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中1に進学したばかりの美織が再開したのは、今を時めく王子様系アイドルに変身した元泣き虫の幼なじみ・俊だった。毎日、美織しか見えない俊に溺愛されるドキドキの学園生活、スタート!
『アイドル幼なじみと溺愛学園生活 君だけが欲しいんです』の特別試し読み!
※これまでのお話はコチラから
☆二話 三年ぶりのお姫様
Side 俊
「ちょっと! どういうこと!?」
三年ぶりに、教室で運命の再会を果たしたというのに……僕はいま、体育館裏に無理やり引っ張ってこられていた。
目の前のお姫様は、そうとうお怒りのようだ。
……まぁ、そんな顔も可愛いんだけどね。
「どういうことって、なにが?」
「もう全部よ! 説明して!!」
せっかくひとけの少ないところに来たにもかかわらず、大声を出して僕を睨みつける美織。腰に手を当て、桜色の唇を尖らせている。……懐かしいな。小さい頃は、こうやってよく怒られていたっけ。
けど、あの頃とは違って、僕はいま美織を見下ろしている。
ぷにぷにの頬っぺたをさらに膨らませ、綺麗な薄茶色の瞳で上目づかいをされるなんて……もう、至幸以外のなにものでもない。成長期万歳だ。
こんな可愛い生き物が存在してもいいのか、なんて世界に問いたくなる。あぁ、ストレートな栗色の髪の毛も、あの頃よりもっと輝いている……。
「ちょっと、聞いてるの?」
よく通る声にハッとした僕は、あわてて咳払いをし、一瞬にして完璧な笑顔を作ってみせた。軽くファンサービスモードに入り、パチッとウインクを決める。
「どうも、みんなの王子様——と見せかけて、美織だけの王子様っ。鈴木俊です!」
「キャラが違ーう! 私の知ってる鈴木俊じゃなーい!!」
頭を抱え、騒ぎだす美織。
あははっ! と思わず腹を抱えて笑った。
すると、美織は目を丸くし、僕のことをじいっと見つめはじめる。
「……美織?」
不思議に思って聞くと、美織は瞬きをし、ふんわりと笑った。
「あぁ、やっぱり……俊なんだなぁ、と思って。笑い方が一緒だもん」
安心したように胸を撫で下ろす美織を見て、僕の心臓はドキッと音を立てる。……もう、反応がいちいち可愛くてたまらない。
「そうだよ。会えて嬉しい?」
若干ドヤ顔混じりに言うと、美織はまた唇を尖らせ、「……やっぱりなんか違う……」と納得のいかない表情をする。
しめしめ、と思いながらも、僕は落ち着いているふりをしていた。
「なんで? 僕は、なんにも変わっていないよ?」
「かっ、変わりまくりじゃん! なんのドッキリ!?」
「ドッキリ……?」
くく、と笑ってしまう。
美織は本当に、なんにもわかっていないんだね。
「僕はずっと、美織のことだけを考えて過ごしてきたんだよ」
言うと、美織はキョトンとして口を開けた。
仕方がないから、はしょって話すことにする。
僕の壮大な、「一撃☆美織を落とすラブロマンス計画!」を。
僕がアイドルのオーディションに参加しようと決めたのは、小五のときだった。
テレビをつけると、美織の大好きなトップアイドルで、最近独立もしたと話題の京極蓮司が、自腹を切ってアイドルオーディションを開催すると話していた。
最初は、「美織の大好きなれんれんだー」と思って見ていただけだったのだけど、ふと思いついたのだ。
もし、このオーディションで合格したら……美織に好きになってもらえるかな? と。
物心ついた頃には、すでに美織に恋心を抱いていたといっても過言ではない。
僕は、ずっとずっと、美織のことが好きだった。
可愛くて、正義感にあふれてて、まっすぐな美織のことが大好きで、尊敬もしていた。
小三で涙のお別れをしてからは、会えないままだった。僕が、あまりにも遠くに引っ越してしまったから……。でも、たまに電話したり、手紙のやりとりは続けていた。
新しい学校に行くのは、すごく不安だった。
だって、もう、守ってくれる美織はいないから。
人見知りで目もろくに合わせられなかった僕は、前髪を伸ばして壁をつくっていたんだ。けど……美織に、目が綺麗なのにもったいない! なんて言われていたことを思い出し、新しい学校に転校するときにはバッサリと切っていた。
すると、なんかモテた。
けっこうな数の女の子から話しかけられるようになって、アイドルの誰々くんに似てる! だとか褒められて自信がついた僕は、人並み程度には話せるようになっていた。
はじめて友達もできたし、なんと、告白もされるようになっていた。
けど、そんな僕の頭のなかは、いつでも美織でいっぱいだった。
今の僕だったら、もしかしたら、美織もちょっとだけ意識してくれたりするのかな……。
僕だって、美織に守ってもらうばかりなのは情けなくて……ずっと、泣き虫な自分を変えたくて仕方がなかったんだ。
オーディションの募集を見たのは、そんなときだった。
「ごめんね。ずっと黙ってて……美織のお母さんにも、協力してもらってて」
お父さんは美織のお母さんと仲が良かったから、電話番号を聞いて、オーディションに参加していることを話していたんだ。美織にはまだ内緒にしてほしい、って。
「えっ!? お母さんは知ってたの!?」
「うん。だから、オーディション中の様子が配信される動画サイトに、課金してもらえなかったでしょ?」
「わっ、確かに!! すっごい頼みこんでお手伝いもしたのに、ずっと反対されてた!! 俊のせいだったの!?」
「あははっ。全部、僕の計算だったんだよ」
そう。すべては、トップアイドルになって美織と再会し、惚れさせて一気に落とす作戦のため——……ではなく。単に、恥ずかしかっただけなんだけどね。てへっ。
だって、まさか合格するなんて、夢にも思っていなかったし。
はじめは、泣き虫な自分を変えたくて、大好きな美織に見直してもらいたくて参加したのだけど……。
蓮司さんに、「君は光るものがある」なんて褒められて、歌もダンスも酷い出来だったのに、最後まで見てくれて……。アドバイスもたくさんしてもらって、他に参加している経験者の人たちにも教えてもらって、切磋琢磨していくうちに、だんだん自分の殻をやぶれるようになっていったんだ。
僕は内向的だったけど、心の奥底では美織への熱い想いを持っていたり、誰よりもカッコよくなれるって自信があったりしていて、蓮司さんのアドバイスでそれを前面に出せるようになった。
美織への愛はそのままに、ファンの人にも大切に想う気持ちを伝え、注ぐ。
どちらも嘘偽りない気持ちだから。
別に、アイドルになる前から、顔は悪くないって、ずっと思ってたし。
美織のそばにいるのは、この僕が誰よりも相応しいと思っていた。
可愛い可愛い、僕だけの美織は、世界中の誰にも渡さない。
今の僕なら、きっと美織のナンバーワンになれる。
「——そんなわけで。これからもよろしくね? 美織」
僕が近づくと、美織は後退った。
……? どうしたのだろう。
迷わずに距離を詰めると、美織は両手のひらを向けてくる。
「ちょっと、近いよ!」
「なんで近かったらいけないの?」
「や、だってカッコ……じゃなくて! なんか、緊張するから!!」
……緊張する?
ふっ、と僕の頬は緩んでしまう。
「美織。顔、赤いよ?」
「……えっ!? そうかな!?」
両手で頬っぺを挟み、上目づかいをする美織。……あー、もう。天使すぎるでしょ。
衝動を抑えられなくなった僕は、ぴた、と美織に抱きついた。
小さい頃は、ずっとこうやって美織にひっついて行動していたのに……美織はいま、石のように身体を固まらせている。
そうとう戸惑っているようだ。
あぁ、でも、やっぱり美織はあったかい。
「ちょっと……俊っ!?」
引きはがそうとする美織だけど、僕の身体はびくともしない。
にやついたまま、耳元に囁きかける。
「ずっと、会いたかったんだ。今まで僕のことを守ってくれてありがとう。これからは、美織を守る王子様になるからね」
「……なっ、ええ……?」
可愛い声を出し、耳まで赤くする美織。
今すぐ、僕のお嫁さんになったりしないかな……。
第3回へつづく(6月2日公開予定)
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幼なじみの王子様系アイドルから溺愛が止まらない!
キュンがいっぱいの学園ラブストーリーをお楽しみに!
- 【定価】
- 1,375円(本体1,250円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B6判
- 【ISBN】
- 9784046835475