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わたし心葉(ここは)! サッカー部のマネージャー志望なのに、今はマネージャーを募集してないって言われちゃった…!
入部の条件は「今年の新入生にいる、サッカーの天才をつれてくる」こと。そんなすごい人がいるの!? ……って速水くん!? あのとなりの席のいやなやつ? でも、夢のためにはやるしかない!
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#4 期間限定のサッカー部
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それから一週間。
朝のあいさつは決まって、これ。
「速水くん、おはよう! サッカー部入らない?」
「入るわけねえから」
……。
いや、まだまだ、わかんないよね!
帰りには、気持ちが変わってるかもしれないもん。
「速水くん、今からサッカー部の練習見にいかない?」
「じゃあな」
……。
今日はそういう日なだけ。明日こそは!
一日のあらゆる瞬間、あきらめないで誘いつづける。
「速水くん。好きな食べ物は?」
「なんでそんなこと、言わなきゃいけねえんだよ」
「どうしても知りたいの! 教えて!」
「嫌だ。めんどくせえ」
「ほんっとうに、お願い!」
「速水く……」
ガタン。席を立って、速水くんは背を向けてしまう。
ちーん。今日も撃沈。と肩を落としたところで。
「……オムライス」
速水くんは去り際にそれだけ言い残して、いなくなった。
わたしはしばらくぽかんとして、それから『えー!』と心の中で叫んだ。
速水くんって、オムライスが好きなの!?
あんなにむすっとしてるくせに、オムライス! なんか、かわい……って、そんなこと言ってる場合じゃない!
好きな食べ物で気を引いて入部させる作戦も、オムライスじゃ難しいよ!
あれから毎日。こんな感じで、速水くんをサッカー部に誘ってるんだけど……。
全然、入ってくれる見こみが、ない!
こんなんじゃ、いつまでたってもマネージャーになれないよ。
どうにかして、興味もってもらわないと……。
「また今日も、断られてるねー」
「咲結~……。わたし、どうしたらいいの~」
休み時間。わたしの席にあそびにきた咲結が、さっそく苦笑する。
「まあ、どう見ても速水は、サッカー部入る気なさそうだよね」
「だよね……」
でも、あきらめたくない、と言いかけたところで、咲結はにやっとした。
「でも、あきらめたくないんでしょ?」
「うん、そうなの! さすが咲結。わたしのこと、よくわかってる!」
「ココなら絶対そう言うと思った」
咲結は、やっぱりわたしの親友だなあ。わたしの気持ちとか考えてること、なんでもお見通しだもん。
「でも、ここからどうやったらいいのかなあ」
「やっぱり、交換条件じゃない?」
「交換条件?」
咲結の言葉に、わたしは首をひねる。
「ふつうに誘って、興味をもってもらうのは難しいから。速水の弱みを握って、強制的にサッカー部に入れるってこと」
さ、咲結ってば、すごいこと思いつくんだな……!
ド直球なわたしじゃ思いつかない、強引なアイディア。
わたしに、そんなことできるかな?
「弱み、かあ……」
「それは、これから考えてこ。とにかく、できることは全部やってみないとね」
「うんっ。咲結と話してると、めっちゃ前向きになれるよー! ありがとね!」
「いいえ、どういたしまして」
咲結、ほんとに頼りになる!
わたしのこと、いつも応援してくれて、的確なアドバイスをくれる。そんな咲結にもいい報告ができるように、がんばろう!
四時間目の、体育の時間。
わたしは、体調面に気をつかいながら、やってもいいよってことになってる。
野球をやるらしいけど……、野球は、全然ルールがわかんないんだよね。
サッカーだったらよかったのになあ。なんて思いながら、ボールをにぎる。
「ココ、キャッチボール一緒にやろ」
「うんっ」
咲結にさそわれて、グローブを構えると。
びゅん、と咲結から鋭い球が飛んでくる。
「わっ」
グローブのはじっこにあたって、ころがってしまう。
うーん、むずかしいなあ。
「咲結、うますぎ!」
「ちょっとココ、ちゃんととってよね。私の、ありったけの愛なんだからさ」
「あははっ」
「私の気持ち、伝わってないんじゃないの?」
「ごめんって! めちゃめちゃ伝わってるよ!」
咲結って、クールビューティーなのに、おもしろいところあるんだよね。
しかも、ポーカーフェイスで言ってくるのが、さらにおもしろい!
そういうとこが、ほんとに好き!
でも、わたしは、いっこうに上達しなくて……。
何度やっても、咲結からのボールを、はじいちゃう。
「あっ」
はじいたボールがころころと転がって、男子が練習しているほうにいってしまう。
あーあ。拾いに行かなきゃだ。
ボールを追いかけて、小走りする。
ようやくたどりついて、手をのばして拾おうと、しゃがみこんだとき。
──パンッ。
「いたっ!」
太ももに、鈍い痛み。
なになにっ? けっこう、痛いよ!
足元に落ちているボールが、視線に入る。
野球のボールが、当たった……!?
痛みを感じる太ももをおさえて、振り向くと。
「あ、わ、わりい」
そんな声とともに、立っていたのは。
……あせったようにうろたえる、速水くんだった。
「は、速水くん!」
「ごめん。あてるつもりはなかった」
申し訳なさそうに、頭をかく速水くん。
それは、そうだよね。わざとじゃないのは、わかってる。
男子が練習してたところに、ボールをとりにきたのはわたしだし。
あたっちゃったのは、しかたないよ。
「平気だよ」
そう言って、立ち上がろうとすると。
「先生。俺、立花のこと保健室に連れていきます」
「え?」
速水くんは、ふいにわたしの手をつかんだ。
そして、ぐいっと立ち上がらせてくれる。
ドキンッ。
胸が、大きな音を鳴らす。
だ、だって。速水くん、手つないだままなんだもん。
クラスの女子たちが、ひそひそとうわさしているのが見える。
速水くん、目立っちゃってるよ!
「ほんと、ごめんな」
「謝らなくて、いいよ!」
必死で平然をよそおっているけど……。
手から、速水くんの熱が伝わってきて。鼓動は速いままだった。
「とりあえず、冷やせばいいか?」
保健室についた。養護の先生は、ちょうどいないみたい。
速水くんに渡された保冷剤を、太ももにあてて、ゆっくりと冷やす。
わ、つめた!
「大丈夫か? まだ、痛むか」
いつもぶっきらぼうな速水くんが、心配そうな目を向けてきている。
なんか、普段とようすが全然ちがう……。どうしてこんなにやさしいの?
「だいじょう……いたっ!」
大丈夫、と言いかけたところで、言葉をストップする。
ぶつかったところに、にぶい痛みが走ったから。
「ほんとにわりい。なんか、俺にできることとか……」
速水くんは、心の底からしゅんとしているように見えた。
うう、そんな表情を見たら、心が痛むけど……。
「じゃ、じゃあ、わたしが治るまで、サッカー部入ってくれないかな!」
まさか、こんな形でお願いするとは思わなかったよ。ごめん、速水くん!
「……は?」
速水くんは、あぜんとしている。
……そりゃ、そうなるよね。
「なんで俺にそこまで執着するんだよ」
今まで言ってこなかったワケを、わたしはおそるおそる打ち明ける。
「部長に、速水くんを連れてきたら、マネとして認めるって言われてるの」
神にも祈る気持ちで、ぎゅっと目をつぶった。
そんなのしらねえ、って、絶対言われるもん。
こんな理由で、入ってくれるわけがない。でも、今しかチャンスがないの!
「……わかったよ」
速水くんは、あきらめたように息をはいた。
「やっぱりダメだよね……って、え?」
「立花のケガが治るまでの間な」
……あれ?
えっと、今、なんて?
顔をあげたわたしは、目をぱちくりさせる。
わたしの聞きまちがい、じゃない……よね?
「一ヶ月な。一ヶ月もあれば、治るだろ」
「ウソ……」
「ウソつくかよ。ケガさせて悪いって、思ってんだから」
ふざけているようにも、冗談を言っているようにも、見えない。
ほんとのほんとに……? サッカー部に、入ってくれるの?
感激のあまり、体がずいっと前のめりになってしまう。
「ありがとう……! ほんとに、ほんっとーにありがとう!!」
「ただし、一ヶ月だからな」
「一ヶ月でもいいよ! 入ってくれるだけで、じゅうぶんすぎる! うれしい!」
大げさなくらい、テンションが上がっちゃってるけど。
演技でもなんでもなく、全身に喜びがあふれてくる。
今、最高の気分だよっ!
「一ヶ月たったら、やめるからな。……俺はもう、サッカーなんてやりたくねえから」
そんな速水くんの声も、耳に入らない。
一ヶ月でもいい。
一ヶ月間は、サッカー部のマネージャーになれるんだ。
考えるだけで、ワクワクしてくるよ!
わたしは、速水くんに、とびっきりの笑顔を向けた。
「今日の放課後、グラウンドで待ってる!」
<第5回へつづく> 5月2日(木)公開予定
『初恋キックオフ!』は5月9日(木)発売予定!
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
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- 新書判
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- 9784046323118
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