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ものがたり

泣き虫幼なじみが王子様系アイドルに!? ドキドキが止まらない溺愛ラブストーリー♥『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』【特別ためしよみ連載】第4回


中1に進学したばかりの美織が再開したのは、今を時めく王子様系アイドルに変身した元泣き虫の幼なじみ・俊だった。毎日、美織しか見えない俊に溺愛されるドキドキの学園生活、スタート!
『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』の特別試し読み!

※これまでのお話はコチラから
 


「ねえねぇ、二人ってどういう関係なの?」

「さっき抱き合ってなかった?」

 教室に入るや否や、質問攻めにあう私。

 ……前言撤回。

 俊は、私の学園生活を早くもかき乱している。

「いや、私たちは……」

「幼なじみなんだよ。ね? 美織」

「うん、そう。ただの幼なじみだから」

 あっ、ただの、とか言っちゃった……。と俊の顔をうかがうけど、綺麗に上がった口角は動かなかった。

 ……さすが、スーパーアイドルだ。

「えーっ、いいなぁ! ねぇ、小さい頃の俊さまってどんな感じだったの?」

「ええっと……」

「俊さまと地元が一緒だったなんて超嬉しい!」

「あの……放課後、なんか用事あったりしますか?」

 喋る隙も与えてくれず、わらわらと俊の周りに集まってきた女の子たちは口々に言う。

 みんな、目がハートになっている。

 戸惑っていると、俊が唇に人差し指を当てた。

 しっ、と短く言うと、女の子たちは口を開けたまま黙る。

「放課後は、レッスンがあるから……ごめんね。それから、僕の大事な幼なじみの美織のことも、みんなよろしくね」

 柔らかい笑顔を向け、甘い声で言うと、

「「はいっっ」」

 と女の子たちは一斉に返事をした。

 ……すごい。完全に教室を牛耳っている。

 まさか、俊にそんなことを言われる日が来るとはなぁ……。

 感慨に浸っていると、担任の先生が「お前ら早く席に着けー!」と大声で言いながら入ってきた。どうやら、このクラスの担任は強面の生徒指導の先生らしい。……うん、適任。

 そんなこんなで、騒がしい一日は終わって放課後がやってきた。

 女の子たちは、俊のことを探しているみたいだった。

「あれ? 俊さまどこに行ったんだろう?」

「さっきまで席に座ってたのに〜」

 そういえば、さっきから見ないな、と私も思っていた。

 ……もう帰ったのかな?

 レッスンがあるから、って言ってたもんね。きっと忙しいんだろうなぁ。

 寂しさを感じている自分に気がつき、ハッとする。

 いやいや……あの調子で一緒に帰ろうだなんて言われていたら、もっと大変なことになっていただろうし。これでよかったよ、うん。

 でも、連絡先くらい交換したかったなぁ。……まぁ、明日でもいっか。

 帰る準備をしようと、私は机のなかに手を伸ばした。

「……ん?」

 すると、なにやらノートの切れ端が入っていた。

 綺麗に四つ折りされているのを開けると、端正な文字が書いてある。

『放課後、南公園に来て。BY俊』

 あぁ、頬が勝手に緩んできてしまう。

 必死に感情を抑えつつ、そうっとポケットにそのメモを忍ばせる。辺りを見回すと、バチッと凪咲と目が合った。

 なにやらニヤニヤとしている。

 凪咲はこちらにやってくると、耳元に話しかけてきた。

「もしかしてぇ、俊くんとデートする〜?」

「えっ……」

 戸惑って言葉が出てこないでいると、きゃ〜! と凪咲は口元を隠して笑い、背中をバシンッと叩いてくる。

「熱愛じゃ〜ん!」

「ちょっと! し〜っ! そんなんじゃないから!!」

 必死にヒソヒソ声で抗議するも、凪咲のニヤつきは止まらない。……というか、なんで俊と会うのがわかったんだろ? 大親友の察し能力、恐るべし……。

「いいじゃ〜ん! 実はぁ、みおりんがいない間にぃ、俊くん並みにイケメンな男子見かけたから、探しに行こう〜っ! って言おうと思ってたんだけど……そういうことなら、仕方ないねぇ〜。いってらっしゃ〜いっ!」

 私の顔の前で、ぶんぶんと両手を振ってくる凪咲。

 また、否定しようと思ったけど……。

 喜んでくれているのが嬉しくて、私は素直に頷いた。

「うん。会いに行ってくる!」



 凪咲に見送られ、急いで教室を飛び出していく。

 走って、走って。上り坂でもスピードをゆるめない自分に、つい笑ってしまう。

 こんなにも、俊に会いたくて仕方がないとは……。

 本当に、予想つかないことばっかりだ。

 

「あれ? いない……」

 言われたとおり、南公園に来たけれど……俊の姿はない。

 きゃっきゃっと遊ぶ子供たちの声が響いていた。

 ……懐かしいなぁ。俊とも、よくこの公園で遊んでいたっけ。

 思い出に浸っていると——突然、誰かに後ろから抱きつかれる。

「うわあっ」

「いや——っ!!」

 びっくりして反射的に叫ぶと、「しっ、僕だよ。俊」と耳馴染みのある声がすぐに聞こえてきた。

「こら! なにすんのよ!!」

 怒って振り返ると、俊が、あははっと楽しそうに笑っていた。

「小さい頃、よくやられてたからさ。仕返しっ」

「もう……って、なに? その格好……」

 俊は、黒いパーカーを着て深いバケットハットをかぶり、サングラスをかけていた。王子様感がないからか、ぱっと見て俊だとはわかりづらい。

「変装だよ。そこのトイレで着替えた。制服の上に着たからちょっと太って見えるでしょ?」

「そう……かな? でも、全然オーラないし大丈夫そう!」

「えっ。僕、そんなにオーラ放ってた?」

 自慢げに言ってくるから、ちょっとね、と言っといた。ちょっとかぁ、と落ちこむ俊。

 ……嘘だよ。スタイル良いから、シンプルな格好もすごく似合うし。輪郭が綺麗だから、サングラスがきまっている。まだ中学生だけど、これはこれでアリ、なんて思っちゃう。オフモードでもカッコ良さが出ちゃうなんて……とは、言ってあげないけど。

「でも大変だね。そんなことしなきゃいけないなんて」

「うん。ちなみに、家から出るときもこんな格好をして、途中で制服に着替えてから学校に行ったんだ。家がバレるとまずいからね。着替える場所も、毎日変えていくつもり」

「えっ!? そうなんだ……。あの、私にできることがあったら、なんでも言ってね?」

 言うと、サングラスの奥の目が、三日月形になる。

「じゃあ、とりあえず一緒に家まで行こ」

 俊はすかさず私の腕に絡み、またくっついてきた。

 まぁ、この格好じゃ私以外には気づかれないだろうし、安心か。

 俊に促されるまま歩いていくと、大通りに出た。民家は見当たらない。

「家って、私の隣のとこじゃないよね? どこ?」

「もうちょっと行った先に、大きなマンションがあって、そこで一人暮らししてるんだ。美織の家とも近いよ」

「へえ〜。……って、んん!? 一人暮らし!?」

「うん。お父さんは、仕事の都合があるからこっちには戻ってこれないって。でも、京極さんがいるなら安心だ、って言ってた」

「ん? えっ? れんれんがいるから……?」

 そう、と俊はあくびをした。

「蓮司さんの、第三の家? を借りさせてもらってるって感じ」

「——ええぇっ!?」

「ほら、蓮司さんが立ち上げた事務所のダンススタジオも近いし。それもあって、美織と同じ学校に通うのを許されたんだよね」

「……ダメ。もう、頭が追いついていかない……」

 額をおさえる私を見て、俊はまた無邪気に笑う。それから、調子良さげに言った。

「なんといっても」の顔ですからね、僕は。ちょっとしたワガママも、聞いてくれるってなわけですよー」

「……蓮司さんに感謝しなさいよ」

「あはは、お父さんにも同じこと言われた」

「えっ? 待って」

 そこで私は、重大なことに気がつく。

「私、今から、れんれんに会えるってこと……?」

 聞くと、俊は「あー……」とつまらなそうな声を出す。

「蓮司さん、今日はいないんじゃないかなぁ。基本は都心に住んでるし。一人暮らしって言ったでしょ? 僕は、ちょっとした居候兼管理人みたいな感じ」

「はぁ……。すご……」

「あ、生活費はちゃんと給料から天引きされてるし、安心してね」

「へぇ……。給料……」

 もはやここまでくると、なにを聞いても驚かなくなってきた。

 ……私、今すごい人の隣にいるんだなぁ。

 なにもかも変わっちゃったんだなぁ、俊は。

 誇らしい気持ちではなく、なぜか、ちょっと寂しい気持ちになっていた。

 私、こんな当たり前のように隣にいるけど……いいのかな? なんて、変なことを思ってしまう。

 高くそびえ立つマンションの前に着くと、俊がエントランスで黒いカードキーをかざし、扉が開く。

 なんか、セキュリティもすごくしっかりしてそうだし、ここまで変装しなくていいんじゃないかって言ったんだけど……。俊いわく、「お父さんと一緒に住んでたときに、ファンの子に待ち伏せされたことがあって、すごい怖かったんだよね。それに、どこにマスコミがいるかもわかんないし。美織と一緒にいるとこ撮られたらマズいでしょ? 蓮司さんとメンバーには、極力迷惑をかけたくないから」とのことだった。

 念には念を。

 そうしないと、普通に街も歩けないなんて……。

 スーパーアイドルも、世知辛いなぁ。

 私とは無縁の世界に住んでいる俊に同情しつつ、なかに入ると、さらに別世界がひろがっていた。

 まず、広さにびっくりした。エントランスホールだけで、私の家の全部屋が収まっちゃうくらい……。

 壁にはなぜか水が流れているし、きらびやかな絵やオシャレな椅子がいくつも並べられている。……なんか、誰も座っていないようだけど……必要なのかな?

 これが金持ちの住む家か……。と、自分の境遇と違いすぎて悲しくなってきてしまった。

 エレベーターホールに行くまでにもなぜか池があって、「落ちないでよ、美織」なんて俊がイタズラっぽく言うから、「落ちません!」と少し大きな声で言い返していた。俊は、なぜか嬉しそうに笑っていた。

 そして、やたら大きくて暗いエレベーターに乗り、部屋まで向かう。

 俊は、部屋の前でまた黒いカードキーをかざすと扉を開け、「どうぞ。お姫様」と手先をなかに向けた。

「お、お邪魔します……」と、私は腰を低くして入っていく。

 なんか、私、近いうちに悪いことが起きちゃいそう。こんなに身の丈に合わない体験をしちゃったら……。

 

「どっか適当に座ってよ」

 部屋の明かりをつけ、俊は変装用のパーカーを脱ぎながら言う。

 キョロキョロと見回し、私はリビングにあるソファに腰掛けた。

 すると、部屋着姿になった俊が、ぴたっと腰をくっつけて隣に座ってくる。

「ちょっと」と言うと、「なに?」と甘えたような表情で見つめてくる。

 くっ……可愛い……。

 部屋で二人っきりになれたからか、リラックスしているようだった。こうして見ると、ちゃんと小さい頃の俊の面影がある。

「……近いよ」

「うん。だって、学校じゃこんなにくっつけないでしょ?」

 いや、くっついてたじゃん……。

 というツッコミはあえて心のなかに留め、私はもう一度俊の顔をまじまじと見つめる。

 いつも泣き虫で、守らずにはいられなかった俊。

 本当に、血がつながっていないだけで、大切な弟だと思っていた。

「……やっぱり、俊は可愛いなぁ」

 言うと、俊は眉を下げ、目をうるっとさせた。

「可愛い、弟?」

 不安そうな顔で、上目づかいをしてくる。

 うーん……と、私は唸っていた。

 まだ、自分の気持ちがハッキリとわからないでいるんだ。

 俊は、自分のことを男として見てほしい、って言うけど……。

 なんだろう? この、複雑な気持ちは。

 胸の奥が、ちょっとだけ、苦しい。

「なんか、なにもかも突然すぎて、混乱しちゃってるのかも」

 言うと、「そうだよね……」と俊は下を向いてしまう。

 けど、すぐに顔を上げ、まっすぐな瞳で見つめてくる。

「僕は、今までも、これからも、ずっと美織のことが好きだから。それはぜったいに変わらない。僕は、美織さえいればいいから。……だから……。美織の気持ちが追いつかないのなら、これからもずっと、ただの幼なじみってだけで……」

「待って」

 あまりに切なそうに言う俊に、つい、思いつきの言葉をはなってしまう。

「私も、俊と、自分の気持ちにしっかりと向き合いたい。もうちょっとだけ、考えさせてくれない?」

 しっかりと目を見て言うと、俊は、桃色に染まった頬を上げ「うん」と満足そうに頷いてくれた。

 すると、なんだかモジモジとしはじめる。

「あと、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「うん、なになに?」

「一緒に住んでくれない?」

「う……えええええ!?」



第5回へつづく(6月4日公開予定)

『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』は、カドカワ読書タイムより2024年6月13日(木)発売!

幼なじみの王子様系アイドルから溺愛が止まらない!
キュンがいっぱいの学園ラブストーリーをお楽しみに!


著者: 木下 すなす イラスト: あさぎ屋

定価
1,375円(本体1,250円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784046835475

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