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ものがたり

『放課後チェンジ 世界を救う? 最強チーム結成!』スペシャルためし読み 第4回 最高? →最悪だ~~


「――さっき、まなみが猫に変わる瞬間、まなみの指輪が光っていた 」

 猫のままのわたしの手のキズにバンソーコーをはりながら、行成が言う。

「あ、オレも見た」

 パタパタと尊がしっぽをふると、「尊と若葉も同じように」と行成が続ける。

「変身する時、指輪の石が光ってた。だから、動物に変身するのはこの指輪のせいなのかもしれない」

「そうなんだ~。行成、よく見てるなあ」

「行成の言うとおり、変身するのは指輪のせいだとして」

 今度は若葉ちゃんが、ちょこんとハムスターの小さな手をあげて話しはじめる。




「もしかしたら、ビックリしたり、感情になにかしらの大きな変化が起こったりしたら変身するのかも?」

 ビックリ……?

 言葉につまるわたしだったけど、男子二人は「なるほど」とうなずいた。

「それはあるかもな……」

「感情が高ぶると、動物に変わる指輪ってことか」

 ……えーと、わたしはビックリというより、ドキッとしたから……だったんだけど。

 でも、尊相手にときめいちゃったとか、そんなバカな。

 ピーマン残しちゃダメって言われて、半泣きで食べてた尊だよ⁉

 腕ずもうで勝負した時だって、わたしが勝ったし……ってどっちも小さい時のことだけど。

きっと気のせいだ。もしくは、気のまよい。

 うん、気にしないようにしよう!

「まなみ、どうかした?」

 若葉ちゃんにたずねられて、「なんでもない!」とあわてて答えた。

「たしかに、感情に大きな変化が起こったら、ってのはありそうだね! わたしも若葉ちゃんの案に一票!」

 ドキッとするのも、感情の変化のうちだもんね。なんでドキッとしたかは、もう考えない!

「――じゃあ、元にもどるきっかけは?」

「うーん……さっきはみんなほぼ同時に、自然ともどったから、一定時間たつともどれるのかな?」

 若葉ちゃんの推測に、そうかも、とみんなでうなずく。

 というか、もどるよね?

 もしこのまま元にもどれなかったら、ずっと子猫として生きることになったら……。

 一日中ゴロゴロしてエサを食べて生きてるだけでかわいいとチヤホヤしてもらえて…………。

 もしかして:最 高

「まなみ、このまま猫として生きるのもアリかもとか思っただろ」

 ズバッと尊に指摘されて、「いやいやそんな!」とぶんぶんと首を横にふる。

「そんなこと、ちっとも! ち~っとも、ミジンコほども考えてないよおっ‼」

「「「…………」」」

 じとーっと三人からにらまれて、あははーっとごまかし笑いをするわたし。

「念のため、もう一度、蔵を調べてみようぜ」

 尊の提案で、再び蔵に行ってみることにした。


「はあ~、いつ見てもステキ。寿命がのびるわ~♡」

 居間ではおばあちゃんが、録画して何十回もリピートしてる韓国ドラマを見てうっとりしていた。

 推し俳優(はいゆう)に夢中で、わたしたちのさわぎには全く気づいてなかったみたい。

 さすがわたしのおばあちゃん……。

「忘れものをしたから、みんなで蔵に行ってきます」って行成が伝えてから、家を出る。

 蔵の前まできたタイミングで、体の奥がむずむずしてきて……ボン!

 わ、もどった! そして体はだるい。

 尊と若葉ちゃんはまだ動物のままだ。

「――あやしげだけど、特に異常はない、か……」

 床に落ちたままだった小箱を拾い上げ、ふたを開け閉めしたり、観察したりしてから、行成が言う。

「とりあえずこの箱は、持って帰ろう」

「そうだね……他に変わったものがないか、探してみる?」

「だな。物が多すぎて大変だけど、分担して――」

 しっぽをふりながら蔵(くら)をぐるりと見まわしていた黒柴は、中途半端(ちゅうとはんぱ)なところで言葉を切る。

 尊の視線は、蔵のすみに置かれた――動物たちのはく製に向けられていた。

 わたしが小四の時に亡くなったおじいちゃんの、コレクション。

 シカ、タヌキ、イノシシ、ムササビ、タカ……たくさんの動物が、ガラスケースもなくむき出しのまま、むぞうさに置かれていて、わたしはすぐに目をそらした。

 はく製は、苦手だ。もともと苦手だったけど、今はもう、見るだけでつらい。


 ――半年前に死んでしまった、飼い猫のシロップのことを、思いだしちゃうから。


 かたい冷たい体に、うつろなひとみ。痛かっただろうな……苦しかっただろうな……。おじいちゃんは、はく製にするために殺したんじゃなくて、死体をはく製にしたんだよって言ってたけど。

 死んだ後までこんなふうに固められちゃって、かわいそう……と思っちゃう。

 やるせない気持ちに襲われていたら、尊がぼそりとつぶやいた。

「……こいつらの呪(のろ)いだったりして」

「え、ちょっと、やめてよ」

 ゾッと背筋に冷たいものが走って、声を上げると、尊は「あ」とつぶやいた。

「もどりそう」

 直後、黒柴とハムスターは、すらりとした活発そうな少年とショートボブの美少女に早変わり。

「やっぱり時間がたつともどるみたいだね。二十分くらいかな」

 スマホを確認しながら、若葉ちゃんが言う。

 ちゃんと時計見てたんだ。さすが、しっかりしてる!

 

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