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わたし心葉(ここは)! あこがれの星ヶ浜(ほしがはま)学園に入学したんだ。
サッカー部のマネージャーになりたいって自己紹介したら、となりの席の速水(はやみ)くんに嫌味を言われちゃった!
でも負けない! いざ、サッカー部へ入部届を出しに行くけれど……?
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#2 あこがれのマネージャー……のはずが!?
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入学式がおわり、あっというまにお昼すぎ。
わたしは、ママがつくってくれたお弁当を食べて、すぐに教室を出た。
いよいよだ……!
「ココ、さっそく行くの? サッカー部」
咲結がスクールバッグを肩にかけながら、話しかけてくる。
「もっちろん!」
今から、サッカー部に入部届を出しに行くんだ!
今日は入学式で、午前中だけだったから、お昼すぎから部活がはじまってるみたい。担任の先生が教えてくれた。
「そっか。がんばってね」
「うんっ。咲結ばいばーいっ」
わたしは、ぶんぶんと大きく手を振った。
楽しみだな! どんな人たちがいるんだろう!
グラウンドにつくと、野球部、陸上部、テニス部……。さまざまな部活が、思い思いに活動している。
すごい、キラキラしてる……!
小学校では、部活なんてなかった。なんだか、中学校、っていう感じがして、そわそわする。
感動を覚えながら、わたしは、グラウンドのど真ん中で練習するサッカー部に、釘づけになっていた。
人数は、えーと、だいたい四十人くらい?
練習用のスポーツウェアを着て、汗を流しながら、ボールを追いかける姿。
選手たちのその真剣な表情から、目が離せない。
やっぱり、本当にステキ……。
「……よし、行こう」
覚悟を決めて、わたしはサッカー部に近づく。
あこがれのサッカー部に、いよいよ入部できるんだ。マネージャー、全力でがんばりたい!
ちょうど練習が休憩になり、選手たちは、水分をとりはじめたところだった。
先輩たちがいっぱいいて、緊張する。やっぱり話しかけるのは、勇気がいるな……。
心拍数が上がる。
あーっ、自己紹介より、緊張してきた!
ドキドキをおさえて、明るい笑顔を向ける。
「こんにちは! マネージャー希望で来ました!」
最初が肝心。まずは、元気よくあいさつ!
おじぎして、ぱっと顔を上げると。
「……マネージャー?」
……あれ? なんだろう?
近くにいる選手たちの顔は、どこか困っているように見えた。
わたしの、気のせい?
わたしがいることに気づいた選手たちは、遠巻きにようすをうかがっている。
「……きみ。女子サッカー部はないよ」
そこで、あるひとりが、まっすぐ声を発する。
背が高く、短髪で、クールな瞳が印象的な表情の男子だった。
雰囲気からして、三年生かな? なんか、ちょっぴりこわい……。
「あ、女子サッカーじゃなくて、マネージャーになりたいんです!」
それでもわたしは、ひるまずに答える。
でも、先輩は険しく眉を寄せたまま、信じられない一言を放ったんだ。
「今、マネージャー、募集してないから」
「……へっ?」
な、なんて!? 思わず耳を疑う。
い、今、マネージャー、募集してない、って言ったよね?
聞き間違いじゃ、ないよね?
衝撃的な、一言。さあっと血の気がひいてくる。
「どうしてですか? 募集してない、って!」
「恋愛目当てのマネージャーが、あとをたたなかったから。仕事をしてくれないどころか、練習の邪魔になってた」
そうだったんだ……。全然、知らなかった。
「それもあって、チームの雰囲気が悪かったし、実際まったく勝てていなかった。それで、今年から、マネージャーは受けつけないことにした」
すぱっと言ってのける先輩。
こんなのって、ないよ……。
重たいショックが、全身に広がっていくような感覚におちいる。
「どうにかなりませんか? どうしてもやりたくて! わたし、昔、星ヶ浜のサッカー部に……」
そこまで言いかけたところで、先輩の声が重なる。
「無理だ。マネージャーは、今年からは入部させない」
ほかの選手たちも、みんな同じような渋い顔をしていた。
「一応、俺の名前。三年で部長の、桐生悠斗(きりゅう ゆうと)だ。部長の俺が、このままでいいと思ってる。だから、変わることはない」
ぴしゃりと、扉をしめられたような、そんな感じ。
桐生先輩のかたくなな態度に、わたしは肩を落とすことしか、できなかった。
かなしい。くやしい。やるせない。
行き場のない気持ちが、体中をめぐる。
わたし、サッカー部のマネージャーになることを楽しみに、星ヶ浜学園に入学したんだよ。
星ヶ浜学園のサッカー部に、ずっとずっとあこがれていたの。
だって、わたしは、昔……。
*
三年前の、夏。
わたしはそのとき、小学四年生だった。
クラスメイトと授業を受けて、放課後は友だちと遊んで。たまに宿題をやりわすれて、先生に怒られたり。
平凡だけど、楽しくて、あっというまに過ぎるような……。
──そんな日々は、わたしにはなかった。
「心葉ちゃん。朝ごはん、もってきたわよ」
「ありがとう!」
白いカーテン。大きな窓。
看護師さんが、パステルピンクのトレイをもって顔をのぞかせた。
わたしは、病気で星ヶ浜病院に入院している。
今月で、半年が過ぎたかな。わたしは半年も、学校に通えていないんだ。
看護師さんが置いてくれた、できたて朝ごはん。
やわらかな食パンに、薄い色のウインナー。グリーンサラダに、ちょこっとのドレッシング。
「いただきまーす」
小さなフォークで、少しずつ食べすすめる。
今ではおいしいと思うようになったけれど。本当はメロンパンとか、クロワッサンとか、スイーツだって、もっと食べたいなあ……。
そんなこと、叶う日はやってくるのかな。
ふと、せつない気持ちになったとき。
「いけ!」
窓の外からきこえてくる、元気なかけ声。
星ヶ浜病院の窓からは、隣にある学園のグラウンドが見える。
星ヶ浜学園のサッカー部。この前の冬は、高等部が全国大会に出たらしいの。
いま朝練をやっているのは、中等部のみんなだ。
「わあ……!」
きらりと汗を流しながら、必死に走りつづける姿。
その一生けんめいな表情は、とびっきりまぶしく映った。
「がんばれ、がんばれ……!」
夢中になって選手たちを目で追いかける。
たくみに敵をかわして、ゴールにむかっていく。
すごいすごい……!
「ふふ。心葉ちゃん、最近ずっと、サッカー部の練習見てるわよね」
看護師さんが微笑む。
「うん! だって、みんなすごくキラキラしてて、かっこいいんだもん」
「サッカー、好きなのね」
「……でも、自分でやるのは、むずかしいかなあ……」
わたしの病気は、治っても、いつまた再発するかわからない。
激しい運動はひかえたほうがいいって、お医者さんから言われてるんだ。
苦笑いしてうつむいたわたしに、看護師さんは明るく笑って言った。
「あら、じゃあ、マネージャーになったらどうかしら」
「マネージャー?」
きいたことのない言葉に、きょとんと首をかしげると。
「ほら、あそこでホイッスルを鳴らしている女の子、いるでしょう?」
看護師さんは、一緒に窓の外をのぞきこむ。
ほんとだ。星ヶ浜のジャージを着て、練習をてきぱきと引っぱっていく女の人がいる。
「練習や試合で、選手たちをサポートするの。選手たちと同じチームになって、戦うことができるんだよ」
「そんなお仕事が、あるの……?」
「そうよ。心葉ちゃん、向いてると思うわ」
マネージャー……。なんか、かっこいい!
自分がサッカーをやるわけじゃないのに、一緒に戦えるんだ。
それからというもの、サッカー部を見るのが、もっと楽しくなったんだ。
数週間後。
その日、わたしは大事な手術をひかえていた。
「手術、いやだな……。緊張する……」
こわい。はやくおわってほしい。
はじまったらあっというまなのは、わかってるけど……。
それでも、いやなドキドキが止まらなくて、不安がふくらんでいく。
怖気づいているわたしに、看護師さんは窓の外を指さした。
「あ、心葉ちゃん、見て。サッカー部、大会やってるみたいよ。しかも、決勝戦」
「あ、ほんとだ……」
星ヶ浜学園中等部のサッカー部が、必死に戦っていた。
得点板には、一対一のスコアが見える。
両チーム大勢いる応援。グラウンドの周りを囲って声援をおくっている。
いつもとはちがう緊張感がただよっているのは、遠い窓越しのわたしにもわかった。
時間は残り一分。いったい、どうなっちゃうんだろう……?
そのとき。一人の選手が、ゴール前に走りこんでいた選手に、パスをだした。
全力で振り抜いた足から放たれる、強烈なシュート。
──ザンッ。
勢いのあるボールが、あざやかにゴールネットに吸い込まれた。
「き、きまった!」
ピーッ。そしてまもなく、試合終了のホイッスルが鳴った。
試合、おわった……。
「心葉ちゃん、やったね! 星ヶ浜、勝ったね」
看護師さんが歓声をあげる横で、わたしはぼうぜんとしていた。
勝った……。すごい、あんなに終了間際に、きめちゃうなんて。
選手たちは、みんなで抱きあって、喜びをわかちあっている。
わたしも、感動と興奮で、胸のドキドキがおさまらない。
星ヶ浜、全国大会に行くんだ……!
「……わたし、手術、がんばれる……」
まだ夢のような気持ちで、ぽつりとつぶやく。
「きっと、星ヶ浜のサッカー部が、心葉ちゃんにエールを送ってくれたのね」
わたしに元気をくれる星ヶ浜学園サッカー部。 いつか絶対、マネージャーになりたい。
マネになって、星ヶ浜サッカー部のみんなと、全国大会に行くんだ……!
*
そんな大事な記憶が、今の中一のわたしの頭によみがえってきた。
<第3回へつづく> 4月25日(木)公開予定
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