
もうすぐ中2になるわたし・くるみは お父さんが海外出張に行く2か月の間、 幼なじみの家で暮らすことに。8年ぶりに再会した久瀬(くぜ)兄弟との同居生活は毎日がドキドキで……!?
※これまでのお話はコチラから
第5回 過保護なふたり

次の日、ふたりと一緒に登校することになった。
本当は別々に行こうと思ってたんだけど……。
「待って、くーちゃん。一緒に行こう?」
琥白(こはく)くんにそう誘われたら、断れなかった。藍翔(あいと)くんも自然と一緒に行くことになったので、三人で家を出た。
「ふたりがわたしのこと覚えてくれてたなら、もっと早く話しかけてみればよかったなぁ。せっかく同じ中学にいるんだし」
「お母さんも、くーちゃんがうちの中学に入ったこと教えてくれればよかったのに。『絶対くるみちゃんに迷惑かけるだろうから教えなかったの』なんてさ……確かに、知ってたらすぐに会いにいったし、びっくりさせちゃってた可能性はあるけど」
実は、おばさんとは今までも何度か会っていた。この学校をおすすめしてくれたのもおばさんだったんだよね。お父さんにはやっぱり話しにくいこともあるから、いろいろと話せたり、相談できたりするのはすごくありがたかった。
「でも、学校ではなにもかかわりがないのに、それでいきなりふたりに話しかけられたら大さわぎになってたかも。ふたりとも、すごく人気者だから」
一緒に暮らすことにならなければ、きっと中学でも高校でもふたりに話しかける勇気なんて出せなかった。
長期出張で大変なお父さんには申し訳ないけど、こうなってよかったかも。お父さんは、男の子がふたりもいる家にわたしを預けていくことになって、すごくすごくくやしそうだったけど……。
「大さわぎにはならないんじゃない? 僕たち、芸能人なわけじゃないし」
「俺はともかく、コイツだったらそうなるかもな」
ぴんときていない琥白くんとは対照的に、藍翔くんはちょっと納得しているみたいだった。だけど、『俺はともかく』って……。藍翔くんも人気なのに。
「――くるみ」
急に藍翔くんに名前を呼ばれて、ぐいっと腕を引かれる。痛くはないけど力が強くて、そのままの勢いで、藍翔くんにぽすんとぶつかってしまった。
なにが起きたのか理解できないでいると、すぐ横を自転車がすごい勢いで走り去っていく。あ、危なかった……!
「この道、ああいうやつ多いから気をつけろよ」
「ありがとう、藍翔くん」
どきどきしてしまったけど、なにに対してのどきどきなのかはよくわからなかった。
危ないことがあったあとのどきどきなのか、それとも、手を引かれたことか……体つきがしっかりと男の子になっていたことに対してなのか。
こうやって近くに立つと、ふたりの背がすごく高くなったことに、あらためて気づかされる。なにも知らない人だったら高校生だと思うだろうし、もしかしたら大学生だと思う人もいるかもしれない。それくらい、ふたりは大人っぽかった。
「くーちゃん、そこの地面くぼんでるから気をつけて」
「え、あっ、うん、ありがとう!」
ふたたび歩き出したわたしに、琥白くんが声をかけてくれる。
「……なんか、藍翔くんも琥白くんも、過保護じゃない?」
自転車も地面のくぼみも、たしかに危ないけど、腕を引っぱって助けてくれたり、
わざわざ声がけをしてくれたりするほどのことではないような……?
「くるみ、前に木から落ちて怪我しただろ。……悪かった」
「助けられなくて、怪我させちゃってごめんね……」
あ、そういえば。
たしかに昔、三人で木登りをして遊んでいたとき、わたしは足をすべらせて落ちてしまった。そのとき太ももに大きめの傷ができてしまって、とても痛くて大泣きしたことを覚えてる。
……思い返してみると、あれから幼稚園を卒園するまで、ふたりはずっとわたしの近くにいて、危ないものから遠ざけてくれていた。今みたいに。
もしかしてずっと、気にしててくれたのかな。ふたりのせいじゃないのに……!
「もう跡も残ってないから、気にしないで! ほら、ここ、全然わからないでしょ?」
スカートをちょっとだけ上げて、太ももを見せようとする。
わたしよりスカートを短くしてる子はいっぱいいて、その子たちだったらいつも見えてるところだ。だけど、藍翔くんは「バカ!」とわたしの手を勢いよくつかんだ。びっくりするわたしに、藍翔くんはあきれたような、心配するようなため息をついた。
「くるみはもっと……危機感とか、そういうの持て」
「そうだよ、今のはだめだよ、くーちゃん」
「え……持ってないかな? なにかだめだった?」
「絶対持ってねぇ」
「えぇ!?」
絶対、とまで言い切られてしまった。
いや、男の子に足を見せるのはよくないのかもしれないけど……でも、スカートほんのちょっと上げただけだよ? 風でふわっとスカートが広がるだけでも、見えるような位置なのに。
「そういうとこもほんと……」
「だよねぇ……」
「な、なに……!?」
言葉をにごされると気になる。だけど、ふたりは首を振るだけで話してくれなかった。そのまま話題を変えられてしまって、もやもやしながらもそれ以上訊けなかった。
ふたりとは昨日の夜もたくさん話したけど、それでも話したいことはまだまだある。
最近のおもしろかったエピソードとか、好きなもの、苦手なものの話なんかをしているうちに、学校に着いた。
校門の前で、ちょうど向こうから歩いてくる友だちが見えた。小学一年生のころからずっと仲よしの、須藤春乃(すどう はるの)ちゃんだ。
この中学を受験すると決めたとき、もし合格したら春乃ちゃんとちがう学校に通うことになるんだよなぁ、と思って不安だったんだけど……。あとから同じ学校をめざしていることを知って、こうして今同じ学校に通えていることがうれしい。
「くるみちゃん! おは……よう!?」
元気な笑顔で駆け寄ってきてくれた春乃ちゃんは、わたしの横を歩く琥白くんと藍翔くんを見て、ぽかんと口を開けた。
そ、そういう反応になるよね。だってわたし、今までふたりと知り合いだなんて言ったことなかったし。
「春乃ちゃん、おはよう」
「……くるみちゃん? えっ? 久瀬(くぜ)兄弟と……え〜っ!?」
ここから始まる、くるみと双子のドキドキ学園ライフ!
ふたりに愛されすぎて困っちゃうくるみの選択は――!?
キュンが止まらない恋愛ストーリーをお楽しみに!!
『双子くんがわたしのことを好きすぎる』は好評発売中!