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ものがたり

第4回「本当の友だち」になりたい!!【期間限定】「ふたごチャレンジ!」1巻無料公開


18 「本当の友だち」になれたら

「あかねちゃん、あいかわらず、すばしっこいわね」
 あっという間に保健室をとびだしていったあかねを見おくって、辻堂先生は思わず笑みをうかべる。
 ……あかねはきっと、太陽くんに会いにいったんだろうな。
 ちゃんと気持ちを伝えられるといいけど……うん、あかねなら、きっと大丈夫だ。
「とりあえずかえでくんが、あかねちゃんとすっかり仲なおりできたみたいで、ほっとしたわ」
「えっ! なんでぼくらがケンカしてたこと、先生が知ってるんですか?」
 ぼくは、ビックリして先生にむきなおる。
「ふふ、じつは、あなたたちふたごのことを心配して、友だちとしてどうしてあげたらいいかって、相談しにきてくれた子がいてね」
 辻堂先生は名前こそ出さなかったけど、きっと凜ちゃんだろうと、ぼくは察した。
「いい友だちをもったわね、かえでくん」
「でも……その子だって、ぼくが本当は男子だと知ったら、もう友だちでいてくれないかもしれないですよね」
 そう、凜ちゃんが大切な友だちだからこそ――失うのがこわい。
 大ウソつきだって、嫌われるのが、こわい。
「まあ、そればっかりは、その子次第ね」
 凜ちゃん次第……。
 ぼくは、クラスでの凜ちゃんのふるまいを、できるかぎり思いおこす。
 凜ちゃんが男子と話しているところは、ほとんど見たことがない。
 特別に男子が嫌いってわけじゃないだろうけど、凜ちゃんにとって、男子か女子かのちがいは、きっと大きいんだと思う。
 だから、ぼくが男子だと知ったら……ビックリするだろうし、ひとまず距離をとるだろう。
 もう二度と、その距離は埋まらないかもしれない。
 …………それでもやっぱり、ぼくは凜ちゃんに、これ以上ウソをつくのは、イヤだ。
 そして――。
「あの、先生。ぼく、もうひとつ、相談したいことがあるんです」
 ぼくは、はおっていたピンク色のカーディガンを脱いで、リボンのついた白いブラウスに、小花柄のスカートを見せる。
「ぼくはずっと小さいころから、女の子の服にあこがれていて……でも男の子だから着せてもらえなくて……。いざチャレンジをはじめて、着てみたら、やっぱり、女の子の服のほうが、自分にしっくりくるって思うんです」
「そうなのね」
 辻堂先生はおだやかに、ていねいに、ぼくの話を受けとめてくれる。
「この3週間……ぼくはずっと、ヒミツがバレたらどうしようって、びくびくしていたんだけど……それでもやっぱり、毎日うれしかったのも本当なんです。それは、あこがれていたかわいい服を、堂々と着られるからだけじゃなくて……その、うまく言葉にできないんですけど……『女の子として』、みんなから扱われることが……、ぼくにとって、とても自然なことで……」
 ぼくはスカートのすそをにぎり、うつむいて、言葉をつづける。
「あかねは、趣味や好みは男っぽいけど、やっぱり女の子なんです。でも、ぼくは……自分でも、自分の性別が、よくわかりません……」
 消え入りそうになりながら、どうにかそう言いきった。
 辻堂先生は、いったいなんて答えるんだろう?
 吐きそうになるくらい心臓を鳴らして待つけど、一向に、辻堂先生は声を発しない。
 ついに顔をあげて辻堂先生を見ると、先生は「やっと目が合ったね」とほほえんだ。
「一応、先に伝えておくと、体の性別と、心の性別が、必ずしも同じだとは限らないわ。女の子の心と男の子の心、両方をもっていると感じる人もいるだろうしね。でも、あなたが『わからない』って思うのなら、答えを出すことを急ぐ必要はないんじゃない?」
「えっ?」
 ぼくはおどろいて、声をあげてしまう。
「答えを必ず出さなきゃいけないものなんて、テストくらいよ。この世のあらゆるものに『たったひとつの答え』なんてないの。それに、一度出した答えが、時間がたつにつれて変化することだってあるし、ある日とつぜん、ふってきたように答えに気づくことだってあるかもしれないわ」
「そうなんですか……?」
 10歳のぼくには、先生がどうしてそんなことを言っているのか、よくわからない。
 でもきっと、先生はウソをつかない人だっていうのは、わかる。
「だからね。今は、かえでくんの好きな姿で、好きなことを、好きな人たちといっしょに、楽しんでいるだけでいいんじゃないかな?」
 ぼくにとって、辻堂先生の言葉は、思いがけないものだった。
 だけど、だんだんと、ぼくの心になじんでいく。
「そっか……」
 ――女の子らしい服を着て、おえかきをして。
 そして、できることなら、これからも凜ちゃんと友だちでいたい。
 凜ちゃんと、『本当の友だち』になりたい。
 このねがいは、ぼくが女子であっても、男子であっても、変わらない。
 今は、今わかっていることを、大切にしよう。
「なんだか、すっきりしました。ありがとうございます、辻堂先生」
「どういたしまして」
 ぼくは、自分のずいぶん伸びた長い髪にふれる。
 こんなに長くなったのは生まれて初めてで、毎日、とかすたびに、うれしい気持ちになる。
 これが、「自分らしい髪型だ」って感じる。
 この気持ちを、否定しないでいよう。
「それでも、ぼくらの『チャレンジ』をどうするのかは、答えを出さなくちゃいけないと思うんです」
「そう。もう、かえでくんの中では決まったの?」
「はい。辻堂先生、ぼくは――」
 ぼくの答えに、辻堂先生はなにも言わず、変わらないほほえみをむけてくれていた。


第5回へつづく

 

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