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中1に進学したばかりの美織が再開したのは、今を時めく王子様系アイドルに変身した元泣き虫の幼なじみ・俊だった。毎日、美織しか見えない俊に溺愛されるドキドキの学園生活、スタート!
『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』の特別試し読み!
※これまでのお話はコチラから
☆三話 ドキドキの連続
俊の、匂いがする。
少し甘くて、安心する香り。……なのに、私の心臓はバクバクと鳴りっぱなしだった。……全然、離れないし。
「その……さっきから王子様だとか言ってるけど……あの、どういうつもりなの?」
「ん? どういう、って? そのままの意味だけど」
俊が喋る度、耳に息がかかってくすぐったい。
髪の毛もなんかチクチク当たってるし……!
「そのままって……?」
「美織の王子様になりたいんだけど。ダメ?」
——どういうこと?
私の頭には、はてなマークが増えていく。
ずっと、私のことを考え続けていたとか……。
「……もうっ! いつから、そんなことを言うようになったの!!」
つい、なんだか叱るように言ってしまい、すぐにハッと口元をおさえる。……って、俊の背中に手をまわしているみたいになっちゃった……。
そういえば、ずっと私の後ろについてなきゃダメでしょ! ってよく言ってたっけ。
でも、今は——。
「……ずっと、僕は美織しか眼中にないんだよ」
「へっ!?」
「だいすき」
吐息混じりに言われ、全身が熱くなる。
さらに心臓がどっくんと音を立て、俊に聞こえるんじゃないかと心配になる。
俊の香り、息づかい、あたたかさで包まれて。
頭のなかが、俊でいっぱいになる。
「……あっ、私も」
「絶対、美織のナンバーワンになってみせるから」
「えっ?」
「美織、僕のこと、まだ男として見れないでしょ?」
さっきまでとは違い、少し悲しそうな声で聞いてくる俊。
「……ええっと」
ついさっきの瞬間、それを意識してしまった自分がいて……顔を横にそらしてしまう。
何をどう言うべきか迷う私を見て、俊は「だから——」と言葉を紡ぐ。
「美織が、ちゃんと僕のことを選んでくれるまで、アタックし続ける。絶対に諦めないから」
そう言って無邪気に笑うと、俊は離れてキメ顔でこっちを指さしてきた。
「覚悟しとけよ」
一方的に宣戦布告され、何も言えなくなってしまう私。
俊はそんな私に構わず、肩に腕をまわして「じゃあ、そろそろ戻ろっか」とニコニコしてまたくっついてくる。
なっ、なにこれ……。
登校初日からこんな展開になるなんて、聞いてないよ〜〜っ!?
体育館の裏から出る頃には、俊はさっと瓶底メガネをかけ、目元を隠していた。
「実はカツラも持ってきてるんだ」
「えっ、いいの?」
聞くと、俊は分厚いメガネの奥で目を細める。
「大丈夫だよ。ちゃんと、蓮司さんから校長に話つけてもらって、多少の変装グッズは持ち込み可になってるから。じゃないと、この学校の秩序を乱しちゃうでしょ?」
「はぁ。……って、ええ!? れんれんが直々に!?」
「うん。本当は、デビューしたこともあって、芸能系の学校に行くのを勧められてたんだけどさ。……どうしても、美織と一緒にいたくて。無理言って地元に帰ってきちゃった」
てへっ。と、わざとらしく舌を見せてウインクする俊。
いやいや、てへっ、じゃないよ!?
「れっ、れんれんに私のことを話したの!?」
「そうだよ。どうしても、好きな子がいるからって」
「ちょっ……それって、私、れんれんに認知されてるってこと……?」
「認知? あぁ、まぁ存在は知ってると思うけど」
「きゃあ——っ!」
突然甲高い声を上げた私に、びくっとする俊。
嘘……っ、め、めっちゃくちゃ嬉しい〜〜!!
あのれんれんに、存在を知られているだなんて……っ!!
本当に、夢のようだ。
テレビの向こう、雲の上の遥か彼方の存在に、一気に手が届いたような気がした。
「ねぇねぇ、それって私のことはどこまで話した——」
俊の顔を見て、思わず言葉を切る。
冷たい表情で、こちらを射貫くように見る瞳は、どこか嫉妬を含んでいるようだった。
「……美織は、やっぱり蓮司さん命って感じなんだね」
「えっ、いやあの……」
焦る私を見て、はぁ——っと思いきり大きなため息をつく俊。
天を仰ぎ、「……敵が強すぎるって。マジで」とかボソボソと呟いている。
「いや、俊? れんれんはその、ただのファンというか……」
「もういいよ……慰めないで? 余計辛くなるから」
あっ……。
傷口に塩を塗っていたようで、私は黙ることにした。
そんな……トップアイドルのれんれんとまで張り合おうとしているなんて……。
ぷふっ。
思わず、声がもれてしまう。
「……なに笑ってるの?」
「ご、ごめん……ふふっ。だって……」
そこまで想ってくれているなんて、そんなの、嬉しすぎるよ。
「なに?」
「いや、なんでもないっ」
「ダーメ。可愛い顔しても逃さないから」
「し、してないっ!」
肩に腕をまわされながら、もう片方の手でむにいっと頬っぺを挟まれる。
いたい、いたいっ。
——そのとき。視線を感じて、ふとそちらの方を見てみると、数人の女の子たちがなにやら怖い顔をしてこちらを見ていた。ヒソヒソ、と話しこんでいる。
……まずい。
きりきりとお腹が痛くなる。
もう何度も見てきた。あの雰囲気は、ぜったい……悪口言われてる。
「もうっ、離してってば」
俊の顔をぐいっと押しのけたけど、俊の腕の力が強すぎて、全然離れなかった。
「やーだ、離したくない」
「みんなに見られてるよ?」
俊はいつの間にかメガネを外していて、綺麗な目元が思いきり出ている。
「……関係ない。美織は僕のものだって、知らしめてやる」
れんれんのことで火がついたのか、ムッと唇を尖らせている俊。
「いや、えっと……そうじゃなくって……」
私が女の子たちに睨まれているんだってば……!
そう言おうと思ったけど、さっきから俊の気持ちを下げてしまっているばかりな気がして、あえて黙っておくことにした。
と、そこで。私はふと疑問に思ったことをたずねる。
「そういえば、アイドルって恋愛禁止じゃないの?」
こんなに、私の王子様だとか言っていていいのだろうか……。
「……別に……」
俊は、無言で遠くを見つめはじめた。
感情のない、つまらなさそうな目だった。
「蓮司さんは、そんなこと言ってないけど……まぁ、恋愛してたらファンはつかないだろうね」
「じゃあ、こんなとこ見られたら大変じゃん!!」
「なんで? 美織は、僕と恋愛してるの?」
にやりとして言ってきた俊に、私は言葉をつまらせてしまう。……もう、すぐそういうこと言うんだから……っ。
「……大丈夫。学校のなかでくらい、自由にさせてよ」
あまりにも寂しげに、俊が足元に視線を落とすから。
私は、仕方なく二人でずっとくっついて(というか……くっつかれて)、教室まで向かったのだった。
この構図は、昔から変わらないんだなぁ……。
校舎に近づくにつれ、だんだんと人が多くなってくる。
階段を上り、教室の扉に手をかけたけど……ぴた、と止まってしまった。
「どうしたの? 美織」
「……」
頭のなかにチラつくのは、さっきの女の子たちの顔。
それから、小学生のときの、苦い思い出。
……また、一人ぼっちになったりしないかな……。胸の奥に、ひゅっと冷たい風が吹いた気がした。
私は、曲がったことが大嫌いで、許せなくて……。だから、守るべき俊と小三のときに離れてからも、ずっと泣いている子たちの味方になり続けていたんだ。
間違っていることは間違っている。そう、言い張ってきた。
でも、気づいたら、誰かの反感を買っていたようで。
周りに誰もいなくなっていたんだよね。
いつでも正しさを主張するのは、時にうっとうしいみたい。
そんな折に凪咲が転校してきて、私とみんなとの仲を取り持ってくれたんだ。
反省した私は、ちょっとは空気を読むようになったし、自分の気持ちを抑えることも覚えた。けど……そんな自分のことを、あまり好きにはなれなかった。
だから、ずっとモヤモヤしたものを抱えていて……中学生になったら少し自分を出してみようと思ったのだけど、そうしたらまた失敗しそうだなぁ、と不安になる。
正直、どんな自分でいるのがいいのか……私はまだ、わからないでいる。
「……美織?」
心配そうな声で覗きこんでくる俊に、私は、あははっと軽く笑った。
「なんか、友達百人できるかなーっ、て。心配になってきちゃった!」
できるだけ明るく言ったつもりだったけど、俊の心配そうな顔は変わらなかった。
優しい瞳で見つめられながら、ポンポン、と頭を撫でられる。
「大丈夫だよ。なにがあっても、僕は美織の味方だから」
あたたかさに触れて、つい、泣きそうになってしまう。
今すぐ、俊の胸のなかに飛びこみたい気持ちになった。けど……みんなに見られてるから。私はぐっと我慢をする。
……そっか。もう、俊はあの頃とは違うんだね。
自然と、頬が上がっていった。
「そんな可愛い顔されたら、抱きしめたくなるんだけど」
「もうっ。またそういうこと言うんだから」
照れたのを隠すように、私はガラッと一気に扉を開け、新たな教室へと足を踏み入れた。
……よしっ。ここからが、再スタートだ。
今は、一人じゃないから。
俊と一緒なら……きっと、頑張れるよね。
第4回へつづく(6月3日公開予定)
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幼なじみの王子様系アイドルから溺愛が止まらない!
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- 【ISBN】
- 9784046835475