
朝から王子様な幼馴染が、片膝をついて手を差し伸べてくる……どうしてこうなったんだっけ?
『言いなり王子のかわし方』特別ためしよみ連載スタート!
0.プロローグ
「さあ姫、お迎えにあがりましたよ」
「……今すぐ立ち上がってそのまま私の視界から消えて」
朝、家のドアを開けたら、そこには道路に片膝をついてこちらへと左手を差し伸べる瑠果(るか)がいた。
この人は朝っぱらから何をやっているんだ……。
またこれでご近所さんから変な噂が立ったら私は恥ずか死んでしまう。
「えー、だって梨紗(りさ)ちゃんが付き合うなら王子様みたいな人がいいって言ったんじゃん」
「だからってこんな人が見てるところで恥ずかしいことしないで。……それに、王子様を履き違えてるようだけど、王子様といえば白馬でしょう? 白馬も無しに何が王子様よ」
……ふう。まあ実際のところ白馬に乗って登場されたらそれこそ羞恥で顔もあげられないけど、この人にはこれくらい言っとかないと諦めてもらえないし。
「白馬か……そういえば馬術部の先輩が『瑠果くん欲しいものあったらなんでも言ってね』って言ってたなぁ……白い馬持ってるかな」
「やっぱり今のなし。とりあえず学校行こうか。遅刻しちゃう」
くそう……まだ1年生なのにいつの間に馬術部の先輩と仲良くなってたんだ……ていうか私達の高校に馬術部なんてないんだけど?
いつも登校時間ギリギリに家を出る私にこれ以上瑠果とくだらない問答をする余裕はないので、未だ跪いたままの瑠果の前を横切りスタスタと歩き出す。
だけど、間髪いれずについてくる瑠果。
「僕なりに王子様研究したんだけどなぁ」
私なんかより遥かに長い脚で優雅に歩く瑠果が残念そうな声を出す。
私は研究してほしいんじゃなくて私のことを諦めてほしいから言ったのだけど。
――ああ、また今回もダメだった。
「梨紗ちゃんは仕草とか行動よりも見た目を重視するタイプだってことをすっかり忘れてたよ。王子様といえばブロンドヘアに真っ白なテールコートだったよね」
「……言っとくけどそんな格好で来たら全力でシカトするから」
はあ、全く。毎度毎度この人は素直すぎて困る。
出会った当初はチビで暗くて泣き虫だったのに、今ではブロンドヘアになんかしなくても十分キラキラとイケメンオーラを放っちゃって老若男女問わずすれ違う人全員を釘付けにしている。
私がイケメン高身長と結婚したいなんて言ったばかりに……。
こんなつもりじゃなかったんだけどな……。
そもそもこの茶番劇はいつから始まったんだっけ……。
*****
――瑠果との腐れ縁は保育園の頃から続いてる。いわゆる幼馴染というやつだ。
初めて告白されたのも保育園。
その頃はチビで気弱で、前髪が長く、全体的に暗い印象だったのでよく園児たちにからかわれていた。私はムカつくことを言われたらただでは引き下がれないタイプなので、黙ってウジウジしている瑠果が嫌いだった。
ところが何回も現場を目にしているうちに堪忍袋の緒が切れて、いじめっ子達に一度ボコボコに言い返してやったのだ。瑠果にも「言いたいことがあるならはっきり言え!」と今までムカついていた分お説教まがいなことを言ったのだけど、何故か「格好いい……!」と変な方向に捉えられてしまった。
目をキラキラと輝かせていた瑠果に嫌な予感がしたけど、案の定その一件から妙に懐かれてしまい、挙句には「ぼく、りさちゃんと結婚したい」とプロポーズまでされる始末。
とっさに断ろうと「るかくんチビだからイヤ。イケメン高身長がいい!」なんて適当なことを言って退けようとしたけど、まさかのそのセリフが瑠果のやる気に火をつけたらしく、『イケメン高身長』になるべく努力し始めてしまった。
私はただ諦めてほしかっただけなのに……。
そんなこんなで私達の腐れ縁は切れぬまま、中学生になってしまった。
家が近いのでなす術なく同じ学校だ。
この頃になると、周りの男子よりも頭一個分は高い身長に、長ったらしい前髪を切ったことで綺麗な顔立ちが表に出て、見事『イケメン高身長』の称号を手に入れていた。
というか、普通努力してイケメンになれるものなの?
私の理想の外見になるべく毎日牛乳と筋トレは欠かさなかったみたいだけど……。
どんなに頑張ったって普通はここまでの容姿を手に入れることなんてできない。認めたくはないけど元々素材が良かったとしか……。
入学当初から女子達に騒がれている瑠果を見て私は焦りに焦っていた。
やばい、このままでは断る理由がなくなってしまう……と。
よく考えれば「他に好きな人がいる」などいくらでも断る方法はあっただろうに、この時の私は「瑠果が諦められるような条件を出さないと」とばかり考えていた。
家が近いせいで、中学生になった今でも登下校はいつも一緒。小学生の頃から何度も「一緒に帰りたくない」と断っているのだけど、無駄にメンタルが強いのか、どんなに嫌がってもぴったりくっついてくるのだ。
まあ、保育園の頃に比べれば性格も明るくなり、一緒にいるのが嫌なわけではなかったので、登下校に関しては私が折れた。
だからといって付き合う気は毛頭ないけどね……!
しかし先程瑠果から「今日の帰り道話したいことがある」と言われてしまった。
ああ、嫌な予感……。
「梨紗の言う通り、『イケメン高身長』になったよ。付き合ってくれる?」
「……」
やはり予感的中。まあ改まってする話なんてこれくらいしかないよね……。
約七年ぶりの告白。「好き」とだけなら今までも日常的に言われていたけど「付き合って」と言われたのは久しぶりだ。よくもまあ七年も想い続けてこれたよね。その一途さには感服する。
しかし、だからといって瑠果と付き合うわけにはいかない。それは勿論、瑠果を恋愛対象に見れないから。昔の弱虫時代を知っているのだから、いくら外見が変わったとしても男として見れるわけがない。
さて、次はなんて言って断ろうか……。
梨紗の言ったとおり、イケメン高身長になってしまった瑠果!
今度はなんて言って断ろう……え、勉強? 次回は10月11日(水)公開!