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わたし心葉(ここは)! サッカー部のマネージャーを夢見て、あこがれの星ヶ浜(ほしがはま)学園に入学したんだ。
…でも、サッカー部はマネージャーを募集してないみたい。大ショック……! どうしたら、わたしは夢をかなえられる…?
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#3 うわさの天才ストライカー
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「……どうしても、やりたいんです!」
気づけば、サッカー部の部員たちに、頭をさげていた。
「そう言われても困る。今は受け入れてないから」
「そこをなんとかお願いします! ……星ヶ浜を強くするために、必ず、役に立ってみせます!」
お願い……! わたしの永遠のあこがれだから……。
「……じゃあ、わかった」
思わず顔をあげる。
桐生先輩は、やれやれ、というように息をはいた。
え、もしかして、許可してくれるの……!?
「今年の新入生に、天才ストライカーがいる」
「天才ストライカー……?」
「全国優勝に導いた、強豪クラブのエース。スペイン留学にも行って、海外クラブにも目をつけられてる」
そんなすごい人が、今年の新入生にいるの……?
やっぱり星ヶ浜って、才能のある人たちがいるんだなあ。
「そいつを、うちの部に連れてきてほしい」
「へっ?」
桐生先輩からの思いがけない提案に、目が丸くなる。
「え、っと。でもその人は、学校外の強いサッカークラブに入ってるのでは……」
「うわさによると、サッカーをやめたらしいんだ」
えっ! そうなの? もったいない!
「どうしてですかっ?」
「その理由は、わかってない。でも、どこにも所属してないのは、チャンスだ」
どうしてなんだろう? なにか、ほかにやりたいことでも……?
「それで、その天才ストライカーって、だれなんですか?」
何気なく問いかけたわたしに、桐生先輩は、ゆっくりと口を開く。
「……速水颯馬」
……。聞き間違い?
「え、今、なんて?」
聞き返すと、はっきりとリピートされた。
「速水、颯馬」
……速水颯馬、って。
あ、あいつー!?
速水くんって、サッカーの天才だったの!?
「きみが速水を入部させたら、マネージャーだって認めるから」
告げられた、たったひとつの条件。
な、なんか、まだわかんないけど……。
絶対、断られる……!!
あの感じ悪い態度を思い出し、嫌な予感がかけめぐる。
でも、でも……。
「……わかりました! 速水くんを、連れてきます!」
わたしは力強く言い放った。
もう、やるしかない! そしたら、サッカー部のマネージャーになれるんだから。
速水くんを、絶対、サッカー部に入部させるんだ!
「……ふう……」
中学入学初日がやっとおわった。
ぬけるような青空を見あげて、わたしはため息をつく。
まだ午後二時なのに、ジェットコースタ―みたいな、怒涛の一日だったなあ。
星ヶ浜のゴージャスな正門を通り、のんびりと下校する。
海の水面がゆらゆらと揺れて、美しくかがやいているのが坂道から見えた。
「あの!」
「?」
そのとき、背後から呼び止める声がして、振り向く。
やわらかい髪に、ぱっちりとした目。背も高くて、アイドルみたいなルックス。
……だれだろう? 知らない男子だけど……。
もしかしてわたしが、名前おぼえてないだけ!? 超、失礼かも……?
「急に話しかけてごめんね。俺、一年三組の佐伯瞬(さえき しゅん)っていいます」
佐伯くん……。名前聞いても、やっぱり、知らない。
「さっき、たまたま俺も、サッカー部の練習見学してたんだ」
「あ、そうだったんだ! 立花心葉です、はじめまして!」
「よかったら一緒に帰らない?」
「うん、もちろん!」
佐伯くんに誘われ、並んで歩きはじめる。
サッカー部の同級生! ……になるかもしれない相手、だね。
話しかけてくれて、うれしいな!
「佐伯くんは、サッカー部に入る予定なの?」
「うん。入りたいと思ってる。幼稚園のときから、サッカーひとすじだからさ」
「へえー、そうなんだ!」
「立花さんは大変だね。部長からの入部条件、きいてたよ」
佐伯くんは苦笑いをうかべる。
「速水、サッカーやめたってうわさだし。ここから部活に入れるって、厳しそうだよね」
「うん、そうだね……」
どうして、才能があったのに、サッカーやめちゃったんだろう?
疑問はある、けど。
「でも、どうしても、マネやりたいから。速水くんに入ってもらえるように、がんばりたいんだ!」
「どうして、そこまで?」
「ずっとあこがれなんだ。三年前、星ヶ浜のサッカー部が全国に行ったときに、すっごく感動して。マネージャーって、ステキだなって!」
病気の事情は、伏せた。
今はもう元気になってるけど、知ったら、びっくりさせちゃうと思うから。できるだけ、周りの人には、心配かけたくないんだよね。
「なるほどね。星ヶ浜、最近負けつづきみたいだけど、それでもいいの?」
「マネージャーとして、強くさせるほうが楽しくない? なんか、逆に燃えてくるし!」
きゅっとこぶしを握るわたしに、佐伯くんはくすっと笑った。
「部長の桐生先輩、俺、小学校が一緒だったんだよね」
「そうだったんだ! 小学校のときから、あんなふうに厳しいの?」
「もちろん。でも、芯が強くて正しくて、頼りになる人なんだよ」
佐伯くんの言葉に、わたしは思い直してみる。
マネを募集しなくなったのも、部活のためを考えての決断だったよね。
部員想いなことは、たしかだ。だから、部長を任されてるんだろうな。
そんな桐生先輩に、やっぱり認められたい!
マネージャーとして、チームの役に立ちたい!
あらためて、そう奮い立ったとき──。
「さっそく、サッカー部員と仲よく下校?」
隣から、低い声。
「……速水くん!?」
うわさをすれば、とはまさにこのこと。
同じく下校中らしい速水くんが、冷ややかな視線を向けてきていた。
周囲の女子生徒が、きゃあきゃあ騒いでいるのが見える。
だまってたらイケメンかもだけど、性格さいあくじゃんか!
「サッカー部に何しに行ったんだよ?」
「マネージャー、ですけど! 佐伯くんとは、ただ一緒に帰ってるだけだもん!」
ムキになって否定する声を背中に、速水くんはすたすたと去っていく。
なんなの! ほんっとうに感じ悪い!
超、超、超ムカつく!
「……あれは、強敵だね」
佐伯くんが、困ったようにつぶやく。
……でも、わたしの入部は、速水くんにかかってるから……。
さっきよりも、強い気持ちがわきあがってくる。
絶対に、入部させてみせる!!
<第4回へつづく> 4月30日(火)公開予定
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