんか、ムダに尊にドキドキしちゃうよ⁉
ドキッとすると変身しちゃうのに!
もう、最悪だ~~。早くなんとかしなきゃ!!!
書籍情報
好評発売中☆
つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼