KADOKAWA Group
ものがたり

第4回「本当の友だち」になりたい!!【期間限定】「ふたごチャレンジ!」1巻無料公開


【チャレンジしようよ。好きなものを「好き」って言うために。】

「毎日読んでます。はげまされます」「心がふるえる」「この先どうなるのか、ぜんぜん予想できない!」と話題そうぜん。毎日セカイにたちむかってるみんなへの応援ストーリー「ふたごチャレンジ!」1巻が、期間限定で全文無料ためし読み中。
ぜひ、この機会に追いついてね!(公開期限:2026年2月28日(土)23:59まで)

【このお話は…】
公園でときどき会う、別の学校に通ってる男子・太陽。
サッカー仲間の藤司とはちがう、「トクベツな友だち」だって大切に思ってたのに…。
おもいがけないかたちで太陽に「学校で男子のフリをしてる」ことを知られて。
思いっきり傷つけてしまった。
「こんなことになるなら、チャレンジなんかしなければよかった。ガマンして、女の子らしくしてたほうがマシだった……っ」

泣くうちに、よりそってくれたのは、やっぱり、かえで。
気持ちをたてなおして、もう一度、2人で前へ進もう――。



※これまでのお話はコチラから


16 あと一歩の勇気

「あかねくん、かえでさん!」
 つぎの日の放課後。教室でかえでと藤司と3人で話しているところに、左野先生がそばへきた。
「クラブ活動の件だけど、そろそろ2人の希望をきいてもいいかな?」
「はい! オレは、サッカークラブがいいです」
「あかねくん、体育でも大活躍だもんね。かえでさんはどうする?」
「え、えっと、わたしは……おえかきクラブがいいかなって」
「秋倉さんが所属してるし、かえでさんは絵が上手だもんね。2人とも、特技が活かせてすごくいいと思う」
 左野先生はメモをとりながら、にこやかに告げる。
「藤司は、来年もサッカークラブ、つづけるだろ? チームメイトだな!」
 声をかけると、藤司は「お……おう」と笑いかえしてきた。
 そうだよね、よかった。
 そこに、
「元気でいいねえ」
 ふと、おだやかで、低くしわがれた声がひびく。
 視線を移したとたん、左野先生はピシッと姿勢を正した。
「こ、校長先生! わざわざ教室までいらしてくださったんですね」
「転校生と、まだ一度も話せていなかったのが気がかりでね。こんにちは、あかねくん、かえでさん」
「「こんにちは」」
 うちらはそろってペコリと頭を下げる。
 背は少し低くて白髪が目立つ、おばあちゃんと同じくらいの年齢の男性だ。
 朝会で、台の上で話しているところは何度か見ているけど、こうして直接言葉をかわすのは初めてだった。
「左野先生からきいていた通りの優秀な生徒がきてくれて、とてもうれしいよ。あかねくんのゴール、わたしも見てみたいな、豪快なんだろうね。かえでさんも、かわいらしい絵を描くそうじゃないか。ぜひコンテストに絵を出してみてね」
 かえでがひかえめにうなずくと、校長先生の視線が、さらに藤司にむく。
「柴沢くんも、ひさしぶりだね。やはりわたしの言うとおり、サッカークラブにしておいてよかっただろう? あかねくんも入部するようだしね」
「は、はい……」
 藤司は言いよどみ、少しいごこちが悪そうに目を泳がせる。
 ……どうしたんだろ。
「それじゃあ、わたしはそろそろ失礼するよ。左野先生、じゃまして悪かったね」
「いいえ、ありがとうございました」
 校長先生が教室を去っていくと、左野先生はひとりごとのようにつぶやく。
「校長先生、生徒ひとりひとりに目をかけてらっしゃって、すごいなあ。僕も見習わないと」
 たしかに、校長先生がわざわざ、うちらのために教室まできたのは、ビックリした。
 うちは左野先生にきこえないように、声をひそめる。
「なあ藤司、校長先生と、なにかあったのか?」
「いや……別にたいしたことじゃないよ」
「そ、そうか」
 気になるけど……藤司がそう言うなら、これ以上追及はできない。
「それより、そろそろ下校時間だぜ。途中までいっしょに帰らないか?」
「わるい。オレもかえでも、ちょっと用があるんだ」
 うちがそう答えると、かえでも、ゆっくりとうなずいた。
 そう。これから、うちらにとって、大事な用事があるんだ
――

「辻堂先生!」
「あら、あかねちゃん、かえでくん。いらっしゃい」
 うちらが保健室のドアを開けると、辻堂先生はやさしく迎えいれてくれる。
 先生に呼びかけられて、うちは少し、こそばゆくなる。
 うちのことを女子として扱うのは、この学校では辻堂先生だけだ。
 以前ならイヤだったけど、今は少しほっとする。
 保健室には、ほかにだれもいなかった。
「先生、相談にのってもらっていいですか?」
「もちろんよ、どうぞすわって」
 辻堂先生は、しっかりとうなずく。
 それから、念のためドアのところまでいって、あたりを見まわして、鍵をかけてくれた。
 うちらのヒミツを知った辻堂先生は、本当にだれにもヒミツを言わずに、ただ協力してくれた。
 唯一、うちらが信頼できるおとなだ。
 うちは、ときどき、トイレを借りることもあった。
「それで……2人そろってどうしたの?」
 ならんですわったうちとかえでの顔を見くらべて、先生が表情をあらためる。
 うちは、せなかをピンとのばした。
 となりで、かえでも同じように先生を見つめている。
 うちはドキドキしながら、口を開く。
「うちとかえでは……このまま性別をとりかえていていいのか、迷ってるんです」
「先生は、ぼくたちのしてること、悪いことだって思いますか……?」
「そうねえ。先生は、大事なのはそこじゃないと思う。悪いか悪くないかなんて、どうでもいいことよ――なんて、教師の言うことじゃないわね」
 あごに指をそえて話す辻堂先生は、自分の言葉に苦笑した。
「じゃあ、先生は、うちらがずっとこのままでも怒らない?」
「ええ、もちろん。怒る権利なんて、だれにもないわよ。だから、あかねちゃんとかえでくんが、ずっと今のままでいたいって思うなら、先生は喜んでサポートをつづけるわ。……でも、ちがうのでしょう?」
 辻堂先生のするどい問いに、うちらは静かにうなずいた。
 かえでが、いつも気を張り詰めていること。
 うちが、太陽を傷つけてしまったこと……。
「はい。『とりかえ』をしても、なにも問題がないってわけじゃなかったし……」
「結局、自分らしくいられないんです。でも、じゃあどうすればいいか、わからなくて……」
 かえでも、両手をにぎりながら、不安そうに答える。
「そうね。じゃあまず、あなたたちが、自分らしく話をしてみたい人に、まっすぐにむきあってみるのはどうかしら」
「えっ……」
「あなたたちらしくいるために、『あかねくん』と『かえでちゃん』になることは、本当に必要なの?」
 うちは、ハッと息をのむ。
 先生の言葉が、ある人の顔を思いうかべさせた。
 茶髪に猫目で、すっごく気が合う子。
 だけど、もう二度と話すことはできないかもしれない……太陽だ。
 太陽と接するとき、うちは自分の性別のことなんかぜんぜん考えずに、気持ちのまま、おしゃべりができた。
 そっか。だから太陽といっしょにいると、楽しいんだ。
 太陽の前では、ウソいつわりのない、うちそのものでいられるから。
 でも、だからこそ……。
「もし、本当のことを話して、受けいれてもらえなかったら……」
「そうね。きっとそのときは、とても傷つくわね。もしかしたら、伝えなければよかったと思うような結果になるかもしれない。それでも……よ。あなたたちが自分のことを理解してほしい、相手を信じているという気持ちを、『伝える』ことが大切なんじゃないかしら」
「「……」」
「それに……もし、傷つく結果になったとしても、あなたたちには、それぞれ、最強の味方がいるでしょう」
 うちとかえでは、迷わず、おたがいの顔を見あわせる。
 その様子を見た辻堂先生は、ほほえんだ。
「2人でなら、きっと勇気を出せるわ。一歩踏みだしてみたら、次に進む道が見つかるかもしれないわよ」
 うちは床においていたランドセルをかつぎ、とびらに手をかける。
「先生、ありがとうございます。うち、いってきます!」
「ええ、いってらっしゃい」
 先生は、ひらひらと手をふって、うちを送りだしてくれた。


17 太陽に、会いたい

 うちはランドセルを揺らしながら、全力で、あのグラウンドのほうへむかう。
 ――太陽に、会いたい。
 ずっと連絡はとれないし、太陽の家なんて知らないし、手がかりは、これまでの会話だけ。
 あのグラウンドがギリギリ学区外ってことは、太陽が通っているのは、あざみ小学校のはず。
 もうほとんど下校しているだろうけど、とにかく、学校にいってみよう。
 いなかったら、一番近い病院にいってみる。
 それでもダメだったら、学校の近所の家の表札を、1軒ずつ見てまわればいい。
 太陽の『明里』って苗字、めずらしいからね。
 絶対、見つけだしてみせる。
 あざみ小学校の学区に入ると、下校中の生徒の姿があった。
「太陽――――! 太陽、いる――――っ?」
 まだまだ暑いこの中で、体の弱い太陽が、みんなといっしょに帰るはずがないのに。
 でも、なにもせずにはいられず、うちはさけびつづける。
 ジロジロと見られたって、はずかしくなかった。
 みんなの進行方向に逆らいながら小走りしていると、ポツリとこんな声がきこえてきた。
「太陽って、もしかして明里のこと?」
 よっしゃ、きたあ!
 すかさずうちは急停止して、声の主のもとへとびつく。
「そうっ、明里太陽っ! きみ、どこにいるか知ってる!?」
「さ、さあ、まだ学校にいるんじゃね? アイツ休んでばっかりだから、学校にきた日は放課後に残って、補習とか受けてるっぽいし」
 よしっ、有力情報ゲット!
 太陽が帰っちゃう前に、いかないと!
「教えてくれてありがと! ホントに助かった!」
 お礼を言って、うちはふたたびダッシュした。

 あざみ小学校の正門にたどりついたうちは、そわそわと様子をうかがっていた。
 門の前には、ちょっとこわそうな先生が立っていて、うかつに中に入れないの。
 わすれものをとりにきた生徒のフリをすれば、かわせるような気もするけど……もしあの先生が、全校生徒の顔と名前を覚えていたら、アウトだ。
 うーん、どこかから中に入れないかなあ。
 フェンスにそって歩いていると、ふと、1か所穴があいているのに気づく。
 かなり小さいけど、うちならギリギリ通れるかも。
 太陽の下校を待ちぶせするっていう手もあるけど……いつになるかわからないし、きっと、お父さんかお母さんが車でお迎えにきて、長話はできないはず。
 ……ここまできたら、やるしかないか。
 うちは決心すると、先にランドセルをおしこんで、どうにか内側に入れる。
 人気がないのを確認して、うちも穴をくぐりぬけた。
 よし。あとは堂々と、ここの生徒のつもりで歩こう。
 うちは全身についた土をはらうと、校舎のほうへむかう。
 下駄箱で太陽のくつを探すと、4年2組だということがわかった。
 うう、うわばきがないのが心もとない。
 先生とすれちがったときに、なにか言われたらどうしよ。
 でも、運よくだれともすれちがわずに、4年2組の教室へたどり着いた。
 話し声はきこえないけど、人の気配がある。
 だれだろう。おねがい、太陽でありますように……!
 そっとうしろのとびらを開けて、中をのぞきこむ。
 プリントにとりくむ、そのうしろ姿は――。
「太陽だっ……」
 うれしくてうれしくて、つい、口に出してしまう。
 静かな教室にひびきわたるには、十分な声量だった。
「えっ…………あかね?」
 ふりむいた太陽の目が、まんまるになる。
「ど、どうしてあかねがここに!?」
「あの……太陽にどうしても会いたくて、こっそり……」
「しのびこんだの?」
「うん、フェンスの穴から……」
「マジか。やるなあ、あかね」
「ナ、ナイショにしてくれるよね? ねっ?」
 思わず必死になって言うと、
「うん、もちろん」
 太陽は口もとに手をあてて、クスリと笑う。
 ひさしぶりに太陽の笑った顔が見られたことに、うちはホッと胸をなでおろす。
「あー、よかった。……ねえ、そっちにいっていい?」
 うちはそっと、太陽の席に近づいた。
 うちと太陽の間に、微妙な空気が流れる。
「……太陽、話したいことがあるの」
「……うん」
「まずは、謝りたい。この前はイヤな思いをさせて、本当にごめんなさい」
「俺は謝罪より、どういうことなのかが知りたいよ、あかね」
「わかった」
 うちはランドセルからスマホをとり出して、電源を入れ、1枚の写真を太陽に見せた。
 転校初日にとった、かえでとのツーショットだ。
 スカートをはいた、うちとそっくりなかえでの存在に、太陽はまばたきする。
「すごい、そっくり! そっか、これがあかねの友だちが言ってた、ふたごの妹?」
「うん――って、言いたいところなんだけど、実は、弟なの」
「えっ、これが弟!?」
 今度は目を白黒させて、写真を何回も見なおす。
「そう、ふたごの弟で、うちはふたごのお姉ちゃん。うちが女子だっていうのは本当のことだよ」
「えっと……じゃあ、このあいだの友だちはどうして……?」
「弟――かえでが女子で、うちが男子だっていうことにしてるんだ。……うちら、学校で、ウソをついているの」
 ハッキリと言葉にすると、あらためて胸が痛んだ。
「そうだったんだね……」
 予想外の告白だったんだろう。
 太陽は動揺した様子で、あいづちをうったきり、しばらくだまりこんだ。
 それから、ふたたび視線をうちにむけなおす。
「どうしてあかねたちが性別をとりかえているのか……よかったら、俺に教えてほしい」
 太陽の真剣なまなざしに、うちの口は自然と開いた。
「うん。うちとかえでは、ずっと前から――」
 もう、ウソはつかない。すべて、言葉にするんだ。
 うちが気づかなかっただけで、10歳になる前からずっと、「女の子らしく」なることを望まれていたこと。
「男の子らしさ」を求められていたかえでが、どんどん笑顔と言葉を失っていったこと……。
 誕生日会の日に、みんなにハッキリと言われたときに感じた、激しい胸の痛み――。

 うちの話をきき終えると、太陽は神妙な顔つきでつぶやく。
「そっか。大変な思いをしてきたんだね……」
「うん。……ねえ太陽、うちの話、信じてくれる?」
「もちろんさ」
 うちがおそるおそるたずねると、太陽はすぐにうなずいた。
 そんなに簡単に信じちゃって、いいの?
 だってうちは、うちが女子だってすぐに気づいてくれた太陽のこと、うらぎったんだよ。
「うちらは2人して、みんなをだましてる。ひどいって、思わない?」
 声がふるえる。
 うちの不安を見透かすように、太陽はおだやかに口を開く。
「悪い心で人をだましている人は、一生けん命、こんなところまで謝りにこないよ」
 そう言って、うちの服に残っていた砂ぼこりをはらってくれる。
「それにね……あかね、もしかして、まだ俺が送ったメッセージ、見てない?」
「えっ?」
 あわててアプリを確認すると、太陽からメッセージが届いていた。

   あかね、この前はカッとなっちゃってごめん。
   落ちついて考えられていたら、あかねは人をだまして喜ぶような子じゃないって、
   すぐにわかったのに。
   あの友だちがああ言ったのには、なにか理由があるんだよね。

   俺はあかねのこと、信じてる。

 心臓が、ブワッと熱くなった。
 太陽は、うちが事情を話す前から、うちのこと、信じてくれてたんだ。
 うれしくてうれしくて、涙がこぼれそうになる。
「太陽……ありがと」
 うちがほほえみかけると、太陽は照れくさそうに頭をかいた。
「あかねがこれからも男子のままでいるのかは、俺にはわからないけど。俺はあかねがどっちを選んでも、ずっと友だちでいたい」
「うん、うちも。だって、太陽みたいな友だちが、ずっとほしかったんだもん」
 言いながら、ぶあつい雲のすき間から光がさしたみたいに、ぱあっと視界がひらけた気がした。
 ――あなたたちらしくいるために、『あかねくん』と『かえでちゃん』になることは、本当に必要なの?
 うちの中で、辻堂先生の問いがもう一度きこえた。
 うちは、かえで以外に、本当の自分を認めてくれる人なんかいないって思ってた。
 でも……そんなことはなかった。
 太陽みたいに、そのままのうちを好きになってくれる人だって、いるんだ!
 だったら……。
 短く切りそろえた髪に、そっとふれる。
「太陽。うちは――」
   コツ、コツ、コツ……
 うちの話をさえぎるように、廊下で足音がひびく。
「まずい、先生が俺の補習プリントの進みぐあい、たしかめにきたのかも」
「ええっ!?」
 ど、どうしよう。
 うちがしのびこんだことがバレたら、いっしょにいる太陽まで怒られちゃうかも!
 みるみる近づいてくる足音にあわてていると、太陽は立ちあがって、うちの腕をぐいと引っぱる。
「あかね、こっちにきて、しゃがんで」
「えっ、う、うんっ」
 言われるままに身をかがめると、太陽はうちと自分を、教卓の下におしこめた。
 太陽の鼓動と、うちの鼓動とが、重なってきこえる。
 すぐに、ガラリとドアが開かれた。
「明里くん、どこかわからないところは――って、あら?」
 太陽の姿が見当たらないことに、気づいたようだ。
「荷物はそのままだし、お手洗いにでもいったのかしら」
 先生は不思議そうにつぶやくと、ふたたび足音を立てながら、教室をあとにした。
「ふう、なんとかなったみたいだね」
「だね。ああ、緊張したあ。ありがと、太陽」
「どういたしまして」
「ていうか、太陽は、わざわざかくれる必要なかったんじゃない?」
「あっ……た、たしかに。俺、そうとうあせってたみたい」
 目と鼻の先の距離にいる太陽は、はずかしそうにほおをかいた。
「またひとつ、2人だけのヒミツができちゃったね」
「そうだね」
 うちと太陽は顔を見合わせて、クスリと笑った。
 教卓の下は暑くるしいけど、心の中は、おどろくほどすがすがしかった。

次のページへ


この記事をシェアする

ページトップへ戻る