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ものがたり

【先行ためし読み!】『ふたごチャレンジ!』10巻 第2回 天井裏にしまわれたナゾ?

3 運動会を「作ろう」!?

 ゴールデンウィーク明けの、ある放課後。

 緑田小の校門の前に、うちは、ほかの何人かと集まっていた。

「それじゃあ、気をつけていってらっしゃい!」

「「「はいっ!」」」

 うちらにむかって、キリッとりりしい目を細め、ほほえむのは。

 あの、御園校長先生!

 去年までの豆田校長先生にかわって、この春からやってきた人。

 御園校長が緑田小にきて、1ヶ月くらいが経ったわけだけど。

 まだ、どんな人なのかは、つかみきれていない。

 とりあえず、ふんいきはちょっと厳しそうで。

 こうして向きあうと、ちょっと緊張する。

 そっと見ていると、御園校長と目が合って、ドキッとする。

「大丈夫よ、あかねさん。みんなも。初めてのことで、いろいろとまどうかもしれないけど。あなたたちなら、きっとできるわ。なにかあったら、すぐに相談してね」

「は、はいっ!」

「それじゃ、いこうか」

 この春からの新しい児童会長――――丹羽旭先輩を先頭に、児童会メンバーと、うちをふくむ体育委員2人は、そろって歩きだした。

 目的地は、あざみ小学校!

 児童会メンバーがいっしょってことは、もちろん――――

「いやあ、鈴華ちゃんがいてくれて、ホントによかったよ~」

「私もあかねちゃんがいてくれて、心強いわ!」

 うちは、新副会長である鈴華ちゃんと、となりあって歩く。

「体育委員になったときには、まさか『運動会を作る』役目をするなんて、思いもしてなかったもん!」

「ええ。ゴールデンウィーク前に左野先生に言われて、ビックリしたわよね。あざみ小との合同運動会なんて……うまくいくかしら? 私たち、責任重大よねっ」

 鈴華ちゃんは、新しいかたちでの運動会に、ちょっと不安があるみたい。

 ――――緑田小は、来年度、学校統廃合で、近くにあるあざみ小と合併して、1つの学校になるんだ。

 そうなると、当然、来年度からは、行事もぜんぶ、あざみ小の子といっしょにやるわけで。

 今年から、おためしで、行事は合同でやってみようってことになったらしい。

 この、運動会を、まずは手はじめに!

 しかも、うちら生徒が中心になって、計画することになったんだ!

 左野先生によると、これは、御園校長の計らいらしい。

「子どもたちに任せてみませんか」って言いだしたんだって!

 前向きに考えたら、御園校長先生は、生徒のことを、すごく信頼してる…………ってこと、かな?

「うちも、ドキドキしてるけど。でも……それ以上にワクワクするよ!」

 今、いっしょに歩いている5人と。

 さらに、あざみ小の代表の子たちもいるんだもん。

 みんなで協力すれば、きっとできるはず!

「ええ、そうね。プレッシャーもあるけど。どうせなら、楽しまなくちゃね!」

 うちがニッと笑ってみせると、緊張ぎみだった鈴華ちゃんが、ほほえみ返してくれる。

「うちらの手で、運動会を大成功させよう!」


   ●▲●▲


 おしゃべりしながら歩いていると、あざみ小までの道も、あっという間だ。

「着いた着いた!」

「へえ、これがあざみ小かあ」

 あざみ小に初めてきた子もいるみたい。

 うちは見たことあるどころか、校舎の中にまで入ったこともある……っていうのは、ナイショにしておこう(くわしくは『ふたごチャレンジ!』①巻を見てね!)。

 当然、前のときみたいに、フェンスの穴から忍びこむ……ってわけじゃない。

 みんなで、校門のほうにまわると。

「あ、緑田小のみなさんですか?」

 黒地のシャツにジーパンをさわやかに着こなした、ショートカットのすらっとした生徒が立っていた。

「あ、はい! 待っててくれたんですか?」

「当然ですよ、今日はお客さまですからね」

 と、その人が、ウインクをする。

「わ、イケメン!」「ねっ」

 6年生たちが、こそこそっと耳打ちしてるのがきこえる。

「今日は、わざわざ来てくれてありがとうございます。さあ、こちらへ」

 そのイケメンさんに案内されたのは、会議室。

 すでに着席している5人は、あざみ小側の運動会実行委員なんだろう。

 部屋に入っていったうちらも、空いていたおむかいの席につく。

「それではさっそくですが、自己紹介から始めましょうか。あらためまして、俺は、あざみ小児童会長の国見伊織です。よろしく」

 さっき案内してくれた人は、あざみ小の児童会長その人だったみたい!

 なめらかで堂々とした話し方は、安心感がある。

 ザ・学校の代表って感じ!

 その一方で……。

「あー、えーと、緑田小の児童会長、丹羽旭です。いやー、運が悪いっすよね。児童会なんて、ふだんなら、たま~に朝会でスピーチすれば終わるくらいのもんなのに……自分の任期にかぎって、こんなめんどい仕事がふってくるなんてー」

 ええっ、なにそれ。

 ぜんぜん堂々としてない!

 緑田小の会長の丹羽先輩は、頭をかきながら、へらっと笑う。

「ちょ、ちょっと、先輩……」

 たよりない様子に、副会長の鈴華ちゃんが、つい小声でつっつくけど、

「あはは、ほんとそうですよねー。まあ、気楽にやろうよ」

「うんうん! きっとなるようになるよねー」

 って、あざみ小側にすわっている人たちが、同意する。

 あ、こういう空気感なんだ?

 さっき、鈴華ちゃんとギュンギュン気合いを入れていたうちは、ちょっと拍子ぬけ。

 鈴華ちゃんも、思ったより緊張感のない空気にひるんだみたい。

 だけど、すぐにピシッと背すじを伸ばす。

 全員が自己紹介を終えたところで、国見さんが言った。

「じゃ、本題に入ろう。――――――――俺たち実行委員が学校から任されてるのは、運動会のプログラム決めと、当日の準備のサポートだ。当日のことはもっと先に考えるとして。今、考えるべきはプログラムだよね」

 国見さんが、話し合いをリードしてくれるみたい。

 テキパキして、たのもしい。

「つまり、運動会でどういう種目をやるかってことだよね? 緑田小とあざみ小とで、これまでやってきたものって、そんなにちがうのかな?」

「運動会のやり方にも、ちがいがあったり?」

「たしかに。じゃあ、まずはおたがいの学校の運動会について、ざっくり把握しておこうか」

 わ、あざみ小の子たち、すごいな。

 最初は、ゆるめなふんいきだったけど、するするっと意見が出て、どんどん話が進んでいく。

 よーし、うちも、エンリョせずに発言するぞー!

 どんな種目があるのか。

 応援合戦はあるのか。

 全体は、どんなふんいきか。

 思いついた順に出しあっていく。

「緑田は、紅白でチームを分けてるけど、そっちは?」

「あざみも紅白戦だよ」

「じゃ、そこはそのままでいいね。ってことは――――」

 とチーム分けの話になったとき。

「あ、あのっ!」

 ピシッと、鈴華ちゃんが手を挙げた!

「せっかく2校合同でやるんだから、どっちかの学校が紅、どっちかが白とかじゃなくて……まぜませんか?」

 さすが鈴華ちゃん、よどみなく話しているけれど。

 うちにはわかるよ。

 いつもよりも、鈴華ちゃんの体に力がこもっていて、緊張していることが。

 がんばれ、鈴華ちゃん!

「ん? まぜるって?」

「たとえばなんですけど、あざみ小の1・3・5年と緑田小の2・4・6年が紅組、とか……」

「うんうん」

「合同運動会なら、少しでも学校間の交流が活発になる仕組みにしたほうがいいんじゃないかなって思うんです……!」

 と、鈴華ちゃん。

「なるほどねえ」

 と、あざみ小の人たちが、視線をかわしてる。

 じっくり、きいてはくれている。

 けど、なんとなく、手ごたえがない感じ……?

 うちまで内心ドキドキしていると、国見さんが口を開く。

「いい案だと思うんだけどね。でも、合同でやるのって、本番だけだよな? 合同練習の予定はなかったよね」

「は、はい、今のところ、予定はないです」

「だとすると、本番でいきなり話したことのない人同士が同じチームになっても、結局、同じ学校の友だちとしか、つるまないんじゃないのかな。学年がちがうとなると、なおさらね」

「あ……」

 鈴華ちゃんは、思いついていなかったって顔で、目を見ひらいてる。

「運動会当日まで、日程も少ないことだし。これから、合同練習を組んでほしいって先生たちに伝えても、実現できるかわからないしね。すごくいい案だけど、北大路さんのねらいどおりには、ならないかもしれないな」

「なるほどです……」

 そこへ、ほかのあざみ小の子が口をひらく。

「それに、どうせ来年から混合になるんだから、今年は、学校同士のガチンコバトル! ってことにしたほうが、おもしろいんじゃん?」

「うんうん、そのほうが盛りあがるよねー!」

 わいわいと話す、あざみ小メンバー。

「あざみVS緑田の、学校対決、か。――――わるくないね」

 と、国見さんも思わずニヤリとして、楽しそう。

「が、学校対決……なるほど。その視点では考えてなかったかも」

 と、鈴華ちゃんは、さっきとはちがう感じで、考えこんでる。

 ――――うん。

 うちも、対決バージョンの意見のほうが、すんなりイメージできたかも。

 ワクワクするっていうか。

「たしかに『学校対決』ができるのも今年だけ、最初で最後、ですよね。競いあうことで生まれる友情☆ってのもありますよねっ!」

 うちがそう言うと、

「ノリが合うねえ、双葉さん」

 国見さんと目が合って、うれしくなる。

「最初で最後……そうですね。それに、国見さんの発言に、すごく納得しました」

 バトルに前のめりなふんいきに気圧されながらも、鈴華ちゃんは大きくうなずいて言った。

 鈴華ちゃんって、すごいなあ。

 自分の意見にこだわらず、本当に良いと思う意見を、こうやってすぐ、とりいれられるんだ。

「ありがとう。それじゃあ紅白戦ってことにしようか。あざみが紅で、緑田が白でいいかな?」

「はい。あ、でも、生徒数は、緑田小のほうがけっこう少ないんだよね。そこはどうしようか」

 丹羽先輩が言うと、

「そこは、点数を出さない競技で調節できるんじゃないかな」

 と、すぐに国見さんが答える。

 すごいなあ。

 さっきのチーム分けのときの意見といい、頭の回転が速いんだろう。

「それじゃあ、点数をつける種目と、つけない種目を入れるってことで、競技種目を考えていこうか」

「騎馬戦は、はずせないよねー。あざみ小の伝統だし! あれって見てる側も盛りあがるしさ!」

「でもケガとか危ないって、やらない学校も増えてるだろ?」

「6年生なら大丈夫だろ。学校対決で騎馬戦だぜ、大盛りあがりまちがいなしだ!」

 なんとなく、話し合いの前半とはふんいきが変わってる。

 おたがいの緊張がうすれてきたっていうのも、あるけど。

 学校同士の勝負だって意識しだして、みんなの力が入ってきたっていうか。

 かくいう、うちだって。

 どうせなら勝ちたい! って気持ちに、火がついちゃうよね。

「はいっ! 騎馬戦、5年生もやりたいです!」

 って思わず発言しちゃったよ……(でも、やっぱり危ないから6年生だけってことになった)。

 こんな感じで、盛りあがった話しあいの末、プログラムのだいたいの方向性が固まった。

「ふう、初日にしては、けっこう決められたんじゃない?」

「後半は、だいぶ話し合いが白熱していたものね」

 ちょっと、長時間の話し合いになって、つかれちゃったかも。

 鈴華ちゃんと、うーんと伸びをしていたとき、ふとあざみ小メンバーの話が耳に入ってきた。

「……まあ、バトルって言っても、負ける気しないけどな」

「だよね。だって、緑田小はあざみ小の中に入る立場なんでしょ?」

「乗っとる、っていうの? だから運動会もこっちでやるんだよな」

 むむむむっ!?

 あざみ小の人たち、話しぶりは、さりげないけど。

 緑田小が、あざみ小に乗っとられる、だって……?

 そんなの、ぜんぜんきいてないんですけど!!!

 それに、学校統廃合って言っても、どっちが上か下かとか、そういうのはないはず!

 それってちょ――――っと、ていうか、だいぶ、失礼な感じじゃないっ!?

 うちや鈴華ちゃんはもちろん、ずっとあんまり緊張感がなかった丹羽先輩も、ムッとまゆをひそめてる。

 それは、水分補給をしていた国見さんの耳にも入っていたようで。

「こら、失礼なことを言わないっ!」

 あわてて水筒のふたをしめて、キリッとした声を出す。それから、

「――――――――緑田小のみなさん、気をわるくさせてすみません」

「ごめんなさーい」

 頭を下げた国見さんに、あわてたように、言っていた人たちも頭を下げる。

 ふお――――。

 国見さんって、やっぱり、すごくしっかりした人だなあ……!

 鈴華ちゃんも同感だったみたいで、国見さんに、あこがれのまなざしをむけている。

「学校バトルは楽しむけど、ここにいるみんなは、運営の仲間として、力を合わせてがんばっていこう。ね!」

「「はいっ!」」

 国見さんに、にこやかにそう言われて、うちも鈴華ちゃんも、大きくうなずく。

「あかねちゃん。新しい運動会、ステキなものになりそうな予感ね!」

「うんっ!」


第3回につづく(7月31日公開予定)


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書誌情報


作: 七都 にい 絵: しめ子

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323620

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