
中1に進学したばかりの美織が再開したのは、今を時めく王子様系アイドルに変身した元泣き虫の幼なじみ・俊だった。毎日、美織しか見えない俊に溺愛されるドキドキの学園生活、スタート!
『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』の特別試し読み!
※これまでのお話はコチラから
「ねえねぇ、二人ってどういう関係なの?」
「さっき抱き合ってなかった?」
教室に入るや否や、質問攻めにあう私。
……前言撤回。
俊は、私の学園生活を早くもかき乱している。
「いや、私たちは……」
「幼なじみなんだよ。ね? 美織」
「うん、そう。ただの幼なじみだから」
あっ、ただの、とか言っちゃった……。と俊の顔をうかがうけど、綺麗に上がった口角は動かなかった。
……さすが、スーパーアイドルだ。
「えーっ、いいなぁ! ねぇ、小さい頃の俊さまってどんな感じだったの?」
「ええっと……」
「俊さまと地元が一緒だったなんて超嬉しい!」
「あの……放課後、なんか用事あったりしますか?」
喋る隙も与えてくれず、わらわらと俊の周りに集まってきた女の子たちは口々に言う。
みんな、目がハートになっている。
戸惑っていると、俊が唇に人差し指を当てた。
しっ、と短く言うと、女の子たちは口を開けたまま黙る。
「放課後は、レッスンがあるから……ごめんね。それから、僕の大事な幼なじみの美織のことも、みんなよろしくね」
柔らかい笑顔を向け、甘い声で言うと、
「「はいっっ」」
と女の子たちは一斉に返事をした。
……すごい。完全に教室を牛耳っている。
まさか、俊にそんなことを言われる日が来るとはなぁ……。
感慨に浸っていると、担任の先生が「お前ら早く席に着けー!」と大声で言いながら入ってきた。どうやら、このクラスの担任は強面の生徒指導の先生らしい。……うん、適任。
そんなこんなで、騒がしい一日は終わって放課後がやってきた。
女の子たちは、俊のことを探しているみたいだった。
「あれ? 俊さまどこに行ったんだろう?」
「さっきまで席に座ってたのに〜」
そういえば、さっきから見ないな、と私も思っていた。
……もう帰ったのかな?
レッスンがあるから、って言ってたもんね。きっと忙しいんだろうなぁ。
寂しさを感じている自分に気がつき、ハッとする。
いやいや……あの調子で一緒に帰ろうだなんて言われていたら、もっと大変なことになっていただろうし。これでよかったよ、うん。
でも、連絡先くらい交換したかったなぁ。……まぁ、明日でもいっか。
帰る準備をしようと、私は机のなかに手を伸ばした。
「……ん?」
すると、なにやらノートの切れ端が入っていた。
綺麗に四つ折りされているのを開けると、端正な文字が書いてある。
『放課後、南公園に来て。BY俊』
あぁ、頬が勝手に緩んできてしまう。
必死に感情を抑えつつ、そうっとポケットにそのメモを忍ばせる。辺りを見回すと、バチッと凪咲と目が合った。
なにやらニヤニヤとしている。
凪咲はこちらにやってくると、耳元に話しかけてきた。
「もしかしてぇ、俊くんとデートする〜?」
「えっ……」
戸惑って言葉が出てこないでいると、きゃ〜! と凪咲は口元を隠して笑い、背中をバシンッと叩いてくる。
「熱愛じゃ〜ん!」
「ちょっと! し〜っ! そんなんじゃないから!!」
必死にヒソヒソ声で抗議するも、凪咲のニヤつきは止まらない。……というか、なんで俊と会うのがわかったんだろ? 大親友の察し能力、恐るべし……。
「いいじゃ〜ん! 実はぁ、みおりんがいない間にぃ、俊くん並みにイケメンな男子見かけたから、探しに行こう〜っ! って言おうと思ってたんだけど……そういうことなら、仕方ないねぇ〜。いってらっしゃ〜いっ!」
私の顔の前で、ぶんぶんと両手を振ってくる凪咲。
また、否定しようと思ったけど……。
喜んでくれているのが嬉しくて、私は素直に頷いた。
「うん。会いに行ってくる!」

凪咲に見送られ、急いで教室を飛び出していく。
走って、走って。上り坂でもスピードをゆるめない自分に、つい笑ってしまう。
こんなにも、俊に会いたくて仕方がないとは……。
本当に、予想つかないことばっかりだ。
「あれ? いない……」
言われたとおり、南公園に来たけれど……俊の姿はない。
きゃっきゃっと遊ぶ子供たちの声が響いていた。
……懐かしいなぁ。俊とも、よくこの公園で遊んでいたっけ。
思い出に浸っていると——突然、誰かに後ろから抱きつかれる。
「うわあっ」
「いや——っ!!」
びっくりして反射的に叫ぶと、「しっ、僕だよ。俊」と耳馴染みのある声がすぐに聞こえてきた。
「こら! なにすんのよ!!」
怒って振り返ると、俊が、あははっと楽しそうに笑っていた。
「小さい頃、よくやられてたからさ。仕返しっ」
「もう……って、なに? その格好……」
俊は、黒いパーカーを着て深いバケットハットをかぶり、サングラスをかけていた。王子様感がないからか、ぱっと見て俊だとはわかりづらい。
「変装だよ。そこのトイレで着替えた。制服の上に着たからちょっと太って見えるでしょ?」
「そう……かな? でも、全然オーラないし大丈夫そう!」
「えっ。僕、そんなにオーラ放ってた?」
自慢げに言ってくるから、ちょっとね、と言っといた。ちょっとかぁ、と落ちこむ俊。
……嘘だよ。スタイル良いから、シンプルな格好もすごく似合うし。輪郭が綺麗だから、サングラスがきまっている。まだ中学生だけど、これはこれでアリ、なんて思っちゃう。オフモードでもカッコ良さが出ちゃうなんて……とは、言ってあげないけど。
「でも大変だね。そんなことしなきゃいけないなんて」
「うん。ちなみに、家から出るときもこんな格好をして、途中で制服に着替えてから学校に行ったんだ。家がバレるとまずいからね。着替える場所も、毎日変えていくつもり」
「えっ!? そうなんだ……。あの、私にできることがあったら、なんでも言ってね?」
言うと、サングラスの奥の目が、三日月形になる。
「じゃあ、とりあえず一緒に家まで行こ」
俊はすかさず私の腕に絡み、またくっついてきた。
まぁ、この格好じゃ私以外には気づかれないだろうし、安心か。
俊に促されるまま歩いていくと、大通りに出た。民家は見当たらない。
「家って、私の隣のとこじゃないよね? どこ?」
「もうちょっと行った先に、大きなマンションがあって、そこで一人暮らししてるんだ。美織の家とも近いよ」
「へえ〜。……って、んん!? 一人暮らし!?」
「うん。お父さんは、仕事の都合があるからこっちには戻ってこれないって。でも、京極さんがいるなら安心だ、って言ってた」
「ん? えっ? れんれんがいるから……?」
そう、と俊はあくびをした。
「蓮司さんの、第三の家? を借りさせてもらってるって感じ」
「——ええぇっ!?」
「ほら、蓮司さんが立ち上げた事務所のダンススタジオも近いし。それもあって、美織と同じ学校に通うのを許されたんだよね」
「……ダメ。もう、頭が追いついていかない……」
額をおさえる私を見て、俊はまた無邪気に笑う。それから、調子良さげに言った。
「なんといっても」の顔ですからね、僕は。ちょっとしたワガママも、聞いてくれるってなわけですよー」
「……蓮司さんに感謝しなさいよ」
「あはは、お父さんにも同じこと言われた」
「えっ? 待って」
そこで私は、重大なことに気がつく。
「私、今から、れんれんに会えるってこと……?」
聞くと、俊は「あー……」とつまらなそうな声を出す。
「蓮司さん、今日はいないんじゃないかなぁ。基本は都心に住んでるし。一人暮らしって言ったでしょ? 僕は、ちょっとした居候兼管理人みたいな感じ」
「はぁ……。すご……」
「あ、生活費はちゃんと給料から天引きされてるし、安心してね」
「へぇ……。給料……」
もはやここまでくると、なにを聞いても驚かなくなってきた。
……私、今すごい人の隣にいるんだなぁ。
なにもかも変わっちゃったんだなぁ、俊は。
誇らしい気持ちではなく、なぜか、ちょっと寂しい気持ちになっていた。
私、こんな当たり前のように隣にいるけど……いいのかな? なんて、変なことを思ってしまう。
高くそびえ立つマンションの前に着くと、俊がエントランスで黒いカードキーをかざし、扉が開く。
なんか、セキュリティもすごくしっかりしてそうだし、ここまで変装しなくていいんじゃないかって言ったんだけど……。俊いわく、「お父さんと一緒に住んでたときに、ファンの子に待ち伏せされたことがあって、すごい怖かったんだよね。それに、どこにマスコミがいるかもわかんないし。美織と一緒にいるとこ撮られたらマズいでしょ? 蓮司さんとメンバーには、極力迷惑をかけたくないから」とのことだった。
念には念を。
そうしないと、普通に街も歩けないなんて……。
スーパーアイドルも、世知辛いなぁ。
私とは無縁の世界に住んでいる俊に同情しつつ、なかに入ると、さらに別世界がひろがっていた。
まず、広さにびっくりした。エントランスホールだけで、私の家の全部屋が収まっちゃうくらい……。
壁にはなぜか水が流れているし、きらびやかな絵やオシャレな椅子がいくつも並べられている。……なんか、誰も座っていないようだけど……必要なのかな?
これが金持ちの住む家か……。と、自分の境遇と違いすぎて悲しくなってきてしまった。
エレベーターホールに行くまでにもなぜか池があって、「落ちないでよ、美織」なんて俊がイタズラっぽく言うから、「落ちません!」と少し大きな声で言い返していた。俊は、なぜか嬉しそうに笑っていた。
そして、やたら大きくて暗いエレベーターに乗り、部屋まで向かう。
俊は、部屋の前でまた黒いカードキーをかざすと扉を開け、「どうぞ。お姫様」と手先をなかに向けた。
「お、お邪魔します……」と、私は腰を低くして入っていく。
なんか、私、近いうちに悪いことが起きちゃいそう。こんなに身の丈に合わない体験をしちゃったら……。
「どっか適当に座ってよ」
部屋の明かりをつけ、俊は変装用のパーカーを脱ぎながら言う。
キョロキョロと見回し、私はリビングにあるソファに腰掛けた。
すると、部屋着姿になった俊が、ぴたっと腰をくっつけて隣に座ってくる。
「ちょっと」と言うと、「なに?」と甘えたような表情で見つめてくる。
くっ……可愛い……。
部屋で二人っきりになれたからか、リラックスしているようだった。こうして見ると、ちゃんと小さい頃の俊の面影がある。
「……近いよ」
「うん。だって、学校じゃこんなにくっつけないでしょ?」
いや、くっついてたじゃん……。
というツッコミはあえて心のなかに留め、私はもう一度俊の顔をまじまじと見つめる。
いつも泣き虫で、守らずにはいられなかった俊。
本当に、血がつながっていないだけで、大切な弟だと思っていた。
「……やっぱり、俊は可愛いなぁ」
言うと、俊は眉を下げ、目をうるっとさせた。
「可愛い、弟?」
不安そうな顔で、上目づかいをしてくる。
うーん……と、私は唸っていた。
まだ、自分の気持ちがハッキリとわからないでいるんだ。
俊は、自分のことを男として見てほしい、って言うけど……。
なんだろう? この、複雑な気持ちは。
胸の奥が、ちょっとだけ、苦しい。
「なんか、なにもかも突然すぎて、混乱しちゃってるのかも」
言うと、「そうだよね……」と俊は下を向いてしまう。
けど、すぐに顔を上げ、まっすぐな瞳で見つめてくる。
「僕は、今までも、これからも、ずっと美織のことが好きだから。それはぜったいに変わらない。僕は、美織さえいればいいから。……だから……。美織の気持ちが追いつかないのなら、これからもずっと、ただの幼なじみってだけで……」
「待って」
あまりに切なそうに言う俊に、つい、思いつきの言葉をはなってしまう。
「私も、俊と、自分の気持ちにしっかりと向き合いたい。もうちょっとだけ、考えさせてくれない?」
しっかりと目を見て言うと、俊は、桃色に染まった頬を上げ「うん」と満足そうに頷いてくれた。
すると、なんだかモジモジとしはじめる。
「あと、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「うん、なになに?」
「一緒に住んでくれない?」
「う……えええええ!?」
第5回へつづく(6月4日公開予定)
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- 9784046835475